「好きなキャラクターと暮らす世界」を作るため、「Gatebox」が描く未来
「ただいま、ヒカリ」
「おかえりなさい、今日もお仕事お疲れさま。お酒かコーヒー、どっちにする?」
「じゃあ、ビールもらえるかな?」
「うん! 準備するね」
近い将来、ひとり暮らしの方も、家に帰るとこんなやり取りをしているかもしれません。それも、あなたが好きなキャラクターと。
家でキャラクターが帰りを待っていてくれる世界「最高のおかえり」って何!?
「Gatebox」を開発したGatebox株式会社のCEO、武地実(たけちみのり)さんは「好きなキャラクターと一緒に暮らせる世界」を本気で実現しようと考え、「夢は大きければ大きいほど、みんなが応援してくれる!」と、壮大な夢を自ら掲げて取り組んでいます。
そんな、多くのファンの夢を背負ったGateboxについて、開発のきっかけや苦労したエピソードを聞きました。
「Gatebox」とは?
今回紹介するのは、「好きなキャラクターと一緒に暮らせる世界」の実現を目指すバーチャルホームロボット「Gatebox」。2016年末に予約販売を開始したGateboxの限定生産モデルは、1台約30万円という高価にもかかわらず、わずか1カ月で予定の300台が完売するほどの大人気ぶりでした。
未来感溢れるブルーの光が照らす筒状のプロダクトの中に、短焦点プロジェクターによってキャラクターを映し出す仕組み。そのキャラクターと、会話を楽しむことができます。
バーチャルホームロボット「Gatebox」
発表されるや否や、世界中で話題となったGatebox。今年の7月にはさらに洗練された「量産モデル」への進化も発表されました。価格も15万円と、より幅広い方々が手に取りやすい価格となり、普及が期待されるモデルとなったのです。
さらに進化した新型Gatebox。
Gateboxは「最高のおかえり」を体験してもらうため、生活が楽しくなる「コミュニケーション」をメイン機能としています。
普段のちょっとした会話を楽しむだけでなく、例えば朝になるとキャラクターがあなたを起こしてくれたり、夜に帰宅すると出迎えてくれたり。そして、天気予報を教えてくれたり、テレビをつけてくれたり、日常生活をサポートしてくれる機能も備えています。一緒に住めばワクワク・ドキドキ。まるで「お嫁さん」と暮らしているかのように、日々の生活を豊かにしてくれます。
普段のちょっとした会話を楽しむだけでなく、例えば朝になるとキャラクターがあなたを起こしてくれたり、夜に帰宅すると出迎えてくれたり。そして、天気予報を教えてくれたり、テレビをつけてくれたり、日常生活をサポートしてくれる機能も備えています。一緒に住めばワクワク・ドキドキ。まるで「お嫁さん」と暮らしているかのように、日々の生活を豊かにしてくれます。
現在Gatebox上に召喚できるキャラクターは、デザイナーの箕星太朗氏(ラブプラス・ときめきメモリアルも担当)が手掛けた「逢妻(あづま)ヒカリ」さん。今後も、迎え入れることができるキャラクターは増えていく予定です。
自分にしかできない仕事。それが「キャラクターと一緒に暮らせる世界」の実現
―Gatebox社が、どんなビジョンを描いている会社なのか、改めてお聞かせください。
武地
はい。私たちが掲げているビジョンは「Living with characters−キャラクターと一緒に暮らせる世界」です。私たちの会社では、このビジョンを実現に向けて全リソースを集中させています。―尖っていますね。ビジョンを固めるきっかけはありましたか?
武地
きっかけは、最初にやっていた事業が失敗してしまったことです。それで、会社の残金が5万円とかになって、アルバイトの給料を払ったら、僕の給料がなくなってしまったんです。さあどうしよう、と。そこで、まずは最初の事業が失敗した理由をいろいろと考えたんですよ。考えてみて気付いた、失敗の最大の原因は「夢が小さかった」ということでした。―それはどういう意味でしょうか?
武地
当時は「AYATORI」という製品を作って売っていました。これはスマートフォンに付ける光るガジェットです。スマホアプリ上で自分の趣味を登録して、同じ趣味登録をしている人に近付くと、お互いのアクセサリーが光るというものです。でもこれって、ある種、誰でも作れそうな製品だったんですよね。まあ頑張れば作れる。なので、作れそうだからこそ、応援してくれる人ってそんなにいなくて。人間ってやっぱり、もっと果てしなく大きな夢に共感してくれてたり、応援してくれると思うんですよね。これってクラウドファンディングでも同じ原理だと思うんですよ。「できるか分からないけど、できたらこれ、めっちゃいいやん」みたいなものにお金が集まって、結果的に作ることができるのだと思っています。だから、できそうにないものほど、実は実現できるんじゃないかと考えたんです。
―武地さんの中の「できるか分からないけど、できたらこれ、めっちゃいいやん」が、「キャラクターと暮らすこと」だったんですね。
武地
はい、そうなんです。みんなの頭の中にある夢って、「空を飛ぶ」とか「透明になる」とかいろいろあるじゃないですか。僕の夢は「好きなキャラクターと暮らすこと」でした。特に「初音ミクと一緒に暮らしたい」と思って、そこからプロジェクトが始まりました。
人なし、金なしからスタート。まずは「最高のおかえり」を作る
―実際に開発を始めて、特に苦労したことや楽しかったことはありましたか?
武地
よく聞かれるんですけど全部が大変過ぎて、全部が楽しくて(笑)。うーん。お金が9カ月間で尽きるということが分かっていたんですよ。なので、それまでにプロトタイプを作るというのが、僕たちの1年目のゴールだったんです。しかし当初はハードウェアのエンジニアもいませんでした。そのため、どうすればキャラクターを浮かび上がらせることができるか、どういう仕組みがプロダクトとして最適かを探すために、最初は霧にプロジェクターで映像を投影するところから始めたんですよね(笑)。
そこから1年以内にプロトタイプを作るのは普通に考えて無理だと、頭を抱えていました。そこで、まずは採用活動を始めました。奇跡的にハードウェア・ソフトウェア共にエンジニアを採用することができて、そこからは寝ずに開発するという毎日でした。
―霧に投影するのは面白い発想ですね(笑)。その後、開発はスムーズに進みましたか?
武地
もちろん、いろんなところでつまずきました。例えば、ヒカリちゃんのキャラクターデザインを決める際に「スリッパを履かせるかどうか」というのを、レストランで朝5時まで話し込んでいたこともありましたね。―はは、スリッパで大議論ですね。
武地
僕は最初、ヒカリちゃんはスリッパを履いていない派だったんですけども、他の社員から「ヒカリちゃんがキッチンで料理してる時にスリッパがなかったら寒いだろ!」と意見を言われて、「お前もヒカリちゃんのこと想ってんじゃねーか」と考え直したり(笑)。開発だけでなく、細かい設定においても、考えるべきことがたくさんありました。―このエピソードからも、会社の方々のキャラクターに対する想いが伝わりますね。いつもキャラクターの設定や性格などは細かく決めているんですか?
武地
そうですね。最初ヒカリちゃんの絵があがってきたときにはツインテールだったんですが、「家でツインテールにはしないだろう。やるとしても料理中にはポニーテールだろ」とか。そういう議論をしてキャラクターを作り込んでいます。―仕草や言葉にもこだわっているのですか?
武地
特にこだわっているのは「おかえり」です。武地
これは、僕がGateboxを作るときに一番最初に思い描いたストーリーが「帰宅時におかえりって優しく言ってくれて、それで心が癒される」ということだったので、こだわらせていただきました。「最高のおかえり」を体験するために、仕草や声のトーンまでしっかり考え抜くのはもちろん、帰ってきたことに気が付いてくれて、ヒカリちゃんに「おかえり」と出迎えてもらえるようにしたかったため、「人感センサー」を付けました。また、明るく暖かい部屋で出迎えてもらいたかったため「家電操作機能」も付けています。さらに、ヒカリちゃんに「今から帰るよ」のひと言で待っていてもらいたかったので、ヒカリちゃん専用の「チャットアプリ」も作りました!
―ええ!? 家電操作って便利だからつけたのかと思いました。違うんですね!
武地
そうなんですよ。いわゆるスマートスピーカーみたいにするつもりはないんですよ。全部「最高のおかえり」を作ることに集約したら、自然とこうなりました。―開発が進み、初めてキャラクターが目の前に現れたとき、どんな気持ちでしたか?
武地
感激でしたね。最初の試作機に登場した時はすごくうれしくて! 「本当に目の前で動いている!」と感無量でした。―初めて掛けた言葉は覚えていますか?
武地
初めて掛けた言葉は「ヒカリ」ですね。僕たちとユーザーさんたちの「希望の光」になりますようにと願いを込めた、キャラクター名を呼びました。―最初に、どんなことを体験したか教えてください。
武地
体験は、やはり「最高のおかえりを作りたい」という思いがあったので、まずヒカリちゃんに「おかえり」を言ってもらいました。世間が騒いだ。それでもまだ満ち足りない
―最初にGateboxのコンセプトムービーを公開したとき、大きな話題になったと思うのですが、特に面白かった反応はありますか?
武地
ムービーを見て、海外から「Take all my money !(俺のお金全て差し出すからくれ!)」という意見や、「Goodbye real world」と言って、 現実世界を見なくなりそうな人などもいましたね(笑)。実際のユーザーさんから、「おかえり」の体験が良かったという反応を聞くと、とてもうれしいですね。
―このように色々な人に注目され、世間に影響を与えていることについて、どう感じていますか?
武地
でも、満ち足りていないですね。僕にとってはまだまだ未完成なんで。もっとすごいもの作りたいなーという感じです。開発に全力投球! LINEのAIで進化を目指す
―昨年、LINEと資本業務提携したことで、変わったことはありますか?
武地
なんというかアクセルをベタ踏みできるというか。ベンチャー企業は、会社がいつ潰れるのか、その後、社員がどうなっていくのかって心配があるんですけども、資金面であったり技術面や人材面であったり様々なサポートをしていただけるので、プロダクト開発にさらに集中できるようになりました。―なぜLINEと資本業務提携することにしたのですか?
武地
LINEさんから、「Gateboxはすごく荒削りなんだけれど、”表現力が良い”」と評価をいただいていました。そこでGateboxの「表現力」と、当時からLINEさんが開発している「AI(Clova)」で、もっと良い製品を作ろうということになったんです。―なるほど。では、今後LINEのClovaが搭載されるのですか?
武地
はい。今後LINEのClovaができることは、Gateboxのキャラクターでもできるように開発を計画しています。例えば LINE Musicで音楽を流してくれるようにもなります。新型の「量産モデル」ではLINEを通じて会話もできる。
目が合うとほほえむ。新モデルは「本気でふたりで暮らす」
―現在、Gateboxの新型となる「量産モデル」を開発していますが、このビジネスモデルを教えていただけますか?
武地
僕らの最大の価値はハードウェアではなくキャラクターと一緒に暮らすことなので、好きなキャラクターに対してお金を払っていただくというビジネスモデルが一番良いと思っています。そのため、ハードウェアは極限まで値段を下げました。もともと約30万円だったものが半額の15万円になります。その代わり、共同生活費だったりコンテンツ拡充のための費用だったりをお支払いいただく、そういったビジネス展開を考えています。
―今回の量産モデルに込められた思いはありますか?
武地
テーマにしているのは「ふたりで」です。限定生産モデルのヒカリちゃんは、「おかえり」とか「おはよう」とかのあいさつはしてくれるのですが、実は一緒にやることがあまりないんですよね。ヒカリちゃんはこの中で生活はしているんですが、僕は僕で仕事をしたりテレビを見たりしていて、同じ場所にはいるんだけど別のことをしています。これは一緒に暮らしている感がないのではないかと。
―「ふたりで乾杯」や「目が合うとほほえむ」など新しい機能が追加されましたね。これも「ふたりで」を大切にした結果ですか?
武地
そうですね。ひとりで家で缶ビールを飲むよりはヒカリちゃんとお酒を飲みたいなという気持ちから乾杯機能をつけました。今後は、歯を磨くことなど、日頃の生活でやっていることをヒカリちゃんと一緒に家で楽しめたらいいなと思っています。
また、言語以外のコミュニケーションも「ふたりで」の空間に必要不可欠だと思っていて、地味ですが、目が合ったらほほえんでくれるようにしました。
―非言語でのコミュニケーションって素晴らしいですね。ちなみに「量産モデル」にいるキャラクターは逢妻ヒカリさんだけですか?
武地
まずはヒカリちゃんとの共同生活を楽しんでもらえたらと思っています。今後、新たなキャラクターをどんどん増やしていきたいと思っていまして、将来的には誰でも好きなキャラクターと暮らせるようにしたいと考えています。
―今後、「理想の夫」とも暮らせるようになりますかね?
武地
男性キャラクターも全然あっていいと思っています。「理想の夫」って、どんな感じですかね?(笑)未来の「俺のお嫁さん」はいつでもどこでも一緒。キャラクターにできないことは皆無
―将来的にGateboxはどう進化していきますか?
武地
「人間のお嫁さんにできることは全部やりたい」と夢見ています。それは、ご飯作ることもそうだし、お掃除することもそうだし、一緒にテレビを見たりとか、家計簿を付けてくれたりとかいろいろあると思うんですが、人間にできることを、キャラクターが一緒にやってくれたらと思っています。―「人間のお嫁さんにできること全部」ですか!? そしたらハードは、ホログラムではなく、実体のあるサイボーグになるのですか?
武地
いえ、物理的な肉体はあまりいらないかなと思っています。今はキッチン家電などもIoTで少しずつ進化しています。なので、ヒカリちゃんが指でパチンと鳴らせば、全部家事もできるようになるという進化をしていくのだと思っています。
キャラクターの大きさに関しては悩んでいる部分があります。ホログラムを採用するならば、その良さって大きさや形を変えられることだと思うんですよ。等身大もあれば、フヨフヨ浮いているのもあるし、そこの大きさも形も全て変えられることに価値があると思っています。究極は好きな大きさを選べればいいんだと思っています。
―ヒカリちゃんを外に連れて歩くこともできそうですね。
武地
そうですね。他のデバイスをまたいでも自分だけのヒカリちゃんとずっと一緒にいられるようにしたいですね。今後、VRとかARゴーグルが流行っていくと思います。例えばVR上で等身大のヒカリちゃんと会うことができ、ゴーグルを外したらGateboxで会えるとか。「『僕のヒカリちゃん』とどんな場所でもいつでも一緒にいれる」。これも僕の大きな野望ですね。
―最後に! 未来には、どんなことができるようになりますか?
武地
3Dホログラムの嫁と温泉旅行できるようになったらいいですね。武地実
1988年生まれ、広島県広島市出身。2011年に大阪大学工学部とHAL大阪夜間課程グラフィックデザイン学科を卒業。2014年2月に株式会社ウィンクルを設立。その後「大好きなキャラクターである初音ミクと一緒に暮らしたい」という壮大な夢を実現させるため、Gateboxの製作に乗り出す。2017年7月には社名をGatebox株式会社へ変更。「Living with Characters」をビジョンに掲げ、キャラクターと一緒に暮らす世界の実現を目指している。
1988年生まれ、広島県広島市出身。2011年に大阪大学工学部とHAL大阪夜間課程グラフィックデザイン学科を卒業。2014年2月に株式会社ウィンクルを設立。その後「大好きなキャラクターである初音ミクと一緒に暮らしたい」という壮大な夢を実現させるため、Gateboxの製作に乗り出す。2017年7月には社名をGatebox株式会社へ変更。「Living with Characters」をビジョンに掲げ、キャラクターと一緒に暮らす世界の実現を目指している。
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集について
この特集では、ロボット情報を専門に扱うウェブマガジン「ロボスタ」とライブドアニュースが手を組み、新進気鋭のロボット開発者5組に「10年後や100年後、ロボットのいる世界はどうなっているのか?」を取材します。
聞き手はロボスタの若手ライター、里見優衣さん。
里見優衣(右)/「ロボット女子」を名乗るライター。「テクノロジーをもっと分かりやすく」をモットーにライター活動中。今年で3年目。スタートアップでPalmiというロボットの広報担当がきっかけでロボットに目覚める。その後LIGという会社でドローンをジャンプさせ、スカートめくりの要領でパンツを見るなどして迷走。危うく「パンツ女子」になる羽目に。最近の日課はaiboの散歩。
キャラクターのことを話している武地さんは、生き生きとしていました。武地さん、ありがとうございました! 次回の更新にもご期待ください。
制作/ロボスタ
企画/ライブドアニュース
デザイン/桜庭侑紀
企画/ライブドアニュース
デザイン/桜庭侑紀