初めてちゃんと自分の人生を生きた時間――佐藤 健が駆け抜けた20代を振り返る
それは決して“ブレイク”ではない。「2018年の佐藤 健」を取り巻く喧騒のことだ。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』、ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)と話題作への出演が続き、改めて注目が集まったのは事実。だが、この2作のヒットのずっと前、20代の前半から『ROOKIES』(TBS系)、『龍馬伝』(NHK)など、次々と注目作品に出演し、高い評価と人気を手にしてきたのだから。ブレイクなきままトップを走り続ける――そこにこそ佐藤 健の本当のスゴさがある。
当人はこの1年の世間の盛り上がりを「少し露出が増えただけ」「いまだけですよ」とじつにあっさりした言葉で振り返る。一方で、迫りくる30代を前に心情を問うと「20代にサヨナラするのは寂しい」とも。あと数ヶ月、平成の終焉とともに佐藤 健の20代が終わろうとしている。
朝ドラ出演での反響の大きさには「あまり実感はない」
- この取材の数日前に、『半分、青い。』が最終回を迎えました(※取材が行われたのは10月上旬)。クランクアップからは1ヶ月以上が経っていますが、放送を終えての心境は??
- いや、(次作の)『まんぷく』が始まるの、早いなって(笑)。
- そっちですか?(笑)土曜日に最終回を迎えて、週明けの月曜日にスタートですからね。
- びっくりしました。(『まんぷく』を)見たいなとは思ってたんですけど、さすがに『半分、青い。』が終わったばかりで、少し余韻に浸りたいな…という思いでいて。まさかそんなにすぐ始まるとは思ってなかったので、油断していました。
- 改めて物語、そしてご自身が演じた萩尾 律への大きな反響をどのように受け止めていますか?
- あんまり実感はないんですよね。世の中で反響があったというのは何となく理解しているけど、実際に僕の耳に届くまでは…。僕のほうはあんまり、会う人も変わらないし、街に繰り出すわけでもなく、生活もそこまで変わってないので、そこに関してはとくに何もないですね。
- およそ10ヶ月にわたる撮影など、朝ドラ出演という経験はどうでしたか?
- ものすごくいい経験になりましたね。いま日本で間違いなくもっとも多くの人に見られている朝ドラに参加して「なるほどな」と思う部分もあり、いろんなことがクリアになったし、ドラマに対する理解も深まったと思います。勉強になりました。
自分の血肉になった部分がすごく大きくて、そういう意味で、「やってよかったな」と思えるし、この1年ですごく成長できたと感じます。 - 撮影を通じて、もっとも印象的だった経験を教えてください。
- やはり限られた時間の中でたくさんのシーンを撮っていかないといけないこともあって、ほとんどのシーンが一発OKなんですね。1シーンを長回しで1回撮って、別アングルでもう1回やれば、ほぼそのシーンは撮れちゃうんです。
そういう部分は朝ドラらしさというか「こうやって朝ドラって作っていくのか」とか、「こうやって撮るとこんな画になるんだな」とわかって、自分の中ですごく印象に残ってますね。 - 放送前のインタビューで「他の作品と比べて、どうしても思い入れが強くなるだろうし、終わったら特別な寂しさがあるかもしれません」とおっしゃっていましたが、役への思いの強さはやはりこれまでとは違っていましたか?
- シンプルに律という役に対して愛着がどんどん湧いてきましたね。そういう意味で、終わったときの寂しさは、やはりこれまでの現場よりも大きかったです。
「楽しめばいい」という気持ちは、主役より脇役のほうが強い
- 7月期の連続ドラマ『ぎぼむす』こと『義母と娘のブルース』では、佐藤が演じた、フラフラとした軸足の定まらないパン屋の店長・麦田 章の存在感が回を追うごとに増していき、話題を呼んだ。律とのギャップもさることながら、佐藤の胸キュンシーンが放送局を越えたふたつの番組で同時期に放送される“シンクロ”は、視聴者のあいだでも大きな反響を巻き起こした。
- 『ぎぼむす』と朝ドラで佐藤さんのいくつかの出演シーンがシンクロしていると、ネット上でも大きな話題になっていましたね。
- さすがにそれは偶然です(笑)。ふたつの作品の撮影時期はまったく違いますし、オンエアのタイミングまでは僕はコントロールできませんから、時期が重なるとは、想像もしてませんでした。
- ただ、そういうことが話題になるのは、それだけ深読みして、楽しもうとする、両作品の熱いファンが多くいる表れと言えるかもしれませんね。
- そうかもしれませんね。完全に偶然なんですが、そういう意味でラッキーだったなと思います。
- ここ数年は主演がほとんどでしたが、『半分、青い。』、『ぎぼむす』では、脇でヒロインを支えたり、かき回したりするポジションでした。立場の違いによって役作りなども変わってくるのでしょうか?
- 役に対するアプローチの違いはないですね。役に向き合う姿勢という点では、主役か脇かを意識することはないです。ただ、主演の場合は現場でのたたずまいであったり、作品を背負って宣伝しなくてはいけないという部分での違いはありますね。
- 脇役ならではの楽しさ、主人公ではない立場でかき回す面白さを感じた瞬間はありましたか?
- どちらもアプローチは同じなので本質的には変わらないはずなんですけど、でも脇だと気は楽なので(笑)、そういう意味で「面白い」と言う俳優さんの気持ちはわかりましたね。純粋に楽しめるというか、ぶっちゃけ、多少失敗してもそんなに深い傷を負わないから(笑)。余裕があるぶん、「楽しめばいい」という気持ちは主役より強いかな?
- これまでは“映画俳優”という印象が強かったですが、1年で立て続けに2本の連続ドラマに出演するのはいかがでしたか?
- 楽しかったですね。新鮮でしたし。20代最後の年なので「働こう!」、「露出も増やそう!」と意識していたんですが、その狙い通りになりました。ここまで注目されるとも思ってなかったですし、それはラッキーです(笑)。
- 2018年はファンサービスを目標に掲げていらっしゃいました。テレビをつければ佐藤さんに会えるというのは、何よりのファンサービスだったと思います。「露出を増やす」という点で、そこは意識されていたんですか?
- していましたね。まさに朝ドラは毎日出られるわけで。もちろん、作品として純粋に「やりたい」という気持ちになったのが大きいんですが、ひとつのファンサだなと。「こんなこと、もう二度とないからね」とファンの方々には言いつつ(笑)。
話題性は露出と比例するもの。この状況は予想していた
- 2006年に17歳でデビューし、翌2007年には『仮面ライダー電王』(テレビ朝日系)で初主演。以降ドラマ『天皇の料理番』(TBS系)、映画『バクマン。』、『何者』など数々の作品で、もはや当たり前のように主演を張り続けてきた。そして2018年、朝ドラ、『ぎぼむす』を通じて、そんな彼の名前がにわかにニュースになることが増えてきた。
- 2018年は、世間が俳優・佐藤 健のスゴさを再認識する年になったと思います。自身は世間のこうした反応をどう受け止めていますか?
- 結局、(話題性は)露出と比例するものなんですよね。自分の場合も、これまでの年との違いは、単に露出が増えただけだと思います。先ほども言いましたが実感もないですし。
ただ、朝ドラは無条件で多くの方が見てくださる作品というのは知っていましたので、そういう意味で(この状況は)予想していた部分でもありました。それこそ“ブレイク”という言い方をしてくださる方も増えるだろうなと。 - 人の目に触れることも多くなりますもんね。
- わかりやすく言えば作品数が多ければ「売れている」となりますし。作品を縫う(※同時期に複数の局の作品に出演すること)とかもそうだし。露出を増やすことをある程度意識すれば、そういう状態を作り出すことはできるのかなとも思います。
- デビューをした頃に「いつかブレイクしてやる!」と意気込んでいたのでしょうか?
- 若い頃は全然なかったですね。それこそ、自分の意思とは別のところで仕事を入れていただいて、それをやるのに必死で、自分がどうなりたいかを考える余裕はなかったですね。
- ここ数年の出演作品の増加には、「ファンサービスだけでなく、30代を迎える前に20代の姿を作品の中に残しておきたい思いがある」ともおっしゃっていました。あと数ヶ月で20代ともお別れですが、佐藤さんにとってどのような時間でしたか?
- それこそ10代の頃なんて、僕は何も考えず、ただただ生きていただけでしたから。そういう意味で20代は、初めてちゃんと自分の人生を生きた時間――ひと言で言うなら「これが僕の人生」という感じですかね?
- 楽しかったですか?
- 楽しかったですね。だから、ものすごい不満があるかと言うとないし、でも、悔いがなかったかと言われたら「もっとやりたかった」と思う。そういう意味で、20代にサヨナラするのはちょっと寂しいです。
- 多くの俳優さんが「30代は楽しい」とおっしゃいますが、期待感はありますか?
- うーん、あんまりない(苦笑)。30代への期待よりも、20代への寂しさのほうがまだ強いですね。
主演作の数字が悪いのはイヤ。企画は慎重に選んでいる
- 10月19日から公開されている映画『億男』では、お金に振り回される人々の姿が描かれます。役者という仕事は興行収入や視聴率という“数字”で評価される部分もあると思います。佐藤さんはこうした数字にどう向き合っていますか?
- 当然のことですが、よほどのことがない限り、自分の主演作の数字が悪いのはかなりイヤですし、それが絶対にないようにと自分なりに考えてやっていますね。
- 超えなくちゃいけないひとつのハードルとして自分の中で意識されている?
- そこは間違いなく、意識して慎重に企画を選んでいます。基本的には、映画であればきちんと利益を出せるようにしたいし、ドラマであれば他の作品に負けたくないので、同クールの中で高く評価される作品になるような企画でなければ、やりたくないですね。
先ほど言った“よほどのことがない限り”というのは、数字的には難しいかもしれないけど、きちんと評価してもらえる作品になるという場合。自分のエゴだとしても「この人とやりたい」「この役はやりたい」という欲求が強い場合のことですね。 - 20代最後の時期に出演作を増やしたのは、これまでよりも企画を選ぶ“間口”を広げたということなんでしょうか?
- 朝ドラはもし2、3年前にオファーをいただいていたとしても、難しかったんじゃないかと思います。なぜかと言うと、朝ドラに出れば1年くらい拘束されることになり、結果的にそのあいだ映画に出られなくなるから。朝ドラをやってるあいだに映画が2本、撮れますからね。
ただ、そこは先ほども言いましたが、自分で「露出を増やす」と決めたので。それは以前の自分にはなかった欲求なんですよね。露出を増やしていこうという時期に、ちょうどお声がけいただいて、何より作品も素晴らしかったので「やろう」と思えました。
- 山田孝之さんが主演、プロデュースを務める11月23日公開の『ハード・コア』では山田さんの弟役を演じていますが、原作漫画はカルト的な人気を誇る作品であり、いままでの佐藤さんであれば出演していなかったのではないかと思うのですが…。
- そうでしょうね。ただ、自分がいくつかの作品に主演させていただいて感じたことなんですが、たとえば『バクマン。』での編集者役、『何者』の先輩役もそうでしたが、山田孝之に来てもらえるってすごくうれしいものなんです。
そういう経験があったからこそ、孝之くんが主演・プロデュースをする作品で自分に声をかけてもらえるなら「ぜひやりたい」って自然に思えたんですよね。もちろん、シンプルに脚本を読んで「この役をやりたい!」と感じたし、現場もすごく楽しかったです。 - 山田さんのように、自分で作品をプロデュースしてみたいという気持ちはわいてきませんか?
- ないわけじゃないですが、それは名前がクレジットされるかどうかというだけの違いのような気もしています。というのは、これまでのいくつかの作品でもそうでしたが、主演を務めることで、企画・脚本段階から自分の意見をお伝えすることはあります。
そういう意味で、誰しも大なり小なり、プロデュース的な役割を担う部分はあると思うので。ただ、自分で「これは!」と思う原作に出会ったら、企画してみたいですね。
三浦春馬のミュージカルの活躍に「僕は絶対に勝てない」
- 『バクマン。』、『何者』、『ハード・コア』で山田さんと、『億男』では藤原竜也さん、『亜人』では綾野 剛さんと、ここ数年、いわゆる“小栗 旬世代”の俳優さんとの共演が続いています。佐藤さんは、自分たちの世代を意識することはありますか?
- ありますね。というか、それこそ小栗さんたちの世代と比べると、自分たちの世代はそこまで人数は多くないですよね。それは正直、ラッキーなのかなと思いますけど
- 小栗さんたちの世代に対しては、どのような思いをお持ちですか?
- 違う世代でよかったな…ですかね?(笑)ただ、その世代そのものがスゴいという意識ではなくて、ひとりひとりの俳優さんたちに対してスゴいという気持ちですね。
- 同年代の俳優に対して思うことはありますか?
- そのまま、おとなしくしとけよ!って(笑)。
- ご自身がこの世代を「引っ張る」という意識、「俺についてこい!」という思いは…。
- まったくない!(笑)ほっといてます。
- プライベートでも親しい三浦春馬さんは、映像のみならずミュージカルでも活躍されていますが、そうした同世代の姿に刺激を受けることは?
- 刺激というわけじゃないけど、たとえば春馬はミュージカルが本当に向いているんだなと感じるし、僕はそこでは絶対に勝てないと思います。そうやって、違うジャンルでトップレベルにいる仲間がいるというのは、すごくいいことですよね。
- 『何者』のインタビューでは休みのときに英語を勉強されていたともおっしゃっていましたが、海外を目指す気持ちは?
- 役者として海外志向がすごくあるかと言うと“普通”ですね。興味はありますし、やはりハリウッドはトップだと思うので、現場への憧れはあります。でも「たしかにハリウッド映画に出たけど、それが何?」と言われるだけなら意味はないと思ってます。だから執着というほどの気持ちはないですね。
- では、賞に対してはいかがですか? 昨年の映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞されましたが、これまでのキャリアを考えると、初受賞ということに驚きの声もあったと思います。
- そこはハッキリと答えを持っていて、賞は欲しいですね。なぜかと言うと、賞について語ることができるのは、受賞したことがある人だけだと思うので。正直、「こうあればいいのに」と自分の中で思うところはたくさんあります。ただ、僕が賞を獲っていない状態で何を言っても、ただの負け惜しみにしか聞こえないと考えています。
だから、賞の本質的な価値がどういうものなのかはまだわかりませんが、獲りたいし、かといってそこで達成感を覚えたり、自分の何かが変わるわけでもないだろうとは感じています。
2019年は、しばらくおとなしくさせてください(笑)
- 改めていま、役者という仕事の面白さをどんなところに感じていますか?
- 最近思うのは、終わりのない仕事なんだということ。それはどの仕事も同じかもしれませんが、キリがないんですよね。さっきも言いましたが、露出が多ければ「売れている」となりますし、今年は意識してやりましたが、それをずっとやり続けるなんて無理ですよね。
そう考えると結局、自分の中の仕事のやりがいって「その役をやりたいと思うかどうか?」というシンプルなところに落ち着くんじゃないかって。だから、自分がやりたいと思える作品、役を選び抜いてやっていくというのが、究極的な理想の仕事の仕方なんじゃないかと思います。 - 少し気が早いですが、2019年はどんな年になりそうでしょうか?
- 2019年は…露出がなくなります(笑)。
- ファンにとっては2018年の歓喜から一転、悲報ですが…。
- いや、それはもうずっと言ってますからね。「いまだけだよ」「こんなこと二度とないよ」って(笑)。いったん、しばらくおとなしくしたいと思います。そうさせてください。疲れちゃうんでね(苦笑)。
- やはり2018年はこれまで以上の達成感、楽しさがあった?
- それこそ数年前までは、映画が終わっては休んでという感じで年の半分くらい休んで、海外に行ったりしていました。それはそれで楽しかったですが、今年は生活リズムとかも含めて、いろんなことが変わったのは間違いないですね。家に帰ってからも映画見たりして、次の日が休みでも12時とか1時には寝るようになってましたし。
- 次にまとまった休みが取れたら何をしたいですか?
- うーん…ゲームとか?(笑)謎解きがすごく楽しいんですよ。
- 長期間、海外に行ったりは…?
- 謎解きも終わって、東京でやりたいことがなくなったらですかね? 東京は楽しいことがありすぎて、まだまだやりたいことがあるんで(笑)。
- 佐藤 健(さとう・たける)
- 1989年3月21日生まれ。埼玉県出身。A型。ドラマ『ROOKIES』(TBS系)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』など、話題作に出演して人気を博す。主なドラマ出演作は『Q10』(日本テレビ系)、『とんび』、『天皇の料理番』(ともにTBS系)など。映画出演作は『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、『バクマン。』、『世界から猫が消えたなら』、『何者』、『亜人』など。2017年公開の『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。2018年はNHKの連続テレビ小説『半分、青い。』、『義母と娘のブルース』(TBS系)という2本の連続ドラマに加え、『いぬやしき』、『億男』、そして11月23日公開の『ハード・コア』と3本の映画が公開。
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