乃木坂46は、自分の作曲家としての夢を叶えてくれた。杉山勝彦が語る感謝とこれから
乃木坂46のイメージを決定付けたといわれる通算4枚目のシングル『制服のマネキン』をはじめ、『君の名は希望』、『サヨナラの意味』など、彼女たちのキャリアにとってターニングポイントとなるような楽曲を数多く生み出してきた作曲家・杉山勝彦。
幼少期に親しんだクラシックの要素をちりばめながら、Mr.Childrenや音楽プロデューサー・小林武史からの影響によるオーガニックなバンド・サウンドを基調する彼の作風は、乃木坂46のみならず、嵐や家入レオ、中島美嘉など多くのアーティストの“代表曲”を生み出した。
現在は、ストリートミュージシャン出身の上田和寛と結成したフォークデュオ「TANEBI」としての活動も、作曲家としての活躍とともに注目を集めている杉山。彼はいつも、どのようなプロセスで作曲しているのだろうか。
「『制服のマネキン』はただただラッキーでしかなかったんです」。
そう謙虚に語りながらも、自身の楽曲制作への強いこだわりをのぞかせた。
ギターの爆音に痺れ、音楽への道を目指した高校時代
- 最初に音楽に目覚めたきっかけは?
- 中学生の頃、修学旅行のバスで米米CLUBの『浪漫飛行』を歌ったら、思いの外みんなにウケて。「これは俺、音楽のセンスあるかも」と思っちゃったんですよ、いわゆる“中二病”だったので(笑)。それでもっとうまくなろうと思って、自宅で歌を練習し始めたんですね。
僕には兄がふたりいて、どちらもちゃんと音楽の教育を受けていたから、そんな僕の様子を見るに見かねて「お前、ミスチル(Mr.Children)の桜井(和寿)さんだってギター持って歌ってるんだから、お前もギターくらい弾いたらどうだ?」と言ってアコギ(アコースティックギター)を渡されたんです。
でも、ちょっと弾いてみたら指は痛くなるし、弾けるようになっても披露する場がないと思ってすぐやめちゃったんですよ(笑)。 - お兄さんの思い届かず…(笑)。
- しばらくはカラオケ店へ行って歌の練習をする日々が続きましたが、高校に入学した頃、再び兄に連れられて近所のギター教室へ行ったんですよ。「いい先生らしいから一度体験入学してみようよ」とそそのかされて。
そこで、アンプにつないだエレキギターの爆音を浴びて、ぶっ飛んだんですよね。「世の中には、こんなカッコいいものがあるのか…!」って。そこから音楽へハマりこんでいくようになりました。
- そんな杉山さんが、プロの作曲家になった経緯は?
- 僕は早稲田大学に在学中、ゴスペラーズのメンバーが所属していたアカペラサークルにいたんです。卒業してサラリーマンをしていたとき、早稲田祭へ遊びに行ったらゴスペラーズと、ラッツ&スターの佐藤善雄さん(現・FILE RECORDS社長)がいらしていて。
その日はサークルのOBは歌えない日だったんですけど「ここで今、歌わなかったら一体俺は何のためにこのサークルに入ったのか、わかんねえんだよ!」と後輩にゴリ押しして時間を作ってもらいました(笑)。後で佐藤さんから「今の曲、書いたのお前か?」みたいな感じで声をかけていただきました。
そこから1年ほどで、嵐の『冬を抱きしめて』(2008年)の作詞(共作)・作曲を担当させていただいて作家デビューを果たしました。 - また、作家として活躍する一方、上田和寛さんとフォークデュオ「USAGI」を結成し(その後「TANEBI」に改名)、現在も精力的に活動していますよね?
- そうなんです。僕の作家としての最初のピークは、デビューから5〜6年で訪れました。大きな案件のリリースが立て続けに決まって、周りのスタッフからも「このまま行くところまで行こう!」なんて言われていたんですけど、そのタイミングで相方の上田から誘いを受けまして。
周囲の反対を押し切る形で、作家の仕事をストップしてアーティスト活動に専念したんですよ。ユニバーサルミュージックからメジャーデビューして3年くらい。その後、インディーズに戻った時点で作家活動も再開したんですけどね。
自分の作風を自然体で表現してくれる、それが乃木坂46
- 杉山さんというと、乃木坂46のイメージを楽曲面で作り上げたというイメージが強いのですが、そもそも手掛けるようになった経緯は?
- 初めて秋元康さんに歌詞をつけていただいたのは、JULEPSの『バトンタッチ』(2008年)という曲なんですけど、それが本当に素晴らしくて今でもお気に入りです。もちろんそれまでもスゴい方だとは思っていましたが、実際に自分の曲に歌詞をつけてもらって「半端じゃないな」と思い知りました。
- そこからAKB関連の曲を手掛けるようになったんですね。
- そうです。いろいろやらせていただくようになっていくんですけど、僕の作風として『ヘビーローテション』(2011年)や『フライングゲット』(2012年)のようなテンションの曲は無理だよな、と(笑)。無理して作っていた時期もあったんですけど、「やっぱ違うな」と思っていたんですよね。
「自分の作風を自然体で表現し、それを最高な楽曲に仕上げてくれるグループはどこかにいないだろうか?」とは考えていました。 - それが乃木坂46だったと。実際、杉山さんが最初に手掛けた『制服のマネキン』(2012年)は、「乃木坂の新しいイメージを打ち出した」といわれています。
- それはもう、ただただラッキーでしかないですよね(笑)。じつは、あの曲を乃木坂の代表曲にしたいなんてことをまったく考えずに好き勝手に作ったんです。
しかも、作り始めてから提出するまで、レコーディングも含めて6時間くらいしかかかっていません。そういう意味では、作った日は、人生で「最も時給が高い」1日なのかも知れません(笑)。 - なるほど(笑)。
- だから「ラッキーでしかない」。しかも、あの曲で乃木坂が注目を集めたので「これはチャンスだ」と思ったんです。すごく清楚な雰囲気があるけど、『ぐるぐるカーテン』(2012年)みたいな曲から、『制服のマネキン』みたいな曲までやるということは、まだ方向性がそんなに決まってないはずだと。
それですぐ、のちに『君の名は希望』(2013年)というタイトルになる楽曲のデモ(音源)を、コンペの話があるわけでもないのに秋元さんに送らせていただきました(笑)。そしたらすぐに「これ、すごくいいからフル(コーラス)で聴かせて」って連絡が来て。
結局この曲は、乃木坂が『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)初出場(2015年)したときに歌った楽曲にもなったし、彼女たちのイメージをお茶の間にまで浸透させることができたとも自負しています。
乃木坂46は、作曲家としての夢を叶えてくれたグループ
- 乃木坂46がイメージを模索していた時期と、杉山さんが「作家性を活かした楽曲を作りたい」と思っていた時期が、本当にタイミング良く合致したんですね。
- 当時、テンションの高いアイドルソングが世にあふれている中、「違うテイストがあってもいいんじゃない?」という世の中の気分もあったと思います。
もちろん自分としても、幼少の頃から影響を受けてきたクラシック音楽からの引用…たとえば、分数コードを用いたり、打ち込みではなく生楽器を主体にしたバンド・アンサンブルだったり、そういうところで当時のアイドルソングにあまりないオリジナリティーを出せたと思っていますね。 - 『制服のマネキン』は、欅坂46の『サイレントマジョリティー』(2017年)にもつながる曲だとも言われています。
- 『サイマジョ』を作曲したバグベアの方から直接聞いたのですが、僕がある年の早稲田祭に参加して「作曲家の杉山です」って挨拶したときに、客席にいた女の子たちが騒いでいたのを見て、「そうか、作曲家という仕事があるのか」と思って音楽ユニットを始めたらしいんですよ(笑)。
あのとき、早稲田祭に行かなきゃよかった。そうすればライバルの誕生を防げたのに…って冗談ですけど(笑)。
- (笑)。ちなみに『制服のマネキン』について、秋元さんは何と言っていましたか?
- 当時はまだお話できる感じではなかったので、どう思われたのかもわからず、気づいたらシングルになって、わーってヒットして、みたいな(笑)。編曲家の方が、めちゃくちゃカッコよく仕上げてくださって嬉しかったのを覚えています。
- 乃木坂46の最新アルバム『今が思い出になるまで』のリード曲 になった『ありがちな恋愛』は、どんなふうに作曲したのですか?
- これも、コンペに向けて書いたわけではなく勝手に作っていたんです。沖縄に行ってるときに、鍵盤を弾きながら作りました。「こんな曲が乃木坂にあったらいいな」って。
- そうなんですね。ところで、杉山さんにとって“乃木坂46”とはどんなグループですか?
- うーん…「自分が素直に作った楽曲を、そのままハマってくれる唯一のアイドルグループ」じゃないですかね。
- その域まで達するのって、ある意味「もうひとりのメンバー」みたいな心境なのでしょうか。自分の書いた曲が乃木坂46の方向性になり、次の作品も心待ちにされているっていう。
- もうひとりのメンバーなんておこがましいですが、「作曲家としての夢を叶えてくれたグループ」ではありますね。それだけに、彼女たちが日本レコード大賞を2年連続で取るタイミングでなぜ俺はその曲を書いていなかったんだ…っていう悔しさもありましたけど(笑)。まあ、でもシングル表題曲というのは宝くじみたいなところもあるんですよね。
タイアップもない状態で、自分で作り出せるのがカッコいい
- ちなみに、女性アイドルと男性アイドルに提供するときで、楽曲の作り方などは変わりますか?
- 変わります。というのも、男性のほうが筋力が強いんですよ。つまり声帯を思いっきり引っ張れるので、歌える音域が広いんです。逆に女性は、音域は狭いけど、地声とファルセット(裏声)のギリギリくらいの音を長く保っていられる。となると、メロディーラインの作り方にも影響してきますよね。
- そういう枠組みをあえて自分で作り、その制約の中で曲を作ることは他にもあります?
- ありますね。たとえば中島美嘉さんの『一番綺麗な私を』(2010年)は、最初に「メロディは5音、ペンタトニック・スケールしか使わない」と決めて作りました。制限を設けたほうが、クリエイティビティーが上がるというのはよくあることだと思います。
- 最近、印象に残っている仕事は?
- 僕は埼玉県の入間市出身なんですけど、入間の曲(いるまのこどもへ贈る歌『どこから来たの?』)を作ったんですよ。一応「行政からの依頼」というテイですが、これも僕から仕掛けたんです(笑)。
僕は時代を超えて愛される楽曲を作りたいという思いがあって、しかもタイアップもバジェット(予算)も宣伝力も何もない状態で、自分の動きだけで作り出せるのが一番カッコいいなって。それで、入間市長に会うたび「書かせてほしい」と頼み込んで、ようやく口説き落としたんですよね。
- 杉山さんの熱意に動かされたんですね。
- とはいえ、普通に作ってもバズらないので、ちょうど配信シングル(『ドラマ』)を書かせてもらった縁で、『音楽チャンプ』(テレビ朝日系)出身の丸山純奈ちゃんに徳島県から来て歌ってもらって(笑)。
行政から依頼された普通の「メイン版」と、入間市のコーラスサークルや和太鼓サークルに参加してもらった「合唱版」、それからILLMANIA(イルマニア)という入間出身のヒップホップ集団に参加してもらった「ダンスリミックス版」を、頼まれもしないのに勝手に作ったんです。 - スゴいです(笑)。「やるなら徹底的にやる」という姿勢は常に変わらないんですね。
- ここまでやると、行政の人たちも熱烈に応援してくれる。今ちょうどミュージックビデオを撮影しているところなんですけど、すでに地元で2000人くらいが歌えるくらいには広まってきているんですよね。卒業生を送る会などでもけっこう歌われたりしているみたいですし、市役所へ行けば常に流れっぱなしですよ(笑)。
いい曲には「愛情」か「アイデア」のどちらかが詰まっている
- 杉山さんにとって「いい曲」とは?
- 現代において、ちゃんとヒットしている曲は大体いい曲だと思っています。新鮮さがあるし、やはり時代を掴んでいないとそうはならないんじゃないでしょうか。
10年くらい前は、もっとみんな音楽に注目してくれていました。みんな自然と流れてる音楽を受け取ってくれたというか。でも今って、自分で掘る時代になっちゃったから、みんなで共有して楽しむ音楽はひと握りだし、そうなり得る曲は本当にいい曲でしかないというか。
あと、そこまでヒットしなくても「いい曲」だと思えるのは、そこに「愛情」か「アイデア」のどちらかが詰まっているものですね。音楽への誠意というか、本当に隙がなく丁寧に作られていて、思いやりがあって、それでいて客観視もできていて。
しかも、100%キレイなだけではダメなんですよ。そこにはトゲが、2本くらいは生えてないと。人間の痛みから出た愛情なのか優しさなのか、悲しさなのか喜びなのかわからないトゲを2本くらい残しているものを豪速球で投げつけてくるような楽曲にはグッときますね。
- 最近、そういう意味でグッときた曲というと?
- やっぱり米津玄師さんとあいみょんさんはいいですよね。米津さんは最初、自分たち(TANEBI)のラジオ番組で『アイネクライネ』(2014年)を流したんだけど、「何この曲!? もう絶対売れるじゃん!」って相方の上田にオフマイクで叫んだのを覚えていますね。スゴい人が出てきちゃったなと思いました。
あと、DAOKOさんの『終わらない世界で』(2018年)。『打上花火』(2017年)も良かったですけど、「この子は曲に恵まれているなあ、何なんだろう」と思ってクレジットを見たら小林武史さんの名前が…(笑)。
back numberも小林さんが手掛けたタイミングで好きになったし、そもそもミスチルで音楽に目覚めたのもそうだし、僕はもう小林さんから逃れられないんだなって(笑)。 - 今後、手掛けてみたいアーティストは?
- 今後というより、「また書かせてもらいたいな」と思う人が多いです。家入レオちゃんは、最新のアルバム(『DUO』)で2曲やらせてもらっていますけど、今後も引き続き書いていきたいし。でもやっぱりそういう意味では、乃木坂46ですね。これからも長く関わっていけたら嬉しいですね。
- 杉山勝彦(すぎやま・かつひこ)
- 1982年1月19日生まれ。埼玉県入間市出身。A型。
作詞・作曲・編曲家。乃木坂46『制服のマネキン』『君の名は希望』『サヨナラの意味』などの代表曲、また直近のアルバム『今が思い出になるまで』リード曲『ありがちな恋愛』などを手掛ける。家入レオ『ずっと、ふたりで』などにより2017年『第59回 輝く!日本レコード大賞』作曲賞を受賞。また、2014年ユニバーサルミュージックよりフォークデュオ「USAGI」のギタリストとしてメジャーデビュー。2016年「TANEBI」と名を改めアーティストとしても活動中。
サイン入りCD&ギターピックプレゼント
今回インタビューをさせていただいた、杉山勝彦さんが活動しているTANEBIのサイン入りCD&ギターピックを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。
- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2019年4月26日
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インタビューはこちら▼https://t.co/LAP5tvpH8f pic.twitter.com/FdDM5zWqwJ- 受付期間
- 2019年4月26日(金)20:00〜5月2日(木)20:00
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