アニメ業界は、想像より愛にあふれていた。ラックライフを音楽につなぎ止める「出会い」

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「お金のない時代はライブハウスでご飯を炊いてました。そんな出演者います?」

ラックライフのボーカル・PONはおどけて笑うが、彼らのインディーズ時代の苦労を聞けば「いつだって音楽を辞めたいと思っている」という言葉が、冗談ではないことがわかる。

そんな彼らの転機となり、メジャーデビューへのきっかけとなったのがTVアニメ『文豪ストレイドッグス』ED主題歌への抜擢だ。

中島敦、太宰治、芥川龍之介ら文豪たちが“異能力”を持つキャラクターとして登場し、バトルを繰り広げる『文豪ストレイドッグス』(KADOKAWA)。2013年に漫画連載が始まり、2016年にはテレビアニメ第1・2シーズンが放送。劇場版が制作されるほど高い人気を誇った。

ラックライフは第1シーズンのED主題歌『名前を呼ぶよ』に始まり、現在放送中の第3シーズンでも『Lily』を書き下ろし、アニメにとって欠かせない存在となっている。

「音楽を辞めないのは、出会った人とまた会いたいから」と語るボーカル・PONが、『文豪ストレイドッグス』への感謝を語ってくれた。

撮影/岡本俊(まきうらオフィス) 取材・文/松本まゆげ

中島敦にシンパシーを感じた第1期

『文豪ストレイドッグス』(以下、文スト)を思い浮かべると、ラックライフの音楽が脳内再生されてしまうほど、音楽とアニメがマッチしていますよね。もともと原作がお好きだったんですか。
正直、お話をいただくまでは知らなかったです。原作の漫画を読んで、「シンプルに面白いな!」って。面白かったのは幸せでしたね。最初は「どんな感じの曲にしようかな」って、イメージを固めるために読もうとしていたんですけど、気づいたらファン目線というか(笑)。夢中になってました。
相当、読み込んでいるんだろうなと。
通しで原作3回は読んでます。でも、「文ストだからこう曲を作ろう!」みたいなことはあんまりないかもしれないですね。僕は“自分と同じところ”を探すんです。この作品に出てくるキャラクターのどこが僕に重なるだろうって。

たとえば、第1シーズンEDの『名前を呼ぶよ』は、中島敦の「誰かに必要とされたい」っていう思いにシンパシーを感じました。僕もそういうウジウジするところがあるし。で、僕の場合はライブでみんなから「好き」という言葉をもらうことによって、「あ、このままでいいんや」って認めてもらうというか。
敦に似たところがありますね。
太宰さんや国木田(独歩)さんに、名前を呼んでもらってますからね。その部分こそ、敦が敦である理由というか。

そういうふうに「ここ俺と同じや!」という部分が見つけられたら、そこからは自分のことだけを考えて曲を作るようにしています。そうすると、自然とアニメの内容にも合っていくと思うんですよ。

キャラクターに寄せにいくわけじゃなく、本気で自分のことを書くからシンクロできているような気がしますね。

俺の曲、ストーリーにぴったりやん…!(笑)

文ストのエンディングテーマって特殊な入り方をしますよね。本編にイントロを乗せて、歌い出しからエンディングのアニメーションに切り替わる。
そうなんですよ。「ここでイントロ来たかー!」みたいな!“ミソ”みたいな使い方をしてくれるから、「監督、いい仕事するな〜!」って思います(笑)。
そんなエンディングは、当初から文ストファンの反響がかなり良かったと記憶しています。PONさんはチェックされていましたか?
ゴリゴリやりましたよ。趣味が”エゴサ”なので。しかも、そこで発見があったんですよ。「みんな、歌詞やメロディーをキャラクターに重ねながら聴くんや」って。僕は「この曲、友だちに似てるな」とか、いつも身近にいる人を当てはめて聴いていたから、「このキャラクターのことを歌ってるのかも?」と想像する楽しみ方があることを教わりました。

自分で曲を書いておきながらそういう聴き方をしたことがなかったんで、改めて意識して聴いてみたら「俺の曲、ストーリーにぴったりやん…!」って震えました(笑)。
そうして、今回は第3シーズンのED主題歌に『Lily』を書き下ろしました。
聞けば、第3シーズンでは劇場版(文豪ストレイドッグスDEAD APPLE)の来場者特典だった小説『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』がアニメのストーリーに入ると。

その小説を読んだんですけど、とあるシーンの(中原)中也の佇まいにすごく強さを感じたんです。自分が良かれと思ってやっていたことが相手にとってはそうではなくて、悪いほうに転がっていって「こんなはずじゃなかったんだ」とうなだれて…。

でも、相手のことを思って涙を流したりするでもなく、キッと佇んでいるんですよ。その強さ、ちょっとわかるなと。
シンパシーを感じた部分なんですね。
泣いたらあかん瞬間って、誰にでもあると思うんです。泣きたいし逃げ出したいけど、ぐっとこらえて踏みとどまる瞬間。そこを歌にしたいなと思ったんですよね。
『Lily』は「ゆり」という意味ですよね?
最初は「救済」という意味の「Relief」っていうタイトルにしようと思ったんです。ポートマフィア(「武装探偵社」と敵対するマフィア)に入ることになって、きっと中也は救われたと思うので。

だけど、「Relief(リリーフ)」って、自分の中では野球のイメージが強いんですよ。どうしてもいろんな選手が頭に浮かんでしまったんで、近い言葉を探したらこれがありました。「真っ白」といった意味もあるので、真っ白になってまた歩き出すという意味も込めて『Lily』です。
4作目ではありますが、文ストのED主題歌を作ることにプレッシャーはありましたか?
毎回ありますよ。けど、何度もやらせてもらえるということはそれなりに期待されているからだと思っています。

ただ同じようなものは出したくないんですよね。エンディングって、『名前を呼ぶよ』みたいなバラードも良いんですけど、それだけじゃない新しい一面を見せながらやっていこう、ある種、裏切ろうと。しんどいですけど、そこが楽しかったりします。

「アニメは人間が作ってるんだ」と思えた出会い

文ストのテーマソングに抜擢されたのは、ラックライフにとって大きな転機だったかと思います。
変わりましたよ、いろんなことが。それまではインディーズバンドとして全国をまわり、小さなライブハウスの、(人がいない会場の)床とか壁とかを見ながら歌ってたので、文ストがいろんな人に認めてもらえるキッカケになりました。そういう意味でもこの作品にはすごく運命的なものを感じていますし、感謝しています。すごく。
歌うときの心境も、インディーズ時代とは違うんじゃないでしょうか。
いや、そこはまったく変わらないですね(笑)。『名前を呼ぶよ』を出したときに、昔からのファンの方から「ラックライフはやっぱりいいね」と言ってもらえることが多かったので、本当にこのままでいいんやろな〜と。
メジャーデビューやタイアップが決まっても変わらずにいられたのは大きいですね。
そう、“ドサ回りバンド”としてはメジャーやタイアップに対して、“縛られる”イメージがあったんですよ。いろんな人に締め付けられて、書きたくもない曲を書いて、ダメ出しされて直されて、結果、謎の曲生まれる!という(笑)。

僕もある程度そういう覚悟はして”アニソン界隈”に飛び込んだはずなんです。でも、実際に曲を作ったら「全然直されることないんやけど!」って。逆にこれでいいの?って思ってます(笑)。

あとは、アニメって人間が作ってるんやな、とすごく思いました。文ストのプロデューサーなんて、すごく“おかしい”人で。思い入れが深すぎて、打ち合わせとか、ことあるごとに、作品のことをしゃべりながら涙を流すんですよ(笑)。

文ストの舞台を観に行ったときなんて、感極まって涙でズルズルで(笑)。いい意味で裏切られて、不信感は一気になくなりました。
それはそれは(笑)。それだけ愛を持っているんでしょうね。
はい。こういう人たちが愛を持って作ってるんや、スゴい嬉しいなと思いました。僕らにとっての音楽が、この人たちにとってはアニメで。みんなが愛を持って作っているんだと思ったら、アニメ業界も怖くなくなりました。
それだけ、文ストとラックライフの相性が良かったというのもありそうですね。
ほんまにそう思いますし、この先、文ストのエンディングテーマを他の人がやることになったら嫌いになってしまうかもしれないです。ただの嫉妬ですね(笑)。

お客さんはふたりで、演奏中にひとり出ていく。そんな下積み時代

先日のライブMCで、「いつもミュージシャンを辞めたいと思っている」と言っていましたね。
はい。だってしんどいもん。それに、やばくないですか?
やばい?
「自分の思っていることをメロディーに乗せ、人に伝えている」んですよ?(笑)そこの根本的な気持ち悪さがあります。認めてくれる人がいなければ、ほんまにやばいヤツやな、と。

それに、観る人からしたら僕らのファンなんて、やめようと思えば、すぐにやめられるものなんですよ。ライブに欠かさず来てくれていても、「やっぱやーめた」ってなったらそこで終わり。それを必死につなぎ止めているプレッシャーで押しつぶされそうになります。

僕は声も普通で、歌詞も普通。それが良さだとも思っていますけど、そんな僕の力でつなぎ止められるものってめちゃくちゃ儚いじゃないですか。

もちろんスーパースターだったら違うと思いますよ。秦基博さんのライブを観にいったとき、俺にはもう無理やなと思いましたもん。アコギ(アコースティックギター)を「ポロ〜ン」とやって「ハ〜」ってハミングした瞬間、僕、ブワー!って泣いてたんで(笑)。
スーパースターの才能を感じたんですね。
たったひとつの音で人を泣かせるスーパースターに勝てるわけないですよ。
すごく冷静ですね。
めっちゃ冷静ですね。昔から自分のことを分析してます。だからCDジャケットに自分たちの写真出すの嫌なんですよ。そんなのは、もっとカッコいい人がやれば良いので。
そんなPONさんを音楽につなぎ止めているものって何なんですか?
やっぱ好きやからです。自分の曲に限らず、歌うのが好き。歌が好きでそれをいろんな人に褒めてほしいし、作った曲を「いい曲だね」って言ってもらえたら嬉しい。なので、人も好きですね。たぶん、それだけでやってきました。
これまでの苦労を思い返すと…
地獄のような毎日でしたね(笑)。僕ら、高校生のときに「目立ちたい」「人気者になりたい」という理由だけでバンド組んだんですよ。

そうして地元の「高槻RASPBERRY」(大阪、3月末で閉店)っていうライブハウスに出るようになって。そこでいろんな人と出会って、歌って、ライブハウスって、こんなにパワーがあるんだ!って思ったんです。

そういう中で、僕らも「バンド、ちゃんとやろっか」っていう雰囲気になってきて、全国ツアーをやるようになったんです。だけど、8時間かけて向かった先にお客さんふたりとか…。しかもやってる最中にひとり出ていくとか(笑)。年間120本とかのスケジュールを5年くらい続けていたんですけど、めっちゃつらかった。
生活も苦しかったのではないですか。
はい。ほんまにお金なくて、実家から炊飯器をパクッてきて、ライブハウスで「お水借りまーす」ってご飯炊いて。そんなアーティストいます? ライブハウスで、出演者がご飯炊いてるんですよ(笑)。まあ、つらかったですね。

でも歌がお客さんに届いたときの嬉しさとか、5人しかお客さんおらんのにふたりもCD買ってくれた!とか、そういう出会いを繰り返していくうちに、「打ち上げが楽しかったら全部チャラでいいか!」と思えるようなメンタリティーになりました(笑)。

だからお客さんに会うためにツアーに出ていましたね。めっちゃしんどかったし辞めたかったけど、辞めたらこの人たちに一生会えなくなると思ったら辞められなくて今に至っています。
結果、ファンからの信頼が厚いバンドになりました。ラックライフに支えられているというファンも多いですね。
僕らが支えられているからかもしれないです。来てくれる人の笑っている顔を見て元気が出るという不思議な現象は、ライブハウスでしか起きんと思います。

だからつらくなったらライブハウスの光景を思い出すんです。あの辺に座ってたあの人、あの曲でめっちゃ泣いてたな、あの人たぶん娘に連れて来られたんやろな、しんどそうやったな…とかいろいろ思い出して、また会いたいなって思っちゃうんです。で、そんな曲を書くという。
素敵なスタンスですよね。そうして昨年10周年ツアーも行ったラックライフ。全員が30歳になりましたが、今後挑戦したいことは?
このままでいたいです。このままどこまで行けるか見どころやな、って(笑)。いつか日本武道館(東京)やさいたまスーパーアリーナでライブをやることになっても、僕がばーっとしゃべって、ひとりで笑って、いこちゃん(ikoma)がツッコんでくれる、みたいな現象が起きてほしい。

このまま”おっぴろげな気持ち“でどこまでも行けるんやろな、どこまでもな、っていう気持ちですね。
スタンスはそのまま、規模は大きく。
そうです!(NHK)紅白(歌合戦)出たいし、Mステ(ミュージックステーション、テレビ朝日系)出たいし。僕、ほんまはEXILEみたいになりたかったんです。でも、叶いそうにないんで、ラックライフで叶えようとしてます(笑)。

最終的には、定年までやりたいですね。今の一般企業の定年は65歳ですか。そこまで好きな仕事できるって最高じゃないですか!最後のライブで「ありがとうございました!普通のおじさんに戻ります!」って宣言したい。そこまでできたら最高です。
ラックライフ PON(ラックライフ ポン)
PON(Vo&Gt)、ikoma(Gt&Cho)、たく(Ba)、LOVE大石(Dr)の4人で構成されるギターロックバンド。2008年に「ラックライフ」として始動。2014年にインディーズデビュー、2016年5月に、TVアニメ『文豪ストレイドッグス』のエンディングテーマ『名前を呼ぶよ』でメジャーデビューを果たした。同作の第3シーズンは4月にスタート。最新シングル『Lily』がED主題歌になっている。これを引っさげ、6月から東名阪3都市を巡るワンマンツアーを開催。

CD情報

シングル『Lily』
5月8日リリース
【アーティスト盤】(CD+DVD)
3,024円(税込)
【アニメ盤】(CD)
1,404円(税込)

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、ラックライフ PONさんのサイン入りポラロイドを3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年5月4日(土)12:00〜5月10日(金)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/5月14日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから5月14日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき2019年5月17日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
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