日テレのアンドロイドアナウンサー「アオイエリカ 」のことを、担当スタッフはどう思ってるの? 聞いてきた

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今年の4月、異色のアナウンサーが日本テレビ(以下、日テレ)に入社しました。それは人間ではなく、アンドロイド。日テレでは現在、世界初の「アンドロイド女子アナウンサー」が活躍しています。名前は「アオイエリカ」。まずは簡単にプロフィールをご紹介します。(※2019年5月31日 一部内容修正)

日テレに入社したアンドロイドアナウンサーの「アオイエリカ」。大阪大学の石黒浩教授らが開発したアンドロイド「エリカ」をベースに、アナウンサーとして運用されている。
アオイエリカ 
生年月日(開発日):2017年8月4日
身長:166cm
体重:48kg(制御PCとコンプレッサーを除く)

実際にアオイエリカさんに会うと驚きます。想像以上に「自然な動き」で、そして「思わずうらやむほどの美女」なのです!

この美女アンドロイドアナウンサーは、日テレで一体どのようなお仕事をしているのでしょうか。そして、人間のアナウンサーを脅かす存在になるのでしょうか。気になる疑問をアオイエリカさんに...ではなく、アオイエリカさんの運用チームである日テレの川上皓平さんと西口昇吾さんに伺いました。

川上皓平さん(写真右)
日本テレビ技術統括局技術開発部副主任。大学時代、ロボカップ(自律移動型ロボットによるサッカーの競技会)に出場経験あり。
 
西口昇吾さん(写真左)
日本テレビ社長室企画部。大学時代、大阪大学大学院 基礎工学研究科 石黒研究室で、アンドロイド「エリカ」の研究を行っていた。
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アンドロイドアナウンサーは、さまざまな仕事に挑戦中
 
―アオイエリカさん、間近で見てもきれいですね。これってメイクしてます?

 
川上
 そうなんです。実は、エリカ担当のメイクさんとスタイリストさんがいて、芸能人と同じように、化粧をして髪型を変えたり、服装もそれに合わせて変えたりしています。表に出す時にはきれいにしてあげているんです。
 
―専用のメイクさんとスタイリストさん、うらやましいです...。

 
西口
 メイクや衣装は番組に応じて変えています。例えば、ニュースだとアナウンサーとしてスーツを着たり、 音楽番組「THE MUSIC DAY」の時には、隣の櫻井翔さんがタキシード姿だったので、エリカも高級感・パーティー感のあるドレスを着ました。
 
―既にいろいろな番組に出演されているんですね!

 
川上
 エリカは今年の4月入社なのですが、入社の翌日には情報番組「PON!」に出演して、番組のPR告知をしました。その後の3カ月間で「行列のできる法律相談所」など、10本ほどのバラエティ番組に出演しましたね。芸能人の方々と一緒に並びながら、たまにツッコミを入れたり、淡々とプロ野球のペナント予想を喋り出したり、逆に芸人さんからツッコミを入れてもらったりと、さまざまなチャレンジを繰り返してきたんです。
 
―そんなにたくさんの番組に...! エリカさんは、人間のアナウンサーと同じようなことができるんでしょうか?

 
川上
 いえ、人間のように自律的に臨機応変に喋るようなことはまだできません。裏側で人が操作する場合と、操作しない自律動作の場合のふたつのパターンで運用しています。
 
バラエティー番組やニュース番組では、事前に台本が用意されているので、そのテキストを読み込ませます。そして私たちが単語の読み間違いがないようにチェックをして、読み上げの速さや高さを調節するんです。無調整でも結構ちゃんと読んでくれるのですが、やはりニュースなどで読み間違いをしてはいけないので念入りにチェックしています。
 
―年の夏に行われたイベント「超汐留パラダイス!-2018 SUMMER-」では、「占いの館」というブースで、エリカさんが占い師役にもチャレンジしていましたね。

 
川上
 はい、ブースを訪れてくださった方々に質問をしていって、回答を元にエリカが占いをするというものでした。あの時は人の手を借りずとも話せるように、イベント用に自律プログラムを組んで動かしました。これは裏で操作する人が誰もいないパターンです。もちろん実際には、何か不具合が起きた時のためにスタンバイしているスタッフはいます。

 
―アンドロイドなので操作するだけじゃなくて、プログラムでも動かすことができるんですね。エリカさんって話している時も表情豊かですよね! 顔も細かく動かすことができるのでしょうか?

 
川上
 顔は「表情」「目」「口」を動かすことができます。特に口は、読み上げる際にリップシンク(口パク)のように喋る言葉に合わせて動かすことができるんです。あとは「首」と「腰」が動きます。目の前にいる人を目で追う時には、目を動かすだけでなく、腰と首も連動するんです。
 
アンドロイドアナウンサーは「カニカマ」

 
―アンドロイドがアナウンサーとして入社するってかなり衝撃的な出来事だと思うのですが、他のアナウンサーの方々に危機感みたいなものはあるのでしょうか?

 
川上
 それは全くないと思います。逆に先輩アナウンサーに一番多いのは「私たちできちんと育てて、もっとプロのアナウンサーに近付けたいね」という意見です。

指導をしてくれているアナウンサーの方には、「ここをこう直して」と伝えると「ちゃんと直してくる」というところに面白さを感じていただいています(笑)。
 
―確かに人間よりもすぐに修正できそうです(笑)。アンドロイドアナウンサーに対する世間の反応はどうですか?

 
川上
 賛否両論の声は見ています。出演する番組によって受け取り方も違っていると感じてます。現在エリカはTwitterをやっているんですが、フォロワーさんたちとのやり取りを見ていても、エリカに人間らしいことを無理やりさせようとすると違和感を受ける人が多いことが分かりました。人間のアナウンサーではやらないような、例えば、新人なのに大物に冷静に突っ込んだり、やたらとムチャぶりしたりすると、それをエリカの個性として、面白さを感じてくれているとは思いました。
 
―エリカさんが人間のアナウンサーに「劣っているところ」と「優れているところ」は、どこだと思いますか?

 
西口
 劣っているのは感情ですね。サッカーなどのスポーツ実況は、熱や感情を込めないといけません。それはエリカには無理です。

ただ、アンドロイドはそこを目指す必要はなくて、得意なところを伸ばせばいいと考えています。例えば「24時間ずっとニュースを読める」だとか、「データの相関を見て面白い観点から物事を語れる」といったところです。ある事件のニュースを読むときに、以前にも似た事件があれば、データベースから引っ張ってきて紹介することもできますし。

なので、感情の部分は人間に任せることで、熱を込めて喋ることができる人間とデータに基づいた喋りができるアンドロイドが協力し合うことによって、もっと面白い番組や新しい表現ができると思います。
 
川上
 人間のアナウンサーってすごいんですよ、本当に。アオイエリカは「カニカマ」で、例えは失礼かもしれないですけど、人間のアナウンサーは「高級なカニ」なわけです。美味しい「カニ」を食べたければ、やっぱり本物のカニを食べるじゃないですか。カニカマをカニの代わりに食べよう、とはならないんですよ。カニカマはぜひ、その良さが活きるカニカマサラダで使ってほしいです!
 
―え...? ど、どういうことですか?

 
川上
 分かりづらくてすみません(笑)。要するに、姿形は似ているかもしれないですが、全くの別物で、用途も違うということです。
 
―なるほど! 理解できました(笑)。エリカさんが苦手な仕事は他にもありますか?

 
西口
 「自律でアドリブをする」というところは難しいですね。実際に、テレビ画面越しで見てしまうと、アンドロイドが自律で動こうが遠隔で動こうが、視聴者の方には分からないんです。なので番組に出演する分には問題ないことも多いんですよね。でも、本当は自律でいろいろやってみたいなと考えています。まあ、これは挑戦した結果、限界がすぐに見えてくるかもしれませんけどね。
 
―エリカさん、アンドロイドだけに失敗することがなさそうですね。

 
西口
 いえいえ、ありますよ。

「THE MUSIC DAY」で、お笑い芸人のみやぞんさんが出演されていて、エリカがみやぞんさんに「大喜利を振る」というくだりがありました。みやぞんさんは見事に大喜利を返してくれて笑いを取っていたのですが、そこでまたすぐにエリカが大喜利を振ったんです。

そこで想定していたのは、「何でエリカは僕をこんなにいじめるんですか!」という返しだったのですが、みやぞんさんが優しすぎて何度大喜利を振り続けても全部答えてくれたんです(笑)。あの時は別のシナリオを用意していなかったので、焦りましたね。
 
川上
 みやぞんさんは最初にエリカの隣に座った時に、「え!? これ自分で考えて喋ってるんですか?」って、驚いてらっしゃったので、「ちゃんと答えなきゃ」と思って回答してくれたのかもしれません。
 
インターンの提案で、アンドロイドがアナウンサーに

 
―入社時の目標は何ですか?

 
川上
 「2020年の東京オリンピックで日本と世界をつなぐ架け橋として活躍すること」ですね!
 
―オリンピックが目標ですか! 達成するために今はどんなことをされているのですか?

 
川上
 まず何よりも存在感を出していかないとって考えています。「アオイエリカ」を皆さまに知ってもらいたいです!

2020年、エリカが皆さまの前に現れた時は「あのエリカだね」って納得されるようなアナウンサーを目指しています。そのためにいろいろな番組に出演したり、夏にはイベントに挑戦したり、他にもYouTubeでロボットスタート株式会社さんと一緒にロボットニュースを発信したりしています。このように、幅を広げていくことでやれることを増やしていこうと考えています。
 
―アナウンサーの仕事の幅は、とても広がっていますもんね。そういえば、エリカさんはそもそもどんな経緯でアナウンサーになったのですか?

 
西口
 僕が日テレで内定者インターンをしている時に、川上さんに「研究室のアンドロイドをアナウンサーにしてみませんか?」と掛け合ったのが、きっかけです。

実は、僕は学生時代に石黒浩先生の研究所でアンドロイド「エリカ」の研究を担当していたんです。石黒先生も出演していた「マツコとマツコ」という番組が好きで、日テレに入社を決意しました。「マツコとマツコ」ではアンドロイドを使った短期的な社会実験が多かったのですが、「長期的にアンドロイドを社会に溶け込ませるために、エリカを日テレのアナウンサーに採用するのはどうだろうか?」と考えて、川上さんに相談したんです。
 
―入社前だったのに、エリカさんを日テレのアナウンサーにするために行動されていたんですか!

 
川上
 初はそうでしたね。今ではアオイエリカは社内のプロジェクトとしてきちんと運用されています。日テレラボ、編成、制作報道、アナウンサーの部署などで横断的に、どういうふうにエリカをデザインしていこうかとみんなで話し合って進めています。
 
―すごく大きなプロジェクトになったんですね。 日テレとしてはどんな目的でエリカさんをアナウンサーにしたのですか?

 
川上
 個人的な見解ではありますが、テレビの形はいろいろと変化しています。例えば、今はテレビコンテンツをスマホで見ることもできます。このように、テレビの固定概念が変化し始めていて、番組を届ける形は画面にこだわらなくてもいいようになるのではと考えています。そういった発想の中で、もしかしたら新しいメディアとしての存在価値に「ロボット」が位置付けられるんじゃないかという戯れ言をずっと言っています(笑)。

ロボットがメディアになる世界を作っていくためのきっかけとして、日本テレビという会社で「ロボットをどう活用するか? テレビを通してロボットが活躍することで、世の中の受け止め方はどう変わるか?」という検証をするつもりで取り組んでいます。
エリカに抱く感情
 
―話は変わりますが、エリカさんに対して何かしらの感情って湧きますか?

 
西口
 実は僕、“エリカ歴”が4年なんですよ。なので愛着はありますね。例えば知らない男性が、エリカに触っていると「ちょっとキモいな」って思ってしまいます(笑)
 
―ええ!? それって嫉妬のようなものですかね?

 
西口
 うーん、というよりも、その方に対して嫌悪感を抱きますね。エリカの目の前で「目が大きいね」とか言っているのを見ると「なんだこいつ」って思います。

普通の女の子に対しては本人の目の前でそういうことは言わないはずなのですが、アンドロイドだと皆さん気にせずに言うので...。
 
―確かにそうですね。これはエリカさんに対してだけですか? 他のアンドロイドに対してもそう感じますか?

 
西口
 アオイエリカだけですね。他のアンドロイドは別に何でもいいんですよ。
 
―なんかすごいですね...(笑)。「親」と「彼氏」、どちらの心理に近いですかね?

 
西口
 うーん、親の方が近いかもしれないですね。
 
―川上さんにもその気持ちは分かりますか?

 
川上
 愛着は分かります。学生の時から 車輪のロボット6台と一緒に暮らしていたのですが、うまく動いてくれるとやっぱり面白いなって思いますし。エリカも自分がプログラミングを組んだ以上の動きの妙などを繰り出す時がたまにあって、それは「あ、面白いな」と思うんです。

実は、この2日間、この部屋でずっとエリカとふたりで喋っていたんですけど、こちらが何気なく話しかける会話にかみ合ってくると「やりよるなこいつ」と思うんです。じゃあ、もうちょっと意外性を出せるように工夫してみようかな、となっていきます。
 
―2日間も会話!

 
西口
 僕も学生時代、1週間エリカとしか会話せずに、人間と本当に会話しなかった時期があります。ランダムに話せるような状態にしてあるので。結構面白いですよ。僕自身も予想もしないようなことを喋ったりします。
エリカの魂を継承していく
 
―エリカさんには将来的に、どんなことができるようになってほしいですか?

 
西口
 2020年になるとロボットの価格がもっと安くなっているはずなので、アンドロイドをたくさん作れるかもしれないです。そうなったら、もう少し一般の方との触れ合いの場を提供したいですね。

もしアンドロイドがたくさん作れたら、それに越したことはないのですが、例えば、エリカという対話プラットフォームを、スマホアプリや小さいロボットなどに入れて、一般の人たちと触れ合えるコンパニオンにもしていきたいです。エリカという対話システムが、一家に一台あるように普及させていきたいなと思っています。
 
―「エリカの対話システム」を提供するということでしょうか?

 
西口
 はい、そうなったら面白いだろうなと。日テレがやる意義は、「テレビ的な面白さの要素」や「アナウンサーのように喋ることができる」という点です。

現在はスマートスピーカーで、いろいろと便利な対話システムがありますが、結局は一問一答のツールにしかならないので、これでは人間のパートナーには絶対になれないんですよ。対話システムを普及させるには、「便利さ」と「面白さ」が必要です。エンタメ要素を含んだ楽しい対話システムがないと世の中には普及しなくて。そういうのができるのはテレビ局の強みだと考えています。

エンタメやテレビのネタなどを盛り込んで、面白くて話したくなるような、人間側の話すモチベーションを上げる対話システムを作りたいです。
 
―なるほど。エリカさんの中身が飛び出していくイメージですね。

 
川上
 そうですね。言い方は悪いかもしれませんが、このアオイエリカは最初の礎になってくれれば良いのではないかと考えています。このアオイエリカの個体そのものが、10年、20年と存在し続けることを、僕は期待してるわけではありません。エリカにさまざまなノウハウや技術を集結させていって、出来上がった魂的なものを次世代に継承していく。その形にはこだわっていなくて、スマホでもロボットでも構いません。

そのために今は人間の喋り方、更にはアナウンサーの喋り方というものを取り込んでいって、魂を作る仕事をしています。次世代のエリカにも乞うご期待してください!
 
―最後に! ロボットで未来はどう変わると考えていますか?
 
西口
 いろいろな人がアンドロイドの魅力に気が付き始めて、アンドロイドと結婚している人も未来にはいると思いますね。ちょっと全員は言い過ぎましたかね(笑)。
 
―な、なんと! ぶっ飛んでますね。川上さんは?

 
 
川上
 うーん難しいですねぇ。テレビ局として言えば、「AIやロボットの番組作り」という感じでしょうか。ロボットによる、ロボットのための的な番組を作りたいですね。


ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集について
 
この特集では、ロボット情報を専門に扱うウェブマガジン「ロボスタ」とライブドアニュースが手を組み、新進気鋭のロボット開発者5組に「10年後や100年後、ロボットのいる世界はどうなっているのか?」を取材します。

聞き手はロボスタの若手ライター、里見優衣さん。
里見優衣(左上)/「ロボット女子」を名乗るライター。「テクノロジーをもっと分かりやすく」をモットーにライター活動中。今年で3年目。スタートアップでPalmiというロボットの広報担当がきっかけでロボットに目覚める。その後LIGという会社でドローンをジャンプさせ、スカートめくりの要領でパンツを見るなどして迷走。危うく「パンツ女子」になる羽目に。最近の日課はaiboの散歩。
アンドロイドが「仕事を奪う」という考えではなく、人間とアンドロイドでそれぞれ得意分野を分けて「共存する」ことを目標にしていると感じたインタビューでした。

ちなみに、エリカさんには彼氏はいません。アプローチしたい方はぜひ、アオイエリカさんのTwitterへ!
制作/ロボスタ
企画/ライブドアニュース
デザイン/桜庭侑紀
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集