常識は敵だ。新時代を切り開く若き開拓者。棋士・増田康宏 20歳。
あっという間だった。インタビュー時は五段だったがその数日後、谷川浩司九段を下し竜王戦の連続昇級を決め六段に昇段を決めた。藤井聡太七段は例外として、わずか20歳にしてこの昇段スピードは、間違いなくトップ棋士まで上りつめる可能性を大きく秘めている。
「矢倉は終わった」「感想戦はいらない」「詰将棋は意味がない」。誰もが当たり前だと思われてきた将棋界の定跡に、増田は流されない。ただ流されないのではなく、自ら論理立て代替案をしっかりと提示する。第三回はそんな「増田ワールド」をフルスロットルでお届けする。一見、辛口にみえるかもしれない。ただ将棋に対して真剣に向き合っているからこそ、出てくる言葉がそこにはある。(編集部)
増田康宏(ますだ・やすひろ) 1997年生まれ。東京都昭島市出身。森下卓九段門下。2008年、6級で奨励会入会。14年、四段。15年、加古川青流戦準優勝。16年と17年、新人王戦2連覇。18年、五段、さらに六段に昇段。著書「堅陣で圧勝! 対振り銀冠穴熊」(マイナビ出版)
―「未来」という字を揮毫(きごう)されましたが、どういう思いを込められていますか。
未来に向けてもっと成長するという意味を込めて、「未来」が一番多いですね。他はいろいろで「夢」などもよく書きます。
―昨年度は順位戦、竜王戦ともに昇級。新人王戦では2連覇を達成。振り返ってみていかがでしょう。
本当にいろいろ、成績や結果を残せたのですごく良い1年だったなというのはありますね。(100点満点だと)80点くらいですかね。(残りの20点は)結構、初戦で負けてしまった棋戦が多かったのと、あとは…。竜王戦で藤井君に負けてしまったのが痛かったですね。
―順位戦の最終戦は劇的な幕切れで、神谷(広志)八段は詰みがあるにもかかわらず投了しました。対局中はどう思っていましたか?
かなり難しいと思ってました。最後の局面は、相当危ないってことは分かっていたんですけど、疲れもあって勝ちを読みきってなかったですね。あと1分あれば読みきれていました。
終わってから、その場で検討していた先生方に「詰んでた」みたいな感じに言われました。確か牧野(光則)さんだったかな。本当にツキがありました。
神谷先生が本当に強かったです。それが想定外でした。神谷先生にとっては消化試合だったんですよ。しかも(第1局は千日手で)夜中から指し直している対局だったので、ベテランの先生ということもあり、体力的にキツイんじゃないかって思っていました。
―増田さんの上くらいの方が多くて同世代が少ないと思うんですけど、ご自身のライバルっています?
佐々木大地君とは本当、奨励会に入った同期なので一番指してますね。ただ、あんまりライバルとか考えたことないです。年下から追いかけられているイメージは特にないです。藤井君は格上の存在だと思ってるので。
―何年か前に森下卓先生が今の若手棋士からは、それほどの『地力』を感じないと言われていました。
それはよく聞かされましたが、『地力』って何を指しているのか分からないんですよね(笑)。若手棋士の方々はみんな頑張っていますし、活躍して結果も出しているので認めて欲しいなと思います。
―さらに「増田は才能があるわりには成績を収めていない」とも話されています。
それも人からよく伝え聞きます。才能があると言われるのは嬉しいんですけどね…。成績については、今の自分の方が森下先生が二十歳の時よりも、実績を残しているのであまり気にはしてません(笑)。この先は分かりませんが…。
―将棋界の師弟関係っていろいろだと思うですけど、師匠と指したりすることはありますか。
昔はよく指してもらいました。150局くらい指してもらったんじゃないんですかね。小学生の時、初めて指した時に勝たせてもらいました。最初は緩めてくれてるのかなって思ったんですよ。そしたら3連勝したんで。4局目にこれはさすがに本気で来るなと思って。でも、それも勝った。だから「あれ?」ってなりました(笑)
―「矢倉は終わった」という発言が大きな反響を呼びました。改めてどういう意図なのか説明いただけますか?
単純に、トップクラスの将棋ソフトがまず「矢倉」をやらないというのを知りました。さらにソフトが「矢倉」に対して「雁木」でうまく勝っているのを見て、「矢倉」はかなり厳しいんじゃないかなと思いました。
「矢倉」は完成するまでに結構、手数が掛かってしまうので、その間を狙われやすいです。また矢倉は(玉を囲う)駒が左側に偏ってしまうので、右側の手薄なところが結構狙われやすいというのが、かなりの弱点です。「雁木」は金銀のバランスもいいし、そういったスキもないですし。あと左側の桂馬も活用しやすいところがいいですね。
―師匠の森下先生も「矢倉」は得意です。先生から何か言われることはありますか。
直接、何か言われることはなかったですけど、将棋界の関係者の人などに「弟子の増田が(あんな発言をして)すみません、と謝っていた」というのは聞きました(笑)
―コンピュータを研究に積極的に取り入れるタイプですか。
使うタイプですね。「elmo」や「技巧」とか。新しいソフトには、まだアップデートしていません。「elmo」から、(人間が研究として使う分には)そんな変わらないかなって気がするので。
―序中盤の研究がすさまじく進んでいますが、ご自身では、最前線に付いて行ってると思いますか?
そんなに付いて行かないです。相手を見てです。最前線の将棋を指すタイプだったら、あえて外したりとか。成績は後手の方が1割くらい勝率が高いんですよね。相手の出方を見て指せるので、指しやすい面があるので。
―「感想戦はいらない」というのも変わりないお考えでしょうか?
いらないと思います。感想戦だと、そもそも(対局者同士で)本音なんて言わないことが多いんですよ。ウソや当たり障りのないことばかり言ってもしょうがないですし、それだったら終わったらすぐに家に帰って研究した方がより効率的じゃないかと…。昔からずっと思っていました。常識は疑った方がいいですね。
今はコンピュータ将棋があるわけですから、指した将棋は家でコンピュータを使ってじっくり研究した方が効率いいと思います。結構そういう考え方する人は多いと思うんですけど、不思議なんですよね(笑)
―これも有名な話ですけど、「詰将棋は将棋の上達には関係ない」と公言されていますね。
そうですね、関係ないと思いますね。昔はたくさん解いてましたけど、今から考えてみるとあんまり意味なかった気がしますね。(手数が)一桁台の詰将棋は解けた方がいいとは思うんですけど、それ以上の手数とか難しい詰将棋とかは実戦では役に立たないと思います。奨励会員クラスになれば一桁台は解けるんで、意味ないなっていうのはあります。自分はここ5年くらい詰将棋は全く解いてないですし、難しい問題は解けないと思いますけど、棋士としての勝率は7割です。
詰みは逃したことはないですね。というか(将棋は)詰ましても詰まさないでも勝ちってことの方が多いじゃないですか。であれば、別に詰まさなくてもいいなって思っているんで。
―増田さんは、他人の意見に対してブレない信念をもっている印象を受けます。
昔は結構、人の意見に影響を受けてたんですよ。親とか師匠の意見とか。ただ師匠であっても、納得できないと思う意見を言ってくることがあったので、それに反発する感じで変わりました。自分が若かったのもありますが。
―将棋を覚えられたのはいつ頃ですか。
5歳くらいですね。小学校2年生のアマチュア四段くらいまではあっという間に強くなった感じです。藤井君に負けるまで、年下に平手(ノーハンデ)で負けたことはなかったですね。
―その藤井さんについて伺います。デビュー直後、AbemaTVの企画「炎の七番勝負」で対戦しました。
やる前は正直、自分の方が「力があるだろうな」と思っていました。ちょうど1年前に研究会で1局指してて、その時は「まだそんなに強くないな」という感じだったので。ただ指してみたらすごく強くて負かされて。
最初、企画が決まったときは(藤井七段の)「0勝7敗とかなんじゃないかな」「良くて1勝6敗とかかな」って思ってたんですよ。ただ最初の1局目を指した藤井君が結構強かったので、「これはかなり勝つんじゃないかな」って印象が変わって。実際に6勝1敗だったので、指してからは驚きではなかったです。
―それから藤井さんの公式戦29連勝をかけた一戦で、公式戦初対局となりました。
あの日は、結構取材の人が多かったですね。会場に入った時に行く場所がないみたいな。歩くスペースがないというのはありました。
竜王戦決勝トーナメント1回戦 増田康宏六段と藤井聡太七段(写真:日刊スポーツ/アフロ)
―勝負どころはどの辺りでしたか?
本当に悪かったのが(終盤で)角を打たれたときに、金を寄った手です。あれが本当に良くなかったですね。(藤井七段の)あの寄せ方は、こっちのうっかりがあって。自玉の詰まないと思ってた変化が詰みだったんです。そこでもうダメになってましたね。あの将棋は、あとから振り返ると弱気の手ばかりで、本当にひどすぎましたね。
―あれから1年近く経ちました。改めて、藤井さんのどの辺りが強いと感じますか。
序盤がうまいですよね。Abema(炎の七番勝負)で当たったときぐらいからずっとうまいですね。「藤井君はまだ若いから変わった序盤は知らないだろう」と変化する人が多いんですけど、基本うまく対応されて悪くなっているってことが多い。普通、藤井君くらいの終盤力があると、序盤は適当にやっても勝ててしまうので、雑になりやすいんですけど…。
序盤が強いのは、本当に才能ですね。才能が凄まじいと思いますね。研究してるからではなく、その場で考えてうまく指しているので、それはなかなかマネできないですね。(一手に対して)本当に妥協しない。
―藤井さんの朝日杯優勝に、谷川(浩司)先生が「君たち悔しくないのか」とおっしゃっていました。
いや、別に悔しくないですね。藤井君は優勝にふさわしい実力を持っていると思っていたので。優勝までの将棋の内容も素晴らしかったですし。
―最近の将棋ブームに増田さん自身、影響を受けていることはありますか。ファンから顔が高見さんによく似ていると、よくイジられているようですが。
仕事はニコニコ生放送やAbemaTVの解説とか、そういう関連はあります。イベントはそんなに呼ばれないですね(笑)。解説は勉強も兼ねているので断りません。
高見さんに似ていると言われるのは、比較的最近だと思うんですけど…ここ1年くらいですか。じわじわと出てきた感じがします。嫌ではないです。高見さんは非常に良い方なので。高見さんの方が積極的にネタにしていますね。
―将棋以外で何か趣味はありますか。
ピアノとかですか。親の影響で昔、習っていました。コンクールに出たり。ピアノは気分転換ですね。金井先生は上手ですよね。自分は全然ダメですよ。ちょっと弾けるくらいです。
―今後の目標はありますか?タイトル戦に出たいとか。新人王戦3連覇したいとか。
やっぱりタイトル戦ですね。最近若手の方がタイトル戦に出たり、一歩手前まで行ったりということが多いので自分もそれに続きたいです。(了)
インタビュー=松本博文(将棋中継記者)
写真=浦田大作
デザイン=桜庭侑紀
ディレクション=金 泳樹
企画・プロデュース=森 和文
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2018年5月29日
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