変化した自分を受け入れて――藍井エイルが振り返る、「再出発」からの1年間。

2011年10月、アニメ『Fate/Zero』のEDテーマ『MEMORIA』で歌手デビュー。力強く、かつ作品の世界観に寄り添う歌声で、藍井エイルは瞬く間に人気アニソンシンガーの仲間入りを果たした。

しかし2016年8月、当面の活動休止を発表。人気絶頂期に発表されたニュースにアニソン界は騒然となった。ファンは復帰の日を今か今かと待ち続け、11月30日には、彼女の誕生日を祝う声がTwitterにあふれた。

「BLUE IS BACK」――彼女の復活の知らせが舞い込んできたのは2018年2月。それまでの時間を埋め合わせるかのように、彼女はこの1年を精力的に走り抜けてきた。

6月にシングル『流星/約束』を発表。8月には日本武道館で復帰ライブを敢行。『ソードアート・オンライン』主題歌のタイアップ、『ミュージックステーション』や海外のライブ出演――そうして、2019年4月17日には、待望のアルバム『FRAGMENT』をリリースする。

「活動休止を経て、自分の弱点を受け入れられるようになった」

笑顔を交えて語る藍井エイルは、MVなどから受けるクールな印象と違い、とてもチャーミング。しかしその内では、「アニソン界の歌姫」と呼ばれるようになってもなお飽き足らない向上心が、“青い炎”のように静かに、熱く燃えている。

取材・文/照沼健太

自分の歌が歌えない…。活動休止中にぶつかった大きな壁

2016年8月18日、日本中がリオ五輪に沸いていた頃、アニメファンにとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。「藍井エイル、活動休止」。突然の発表は多くの驚きと心配をもって迎えられ、11月4日、5日の武道館公演をもって、藍井エイルは表舞台から姿を消した。

彼女の活動再開が発表されたのは2018年2月8日。そこから1年の月日が過ぎた。

「あっという間の1年でした。でも、自分の時間もゆっくりありつつ精力的に活動するという、新しいペースでできたと思っています」

晴れやかに話す一方で、活動休止中には歌手として大きな壁にぶち当たったと振り返る。「自分の歌を上手く歌えなくなってしまった」というのだ。

私たちには想像もつかない苦しさだっただろう。「うーん、あの感じは…どうたとえればいいんだろう…」と、視線をふっと上にやりながら、当時の心境を伝える言葉を探している。

「『バグが生じた』と思いましたね。肘を動かそうとしてるのに。肩や手首が動いてしまうような」

「まさかそんなことになるとは思ってもいなかったんです。だから『今回はたまたま調子が悪かったんだ』とか、言い訳するクセができてしまって。発声などの基礎的なことに目を向ければよかったのに、気持ちが焦って、とにかく歌うという方向に行っちゃったんです」

予想もしない出来事に混乱し、懸命にもがく日々。しかし、なかなか改善は見られない。そうして彼女は改めて、「藍井エイル」と向かい合うことになる。

「“自分の歌を歌えない”ということを認めざるを得ない状況になって初めて、『焦るくらいなら、一から藍井エイルの歌を形にしていこう』って思えたんです。そのために発声から少しずつやり直して…結局1年以上かかってしまいましたけど」

「できないこと」を受け止め、一から発声練習に励み、時間をかけて自らの歌を取り戻していった。しかしまだハッピーエンドを迎えたわけではない。これは、現在進行形のストーリーだ。

「正直、まだ形にできない部分もあるし、調子が悪いときは自分の身体に無理をさせてしまって、上手く歌えないときもあります。レコーディング時に悔しい思いをしたこともありました。だから、今もボイトレの先生に教えてもらいながら、頻繁に調整しています」

苦闘の日々は続く。しかし、変化は悪いことばかりではなかった。

「ずっと歌で仕事をしていたから、ほかに苦手なことがあっても支障がないと思っていたんです。でも、お休み中にのんびり過ごしたとき、いろいろなことができない自分に気づいた。最初は落ち込みましたが、『そういう自分もいたんだ』と発見できた気がして。『できなくてもいいことは、気にしない』と学びました。それまでの自分は、完璧主義者だったみたいです」

みんなが待っている――『約束』の歌詞は泣きながら書いた

これまでのように歌えなくなった、という現実。くじけてしまい、引退を考えたことはなかったのか?

「たしかに一度だけ、『このまま戻れなかったらどうしよう』とか、『歌い続けるのが、はたして私の人生に最も必要なことなのか』と考え込んじゃったこともありました。『もう一度、看護師の夢を目指すほうがいいのかな』と思ったことも…。でも、次の瞬間には『やっぱり無理!』って(笑)」

やっぱり、藍井エイルは心から歌を愛している――彼女のまっすぐな気持ちが詰まった言葉を聞けて、思わず安心してしまう。歌うことを選んだのには、自分を待ってくれているファンの存在もあった。

活動休止中であっても、11月30日になればファンはTwitter上で彼女の誕生日を祝い、復帰を願うメッセージを送り続けていた。その声は彼女に届いていたという。

復帰第1作の『約束』はそんなファンへのメッセージソングでもある。雄大な景色のもと、カジュアルな青のシャツに身を包んだ彼女の姿がMVでは映し出され、「どうして私の事 誰も責めたりしないの?」というリアルな歌詞が突き刺さる。『約束』の歌詞を書きながら、彼女は泣いていたという。
「自分は歌うべきなんだろうか?という悩みがあったし、でも、みんなが待ってくれていたのも知っていたから、感情が爆発しちゃったんです。感謝の気持ち、これからみんなに会いに行ける嬉しさ、また歌を歌える喜び――いろんな気持ちが重なって」
藍井が曲にのせて送ったメッセージを、ファンもしっかりと受け取った。「みんな『おかえり』って言ってくれて。忘れられてなくてよかったです」

約2年ぶりの武道館。「非日常、こんにちは」という気持ちに

活動を再開してから、最初にファンと対面したのは8月16日の武道館だった。

「2016年に武道館で『さよなら』をしたので、『ただいま』も武道館で言いたい、という気持ちが強くありました。ステージに立つ直前は、またみんなに会える嬉しさや興奮、『よっしゃ、やるぞ!』って気持ちで声が漏れてしまいそうで」

「でも、いざステージに立ってみると、『すっごいたくさん人がいる!』と思って(笑)。正直、1曲目は手が震えすぎて、マイクにちゃんと声が乗っているのか不安になるくらいでした」

「活動休止前、私にとってライブはある意味で“日常”の一部だったんです。でも、お休みを経て武道館のステージに立つのは、デビューしたときの感覚にちょっと近かったかもしれません。『非日常、こんにちは』という感じで」

再び足を踏み入れた“非日常的な世界”。しかし、会場を埋め尽くす青い光を見るうちに、その緊張もすぐに解けていった。

「最初は頭がざわついている状態だったんですけど、だんだん、『みんなと作るライブってこうだったよな』って思い出してきました。『みんなの声、こんなに大きかったんだな』って安心感も出てきて、とにかく楽しかったですね」

休止前と比べて、自らの歌声に感じた変化についても教えてくれた。

「我ながら…になりますが、前はトゲトゲした攻撃的なものが歌い方に出ていたと思うんです。でも今は、芯はありながらも丸みを帯びた歌声になれた気がします」

変わった自分。これまで知らなかった自分。すべてを受け入れて、前へ進む。藍井エイルはまた、ひとつ強くなったのだろう。

「やっぱり『SAO』の主題歌は、私が担当したい」という気持ちも

藍井エイルと切っても切り離せない存在。それがライトノベルを原作とする人気アニメシリーズ『ソードアート・オンライン(以下、SAO)』。映画化もされたヒット作品だ。

藍井は第1期のOPテーマである『INNOCENCE』をはじめ、これまで4曲の主題歌を担当。観る者をワクワクさせるシリーズの世界観と、疾走感あふれる彼女の楽曲との相乗効果が、藍井エイルの知名度を押し上げる一因になった。

6月にリリースされた『流星』は、SAOシリーズの外伝的作品『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』の主題歌として起用された。続く10月発売の新曲『アイリス』は、シリーズ本編の最新作となる『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のEDテーマに。
「復帰してすぐに『ガンゲイル・オンライン』の主題歌を歌えて、本当に嬉しかったですね」

「秋アニメの作品一覧を見たときも『ソードアート・オンライン アリシゼーション』がある!と気づいて。『(主題歌を)歌いたいなあ。でも、『ガンゲイル』歌わせてもらったばっかりだしなあ…』って図々しくも思ってたんです(笑)。そしたら本当に歌わせてもらえることになって!」

『SAO』は藍井を語るうえで欠かせない作品。やっぱり主題歌は自分が担当したい、という気持ちがあった? 少し意地悪な質問をぶつけてみると、「かなりありました…」と照れくさそうに笑った。そんな彼女が考えるシリーズの魅力とは?

「ゲームの世界観がしっかりと表現されながらも、(作中の)リアル世界とリンクしているという物語が魅力的ですね。私はシリアスな話が好きなので、そうした展開が多いのも嬉しいです。ストーリーが好きな人もいればキャラが好きな人もいて、いろんな愛され方をしている作品ですよね」

『SAO』への思い入れが強いからこそ、主題歌の作詞には最大限の注意を払う。

「『SAO』の歌詞を書くときは、原作やできあがっている仮の台本を読ませてもらうんですけど、そうすると私の頭の中で勝手にアニメが作られていくんです。だから、書きながらも気持ちはどんどん『SAO』側に走りがちで」

「でも、アニメを観ていない方が聴いても納得できるものにしたいので、『自分、ちょっと落ち着いて!』って思うようにしていて(笑)。書いては冷静に何度も読み返して、手直ししながら作っています」

「キリッ」より、少し力が抜けた感じが今の私には近いかも

そして2019年4月17日、3年ぶりのオリジナルアルバム『FRAGMENT』をリリースする。じつは本作の構想自体は、活動再開前に生まれたものだった。

「地元の友達と久しぶりに会ったとき、みんな私がデビューした7年前と比べて、すっかり大人になっていて。それぞれの生活を持っていたんです。みんなと話している中で、『日常』をテーマにしたアルバムを作ってみたいと思いました」

「日常ってみんなが必ず持っているもの。その日常を生きる中で感じる気持ちとか、そこから生まれる言葉、そういったものに共感できる作品にしたくて」

FRAGMENT=カケラ。タイトルが示すとおり、できあがった作品は、日常をテーマとしながらも“生活感あふれる等身大の作品”とは少し違う。

「タイトルもいろいろ考えたんですけど、日常がテーマだからといって『LIFE』とか『DAYS』だと普通すぎるなって。そこで、日々の生活の中で感じたことや気づいたこと、そういう“日常のカケラ”が今の自分を作り上げているという意味を込めて、あえての『FRAGMENT』にしました」

これまでにないテーマと向き合いながらも、藍井エイルらしいスタイリッシュさを捨て去ったりはしない。そうしたハイブリッド感はジャケット写真にも表れている。

「これまではスタジオでストロボをたいて、バキっとキメキメなものが多かったんです。でも、少し力が抜けた感じのほうが、今の私には近いかなって」

「ジャケ写は日常をテーマとしているんですけど、撮影したのはロサンゼルスです(笑)。やっぱり日常に寄せすぎてしまうと、画として良くない気がして。初回限定盤Aのジャケットは、スタジオじゃなくて初のお部屋撮影です」
▲『FRAGMENT』初回生産限定盤Aのジャケット写真

ロサンゼルスではアーティスト写真も撮影したという。自然を背景に、リラックスした表情でこちらに視線を向ける。「今までは『目をパッチリ開ける!!』というのが多かったから(笑)。シルバーレイクで撮ったんですよ」と、隣のマネージャーと楽しそうに撮影の思い出を振り返る。

「一応『キリッ』も撮ったんですが、力が抜けてるほうが自然かな?って思ったんです。あんまり日常でキメ顔をしまくるってないですもんね。でも、ナチュラルな表情を作るのも新しい挑戦で、逆にちょっと難しかったです。『私、今引きつってなかったかな!?』って(笑)」

アルバム『FRAGMENT』には、無数の挑戦が込められている

『FRAGMENT』には、さまざまな日常のカケラを表現するかのように、バラエティ豊かな楽曲が収められた。これまでの楽曲になかったテイストも差し込まれ、音楽面でも新たな藍井の魅力を発見できる。

「心に残っているというか、衝撃を受けた楽曲は『グローアップ』ですね。反抗期をテーマに歌詞を書いたんですけど、とにかく今までにないトリッキーな楽曲になっています」

ロックバンドがディスコビートで演奏するファンキーな楽曲にのせて、リスナーに語りかけるようにセリフ調のフレーズを矢継ぎ早に繰り出す。「結局一体何が言いたいわけ?」「しばらく家には帰りません」など表情豊かなリリックと歌唱からは、まるで“TikTok以後”とも表現したくなるような新鮮さも感じられる。
「デモの段階では普通に音符がついてたんですけど、(作曲・編曲の)篤志くんが『セリフっぽい歌い方、おもしろそうだからやってみてよ』って言ってきて。『セリフって、どんなふうに?』と聞いたら『センスで』って(笑)。初めてこういう歌い方に挑戦したんですけど、いろんなパターンをアドリブでやらなきゃいけないので、恥ずかしさもありました(笑)」

日常をテーマとした作品ながらも、そこには無数の挑戦が込められている。この1枚が、進化した彼女のアーティストとしての姿勢を端的に表現しているようだ。

武道館公演を終えて、「ここから先、みなさんと一緒に見る景色が楽しみです」と綴った。武道館という“日常”を取り戻した彼女は、再び歩み始めている。
そういえば2016年のインタビューでは、「さいたまスーパーアリーナ2daysワンマン」を目標に掲げていた――その話を出すと、大きな瞳がさらに大きく見開かれ、すぐに返事が返ってきた。

「そう、早くやりたいんです! 毎週スタッフさんとそのことを話してますし、何ならきのうも言ってました!(笑)毎年アニサマであのステージに立っているからこそ、余計に『ひとりで立ったらどうなるんだろう?』っていう想像をかきたてられるんです」

自分で信じ続けていれば、願いはきっと叶う――そう確信させてくれる、強い意志を秘めた瞳だった。
藍井エイル(あおい・えいる)
11月30日生まれ、北海道出身。AB型。2011年10月、『MEMORIA』でデビュー。2016年11月に無期限で活動を休止するも、2018年2月に活動再開を発表した。6月に復帰シングル『流星/約束』をリリースし、8月には日本武道館で復帰ライブを行った。4月17日、前作の『D’AZUR(ダジュール)』以来およそ3年ぶりのアルバム『FRAGMENT』を発売。5月31日から「藍井エイル LIVE TOUR 2019 “Fragment oF”」がスタートする。

CD情報

アルバム 『FRAGMENT』
2019年4月17日(水)リリース!


左上から初回生産限定盤A、初回生産限定盤B、通常盤、完全生産限定盤

初回生産限定盤A(CD+BD+Photobook)
¥3,704+税
初回生産限定盤B(CD+DVD+Photobook)
¥3,426+税
通常盤(CD)
¥2,778+税
完全生産限定盤(CD+BD+Photobook+Tシャツ)
¥7,407+税

サイン入り色紙プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、藍井エイルさんのサイン入り色紙を抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年4月17日(水)18:00〜4月23日(火)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/4月24日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月24日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月27日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
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