日本は過敏になりすぎているんじゃないか。斎藤 工が『麻雀放浪記2020』に込める意味
大の映画好きとして知られ、自身で監督業を務めたり、コラムや評論を綴ることもある俳優・斎藤 工。彼は、いまの映画業界にどのような感情を抱いているのだろうか。
過激な題材に政治家も眉をひそめたという4月5日公開の主演作『麻雀放浪記2020』を通して、彼の言葉を聞こうとこの取材が行われたのは2月中旬のことだった。
そして3月、この映画は思ってもみなかった角度からも注目されることになる。出演者が問題を起こしたとき、作品までも自粛しなければいけないのか――容易に答えを出せる問題ではない。
何度も“公開中止”を噂された本作だが、斎藤は2月の取材でこう語っていた。
「コンプライアンスが重視される時代だからこそ、たとえ物議を呼んだとしても今作のような映画を作る意味がある」。
(文/ライブドアニュース)
スタイリング/井嶋一雄(Balance) ヘアメイク/KAZUOMI(メーキャップルーム)
リメイク作は、“別の料理”にするくらいの大胆さが必要
- 映画『麻雀放浪記2020』は、昭和の麻雀ブームの礎を作った阿佐田哲也さんの小説が原案です。1984年にも和田 誠監督によって映画化されていますが、こちらも昭和の名作として知られていますね。
- うちの父親が“阿佐田哲也フリーク”だったので、僕もそれに影響されて阿佐田さんの小説を読んだり、和田 誠さん版の映画を観たりしました。小説も映画もまさに名作で、僕にとってバイブルのような作品です。
- 今回、斎藤さんは企画段階から関わられていたそうですね。
- 阿佐田さんの自伝的小説『明日泣く』を映画化した作品で、主演を務めさせていただいたとき、阿佐田さんの奥さまとお会いしました。そのときに僕の阿佐田さんに対する情熱を受け取ってくださって。奥さまは阿佐田さん作品の権利を持っていらっしゃるので、「そんなにお好きなら、(『麻雀放浪記』の映画化を)どうぞ」というお言葉をいただきました。
- 10年ほど前のことですけど、当時の僕はまだ映画製作をはじめていなかったので、どうしたらいいんだろうと模索していて。気づいたらこんなに時間がかかってしまいました。
- 斎藤さんはオフィシャルのコメントで「和田 誠版『麻雀放浪記』ファンとして、この企画に対していささか不安を感じました」と言われていました。
- これは個人的な意見ですが、名作をリメイクしてオリジナルを超えた作品はほぼないと思っています。なので、リメイクするならば過去の作品をなぞるのではなく、その題材を使って別の料理に作り変えるぐらいの大胆さが必要だと思ったんです。
- とくに今回は、それぐらいの勢いがないと立ち向かえない題材。でも、佐藤佐吉さんが書かれた脚本は、原作にあらがうようなエネルギーにあふれていて、もし阿佐田さんがご存命だったら嫉妬するかもしれないと思えるものでした。
- かつ、それを白石和彌監督(映画『孤狼の血』など)が撮るとなれば、絶対に面白いものになる確信がありました。
白石和彌監督はアイデアの宝庫。撮影を通して刺激を受けた
- 20台のiPhoneを駆使して全編を撮影されたのも画期的だと思いますが、白石監督とタッグを組んで刺激を受けたことはありますか?
- 白石監督はとにかく引き出しが多い方。iPhoneでの撮影もそうですが、撮影の準備から仕上げまでアイデアの宝庫といった感じでした。
- 注目されるきっかけとなった『凶悪』をはじめ、『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』など、映画監督として高く評価されているのも、そこに理由があるのかもしれませんね。
- 白石さんは映画監督としてご活躍されるまでの下積みが長いんです。それは優秀で、いろんな監督が手放したくなかったからだと思うんですけど。改めて、優秀な助監督は優秀な映画監督になることができるんだな、と思いました。
- 現場でそういったお話もされたのでしょうか?
- アイデアの源について聞いてみたら、助監督時代に提案してボツになったものをストックしていて、今はそれをやっているだけだとおっしゃっていました。
- 白石さんは作品の数も多いですが、どれもが濃密です。その秘訣は、白石さんの中でアイデアを発酵させる時間があったからなのかなと思います。
- それに、現場でどんなハプニングが起きても、つねに笑顔で飄々と次の活路を見出していかれるんです。だから不安になる瞬間は一切なかったし、すごく頼もしい監督でした。
- 斎藤さんも昨年『blank13』で映画監督を務められましたが、その経験があったからこそ見えてきたものはありましたか?
- 映画の撮影は、当日にならないとどう転んでいくのかわからないものなんです。たとえば、天気とか役者さんのコンディションとか。だから準備がすべてではありますが、僕はリアリティのほうに転んでいく現場を志していました。
- でも、白石組はみんなが同じ方向に向かって進んでいて、監督に対する信頼が厚い。それが白石さんの人柄であり、フィルムメーカーとしての特徴なんじゃないかなと。
- 自分も気づくと、白石組の楽しさを感じていましたし、好奇心を掲げながら映画製作の大変さをくぐり抜けるという意味でも、非常に豊かな時間を過ごせたと思います。
「設定にお叱りを受けた」報道で複雑な気持ちに
- 通常、映画を試写で拝見してからインタビューをさせていただくのですが、この作品は諸事情があって、試写が一切行われないということですが…。
- すみません。映画を観ていないと、インタビューもしにくいですよね…。
- 資料を見ながらお話をうかがっているのですが、「第三次世界大戦の勃発」、「東京オリンピックの中止」など過激なキーワードが並んでいますね。
- 東京オリンピックが中止になるというのが、今の時代において、どれだけフィクションで、どれだけリアルなのかは、日々の情勢によって変わってくると思います。不謹慎かもしれないけど、僕はそんな時代にこの映画が公開されることが面白いなと。
- 国会議員試写会で物議を醸し、その件について「設定自体がお叱りを受けています」と発言されたことが大きな話題を集めましたね。
- あれは僕の言い回しが悪かったんです。そんなたいそうな「お叱り」でもなかったんですが、報道で大ごとになってしまって。すごく複雑な気持ちになりました。
- でも、あれがきっかけで本作に興味を持った人もいると思いますよ。
- それなら作戦どおりですね(笑)。
- まさかの“炎上商法”ですか?(笑)
- そういうことではないんですけど(笑)。
- でも、今はかつての日本映画にあった、ギトギトとした粘り強さみたいなものが薄まってきている気がしていて。だから、こういう作品が良くも悪くも目立ってしまうのかなと。
- というのは?
- 今は同じようなキャスト、同じような題材の映画が多いですよね。それに宣伝に関してもシステム化されている。僕としてはそこに疑問を抱いているところがあって。
- 『麻雀放浪記2020』は荒唐無稽な映画だけど、時代が時代なら(映画界の)トップを走ってもいいと思うし、コンプライアンスが重視される時代だからこそ、たとえ物議を呼んだとしても今作のような映画を作る意味があるのかなと。
- とはいえ、映画は映画館に足を運んでくださった観客のみなさんが育ててくれるものだと思うので、僕はそれを見守りたいです。
作家性を殺してしまうコンプライアンスには、疑問がある
- 先ほどコンプライアンスという言葉が出ましたが、斎藤さん自身はコンプライアンス重視である業界の現状についてどう思いますか?
- コンプライアンスは、僕もずっと考えてきた問題です。
- 以前、パク・チャヌク監督の『お嬢さん』という映画がBS番組で放送されていましたが、そこに出てくる春画に全部モザイクがかけられていたんです。春画というのは日本の文化であり、チャヌク監督も日本へのリスペクトを込めて描いているはずなのに、そこにモザイクをかけてしまうのはおかしいなと。
- そうやって作家性を殺してしまうコンプライアンスを見たときに、いろいろ思うことがありました。
- たしかにコンプライアンスは大事ですが、行きすぎると表現が制限され、本当に作品で描きたいことが伝えられなくなる危険性もあるかもしれませんね。
- 一度、テレビ業界のコンプライアンスについて調べたことがあるのですが、普段使っている言葉でもテレビではNGというのがけっこうあって驚きました。
- もちろん、海外でも厳しいところはありますが、今の日本は過敏になりすぎているんじゃないかと。でもその反面、コンプライアンスは時代をはかるものなのかなとも思っています。
- 本作に関してはいかがでしょうか? 白石監督は過剰なコンプライアンス重視にあらがおうとしている監督だと思うのですが。
- 『麻雀放浪記 2020』という作品は、僕らの平和ボケに対する代償のような映画だと思っています。
- 最初に脚本を読んだときは、めちゃくちゃだなと思うところもあったのですが、AI(人工知能)の表現なども含めて、日を追うごとに作品のリアリティが増している気がします。
- 1945年の戦後の時代から2020年にタイムスリップしてきた、僕が演じる主人公の“坊や哲”を通して、現実を生きる僕らの平和ボケが露呈していく。そういう怖さを含めて、センセーショナルな映画になっています。
- ちなみに個人的なお気に入りは、シマウマのシーン。ウマじゃなくてシマウマというのがポイントなので、楽しみにしていてください(笑)。
- 斎藤 工(さいとう・たくみ)
- 1981年8月22日生まれ。東京都出身。A型。2001年に俳優デビュー。その後、数々の映画やドラマに出演。2019年は日仏シンガポール合作の主演映画『家族のレシピ』が公開されたほか、『Diner ダイナー』が7月5日から公開、『魔法少年☆ワイルドバージン』と、主演のほか企画・プロデュースも務めた『MANRIKI』が公開予定。4月からはドラマ『東京独身男子』、5月22日からの5夜連続ドラマ『白い巨塔』(ともにテレビ朝日系)への出演も決まっている。俳優活動以外にも、初長編監督映画『blank13』が国内外の映画賞で8冠を獲得。エリック・クー監督がショーランナーを務めるHBOアジア制作の「FOODLORE」に、前作『TATAMI』に引き続き日本の代表監督として再び参加。白黒写真家として参加した祷 キララ写真集『はじめての三人』(ギャンビット)や、被災地や途上国など劇場体験が困難な地域に映画を届ける移動映画館「cinēma bird」の主宰など、活動は多岐にわたる。
サイン入りポラプレゼント
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- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2019年4月2日
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- 2019年4月2日(火)18:00〜4月8日(月)18:00
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- 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから4月9日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき4月12日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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