「僕たちの作るロボットは、ディズニーの楽しさに勝たなきゃいけない」。次世代モビリティ「CanguRo」の夢

写真拡大 (全19枚)

「変形する乗り物」…この言葉を聞いただけでワクワクしてしまう人もいるかもしれません。今回ご紹介する「CanguRo(カングーロ)」は、乗り物からロボットへ変形することができる次世代のモビリティです。

CanguRoは、「ライドロイド」という新たなジャンルの乗り物。ライドロイドは「Ride(乗り物)」と「Roid(ロボット)」を組み合わせた造語で、それぞれの形態に変形できます。

左がライドモード、右がロイドモード。

「ロイドモード(ロボット)」時は人のサポートをしてくれるパートナーロボットになり、主人の後ろを付いてきたり、買い物をサポートしてくれたり、コミュニケーションが取れたり、離れた場所からスマホで呼び出したりもできます。

一方、「ライドモード(乗り物)」では、まるで身体の一部になったかのように移動をサポートしてくれるモビリティで、時速10キロメートルで走ることができます。搭乗者は移動スピードをサドルの振動を通じて直感的に感じ取ることができ、ぶつかりそうになると未然に衝突を回避するスマートストップ機能などの工夫が凝らされているのです。

このロボットを開発したのは、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo(フューロ)」。デザイナーには山中俊治氏を迎えています。

未来的なデザインと創造的なコンセプトで発表後多くの人が魅了されているこのCanguRo。fuRoの所長、古田貴之氏に話を伺ってきました!

ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集
技術でこの世を作り変える。世界一尖った組織fuRo
 
―「千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター・fuRo」とは、一体どのような研究機関なのでしょうか?
 
 
古田
 「世界で一番とんがったロボットを作れる組織」です。ロボット開発には、主に大学、国、企業の3つの組織形態が世の中にはありますが、どの組織にも課題があります。

どうしても大学は論文を書くことが優先になってしまい、国は特定の企業と組みづらいといった事情があり、企業は直近でビジネスになる開発に力を入れがちです。よってこの3つの組織とは異なった、fuRoという組織を作りました。少数精鋭の独立部隊で、志だけで動く組織です。
  
―少数精鋭とは、何人くらいが在籍されているのでしょうか?
 
 
古田
 コアな技術者が12人で、あとは管理部門に6人が在籍しています。
 
―技術者にはどのような方がいらっしゃいますか?
 
 
古田
 みんな“天才”という表現では足りないくらいの才能の持ち主です。このチームの技術者は、日本語を話すよりもプログラムを書く方が早いくらいです。
 
例えば、ある企業から「仕様書」をお願いされましたが、仕様書を書くくらいなら、プログラムを書く方が早いということで、先にプログラムを書いてからそれを参考に仕様書を書いたりしています。

この「CanguRo」も、開発期間は2カ月で、関わったのは4人。しかも皆、本業を別に持ちながらの、ある意味“片手間”で開発しました。そんなレベルの人材が集まっています。
 
―恐ろしいですね(笑)。fuRoは、どんな目的を持って活動されているのでしょうか。

 
古田
 「衣食住をロボット技術でイノベーションしよう」をテーマに、「ロボット技術でこの世をまるまる作り直す」ということを目的にしています。

そのために、一例として、街中にロボット技術を送り込んでいます。題しまして「デパ地下大作戦」です。
 
―「デパ地下大作戦」…?ごめんなさい(笑)。詳しく説明してもらえますか?

 
古田
 デパ地下の新しいお総菜を味見するのと同じような感覚で、ロボットを体験する場を設けようということですね。僕らはみんなが「体験していないこと」を世に送り出していますが、結局みんな体験したことがないから、その良さがなかなか伝わらないんです。

例えば、「オリンピック会場でロボットを体験させるプロジェクト」「自動運転タクシー」「無料のロボットアトラクション」といったプロジェクトを進めています。
 
人と馬の関係からヒントを得た。人間の相棒になるような乗り物を作る!
 
―なぜCanguRoを作ろうと考えたのですか?
 
 
古田
 CanguRoはライドロイドシリーズの一部として構想されました。このライドロイドというのは、「乗り物」と「人工知能ロボティクス」を融合したものの象徴です。それを踏まえたうえで、CanguRoの誕生についてお話します。

僕は「これからのロボットや人工知能が、人や社会とどのような関係を築かなければいけないか」に興味を持っています。でも世の中のロボットは、コミュニケーションに特化したペットロボットや実用に特化したホームロボットのどちらかがほとんどです。人工知能がとても進んでいるのに、これは違うと思うのです。人工知能ロボティクスというのは、「もっと僕らの身近に存在し、ワクワク感があり、役に立ち、未来にある」ものだと思っています。

先ほども言った通り、我々のテーマは「衣食住をロボット技術でイノベーションしよう」です。そこで目を付けたのが乗り物です。
 
でも乗り物メーカーさんは、なかなか「A地点からB地点までの移動」から離れられません。しかし、イノベーションというのは「モノの定義そのものを根本的から覆すことだろう」と。だからA地点からB地点までの移動から考え始めるのはやめて、「人と機械との新しい関係を見つめ直そう」と考えたわけです。

かつては馬が相棒であり、時には乗り物でした。昔は乗り物と人は良い関係性を築いていたと思います。ここに立ち返ろう、と。

そこで、人工知能がどんどんどんどん進化する今、「現代的に人工的に、人間の良き“相棒”となる機械生命体を作ってやる!」とひらめきました。
乗り物としてもロボットとしても最高なものを
 
―カンガルーの形、かわいいですね。
 
 
古田
 最初からカンガルーを目指していたわけではありません。

僕はどうしても中途半端なものは作りたくなかったのです。「乗り物」として楽しく乗れて、「人工知能ロボット」として最先端の知能を持ったものを作りたかった。そして、「乗り物」と「人工知能ロボット」両方で、最高性能・最先端を目指してきた結果、CanguRoが生まれました。
 
これがスケッチの一部ですが、プロダクトデザイナーの山中俊治さんと一緒にいろいろな形を考えましたよ。

 
 
古田
 ライドモードの形を考え、これをロイドモード(ロボットモード)に変形させて、またライドモードに変形させて…の行ったり来たりを繰り返し、この形になりました。

最終形態がカンガルーに似ているから、イタリア語でカンガルーを意味する“CanguRo”と名付けました。

でも実は別の由来もあります。「カングーロ」とは、車が好きな人にとって馴染み深い名前なのです。アルファロメオという有名なイタリアの自動車メーカーが、1960年代にジウジアーロという有名なデザイナーとコラボして、「カングーロ」という名車を作りました。

「あの時代にどうやってこれを作ったのだろう?」と不思議に思うぐらい、かっこいいのです。この名車にも敬意を表して「CanguRo」に決定しました。
「SLAM(スラム)」技術では、どこにも負けない
 
―カ障害物を避ける機能や自分で駐輪場に行く機能が備わっているそうですが、仕組みはどうなっているのでしょう。
 
 
古田
 CanguRoで最も重要な技術である「SLAM(Simultar Localization and Mapping)」を活用しています。これを一言で言うと「その場で自分の位置を特定しながら、地図を作る」技術です。CanguRoは、内蔵のレーザ光が跳ね返ってくる時間で、距離を正確に測っているのです。このため、狭い空間でも障害物を避けながら、移動することができます。

ただ、このセンサーがあれば誰にでも再現できる技術、というわけではありません。これ以外に姿勢センサやタイヤの回転数のデータを集めて計算し、地図を作るのです。

私たちはこのSLAMを昔から研究していて、どこにも負けないくらいの技術だと自負しています。例えば、某大企業が発表した地図を作るツール。それが世界最高性能と呼ばれているのですが、僕らのSLAMはそれの約3倍の処理速度をもっていて、大きさも全然小さいです。
CanguRoの軌道を描いた地図。
 
全てのモノは大衆から個に。世の中を変えるため技術をより多くの人に届ける
 
―Canguroにはそんな高い技術が詰まっているんですね。 ライドロイドシリーズは、近い将来に実用化しますか?
 
 
古田
 しますね。世の流れは、「先端技術を使い、全てのモノは大衆から個に向かっていく」ものだと思っています。
身近な例だとiPhoneです。自分用に様々な機能がカスタマイズできますよね。技術力によって個人に合うものに変化していきます。

僕らの最終使命は世の中を変えること。つまり、ちゃんと製品にしてより多くの方に僕らの技術を届けることです。現在メーカーさんと手を組み、技術を世に届ける努力をしています。

ちなみにライドロイドシリーズを実用化するなら、価格は10万円は切らなきゃダメです。競争相手は、電動自転車なので。ついでに言うと、ディズニーランドの年間パスポートの値段は超えてほしくないですね(笑)。
 
―えっ、なぜディズニーランドの年間パスポートと比較するんですか!?
 
 
ディズニー愛から多くを学んだ。世の中を変えるには「教育」も重要だ
 
古田
 僕、ディズニーランドが大好きなんですよ。もちろん年間パスポートも持っていますし、朝は家族総出で入園待ちの列に並びます。僕らの作るロボットは、あの楽しさに勝らないとダメだと思うんです。
 
ディズニーからは学ぶことがたくさんあります。何よりも「女性と子どもを魅了するべし」ということ。やはり一部のロボット好きだけが惚れるようなロボットでは、たかが知れているんですよ。広く受け入れられるロボットを作るためには、子どもたちが惚れるようなキャラクター性が重要です。そうすれば、僕自身もそうですが、男性はあとから勝手に付いてきてくれるものだと思いますから(笑)。
 
実は、僕は、ディズニー作品に登場する悪役から世の中を変える方法を学んだんですよ(笑)。彼らは“世界制覇”を掲げながら、子どもをターゲットに悪さをするわけです。これをよくよく考えてみると、「子どもを変えれば未来を変えられる」ということだと。

悪さをすることはもちろんいけません。ですが、「悪役のやり方」から学んだのは、ロボットに本当に関心を持ってもらうためには、子どもの頃からロボットと触れ合って、その存在を知ってもらわなくてはならないということです。そこで僕らは子ども向けイベント「ロボパ!」の活動を通じて、全国津々浦々でボランティア活動をしています。次の世代にロボット技術をちゃんと伝えて、世の中を変えてくれる次の世代を育てていこうとしているんです。
 
―そんなところからも着想を得ていたなんて意外でした。
 
 
古田
 でしょ。あ! ちなみに、こういう取材やプレゼンの場での振る舞い方もディズニーランドのキャストさんから学びましたね(笑)。
外見も中身も一体感を目指す! CanguRo開発者の“萌え”が詰まっている
 
―CanguRoの開発には4000万円かかっていると聞きました。そこには、どんなこだわりを詰め込んだのですか?
 
 
古田
 実はこの金属のパーツは、金属塊から削り出しました。大きな塊を、まるで仏像を木から彫り上げるように。

こうすることによって、金属を型に流して曲げるよりも、つなぎ目がなく、美しく、強くできるからです。この金属はジュラルミンというもので、通常ピカピカには光らないのですが、職人さんが朝から晩まで5週間も磨き続けた結果このように鏡のように光るようになったのです。その後に、あえてマットに仕上げる処理をして曇らせています。これがデザイナー山中俊治さんのこだわりです。実際、留め具であるピンひとつ取っても、デザインされ尽くしています
 
見てください、このファン! これが僕らの萌えポイントです。
赤く光っている部分がファン。アメリカのSF映画「パシフィック・リム」の主人公・イェーガーの胸の部分から発想を得たという。
古田
 萌えポイントは実は他にもあります。ペダルに力のセンサーがあって、両足の掛けた力が分かり、そして掛けた力はハンドルに返ってくるのです。これは、乗り物と体の一体感を目指して実装した機能。こうして、人の運動機能を拡張するようなことを目指しました。

また、サドルにはバイブレーションのスピーカーが付いていて、搭乗者に「ドクンドクン」というCanguRoの鼓動も聞こえるようにしました。走行速度によって鼓動の音の速度も変わります。これで、CanguRoと人間の一体感が生まれます。

ロボットとの一体感は、人間の運動機能・感覚機能を拡張させるために重要だと考え、外見からも一体感が生まれる工夫をしました。車輪を見てください!結構、前の方に付いてるでしょ?これは足の先に車輪が生えているようにしたかったからなんです。
 
古田
 この車輪にも僕らの技術が詰まっています。特殊な、薄くて軽いモーター内蔵の車輪なんです。これだけで、自動操縦できる乗り物が簡単に造れますよ。これもSLAM同様、キーテクノロジーのひとつです。
左側が従来のモーター。右側がCanguRoのモーター。大幅に小型・軽量化している。
日本から世界を変える
 
―技術やこだわりを語る古田さんは活き活きしていますね。その熱意って、どこから湧いてくるのですか?
 
 
古田
 僕は皆をびっくりさせるものを作って提供したいのです。
 
昔は、「ウォークマン」や「スーパーファミコン」など、高いけど、惚れて買ってしまうようなものがありました。でも今は、市場調査を頑張って、皆が欲しがりそうなものを提供しようと必死になっています。だから皆が知っている世界のものしか作れないんですよ。それはつまらない。

特に、僕はロボットで元気な街・生活をつくりたい。だからぜひ、ロボット開発者は「俺の世界を見せてやるぜ」ぐらいの勢いで、誰も見たことのない世界を見せてほしいですね。

実はこのライドロイドシリーズは、当初はアクティブシニア層に向けたものでした。日本の抱えている負債は約1080兆円。でも60歳以上が将来のために貯金しているお金は1100兆円以上あるといわれています。そこで高齢者が「若者には負けない」という気持ちで、どんどんお金を使い、文化活動や経済活動を引っ張っていけば、日本の負債はチャラになるはずです。
 
高齢者がライドロイドのような新たな技術を活用して、世の中をグイグイ引っ張って動き回れば、日本は高齢化社会の先進国になれるはず。これが本当はやりたいことなんですね。僕らは、本気で日本から世界を変えていきたいと考えています。
 
―最後に教えてください。技術の進歩により、どんな未来が待っていますか?
 
古田
 「みな自然に還る!」。読者の皆さんをびっくりさせようと思って、わざと変な書き方をしましたが(笑)、別に人間が死ぬわけではありません。技術が発展すると、ロボットはどんどん「ロボットっぽく」なくなっていくんです。見た目はまるで生き物のようにナチュラルで、でも中身には高度な技術を持ったロボットが台頭してきます。きっと人間の体内にもロボット技術がインプラントされていって、その境目はどんどんなくなっていくでしょうね。
 
そういう意味でも、ロボットと人間が良き「相棒」となることは、未来に向けて大きな意味があると思ってます。
 
古田貴之 
千葉工業大学未来ロボット技術研究センター所長。ロボット開発に対する情熱が強く、開発が始まると寝ずに開発をするという逸話を持つ。幼い頃に病気から奇跡の復活を遂げる。“奇人で天才”と称されることが多い。著書に「不可能は、可能になる」(PHP研究所 2010年)がある。
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集について
 
この特集では、ロボット情報を専門に扱うウェブマガジン「ロボスタ」とライブドアニュースが手を組み、新進気鋭のロボット開発者5組に「10年後や100年後、ロボットのいる世界はどうなっているのか?」を取材します。

聞き手はロボスタの若手ライター、里見優衣さん。
里見優衣(左)/「ロボット女子」を名乗るライター。「テクノロジーをもっと分かりやすく」をモットーにライター活動中。今年で3年目。スタートアップでPalmiというロボットの広報担当がきっかけでロボットに目覚める。その後LIGという会社でドローンをジャンプさせ、スカートめくりの要領でパンツを見るなどして迷走。危うく「パンツ女子」になる羽目に。最近の日課はaiboの散歩。
古田さんの茶目っ気あるお人柄で、笑いの絶えないインタビューでした。古田所長、そしてfuRoの研究員の皆様、ありがとうございました!次回の更新にもご期待ください。
制作/ロボスタ
企画/ライブドアニュース
デザイン/桜庭侑紀
ロボスタ×ライブドアニュース「次世代ロボットの夢」特集