『渇き。』から4年、役の気持ちになる大切さを知った。小松菜奈に芽生えた責任感

彼女がカメラの前に立つと、ブラインドを背景にした撮影もモードな空間に変わる。

アンニュイなまなざしが空気の色を一変させたかと思えば、サイン入りポラを持つカットでは「じゃーん!!」とおちゃめな表情。そんな彼女が放つ稀有な存在感に、周りはすっかり心を掴まれてしまう。

映画『渇き。』のヒロインとして、当時18歳だった小松菜奈が鮮烈なデビューを飾って4年。話題の日本映画には軒並み出演する勢いで、着実に女優としての成長を続けている。

公開中の映画『来る』では、かつて彼女を見出した“恩師”中島哲也監督と再タッグを組んだ。

撮影/川野結李歌 取材・文/江尻亜由子
スタイリング/杉浦加那子 ヘアメイク/小澤麻衣(mod's hair)

「中島監督が新作を撮る」という噂を聞き、嫉妬心が生まれた

中島哲也監督の作品に出演するのは『渇き。』以来。監督の作品に再び出演していかがでしたか?
『来る』は中島監督が4年ぶりに撮られる作品だし、私も監督にお会いするのが4年ぶりだったので、自分を良く見せたいっていう欲がやっぱりありました(笑)。褒められたいというか、「ここ成長したんだな」って思ってほしいというか。

でもそれを考えていると、上手くいかなくて。「お前、今、上手くやろうと思っただろう」みたいに、中島監督に見透かされるっていう(笑)。
撮影中、監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?
「上手くやろうとしなくていいから」とは、前回も言われていたのですが、今回も「自由に、今俺が言ったことも無視して、(小松さんが演じた)真琴として感じたことをやってみて」と言われました。

でも真琴についても、他のキャラクターについても、たぶん監督の中に「こういうふうにあってほしい」という具体的なイメージがあって、自分がどれだけそこを表現できるかを試されてはいたと思います。
中島監督の演出はとても厳しいとも伺いますが、小松さんは『渇き。』の際に「すごく優しい」とおっしゃってましたよね。
きつい言葉をかけられることもあるのですが、自分のために熱く言ってくださっているのはわかるので。すごく真剣に向き合ってくださいますし、たぶん、後々「あ、言いすぎちゃったな」って思ってる部分もあると思うんですよ(笑)。だから芯のところで、すごく優しさを感じるというか。
一方で、監督は小松さんについて「とても変わっていて驚いた」「俳優としての覚悟が決まっていた」とコメントされていました。どういうところで成長を感じてもらえたと思いますか?
知紗役の志田愛珠ちゃんはお芝居が初めての3歳の女の子で、撮影では苦労したシーンもありました。でも中島監督と話したときに、『渇き。』の私も初めての現場だったから、当時の私もそのような感じだったと監督がおっしゃっていて。

「周りはすごく大変だったと思うけど、上手くフォローしてもらってたんだぞ。今は自分がフォローする側になってきてるんだから、どうカバーしていくかも必要だからね」みたいなことは言われましたね。
もう新人ではなく、年下をフォローできるだけの経験もあるはずだ、と。
前回と違って自分の中に責任感も出てきていたし、そう言われたときにとても納得して。

『渇き。』のときは、役作りも全然できなくて、たとえば泣くシーンなら、自分の体験から悲しいことを思い出して泣く、とか。でもそれだと自分の感情と、演じている役の感情が違ってきちゃうので。

そこから作品に入るごとに、ちゃんと役の気持ちになることの大切さがわかってきて。『来る』の撮影中も、「今、真琴の気持ちになれた」と思う瞬間があって、その感覚を忘れないようにしたいな、と思いました。
そういうところを監督も見てくださったんですね。
そうだと思います。昔はもう、「“役の感情を作る”って何だろう!?」というところからだったから。今回は「もっとやれるだろう」って、粘って撮ってくださいましたし。前よりは、期待していただけていたと思います。
小松さんの中でも、いろんな作品に出て経験を積んだことで、前回とは違う気持ちで作品に取り組めた?
そうですね。また中島監督に呼んでいただけたことも、すごくうれしかったです。「あ、覚えてくれてたんだ」って(笑)。
忘れるなんて、そんな(笑)。
でも最初、まだオファーもかかっていないときに、中島監督が新作を撮るって噂を聞いて、自分の中で嫉妬みたいなものが湧いてきたんです。

「オーディションに呼んでくれるかな」って期待しつつ、「『渇き。』に出演したから今回はないだろうな」と思ったり。「その作品で中島監督に選ばれるのは誰なんだろう!?」って、何も決まってないのに、その女優さんに嫉妬するような気持ちがあって(笑)。すごく気になってました。

いい緊張感のもとで、実力派キャストたちの芝居を体感できた

「中島哲也監督の最恐エンターテイメント」とも呼ばれている本作。脚本を読んだ際にはどんな感想を持たれました?
すごく面白くて、読み進めていくのがとても楽しかったです。ホラーというよりは、「人間の怖さ」が描かれていて。映像で見るとどうなるのかな、現場が楽しみだなと思いながら、読ませていただきました。
実際に撮影に入ってみての雰囲気は。
入ってみると、「この感覚は中島監督の現場だ!」とじわじわ来ました。中島監督の現場って、自分を奮い立たせてくれるというか、いつもいい緊張感があって。スタッフさんもキャストの方も、そのような状態で2ヶ月半とか生活していくんですよね。

昔はその感覚に慣れなかったし、何も知らないからこそ逆に自由でいられた部分もあったのですが、今回は改めて、その緊張感がいいなぁって。
今回演じられた真琴は、岡田准一さん演じる主人公「オカルトライター・野崎」の恋人で、松たか子さん演じる「日本最強の霊媒師・琴子」の妹という役どころ。他にも実力派キャストの方々が揃っていますが、実際に共演してみての印象は?
それぞれお芝居の感覚が違っていて、だからこそ面白いんだなって思いました。アドリブとは少し違うけど、この方は本番になるとこういう(台本にない)ことをされるんだな、とか。

みなさんのお芝居を生で感じられるので、それがグッと来ます。自分自身も、相手の演技によってそれまでとは違う感情が生まれるのがすごく面白いです。
先輩方にアドバイスをいただくことも?
岡田さんには「こうしたらいいんだよ」って動きについてアドバイスをいただいたりとか。私が現場でテンパっちゃったときは、さりげなく、私が演じやすい流れを作ってくださって、とてもありがたかったです。
そんな中で、真琴役として心がけたことはありますか?
監督には「“あれ”と戦うときも、弱さと強さ、戸惑い…いろんな感情を表現して」と言われていて。真琴は人間味があって、正義感がある人物なんです。その良さを自分なりに表現できたらいいなと思いながら演じました。

ホラー映画は好き。とくに「人間の怖さ」に惹かれる

そもそも小松さんは、ホラー映画などは平気なんでしょうか?
はい! 好きです。
きっぱりと(笑)。では今回の脚本も、ひとりでは怖くて読み進められない…みたいなこともなく。
全然なかったですね。とくに「人間の怖さ」を感じる作品がすごく好きなので、(『来る』は)ピッタリで。
急に「バーン!」と出てくるような、驚かされる系の怖さも大丈夫ですか?
はい! 大丈夫です。「わあっ!」とビックリはするんですけど、「怖くて見れない!」とはならないです。むしろグロテスクなほうが「うっ」ってなるかもしれない。
では、完成した今回の作品をご覧になっていかがでした?
やっぱり自分の中で「うわあっ!」とはなりました(笑)。声は出さないようにしたんですけど。あと、けっこう目をそむけてしまう部分もありましたね。

でも音楽がものすごくカッコよくて。オープニングも大好きで「めっちゃカッコいい!」って、そこは声が出ちゃいました(笑)。吸い込まれて、なんていうか…時空が飛んだ感覚がして。
時空が飛んだ、というと。
最後に“あれ“と戦うシーンでは、お祓いの声や戦っている音と音楽が混ざり合って、鼓動のように聞こえて。女の子の声が、周りをぐるぐる走り回ってるように聞こえるところもありましたし。ちょっと感覚を惑わせるようなところが、映像ならではだなと思いました。
たしかに、立体感のある聞こえ方でしたね。
あとは、自分を見ているような怖さを感じるんですよね。人間誰もが持っている怖さ、みたいな。

琴子も真琴も「いやいや、こんな人いないでしょう」っていう派手な見た目だけど、弱い部分を抱えていて、共感する部分もたくさんありました。「(黒木 華さんが演じる香奈に対して)きっと子育て中のお母さんって、こういう気持ちなんだな」って思ったり。
なるほど。
ちょっとずつ自分と重なる要素があるから、最初は共感できないキャラクターだと思っても、見ているうちに共感できる部分が出てきたり、いろんなことを考えさせられて。

結局、キャラクターの中に自分を見てしまうから、そこに自分が飲み込まれていくのが怖いんだなって思いました。でも、一方では笑ってしまう部分もあったりして。
ありましたね(笑)。
中島監督のセンスというか、怖いのをあえて面白くする部分とか、ホント……「中島監督、いい意味で狂ってる」って思いました(笑)。

中島監督の『告白』を見たときも、すごく衝撃を受けて。大好きな映画なのですが、改めて本当にドキッとさせてくれる作品を作る方だと思いました。
『告白』もホラーではないですが、人間的な怖さを感じますよね。
リアルだからこそ鳥肌が立つというか。お化けは見たことがないから怖いって思えないのですが、人の妬みなど人間的な怖さは一番ぞっとするかもしれないですね。

撮影の1ヶ月前から、緊張でひとりになりたくなる

小松さんは映画での活躍が目覚ましいですが、ドラマよりも映画そのものが好き、という気持ちが強いのでしょうか?
はい。ドラマにはドラマの良さがあるし、映画には映画の良さがありますが、「一番最初に出会ったのが映画で良かった」と思うくらい好きなので、できる限り出続けたいです。
自分で「こういうお仕事がしたい」と事務所に伝えることも?
興味を持った映画監督さんや役者さん、「こういう作品がすごくいいと思った」という話を伝えたりはします。でも私から「これに出たい」と言うことはないです。とにかく今はいろんなことをやってみたいので、「こうじゃなきゃ」っていうのはないですね。

いろいろ挑戦すれば、さらに成長できるので。若いうちに経験しておいたほうがいいことも、たくさんあると思うし。
『渇き。』出演は18歳のとき。18歳から22歳はいろんなことが変わる時期だと思いますが、とくに環境の変化も大きかったのではないでしょうか?
ホントに。そうですね。
ご自身の内面では、この4年でどんなところが変わったと思います?
うーん…(しばらく考え込む)。
自分ではそれほど変わってないという感覚でしょうか?
そうですね。撮影前は今でもすっごく緊張しますし。もう私、撮影に入る1ヶ月前くらいから、そわそわし始めて(笑)。どんどん友達と会えなくなっていくんですよ。ひとりでいたくなって。
それは、撮影に向けて気持ちを作る、という?
というより、本当に緊張してるんだと思います。まだ現場にも入ってないからわからないことだらけだし、その現場で自分はどういればいいんだろう、とか。役作りも不安ですし、そうやっていろんなことを考えちゃうと余裕がなくなってきて、笑顔が減るんですよね(笑)。なので、けっこう引きこもりがちになりますね。
この4年での出演本数を考えると、ほとんどお友達と会えてない計算ですよ(笑)。
(笑)。でも、作品に入ると気持ちもどんどん変わっていきます。だから、撮影前にどうやって自分をリラックスさせるかは、今の課題なんです(笑)。
小松さんは堂々としていて動じないイメージだったので、意外でした。
顔に出ないんですよね(笑)。じつはめちゃくちゃ緊張するし、後になってから反省もするし。かなり不器用な部分があって、いろんなことをいっぺんにできないんですよ。

何でもこなせる人って、もちろん努力もあると思うんですけど「スゴいなぁ」って思う。「自分とは全然違う」って思います。
ファンの方たちはまさに、小松さんのことを「何でもできる」と思っているかと。ミステリアスなところも魅力ですが、じつは顔に出ていないだけという部分もある?
そうです! そういう顔の作りなんだと思います(笑)。けっこう平気そうな顔をしてるんですけど、だいぶ平気じゃないんですよ(笑)。
小松菜奈(こまつ・なな)
1996年2月16日生まれ。東京都出身。O型。2008年からモデルとして活躍。2014年公開の映画『渇き。』で女優デビューし、映画『バクマン。』、『溺れるナイフ』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、『坂道のアポロン』、『恋は雨上がりのように』など数多くの作品に出演。日本で2017年に公開されたマーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙-サイレンス-』でハリウッドデビューを果たす。2019年には『サムライマラソン』、『さよならくちびる』が公開予定。

    出演作品

    映画『来る』
    12月7日(金)から、全国東宝系にて公開中
    http://kuru-movie.jp/

    © 2018「来る」製作委員会

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    応募方法
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    受付期間
    2018年12月14日(金)12:00〜12月20日(木)12:00
    当選者確定フロー
    • 当選者発表日/12月21日(金)
    • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
    • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから12月21日(金)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき12月24日(月・祝)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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