2.5次元舞台という意識はなかった。古川雄大、ミュージカル「黒執事」に感じた奥深さ

古川雄大がミュージカル「黒執事」で演じた主人公セバスチャンは“悪魔で執事”、そしてすべてにおいて完璧な人外キャラ。2.5次元舞台からそのキャリアをスタートさせた彼だからこそ到達できた完成度で、公演を重ねるごとに作品ファン、ミュージカルファンを増やし続けている“当たり役”だ。『ミュージカル「黒執事」で経験したすべてが今の自分に大いに役立っている』という古川に、改めて作品の面白さ、奥深さや、セバスというキャラクターの持つ複雑な魅力を語ってもらった。

撮影/須田卓馬 取材・文/横澤由香 制作/アンファン
スタイリング/森田晃嘉 ヘアメイク/サトウアツキ

“2代目セバスチャン”のオファーは迷うことなく受けた

ミュージカル「黒執事」。古川さんは2015年の「-地に燃えるリコリス2015-」から主人公のセバスチャン・ミカエリスを演じています。
ミュージカル「黒執事」は…僕、初演(2009年)を拝見したんです。そのとき、一瞬で舞台の世界観に引き込まれたことを覚えています。演出やテイストがとても斬新で印象的でした。もちろん、それ以来ずっと松下優也さんがセバスを演じられていたというのも、長く続く人気シリーズの魅力なのだろうなと感じました。
“2代目”セバスとしてのオファーにはどんな反応を?
自分自身も引き込まれた人気の演目で、大所帯のカンパニーの座長を務められる、しかも劇場が赤坂ACTシアターという僕にとっても大きな挑戦だったので、迷うことなく「ぜひお願いします」とお返事しました。ただ当時はまだ原作のほうには触れたことがなかったので、出演を機にコミックの『黒執事』(スクウェア・エニックス刊)を全部読みました。

まずは自分が演じるエピソードの部分だけと思っていたのですが、いざページを開いたら止まらなくなってしまって。あっという間に読み終わってしまいました。
19世紀末の英国を舞台にしたダークファンタジー。いわゆる少女漫画のイメージとは一線を画している、確固たる世界観が特徴です。
そしてなによりもストーリーが面白い! もともとサスペンスとかミステリー系の世界観は好きなので、物語に漂う緊張感や謎解きなど…自分が興味を持っている要素がギュッと詰まっていました。

漫画なので登場人物は奇抜なキャラクターが多いけれど、ただ奇抜なのではなく、それぞれとても魅力的に描かれているのにも好感を持ちました。重厚な物語と個性的なキャラクターとのバランスが絶妙で、互いに魅力を引き立てているのが印象的でした。
作品人気を初演から支えてきた松下さんからセバスをバトンタッチするにあたっては、古川さんにしかわからない葛藤もあったのでは?
どうでしょう…ほかのミュージカルでもWキャストの経験は多いですし、「役を引き継ぐ」ということに対しても考え方が年々変わってきています。役者をはじめた頃は「絶対違うことしてみせる!!」みたいな意識のほうが強かったんです。

とくにすでに何人もの方が演じてきた役をやるときは、引き継ぐというよりも「新しいモノを創ろう」という自分の情熱が勝っていました。「その役を自分のモノにしたい」という意気込みで取り組んでいたと思います。

でも今はそういう状況になったら、逆に以前の作品もしっかり観てから参加すると思います。「黒執事」に関しても、自分はわりとフラットな気持ちでいました。松下さんがひとりで長年やってきたところから「スッ」と受け取らせていただきました。
そして結果は…それまでのミュージカル「黒執事」を愛していたファンの方からも大絶賛。“完璧な執事”である燕尾服姿のセバスは、圧倒的な輝きでステージを彩り、古川さんの当たり役のひとつに数えられるようにもなりました。
振り返ると、自分で自分の成長を感じられる作品になったと思います。はじめて座長を経験して得たものというか、あの場所で感じたこと、経験できたことはすべてはじめてのことばかりで…現場の居方だったり、自分に求められることだったり。それらが今すごく役に立っているという実感があります。

ミュージカル「黒執事」はジャンルの境界を超えられる作品

当時、古川さんはすでに『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』『レディ・ベス』といった本格的なミュージカルへ出演されていて、ご自身も「ミュージカル俳優と呼ばれる存在になりたい」とおっしゃっていました。その中でこうした2.5次元舞台への出演は、正直、少し意外でした。
「黒執事」については「2.5次元だから」というのはまったく意識しませんでした。帝国劇場でも2.5次元的な演目は上演されていますし、「黒執事」も、原作があることを知らなくて観に来た方は「2.5次元ですよ」って言われなければ気づかないんじゃないかなと思います。漫画の世界を再現するためだけのステージではなく、ストーリーもしっかりありますし、歌もキャストも素晴らしい。そういう意味でも僕はあまりジャンルのことは考えず、「一本の舞台作品」として挑みました。
いち観客としては、古川さんが座長を務めた効果として、ミュージカル「黒執事」は2.5次元舞台のファンとミュージカル作品のファンとがいい具合に混在して楽しめる舞台になっている、演劇ファンの交流を活性化しているようにも感じます。
たしかにプロデューサーの方もおっしゃってました。僕がはじめた頃はやっぱり『黒執事』が好きで劇場に来られている方が多かったんですけど…たぶん、ミュージカル「黒執事」って、2.5次元とそれ以外の舞台との境界を超えるのにぴったりな作品なんだと思います。
軽すぎず重すぎずなバランスの良さで、エンターテインメントとしての間口も広く、接しやすいですよね。
ほかの演劇作品と同様に、いろんな演目の中のひとつとしてミュージカル「黒執事」を選んで観に来てくださっている方が増えているのは純粋に嬉しいです。
表現者としてその両方のフィールドを行き来している感覚はありますか?
僕自身はないです。片方をやっているからもう片方がやりやすいというモノでもないですし、むしろそれぞれの場所でそれぞれにとても難しいって感じるポイントはあります。
たとえば?
2.5次元は原作という「画」がある時点で、絶対にそこを超えることはできないという難しさがありますし…あ、でも(『エリザベート』などを手がけている)小池(修一郎)先生の演出も、先生の頭の中にある「画」を僕らが再現していく作業なんです…。「ここでこういうポーズをとってこの台詞を言って」と明確に指示してくださることもよくあるんです。ということは、2.5次元舞台もグランドミュージカルも、通ずるところがいろいろあるのかな…そうか、うん。今、ふとそう思いました(笑)。

セバスが仕える主人、シエル役・内川蓮生との気になる関係

ミュージカル「黒執事」と言えばもうひとつ、とても大事な存在、セバスが仕えているファントムハイヴ家の若き当主、シエル・ファントムハイヴがいます。ふたりのバディ感も作品の欠かせない魅力ですが、演じた内川蓮生さんとは2作続けての共演(最新作「-Tango on the Campania-」〔豪華客船編〕と、その前の「〜NOAH'S ARK CIRCUS〜」〔サーカス編〕)。舞台上での呼吸もぴったりでしたね。
レオ(内川)とは2回一緒に共演しているので、確実にコンビネーションもよくなっていると思いますし、お互い譲れないところも増えてきましたね。レオは、僕の言うこと聞かないですもん(爆笑)。

えーと、言い方難しいなぁ(笑)。たとえば舞台上での細かいところなんですけど、僕が見ている限りそこはちょっと違うかもしれないなと思うところがあって、何度か気になったのでそう伝えたら、「はい、わかりました」って言いながらやめないんです(笑)。
それは大人の対応かも(笑)。
そのあとスタッフさんと話したりして結局自分で変更を決めていたので、決してわがままなわけじゃないんです。僕に言われたからってそのまま従うのは違うんだってことですよね。つまりレオは、僕とはちゃんと対等なんですよ。
役者同士として同じ目線で対峙している。
今思うと一作目は言ったら聞いてくれていたと思うし、そうじゃないときも「僕はこう思うんです」とひと言伝えてくれることもあったんです。でも二作目はもう直に行動で見せてくれているので、そこはなんかひとつ壁を超えられたようで僕は嬉しかったんです。気を回すことなく、建前をとっぱらってつきあえてるのかなって。

あと、サーカス編のときは交流を深めるという意味もあり、レオが「朝ごはん食べに行きましょう」って、宿泊先のドアをコンコンッてしてくれるモーニングコールが公演中の日課だったんですけど、今回はそういうのもとくになく寂しかったです(笑)。でも、じつは前回より子どもの面が見えたように思って。
リラックスして素を見せてくれている?
可愛い子です(笑)。やっぱり前回はどこか気を張ってたところがあったんでしょうね。うん、ホントに可愛いです。

“主役だけど主役じゃない”居方に到達できた

では古川さんご自身の“成長”はいかがでしょう?
僕自身、豪華客船編の稽古中に、役に…セバスに近づけていけてるのかなっていう実感がホントにリアルに感じられたことですね。一番はじめの通し稽古が終わったときかな。観てくださった関係者の方に、「なんかセバスがあんまり印象にないね」というようなことを言われました。

「でもそれは二幕の見せ場のためでもあるんだろうね」ともおっしゃってくださったのですが、僕、一幕もほぼ出ずっぱりで、台詞量も多いですし、アクションもあって、ソロナンバーも歌っている。そのうえでのこの感想というのは、自分としては「成功だな」と。すべての出来事を陰で支えているのがセバス。彼は主役だけど主役じゃないっていう、すごく不思議な主役なんです(笑)。
その域に到達できた?
はい。豪華客船編は視覚的な仕掛けもたくさん取り入れられた華やかな世界で、「画」としてもしっかり見せられて良かったかなと思っているのですが、その中にいるセバスがより一層目立たないというコントラストも、悪魔としてはとても正しい空気。三作目にして彼の“居方”が掴めたんです。
一方、セバスを演じるうえで“揺るがない部分”もありますよね。
「常に人間を見下していたい」という意識ですね。じつは初めて原作を読んだとき、すごく面白くて笑えるシーンもあるんですけど、そういうところを読んでいてもずっと心になにか違和感を持っている自分がいて。
「なんでだろう?」と思っていたら、やっぱりセバスと人間との関係性というか…セバスは最後、悪魔の契約を遂行してシエルを殺すのかなっていう…この先どう展開していくのかまだわからないですけど。でもそれが彼の行動原理ですし、根底には常にそういう不穏な企みが蠢いている。それでモヤモヤモヤ…としたんです。
セバスの心情とシンクロしながら物語を受け止めていた、と。
僕はそこをはじめに強く感じたので、お客様にも同じモヤモヤを感じてもらいたいなというのは、最初に演じたときから意識しているポイントです。
心温まる瞬間ですら、セバスとしてどう人間的な感情、思考から離れていくか。古川さんにとっての“核”ですね。
だから…難しいですよね。考えようと思っても考えられない想像の世界でしかないので。でも逆に、だからこそできることがたくさんあるのかもしれない。キャラクターへの探究心は尽きないです。

そして作品としては、悪魔が見下すような悲劇の中でも人間が這い上がっていくエネルギー、悪魔にも計り知れない“人間力”が最大のテーマ。人間側の視点はもちろんですが、案外悪魔の気持ちに共感してくれる方もいらっしゃるんじゃないかなぁ。悪魔の視点を通して孤独なシエルを見たときに、「おっ」と思ったり、グッとくるところがあったり…それぞれの解釈を楽しんでもらえたらと思います。

稽古の合間はコアなお笑い作品でリフレッシュ

ONが充実しているからこそ、OFFの時間も貴重ですよね。お気に入りの休みの過ごし方を教えてください。
全部忘れてバラエティを番組を観る時間は至福ですね。わりとコアな…ベタじゃないほうのお笑いが好きかも。『働くおっさん劇場』(フジテレビ系)とか(笑)。松本人志さんが素人のおじさんたちとやっていた番組なんですけど、スゴいんですよ〜。
インドア派ですね。一日テレビを観て過ごすことも?
毎朝、必ず朝食は作るようにしています。朝食と言ってもフレーク食べたり、パン焼いたりするくらいですけど(笑)。
すごく凝ったスムージーなんかを作っているイメージでした。
1回やりましたけど2回と続かなかったです(爆笑)。作ったあとのいろんなモノを片付けるのが手間で、そのわりには…あんまりおいしく作れなかったんです(笑)。
朝ごはんを食べて、バラエティ番組を観て、ほかにはどんなことをしますか?
そうですね。豪華客船編のDVDが手元に届いたら、改めて家でじっくり観ようと思います。『黒執事』はいつもカメラワークが素晴らしいんですよ。「ここでこのアップを抜いてくれてる!」とか、映像作品としても徹底している。そのためのリハーサルも丁寧にやってくださっているので、今回もぜひ注目して観ていただけたらと思います。
宣伝も忘れない古川さん(笑)。
はい(笑)。劇場で生の臨場感を楽しんでいただくのが一番ですが、単体の映像作品としても楽しめるので、まずは映像から入るのもおすすめです。そしてミュージカル心がくすぐられたら、ぜひ劇場にお越しいただけたら幸せです。
古川雄大(ふるかわ・ゆうた)
1987年7月9日生まれ。長野県出身。A型。2007年ミュージカル『テニスの王子様』青学4代目・不二周助役で人気を博し、舞台、映画などで活躍。2012年ミュージカル『エリザベート』ルドルフ役に抜擢され、注目を集める。『ロミオ&ジュリエット』(主演)、『レディ・ベス』『ミュージカル「黒執事」』(主演)、『1789 バスティーユの恋人たち』などの舞台や、映画『嫌な女』などに出演。全国9ヶ所をアコースティックで回るツアー「古川雄大 Acoustic Trio Tour 2017 〜 Starting Days 〜」を行うなど、アーティストとしても活躍している。 現在、主演舞台『モーツァルト!』が上演中。9月から2019年1月に『マリーアントワネット』にフェルセン伯爵役で出演する。また、12月25日には中野サンプラザにて10周年記念ライブ「Yuta Furukawa 10th Anniversary Live [2008-2018]」の開催が決定。

リリース情報

『ミュージカル「黒執事」-Tango on the Campania-』Blu-ray&DVD
発売日:6月27日
価格:<Blu-ray>¥8,000(税別)/<DVD>¥7,000(税別)
発売元:株式会社アニプレックス
販売元:株式会社ソニー・ミュージックマーケティング
原作 : 枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
脚本 : Two hats Ltd.
演出 : 児玉明子
出演:古川雄大 内川蓮生 植原卓也 佐々木喜英 ほか
収録内容:
本編ディスク(BD/DVD) 2018年2月12日 福岡大千穐楽公演を収録
特典映像ディスク(DVD) メイキング映像/アバーライン&ハンクスの事件簿〜カンパニア号見聞録〜を収録
特典内容:<初回仕様限定特典>
・三方背ケース・デジジャケット仕様・特製ブックレット
アニメイト限定版特典:
・枢やな先生描きおろしメッセージポストカード
・アニメイト限定版特典映像DVD(収録内容:日替わり映像集)

© 2017 枢やな/ミュージカル黒執事プロジェクト

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、古川雄大さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年6月20日(水)12:00〜6月26日(火)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/6月27日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月27日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき6月30日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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