気負わずに、僕のままで――島崎信長が「吹き替え」の世界で“いま”表現するもの

島﨑信長が話し始めると、その場の空気がパッと華やぐ。

笑顔を絶やさず、明るいトーンで淀みなく答えながらも、その言葉には芝居に対する情熱や愛情が詰まっていることを感じさせる。

『Free!』(七瀬 遙)や『ソードアート・オンライン アリシゼーション』(ユージオ)などで声優を務める彼だが、「作品のなかに生きる役と向き合って、丁寧に、一生懸命やるだけ」という意識は、アニメでも吹き替えでも変わらない。

声優として11年目を迎えた島﨑が、吹き替えについて、芝居についてあふれんばかりの思いを語ってくれた。

撮影/ヨシダヤスシ 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.

幼い頃から、吹き替え版は違和感なく受け止められた

『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』を生み出した、ピーター・ジャクソンが送る最新作『移動都市/モータル・エンジン』。人類が移動都市で暮らす世界を舞台に、巨大移動都市“ロンドン”の支配に立ち向かう少女たちの姿が描かれる。本作の吹き替え版で島﨑が演じるのは、主人公の少女に惹かれ、同じくロンドンに反旗をひるがえす青年だ。
『ロード・オブ・ザ・リング』の吹き替え版を「子どもの頃から家族でよく見ていた」とコメントされていましたが、当時は吹き替えをどのように捉えていましたか?
とっても自然に映っていました。演技とかではなく、本当にそういう声(吹き替え版キャストの声)の人がしゃべっているんだと思っていて。

海外の俳優さんが日本語をしゃべっているわけではないのは明らかなんですが、セリフとして聞こえてくる日本語が自然だったので、違和感なく受け入れられて。

たぶん、当時は字幕版と吹き替え版があるっていう認識も曖昧だったんでしょうね。どっちも「本物の声」という感覚でした。子どもの素直な感性で見たとき、「何か変だな?」と違和感がないのはスゴいことだなあと、いま振り返って感じます。
その後、字幕版と吹き替え版を意識するようになった時期はありますか?
うーん……あんまり「声優さんが吹き替えを担当している」と考えてなかったかもしれないです。

演技を学び始めてからは、吹き替えの技術や表現について考えるようにはなりましたが、それまではどちらもすごく自然に見ていたし、「絶対に吹き替え版で見る」というこだわりもなくて。

そもそも僕は、声優を目指してはいましたが、「声優の○○さんが演じている役」という視点ではなくて、役は役として見るタイプだったんですね。別の作品で「あ、これはあの声をやった人だ」って気付くことはあっても、さして気にしていなかったというか。

たとえば、ある役者さんの吹き替えを、ひとりの声優さんがすべて担当されることってありますよね。
トム・クルーズは森川智之さんとか?
そうですそうです! それってもはや、「あ、また森川さんがトム・クルーズの声を担当されているんだ」ではなく、「トム・クルーズがしゃべる日本語は森川さんの声」って自然と認識している感覚なんです。

『ロード・オブ・ザ・リング』で僕が一番好きなレゴラス(オーランド・ブルーム)は平川大輔さんが演じられていましたが、レゴラスって言ったら日本語は平川さんの声でしたし、別の作品のオーランド・ブルームもやっぱり平川さんの声が自然とフィットしていたんですよね。

ですから、僕にとって吹き替え版は、すごく自然に受け入れられるものだったんです。作品ってどうしたってフィクションではあるのですが、そのフィクションのなかのリアリティこそが“自然さ”なんじゃないかなと僕は思っています。

そういったことを感じることができたのは、吹き替え版で活躍されている多くの先輩方のお芝居があったからですね。

アニメも吹き替えも、根本的なところは変わらない

本作で、巨大移動都市“ロンドン”で外の世界を知らずに育ってきた青年トム・ナッツワーシーを演じる際も、その“自然さ”を意識したのでしょうか?
自分が演じるときは意識しないようにしました。

「上手にやろう、自然にやろう」じゃなくて、「作品のなかで生きている、トムという人間を表現するにはどうしたらいいか」というリアリティを突き詰めていった結果、自然さや豊かさが表れていたらいいなと思いました。
「リアリティを突き詰める」とは?
役者さんが演じる役、今回で言えばロバート・シーアンさんが演じるトムとリンクするといいますか……。「どういう呼吸なのかな、いまはどういう状態なのかな?」と、丁寧に拾えたらいいなあとやっていきました。

「スゴいな」と感じた先輩のお芝居って、実写の役者さんが演じる役と呼吸が合っている感じがしたんですね。話すテンポや息遣いが、役の表情や所作とつながっているんです。

それは「いまこの表情をしているから、それに合わせて芝居をつけよう」と表面的なものではなく、もっと奥の部分が合致しているからなんだろうなと思うんです。

表面だけを追うと不自然になってしまうので……結局のところ、アニメーションでやっている役作りと一緒なんですが、作品のなかに生きるトムに向き合って、丁寧に、一生懸命やるだけかなあって……。抽象的な話ですみません!
事前に、どのくらい準備していくのでしょうか?
「ここでリズムや緩急をつけて、ここで盛り上げて」とか「伝えたい大事な言葉はこれだから、その言葉をどう発するか」と技術的なことを細かく考えます。ただ、実際に演じるときは意識しすぎないようにしようと思っています。

事前に考えたことは自分の意識に刷り込まれているけれど、きっと、お芝居は感性でアウトプットするのがいいんじゃないかなって感じているんです。

とはいえ、なかなかそうはできず、たくさん考えちゃうんですけどね(笑)。先輩方を見ていると、みなさん本当にリラックスして、ありのままで作品のなかの役としてそこに生きている感じがして、とても素敵なんです。理想的な在り方ですね。
アニメーションでも吹き替えでも、そういった理想的な在り方は同じことなのでしょうか。
一緒です! お芝居という意味で、根本はすべて一緒なんですよね。「作品のなかの役としてそこに自然に在りたい」と目指す部分も一緒ですから、吹き替えのお仕事をいただいたときにやりづらさなどを感じることはありません。

役の好きなものに夢中になってしまうところに共感した

トムに共感したところはありましたか?
物語の序盤のトムって、自分が住んでいるロンドンに何の疑問もなく生活していたんですが、へスター・ショウ(吹き替え版/石川由依)に出会って戦いに巻き込まれていくなかで変わっていくので、たぶん見ている方たちに一番近い立ち位置だと思うんです。

へスターの行動に戸惑う感じとか、疑問を抱くところとかは、見ていて僕も「そりゃそう思うよね、そう行動するよね」って、共感できるところがいっぱいあるんです。

トムの性格に関して言えば、オールドテク(古代の技術)が大好きでマニアックなところや、好きなものに夢中になってガーっと語っちゃうところとかは「わかる!」と感じました(笑)。

基本的にはすごく頭のいい人だと思うんですが、好きなものに対峙すると視野が少し狭くなっちゃったり、だからこそ生まれる集中力とかは共感できましたね。あとは……大事なものに対しては、ヘコたれないところ。
島﨑さんも、大事なものに対してはヘコたれない?
そうですね。トムはけっこう絶望的な状況に陥るんですけど、大事にしているものに対して決してあきらめないんですよね。そのあきらめの悪さは僕にも(笑)。

「これは別にいいや」ってことはスパッと捨てられるんですが、大事なものに対しては粘っちゃうよね、みたいな(笑)。「何とかならないですか!? 救えないんですか!?」みたいなのが、共感できるなあと思います。
収録現場で実際にトムを演じてみていかがでしたか?
ピーター・ジャクソンの最新作ということで、やっぱりプレッシャーがあったんでしょうね。最初は少し固くなっていたようで、「力を抜いていいですよ」と言っていただいて、パッと切り替えることができました。

なので、意識したというか……意識しないようにしたのが、気負いや緊張ですね。あとは、トム自身も物語のなかでどんどん成長していくので、僕も彼の変化と合わせて変わっていけたらいいなと思って演じました。

リラックスしてお芝居に臨めるのは、とても大切なこと

へスター役の石川さんとふたりで収録されたということですが、へスターとトムの関係性の変化も見どころだと思います。石川さんと掛け合いで演じてみていかがでしたか?
楽しかったです! ふたりの関係性の変化はもちろん、個々の変化もとっても楽しくて。物語のなかでふたりともちゃんと成長しているんですよね。

序盤のへスターは戦士のような側面が強くて、一方でトムは“巻き込まれた一般人”みたいな感じだったんですけど……だんだんと、へスターにワガママを言う“危機感のないとぼけたヤツ”みたいにもなってきて(笑)。
普通、“突然放り込まれた環境だけど、スッと受け入れて戦う”みたいな描かれ方のほうが多いと思うのですが。
そうそう(笑)。そこって僕もエンタメとして難しいところなんじゃないかと感じていて。

キャラクターの精神的成長を丁寧に描きすぎて、あまりにも話の展開が遅くなってしまうと、見ている側にはストレスになってしまう。ただ、やっぱり物語のなかの本人としては、状況を把握できていないから、無駄だったり非合理的な行動だったりをとってしまうんですよね。それこそが人間だと思うんです。

そのあたりをどの程度まで表現するかが、今作はすごく絶妙だなと思います。見ていてイラつかないギリギリのところで、でもちょっと「え〜!? トム、何を言ってんの?」ってお客さんをムズムズさせるようなところもあって(笑)。

そこから困難を乗り越えたときにカタルシスが得られるので、本当に絶妙だなあと。
そういったトムの情動に、島﨑さんの声がピュアに乗っているなあと感じました。
(少し恥ずかしそうに笑いながら)ありがたいです! さきほどお話したように、先輩方が吹き替えで演じられている声って、本当の意味での“いい声”なんですよね。自然なうえで響きがあって、豊かで、落ち着いていて、でも情動がしっかりと乗っている。

そういったお芝居に憧れますが、僕が急に同じことをやろうとしても絶対に不自然になると思うので、いま自分が持っているものを、役に向き合ってしっかりと乗せていこうと、気負わずに僕のままでやりました。
島﨑さんが他のキャストやスタッフとコミュニケーションを取るうえで意識することはありましたか?
キャストがたくさんいて自分が真ん中にいる場合だと、現場の雰囲気作りを考えたりはしますし、途中から参加されるゲスト声優の方に世界観を説明したりすることはあります。

でも今回は石川さんとふたりで録っていたからなあ……何だろう?(笑)「どうやってコミュニケーションを取ろう?」と変に考えず、自然と楽しくできた印象ですね。

何より、収録が終わったあと、すごく気持ちがよかったんです。リラックスしてお芝居に臨めるってとても大事なことだと思います。みなさんがそういう空気にしてくださったことや、僕も含めたみんなが「よりよい環境で、よりよいものを作りたい」と考えていたからこそ、そういった雰囲気が生まれたんだと感じます。

本当に、普段の収録と変わらず取り組めたのが一番よかったですし、感謝しています。
※タイトルが「島崎信長」となっておりますが、「崎」の字は「立つ崎(たつさき)」が正式表記です。
島﨑信長(しまざき・のぶなが)
12月6日生まれ。宮城県出身。A型。2009年に声優デビュー。主な出演作に『Free!』シリーズ(七瀬 遙)、『ダイヤのA』シリーズ(降谷 暁)、『寄生獣 セイの格率』(泉 新一)、『バキ』(範馬刃牙)など。4月から放送される『フルーツバスケット』にも草摩由希役で出演する。

    映画情報

    映画『移動都市/モータル・エンジン』
    2019年3月1日(金)ロードショー
    http://mortal-engines.jp/

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    応募方法
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    2019年2月28日(木)18:00〜3月6日(水)18:00
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