『PSYCHO-PASS』の世界観は、体に染み付いている。凛として時雨が1分29秒で描きたいもの

優れた漫画作品の多くに優秀な編集者がいるように、創作において第三者の視点は重要な役割を持つことが少なくない。またコラボレーションのように、クリエイター同士の異なる価値観や視点が新たな創作を生むことは決して珍しいことではない。

そうした視点から考えれば“タイアップ曲”とは必ずしも商業主義的な話とは限らず、新たな価値を生み出すこともある。

激しい演奏と実験的な音楽性を融合させながら、独自の濃密な世界観を打ち出してきた孤高のロックバンドである凛として時雨。彼らもそうしたタイアップで新たな音楽を紡いできたアーティストだ。

2012年の第1作から主題歌を手がけているアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』とのタイアップは、代表的な仕事と言えるだろう。その濃密な世界観を薄めることなく作品に寄り添ってきた。しかし、タイアップのオファーがあった当初は、彼らにも戸惑いがあったという。

『舞台 PSYCHO-PASS サイコパス Virtue and Vice』主題歌の『laser beamer』を収録したシングルをリリースしたばかりの彼らに、タイアップと楽曲制作にまつわる話を訊いた。

撮影/中野敬久 取材・文/照沼健太
▲左から、TK、345、ピエール中野。

ゼロからのスタートだった『PSYCHO-PASS』とのタイアップ

2012年に『PSYCHO-PASS サイコパス』(以下、『PSYCHO-PASS』)第1期の主題歌『abnormalize』をリリースしましたが、そもそも同作品の主題歌を担当するようになったきっかけは?
TK(Vocal & Guitar、作詞作曲編曲を担当) 『踊る大捜査線』シリーズで知られる本広克行監督が、初めて手がける大規模なオリジナルアニメとしてスタートした『PSYCHO-PASS』ですが、その中で「ぜひ凛として時雨に」とオファーをいただいたんです。僕らはそもそもタイアップ自体やったことがなかったので、お互いに本当にゼロから始まったという感じでした。
タイアップを敬遠する気持ちはありませんでしたか?
TK 正直ありましたね。それまで僕らはタイアップや、アニメ作品とは無縁のところでやってきたバンドだったので、その第一歩を踏み出すべきかどうかは難しい選択でした。当時って、タイアップ以前に、メジャーデビューすること自体にもそういう雰囲気はありましたからね。
インディーズからメジャーに行くことが、まるで魂を売るかのように言われている部分はありましたね。
TK 今はほとんどない様に感じますが、「あ、メジャー行くんだ?」みたいな感じの風潮は強かったですよね(笑)。だからこそ、アニメとタイアップすること自体も「色眼鏡で見られるだろうな」とは思いました。でも、どこまで作品に寄り添って楽曲を作れるかというところで自分たちが試されるとも思ったし、きちんと良いものを生み出せれば評価されるだろうとも思いました。結局は何を生み出すかなので。
▲TK(ティーケー)
1982年12月23日生まれ。東京都出身。
Vocal & Guitar
実際にタイアップありきの楽曲は、それまでの100%オリジナルの制作とは違いましたか?
TK 最初のタイアップである『abnormalize』は僕がデモの段階でかなり完成形に近いところまで作った曲なんですけど、どういった音像がテレビで映えるのか、どんな言葉が刺さるのかはかなり考えましたね。でも、一番の挑戦は、1分29秒という尺で楽曲を完結させることでした。
アニメの主題歌ともなると、曲の長さも決まっているわけですもんね。
TK 僕らはこねくり回して曲構成を作るタイプなので、サビが曲の最後にしかないような曲も多かったんです。だから決められた尺に合わせて曲を作るのは、かなりのチャレンジでしたね。でも、だからこそバンドに新しい風が吹いたというか、タイアップが自分たちを新しいところに導いてくれたと感じました。
ピエール中野(Drums) 実際バンドメンバーとしても「1分29秒でどう作るんだろう?」って思っていたので、初めてデモを聴いたときには鳥肌が立ちましたよ。僕は面と向かって褒めることはあんまりないんですけど、そのときはTKを褒めましたもん。「ほんとスゴい」って。
345(Vocal & Bass:) 本当に尺がぴったり合ってて感動したよね。
▲345(みよこ)
1983年4月1日生まれ。埼玉県出身。
Vocal & Bass
アニメの制作チームからの要望などはありましたか?
TK おそらくアニメのタイアップって制作陣とバンドの打ち合わせがないことも多いと思うんですけど、僕らはちゃんと打ち合わせしましたね。最初に顔と顔を突き合わせてディスカッションができたからこそ、作品に寄り添った音楽を作り出せたと思っています。
打ち合わせはスムーズだったのでしょうか。
TK 最初の打ち合わせの段階では、まだ絵コンテくらいしかないんですよね。その資料を見て「カッコいいなー」とは思うんですけど、逆にカッコいいことくらいしかわからなかったのは覚えています(笑)。
(笑)。
TK 今でこそ絵コンテの読み方とかもわかってきたんですけど、最初は全然わからなかったですね。
しかし、今振り返れば、凛として時雨に主題歌を頼むというのはアニメの制作陣としても挑戦的な依頼だったのではないかと思います。
ピエール中野 挑戦的なオファーだと思いましたよ(笑)。まだタイアップひとつもやってなかった時期でしたし。
▲ピエール中野(ピエールなかの)
1980年7月18日生まれ。埼玉県出身。
Drums 担当

とにかく面白いことがやりたい。本広監督からのオファー

『PSYCHO-PASS』との最新タイアップが、今回のシングルにも収録されている『laser beamer』です。
TK はい。じつは今回、本広監督とは初めてちゃんとお会いして、打ち合わせしたんですよ。それまでは間に別の方が立ってくださっていて、そこでやり取りをしていたんですけど。
本広監督はどんな印象の方でしたか?
TK 僕はそれまで映画監督にほとんどお会いしたことがなかったので、会う前は「メガホンで殴られるかも」みたいなイメージを持っていて、怖かったんですよ。
ピエール中野 どんなイメージだよ(笑)。
TK でも、「凛として時雨のイメージが、今回の舞台にぴったりだと思った」と言ってくれました。今回はアニメではなく初の舞台ということで、全然違うバンドに頼むこともできたと思うんですけど、僕らに任せてくれたのはうれしかったですね。打ち合わせの段階では「とにかく信頼してます。面白いことがやりたいです。あとは何も決まってません」くらいの感じではあったんですけど(笑)。
ピエール中野 それも「どんなオファーだよ」って感じだね(笑)。
TK (笑)。
曲を作るにあたり、アニメではなく舞台だからこそ意識したことはありましたか?
TK 今お話したように、オファー的には手探り感がより強かったんですけど、『PSYCHO-PASS』の世界観はもう僕らにも染み付いているので、どういうものを目指しているのかは理解できていました。それに合わせて『PSYCHO-PASS』の世界観を少しだけ俯瞰してみるような言葉を選んで歌詞を書きましたね。サウンド面では、舞台という環境でインパクトを与えたいと思って、特徴的なギターの音を使いました。
ピエール中野 あの「ピュン!」っていうサウンドね(笑)。
TK ギターのエフェクターでいろんな音色を実験していたところ、たまたま見つけた音だったんですよね。今でもあの音が良かったか悪かったかはわからないんですけど、インパクトは残せているのかなと思います(笑)。
もしタイアップではない楽曲だったら、あの音は採用していない可能性も?
TK ちょっと通り過ぎてたかもしれないですね(笑)。でも、そのおかげか、当初伺っていたよりも大々的にオープニングで曲を使っていただけたり、セリフにも僕の歌詞を入れてくれたりとかしてくれて。そういう相互作用はアニメの現場では制作スケジュール的に難しいんですけど、舞台だからこその臨機応変さがあって、まるで作品が生き物みたいに変わっていく楽しさがありました。

歌詞と楽曲は深くつながっているから、考察はうれしい

345さんとピエール中野さんも実際に舞台を観られたそうですが、いかがでしたか?
345 私は舞台というか、中島みゆきさんの『夜会』はよく見に行っていたんですけど、ああいう演劇はあまり見る機会がなくて。すごく新鮮でしたし感動しましたね。ストーリーも本当によくできていましたし。
ピエール中野 僕は普段から舞台をよく観に行くんですけど、あんな大掛かりな舞台装置を使うものは今まで観たことがなかったし、シナリオもアニメとちゃんとリンクしていて感動しました。それと『PSYCHO-PASS』のアニメ制作会社であるProduction I.Gの社長さんが観に来ていて興奮しましたね。僕はもともとアニメ『攻殻機動隊』シリーズの大ファンで。緊張して話しかけられませんでしたけど!(笑)
『PSYCHO-PASS』はファンの熱量が高い作品で、歌詞についての考察も盛んですが、ご存知ですか?
ピエール中野 YouTubeのコメント欄で考察されていますよね。システム的にみんなが共感して「いいね」しているコメントは上に表示されるようになっているので、そういうのは読みますし、とても参考になります。
TK 僕はその世界に入り込んで歌詞を書くタイプなので、書き終えた途端に普通の世界に戻ってきてしまって、自分でもどういう意図でその歌詞を書いたのかわからないんですよ。でも、そうして考察してくれている人は『PSYCHO-PASS』の世界が染み込んでいるはずだし、おそらく歌詞を書いているときの僕に近い状態なので、たぶん、みなさんの考察も合っている部分も多いと思いますよ。たぶん(笑)。
先ほどからお話を伺っていると、TKさんはかなり歌詞にこだわりを持って作っているようですね。
TK 僕らはとくにサウンドに印象がいきがちなバンドなので、声も“楽器”として刺さってくることが多く、歌詞がまるでデザインのように感じられるかもしれないんですけど、曲に入り込んで書いているので歌詞と曲は深くつながっているんです。だから、『PSYCHO-PASS』に限らず普段の曲ももっと掘って考察してほしいです(笑)。
そして今回の両A面シングルにはもう1曲、映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』日本語吹替版主題歌『Neighbormind』が収録されています。『PSYCHO-PASS』のような日本のアニメと、アメコミ原作のスパイダーマンでは違いはありましたか?
TK まず作品を観る人が違うであろう、ということがありますが、それ以外にも提供してもらえる情報に大きな違いがありましたね。日本のアニメの場合は事前にもらえる情報がそこそこあるんですけど、海外の映画となると、もらえる情報が少ないんです。その限られた情報の中から、どれだけ自分なりに解釈を膨らませて曲を作れるかが『Neighbormind』のポイントでした。
『スパイダーマン』の熱狂的ファンが予告編から「どんな映画になるのか」と想像していたようですね。
TK 今回はスパイダーマンの気持ちを繋がっている作品やいただいたシナリオから自分で投影しながら作ったので、それがちゃんと映画の意図と合っているかどうかはものすごく気になっていました。完成した作品を観るときは、緊張してしまいそうです(笑)。
まるで答え合わせですね(笑)。
TK マーベル作品って巧妙な仕掛けが多いじゃないですか。「騙された! 本当はそうだったのか!」と思うこともありますし。だから「自分も騙されて書いてたらどうしよう」ってドキドキする部分もあります(笑)。

オリジナル楽曲では、より自由に振り切った創作活動へ

数々のタイアップ楽曲を手がけてきた経験は、バンドにどのような変化をもたらしたと思いますか?
TK タイアップがあることによって、逆にそれ以外の作品では好き勝手に振り切れるようになりましたね。もともと自由であるはずなんですけど、1分29秒という制約の中で音楽を作ったことで、そうした制限のなさをさらに強く感じるようになったんです。
ピエール中野 そうした側面は『#5』というアルバムに顕著に表れていると思いますね。本当に振り切った作品になったので。
そもそも凛として時雨みたいなエクストリームなバンドがメジャーデビューしたこと自体も驚きでしたが、メジャーに行っても、タイアップを重ねても、まったく手加減する感じがないところが本当に稀有なバンドだと思います。
TK いや、オファーする側がスゴいと思いますよ(笑)。僕らにメジャーデビューしないかと言ってきたソニーも、主題歌をオファーした『PSYCHO-PASS』のチームも。当時は今よりも得体が知れないバンドだったと思うので。
たしかに。当時はMVを観て「怖いバンドだな」と思ってました。
ピエール中野&345 (笑)。
しかし、もうバンド結成から15年以上経っているわけですが、そうしたエッジを保った創作活動を続けられる原動力はどこにあるのでしょうか?
TK 本当はインスピレーションや目的地のようなものが見えていたらいいんですけど、基本的に見えるものではないと思うんですよ。僕らはメジャーデビュー前の2007年に『Inspiration is DEAD』というタイトルのアルバムを出していたくらいで(笑)。実感出来るほどのインスピレーションなんてものはとうの昔に、むしろファーストアルバムくらいからわからなくなってきていたんですよ。ただ、インスピレーションはより刹那的なものになってくるので、その一瞬を逃さないかどうかなんです。
あすなき暴走状態…?
TK その瞬間瞬間で目の前のものを掴んで紡いで、それが作品として完成したときに「自分が作り出したかったものってこれだったのかな」なんて一瞬だけ思う…というのを繰り返してきたんです。だから、それがこのまま音楽として死ぬまで鳴り続いていけばいいな、と思っています。
凛として時雨(りんとしてしぐれ)
TK(Vocal & Guitar)、345(Vocal & Bass)、ピエール中野(Drums)の3人からなるロックバンド。2002年、埼玉にて結成。2008年にメジャーデビュー。男女ツインボーカルから生まれるせつなく冷たいメロディと、 鋭く変幻自在な曲展開は唯一無二。 プログレッシブな轟音からなるそのライブパフォーマンスは、 冷めた激情を現実の音にする。

CD情報

『Neighbormind/laser beamer』
7月3日リリース


【完全生産限定盤[CD+DVD]】
¥2,200(税抜)

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、凛として時雨のサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年7月12日(金)12:00〜7月18日(木)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/7月19日(金)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月19日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月22日(月)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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