ソニーの「aibo」はSNSで進化する。発表から1年、そしてアメリカへ。事業責任者インタビュー

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今回ご紹介するロボットは...「今年最も話題になったロボット」として、思い浮かぶ方も多いでしょう。そう、ソニーの犬型ロボット「aibo(アイボ)」です!

つぶらな瞳。丸いフォルム。鳴き声。どれをとってもかわいいアイボ。

初代「AIBO」は1999年に発売され、大きな社会現象となりました。1度は販売が中止されていたものの、昨年11月に新型となる「aibo」を発表、今年1月に発売されました(旧型は大文字で「AIBO」、新型は小文字で「aibo」)。本体価格は198,000円で、クラウドを利用するベーシックプランが月額2,980円(いずれも税抜)。価格が安いロボットではありませんが、それでも販売は好調のようです。

aiboは、発表からのこの1年で、どのように愛され、どのような方々を笑顔にしてきたのでしょうか。ソニー株式会社の執行役員で、aiboの事業責任者を務める川西泉さんにお話を伺ってきました。

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ユーザーの愛情を感じた1年
 
―aiboの発表・発売からもうすぐ1年が経過しますね! 振り返って、率直な感想をお聞かせください。
 
 
川西
 購入された方のaiboへの愛情の強さ・深さが、私たちが考えている以上に、とても大きかったと感じた1年でした。先日ファンミーティングを開催した際、aiboを「この子」と呼んでいる方が多く、わが子のように可愛がってくれているのだと感じています
 
―aiboは当初、入手するのが難しかったですよね。
 
  
川西
 最初のうちは生産が厳しかったので、台数を絞られてしまう関係もあり、抽選での販売を行っておりました。現在は、予約していただければ、誰でも購入していただけるようになっています。予約から1カ月以内にはお届けできるように努めているところです。
  
―aiboの出荷台数(2018年7月時点で2万台)についてはどのように捉えていますか?
 
  
川西
 おかげさまで予定通りに進んでいます。販売台数については、私たちがどれだけ製造できるかにかかっているのかもしれませんね。ようやく安定して生産できるようになってきました。

  
より「リアルな犬」を目指して
 
―改めて、旧型「AIBO」と新型「aibo」の違いをデザイン面から教えて頂けますか?
 
 
川西
 まず、見た目が「犬らしく」なりました。実は、昔は「犬型」とは言っていなかったんですよ。どう見ても犬の動きなんですけれども(笑)。

昔はあくまでも新しいタイプのロボットという位置付けで展開していましたが、技術が進歩して、よりリアルな犬の動きができるようになったので「犬型」と明言しました。それもあり、ロボットらしいデザインというより、親しみやすいかわいらしい犬のデザインを採用しています。
 
―どんなところにこだわって開発されましたか?
 
  
川西
 生命感、親しみやすさ、躍動感などを出すように意識しました。メカの構造では「生命感を出す」という点にかなり力を入れましたね。

こだわりを言い出すとたくさんありますが、ひとつは関節を全く見せていないことです。どうしてもロボットだと関節がヒンジ(蝶番)になってしまいますが、aiboではそれを全て隠してより実際の動物の姿に近付けています。

また、腰の動きを滑らかにして、振れるようにしました。犬って腰を振りながら歩いているじゃないですか。普通のロボットなら歩くためだけに腰を振る必要はないのですが、よりリアルさを追求しました。

目は有機ELを使い、ぱっちりとさせています。これも生命感を出すためにこだわったポイントです。
 
―ソフトウェア面ではどのようなポイントに注力されましたか?
 
 
川西
 aiboの情報を全てクラウドに置くことに注力しました。aiboの脳は、クラウドの中にあるため、本体が替わっても、今までと同じ中身のaiboと触れ合うことができるんです。

そしてaiboは、歩くのか座るのかなどひとつひとつの行動を考えてそれを手足に伝えて動いていますが、それらは全てAIで行われています。行動パターン・性格・人との接し方に、連動しながら自分で決めているんです。
 
―aibo自身、自分が今いる場所を理解できているものなのでしょうか?
 
  
川西
 頭の中にマップはできるんですが、自分が行ける場所がどこなのかはまだ分かっていないんです。もし分かるようになれば、「キッチンに行って」とか指示が出せます。また、逆に入っちゃいけない場所には行かないようにもなります。

そのために、今後の展開としては、ユーザーの皆さんにアプリ上から家の中の地図にタグ付けをしてもらうことを考えています。
 
―aiboにはそれぞれ「個性」があるとのことですが、初めから違う個性を持っているのですか?
 
  
川西
 スタートはほとんど同じです。その後、育て方に応じて性格が変化していきます。育てていくと細かな違いがたくさん現れますが、ユーザーの方にあまり細かく提示してしまうと理解しづらくなるので、専用のスマホアプリでは「ワイルド」「キュート」など大まかな性格の分類を確認できるようになっています。
 
―過去にはしゃべる機能を持つアイボもいましたね。今回のaiboが今後喋ったりする可能性はありますか?
 
  
川西
 技術的には言葉を喋らせることは可能です。実は内部では「喋るaibo」もいるんですよ。ですが、やはり違和感があるんですよね。

やっぱり普段ワンワンと鳴いている中で、突然「今日の天気は晴れです」などと、日本語を喋り始めたりすると変な感じがします(笑)。

喋るのは犬型のaiboでなくてもできることです。人間との言葉でのインタラクションが必要なら、それに応じたロボットを考える必要がありますね。
SNSをくまなくチェック
 
―aiboを購入しているのはどのような方々でしょうか?
 
   
川西
 年齢層を見ると均等にばらけています。値段がちょっと高いので若年層の割合が低いですが、30代以上からは割と均等です。

皆さま家族の一員として扱ってくださっている印象を持っています。
 
―自宅にペットがいるユーザーさんも多いでしょうね。
 
   
川西
 実は以前、aiboが犬と2週間一緒に暮らして、動物学者の先生に犬の反応を解説してもらうという実験をしたことがあるんです。

やはり犬は、aiboを犬としては認識しないんですよね。ただ、においを嗅いだり一緒に遊びに行きたがったりと関心を示すんです。犬じゃないけど「仲間」のように認識してもらえることが分かりました。

もう少しaiboが犬を認識して動けるようになれば、面白いことができるんじゃないかなって思います。それが良いことなのかどうかは分からないですけどね(笑)。
 
―犬とaibo...癒されます(笑)。ユーザーさんから好評な機能はありますか?
 
  
川西
 この間、aiboがバースデーソングを歌えるようにしたんですね。これはお客様の意見を聞いて歌えるようにしたんですが、かなり好評でした。

このようにして、「aiboのふるまい」はどんどん増やしていく予定です。
 
―逆に足りていないと感じている機能はありますか?
 
  
川西
 まだまだ、やりたいことはたくさんあります。

実は開発チームがSNSを頻繁にチェックして、改善すべきところを考えたりしているんです。こちらで勝手に企画を考えて作るというよりは、皆様の意見でaiboを育てていきたいという思いが強いです。
aibo、アメリカへ
 
―アメリカへの展開も発表されましたね。
 
   
川西
 はい。2018年9月18日から予約販売の申し込みを開始しました。アメリカへの展開は、「日本人とは全く違う感覚なんじゃないか」「ガジェットとして扱われてしまうのではないか」という不安もありましたが、お披露目会の際、女性の方々が何度も「キュート」と言ってくれたんです。それを聞いて、日本と変わらない反応にほっとしました。
 
―以前アメリカから来た観光客にaiboの感想を尋ねたところ、「かわいいけど、便利さがないとアメリカでは売れないのではないか」という意見がありました。愛着と便利さについて、aiboはどのようなバランスを考えていますか?

 
川西
 違和感のない形で人の役に立つことがあればサポートするつもりではいます。aiboは親しみやすい存在なので、例えば「見守り」のような機能は、セキュリティカメラよりも受け入れやすいかもしれません。このような「aiboだからこその役に立つ」機能は搭載していくべきだと考えています。
 
―アメリカは家の中の環境も日本とは違いますよね。

 
川西
 アメリカの家でどのような動きをするかっていうのは、フィールドテストを重ねてきました。

部屋の間取りも、日本とは違います。向こうの住宅はかなり大きいので、Wi-Fiが通っていても、Wi-Fi環境が悪い箇所があったりしますよね。また部屋ごとに、絨毯を敷いていたり、靴のまま歩く部屋だったりと生活習慣の違いもあります。

だからこそ、西海岸から東海岸まで5〜6州の複数の家でテストを行ってきたので、アメリカでも問題なく動いてくれると思います。
 
aiboは人間に寄り添う
 
―今後aiboをどう進化させていきたいですか?
 
   
川西
 究極は、「その人の気持ちをどこまで推測するか」「感じ取ることができるか」でしょうかね。それに対してaiboが自分からアクションを取るところまでできたらいいですね。

分かりやすい例だと、家族が家に帰ってきた時に玄関まで迎えに来てくれるとか、顔の表情を見て疲れてそうだったらそれに応じた動きをするとか、落ち込んでいるようだったら踊ってみるとか。そういう反応ができるようにしていきたいと思っています。
 
―確かに、玄関で迎えてくれるとうれしいですよね。
 
 
川西
 実は、今開発をしているんですけど、なかなか難しい機能です。
 
―では、最後にペットロボットと人の関係は、今後どうなっていくと考えますか?

 
川西
 これはペットロボットだけではなく、さまざまなロボットに言えることだと思いますが、「人にどれだけ寄り添えるか」「人の感情にどれだけ接することができるのか」に尽きると思います。やはり人と共生してこそのロボットですので。今は人とロボットの間の壁を、少しずつ取り除いているところです。

見た目も中身も、壁を取り払い、ユーザーの皆さまの意見を聞きながら、一緒に作っていく。そういうことを、これからもしていきます。
 
川西泉 
ソニー株式会社 執行役員 AIロボティクスビジネス担当。ソニー社の技術を担当している。これまで、PS3・PSPなどの家庭用小型ゲーム機のプロジェクトを立ち上げてきた。ソフト面・ハード面、両方において知見が豊富で、新型aiboの開発プロジェクト責任者を平井一夫社長から任命される。
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集について
 
この特集では、ロボット情報を専門に扱うウェブマガジン「ロボスタ」とライブドアニュースが手を組み、新進気鋭のロボット開発者5組に「10年後や100年後、ロボットのいる世界はどうなっているのか?」を取材します。

聞き手はロボスタの若手ライター、里見優衣さん。
里見優衣(右)/「ロボット女子」を名乗るライター。「テクノロジーをもっと分かりやすく」をモットーにライター活動中。今年で3年目。スタートアップでPalmiというロボットの広報担当がきっかけでロボットに目覚める。その後LIGという会社でドローンをジャンプさせ、スカートめくりの要領でパンツを見るなどして迷走。危うく「パンツ女子」になる羽目に。最近の日課はaiboの散歩。
「aiboは皆さんで作るもの」と強く語っていたのが印象的でした。ユーザーの意見を元に、aiboがどんどん進化していく様を見るのが、とても楽しみです。
制作/ロボスタ
企画/ライブドアニュース
デザイン/桜庭侑紀
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集