“可愛い子”はたくさんいる。自分の枠は自分で作るしかない――市川美織の生存戦略。

「フレッシュレモンになりたいの」というキャッチコピーで一躍、知名度を上げた市川美織。今年5月に8年間在籍したAKB48グループを卒業し、女優活動を本格的に開始する。経歴だけ見ると順風満帆のようだが、本人は取材中、何度もこうつぶやいた――「人生、そんなに甘くないです」。身長148センチ、華奢な身体からは想像もつかないほどタフな精神力で、浮き沈みの激しい芸能界を生き抜いていく。

撮影/後藤倫人 取材・文/野口理香子 ヘアメイク/小倉康子

「テレビの中の人になる!」子どもの頃に抱いた夢

AKB48グループを卒業されてから2ヶ月が経ちますが(※取材をおこなったのは7月初旬)、今の心境はいかがですか?
ひとりになってさみしいとか不安とか、そういうのは一切ありません。アイドルを辞めたときから覚悟は決まっていたし、これから楽しみなことのほうが多いです。
AKB48グループに8年間在籍されていたわけですが、もともと女優志望だったんですか?
はい! 小さい頃から女優になるのが夢でした。テレビがすごく好きで、今も昔も変わらないのは、「休む暇があったらテレビを見たい」ということです(笑)。絶対、テレビの中の人になる!と思っていたんです。
市川さんはAKB48に加入する前から芸能活動をされていて、いろいろ苦労があったと伺っています。
いろいろありましたね(笑)。
小学5年生のときにスカウトされ事務所に入るも、オーディションに落ち続け契約更新ならず。その後、別の事務所に入るもレッスンだけでオーディションすら受けさせてもらえないまま契約更新ならず……という、これらの経験から学んだことはありますか?
精神力ですかね。「人生、そんなに甘くない」ということを身に染みて感じたので。逆に今はうまくいきすぎて不安になるくらいです。そもそもAKB48に入ってから、オーディションを受けなくても表に出られることが衝撃でした。
アイドルになる前は、オーディションを受けてたんですもんね。
事務所に所属しているといっても、基本はレッスンとオーディションのどちらか。オーディションも受かったことがほとんどなかったから、表に出ることもなくて。
そんな私が、初めてオーディションに受かったのが、舞台だったんです。初めての芝居経験でした。私はテレビっ子で映像ばかり見ていたので、舞台のライブ感っていうんですかね、毎回毎回、新鮮にできる楽しさを知りました。
初めての舞台で、緊張はなかったんですか?
当時、私は小学生だったんですけど、周りがみんな大人だったので、のびのびやらせてもらえたというのもあります。
舞台に立つと緊張もなくなるんですよね。それよりも、お客さんが私を見て、私と同じ気持ちになってくれる。感情移入してくださる姿を見られるのが、すごく嬉しかったんです。

「私は間違ってない」8年間のアイドル活動がくれた自信

2つ目の事務所も契約更新ならず、というときに、2010年に開催の「AKB48 第10期研究生オーディション」に合格。女優への夢を持ちながら、いったんアイドルになるわけですが。
はい(笑)。女優の夢を追いかけて、結果、なかなかうまくいかずに、なぜかアイドルになりました……。でも、アイドルになりたいという気持ちも、たしかにあったんです。小さい頃から目立つのが好きだったし、モーニング娘。さんに憧れていたのもあったし。実際、アイドル活動はとっても楽しかったですし、「私にはアイドルが向いているのかも?」と思うこともありました。
でも、女優への夢はあきらめず?
遠回りにはなるんですけど、今やっていることはあとにつながるはずだから、グループにいるうちは名前を広めよう。とにかく目立って、知名度をあげよう。そのためには何をしたらいいのか、ということを常に考えていました。
トーク力が鍛えられるし、ダンスの振りを覚えるのが早くなるとか、そういう基礎的なことを学びつつ。しかも、舞台がたくさん用意されているから、学んだことをすぐ実践にうつすことができました。
なるほど。たしかにアイドルになる前は、レッスンを受けてもオーディションを突破しないことには、実践にうつせないですもんね。
そうなんですよ、表に出る機会がそもそもないですから。だけどアイドルになったことで、ファンの方が本当にいるんだってわかったし、それが自信につながりました。「私がやってることは間違ってないんだな」って。

バラエティの難しさを実感。ブレイクの裏で落ち込んでいた

「フレッシュレモン」のキャッチコピーで一躍知名度をあげましたが、あれも戦略だったんですか?
まったく考えてもいなかったです。まさかここまで広がるなんて思ってもいなかったです。知らないうちにヒットしてしまったという……。人生、何があるかわかりませんね(笑)。
エッジのきいたキャラクターで人気者になりましたが、そっちの道を突き進んでいこうとは思わなかった?
……バラエティは面白い人が出たほうがいいんです。
えっ。バラエティ番組で輝いていた印象がありますが。
私なんて面白くもないし、しゃべれることもないから、出させていただいたところで申し訳ないというか……。
バラエティはすごく好きなんです。私の元気の源。だから収録のときは楽しいんですけど、終わってから後悔するんです。ちゃんとできていただろうかって。考えすぎちゃうんですかね。バラエティの難しさを実感するばかりで……。
……ドラマも同じなんです。「こんな役やりたいなぁ」「でも私には無理だよなぁ」「じゃあドラマ見てればいいか」って。
ネガティブ発言!
ネガティブに考えちゃうんです……。
バラエティが元気の源とのことですが、ドラマもコメディがお好きなんですよね。『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)などの代表作を持つ、福田雄一監督のファンだと伺いました。
はい! 福田さんの作品は、シュールな笑いと、“今”を盛り込んでいる感じが大好きで。じつはご本人にも直接伝えたことがあるんです。AKB48のときに出演した『サタデーナイトチャイルドマシーン』(日本テレビ系)は、福田さんが監督で。「福田さんの作品がすごく好きです」と言ったら、「へー珍しいねぇ」と(笑)。それ以降、一度も呼ばれてはいないんですけどね(笑)。いつか呼んでいただけたらいいなぁ……。

ぬるま湯に浸かってちゃダメだ。自分の甘さを痛感した瞬間

AKB48時代もドラマに出演されていましたよね。「女優になりたい」と秋元 康さんに伝えることはあったんですか?
ありませんでした。
ファンの方の前で話すことはあった?
それはありましたけど、そんなには言ってこなかったです。なんか……恥ずかしくて。私が「女優になりたい」と口に出していいものなのかって。
小さい頃から女優の夢を抱いているのに?
なりたいですけど、なれるかは別の話ですし。その当時、私は女優になるための努力もしていたとは言えないですし……。
2011年に『マジすか学園2』(テレビ東京系)でドラマデビュー。そして『花ざかりの君たちへ〜イケメン☆パラダイス〜2011』(フジテレビ系)にも出演しました。
『マジすか』はAKB48のメンバーがいるから緊張せずに、のびのびできたんですけど、『イケパラ』という大きなドラマに出演させてもらって……私、ナメてたな、と。
役者の仕事と真剣に向き合ってる方たちの中に、ポンと入れてもらったわけです。私は当時、芝居のワークショップに参加したこともなく、小さい頃に受けたレッスンしか経験がなくて。感情の表し方をみなさんが10できるとしたら、私は2。そういうところで大きな差を感じましたね。
役者を本業としている人たちとの差に、落ち込んだ。
落ち込んだんですが、それよりも、もっと芝居をやりたいと思いました。現場がすごく楽しかったので。自分も芝居の経験を積んで、引き出しを増やしたいな、と。このままじゃぬるま湯につかって終わるだけだって思ったんです。
『イケパラ』は、やっぱり私は女優になりたいんだって思い出させてくれた作品でした。
現在、女優として活躍している元AKB48メンバーも多いですけど、彼女たちから刺激を受けますか?
私、まったく見れないんですよ……。知ってる人が出てる番組って、偏った見方をしてしまう気がして、そんな自分がイヤで見られないんです。「いいなぁ」「うらやましいなぁ」「自分もああなりたいなぁ」「でも無理だよなぁ」って……。
またもネガティブ発言!(笑)
ネガティブに考えちゃうんです……!(笑)

AKB48に入ると決めたとき、友人のアドレスを全部消した

AKB48グループを卒業すると決めたときに、「一度、芸能界を離れようかな」なんて考えたりはしませんでした? 小学生の頃から芸能の厳しさを知っていて、苦労もされて、芸能界自体をイヤになったりしないですか?
自分が普通に働いているところを想像して、毎日同じことをするのは自分には向いてないなぁと思いました。小学生の頃から、なんだかんだ、私はここ(芸能界)で生きていくしかないって思っていたんです。
AKB48に入ると決めたときに、友だちの連絡先を全部消したんです。「一般人にはもう戻らない」と覚悟を決めて。だから同窓会とか、1回も行ったことないんです。地元には帰らず、ここまできました。私はここで生きていくしかないと思っています。
浮き沈みの激しい芸能界を生き抜くための、市川さん自身の「強み」は何だと思いますか?
どんなところにいても、自分の居場所を見つけられることでしょうか。過去もひっくるめて自分なので、それをうまく使って、今後に活かしたいと思っています。
一時期、すごく馬鹿なことを考えてたんですよ。一時の迷いなんですけど、「地下にもぐりたい」とか言っていたんです。そう思ったのは、「レモン」とかそういう名前を捨てたい、役者としてイチからやりたい、という気持ちからなんですけど。
なるほど。
だけど、そうじゃなくて。今までをひっくるめて“私”なんだ。「レモン」も含め、今までやってきたこと全部が私なんだから、それらを捨てるのではなく糧にして前に進まなきゃいけないんだ、と思いを改めまして。
じゃあ私にしかできないことってなんだろう? いまさら王道コースには進めない。少女漫画のヒロインになれないのはわかってる。だったら、自分の枠を自分で作るしかない、と。アイドルのときもそうやってきました。
こんなに可愛らしいから、もっと自分に自信のあるタイプなのかと思っていましたけど……。
“可愛い子”は芸能界にはたくさんいますから(笑)。
すごく冷静に自分のことを見てるんですね。
私、「誰かに似てるね」って言われるのがすごくイヤなんです。私以外にも(同じような子が)いるんじゃ、この業界では生きていけないと思ってるので。自分の枠は自分で作る。そうすれば芸能界に長くいられるんじゃないかな、と思います。
だから今は、女優さんを一本の線にしつつ、気になったことはなんでも挑戦してみようという気持ちです。ファッション関係だったり、動画制作もやったり、いろんな方向に手を伸ばしてみる。その中から、「レモン」みたいにヒットするものが出てくるかもしれないですしね!

私にしかできない役との出会い。2.5次元舞台に初挑戦

その挑戦のひとつが、7月20日開幕の舞台『ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 〜THE End of 希望ヶ峰学園〜』なんですね。塔和モナカ役での出演が決まったとき、どう思いましたか?
モナカちゃんは、“元・超小学生級の学活の時間”。小柄な役ということで、これは私にしかできない役だなと思います。こうやって、自分を必要としていただける場所があるなら、もっと頑張らなくちゃと身が引き締まりました。
この作品はご存知でしたか?
はい、過去に元AKB48のメンバーも出演していたので、一度、舞台を観に行ったことがあるんです。初めて舞台を観たときは、情報量の多さにびっくりしました。何を言ってるんだろう……みたいな(笑)。でも、スゴいということだけは伝わってきました!
スゴいというのは?
役者さんたちが、キャラクターとして舞台に立っていることがスゴいですよね。自分の好きなキャラクターが舞台に立って、目の前でしゃべっていたら感動すると思うんです。それはアイドルも同じで、自分が好きで応援している子が目の前で歌って踊る、3D感。それこそが舞台の魅力だと思います。
プレッシャーもありますが、原作ファンの方や、モナカちゃんが好きな方に、「モナカちゃんが目の前にいる!」って感動していただけるように頑張ります。
本シリーズは、キャラクターの再現度の高さに定評がありますが、モナカちゃんのメイク、衣装をあわせてみた感想は?
カツラが重たくて! 全部持っていかれそうになります(笑)。でもやっぱり、すべて身に着けると、モナカちゃんになれる感じがします。モナカちゃん、可愛いですよね。ダークな雰囲気もいいですし……!
どういうふうに役作りを?
演出の西森(英行)さんから、キャラクターの声マネから入っちゃう人がいるけど、まずは自分の言い回し、言い方、気持ちを作ってみて、と言われました。その土台ができてから、徐々に声を近づけてみたり、言い方をマネしたり、見た目を研究していけばいい、と。
自分の土台を作ることが大事なんですね。
そうしないと、ただのモノマネ舞台になって中身がなくなっちゃうから。ひとりひとりのキャラクターになる前に、まずは自分たちとして舞台に立つ。そこから装飾していこうっていう。私自身、2.5次元ものにこれまで携わってきたことがないので、西森さんのお話を聞いて、なるほど!と思いました。
稽古場の雰囲気はどうですか? これまで女性と仕事をすることが多かったと思いますが、現場の環境が激変しましたよね。
そうなんです! だから現場に入る前はすごく緊張していたんですが、(苗木 誠役の)西銘(駿)くんや、(グレート・ゴズ役の)大久保(圭介)くんはYouTubeが好きということで意気投合して。共通の趣味を話題に、少しずつお話してます。
あと、(霧切響子役の)岡本夏美ちゃんは「可愛いですね」ってたくさん話しかけてくれて、嬉しいです(笑)。年下なんですけど、私よりもしっかりしてるから甘えちゃってます。本当にいい人ばっかりでよかったです!
ファンの方には、どんなところに注目してほしいですか?
純粋に、作品を楽しんでいただけたらいいなと思います。もし、私目当てで観にきてくださる方がいたとしたら、「舞台って面白いんだ!」と感じてくれたらいいなって思います。私よりも物語を見てほしいです。その途中で「あっ、みおりん……!」って気づいてくれたら嬉しいです(笑)。
市川美織(いちかわ・みおり)
1994年2月12日生まれ。埼玉県出身。O型。2010年にAKB48研究生として加入し、26thシングル『真夏のSounds good !』で初めて選抜メンバー入りを果たす。2013年からの兼任を経てNMB48に移籍。2018年5月に卒業。4月には、初主演映画『放課後戦記』が公開されるなど、今後は女優としての活動を本格化する。

出演作品

舞台『ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 〜THE End of 希望ヶ峰学園〜』
東京公演:2018年7月20日(金)〜7月23日(月)@サンシャイン劇場
大阪公演:2018年7月27日(金)〜7月29日(月)@森ノ宮ピロティホール
東京凱旋公演:2018年8月3日(金)〜8月13日(月)@ヒューリックホール東京
http://www.cornflakes.jp/dangan/2018/

©Spike Chunsoft Co.,Ltd./希望ヶ峰学園第3映像部 All Rights Reserved.
©Spike Chunsoft Co.,Ltd./希望ヶ峰学園演劇部 All Rights Reserved.

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、市川美織さんのサイン入りポラを抽選で1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2018年7月19日(木)12:00〜7月25日(水)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/7月26日(木)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから7月26日(木)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月31日(火)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
  • 賞品発送先は日本国内のみです。
  • 応募にかかる通信料・通話料などはお客様のご負担となります。
  • 応募内容、方法に虚偽の記載がある場合や、当方が不正と判断した場合、応募資格を取り消します。
  • 当選結果に関してのお問い合わせにはお答えすることができません。
  • 賞品の指定はできません。
  • 賞品の不具合・破損に関する責任は一切負いかねます。
  • 本キャンペーン当選賞品を、インターネットオークションなどで第三者に転売・譲渡することは禁止しております。
  • 個人情報の利用に関しましてはこちらをご覧ください。
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
記事への感想・ご意見、お問い合わせなどは こちら までご連絡ください。