「映画の最後のワンシーンが終わった瞬間に死にたい」――清水尋也、18歳の表現者。

スクリーンに映える圧倒的な存在感。清水尋也は、ただ、そこに立つだけで物語が生まれるような、独特の雰囲気を醸し出す。『渇き。』ではいじめられっ子、『ソロモンの偽証』では凶悪な不良少年、『ちはやふる』ではヒロインのドSなライバル……と、作品ごとにまったく異なる顔を見せ、実力派の若手俳優として頭角を現してきた。ドラマの出演も増え、一般的な知名度も急上昇。映画『ミスミソウ』では物語のキーパーソンを演じ、異彩を放つ芝居で観客の視線を釘付けにする。

撮影/西村 康 取材・文/江尻亜由子
スタイリング/服部昌孝 ヘアメイク/須賀元子

『ミスミソウ』の感想は「胸糞悪い」が正解だと思う(笑)

映画『ミスミソウ』は、東京から田舎へ転校し、壮絶ないじめを受ける主人公・野咲春花(山田杏奈)の復讐劇。漫画家・押切蓮介による、“伝説のトラウマ作品”といわれる原作が、まさかの実写化を果たしたと話題を呼んだ。主演の山田杏奈含め、大津馬中学校3年1組のキャストがほぼ全員オーディションで選ばれる中、指名でキャスティングされた清水は、春花の唯一の味方である相場 晄(あいば・みつる)を演じる。
『ミスミソウ』の原作はご存知でしたか?
いえ、知らなくて。映画をやらせていただくことになってから、読ませていただきました。まぁ、胸糞悪いなぁって(笑)。
直球の感想ですね(笑)。
『ミスミソウ』のことをネットで調べると、「ミスミソウ 胸糞悪い」って出てくるので。それが模範解答だと、僕は思ってます(笑)。
こういうホラーやサスペンス系の漫画は読むほうですか?
はい。漫画も好きで、とくにこういうドロドロした感じの作品はすごく好きなので、シンプルに「めっちゃ面白い!」と思いながら読んでました。
ご自身が相場役を演じると思いながら読むと……。
ヤバいヤツに選ばれたなって……(笑)。最初からヘンなヤツであれば、振り切ってしまえばたぶんラクだと思うんですけど。相場に関しては、少しずつ変わっていくので。そこはちょっと難しかったですね。
役作りは、どういうふうにされるんですか?
そんなに決まったアプローチの仕方があったりはしないんですけど。やっぱりリハーサルとかをやってみないとわからない部分ってありますし、他のキャストの方と交わすまでは、あまり固くは作らないようにしていて。だから骨組みだけ、ベースとなるものだけちゃんと自分の中にインプットして、それを現場に持っていきます。全体含めての雰囲気で「こういう感じがいいのかな」って、肉付けしていく感じですね。
過去のインタビューで、普段はスポンジの中に清水さん自身が染み込んでいて、それを一回捨てて役を染み込ませる、と。今回も一度、自分を捨てる作業を行ってから?
そうですね。どこまでリアルに、どこまで寄せられるのか、ですね。
自分を完全に捨てることはできない。
自分というものが確実になくならないのは、もちろんわかってるんですよ。お芝居をしてる自分を俯瞰的に見ている自分の目があるからこそ、たとえばカメラがここにあるから、ここにいないと映らないなっていうのは考えないといけないことだし、それがないと成り立たないし。そういうのを自分で客観的に見ている理性があるからこそ、アドリブは生まれるし。

だから前提として、自分を完全に捨てることはできないんですけど、ただその演じている入れものの中に何が入っているかというところでは、自分を一回捨てて役を吸収するという作業はありましたね、今回も。
アドリブを入れたシーンもあるんですか?
いえ、今回はあまり。アドリブって要するに、清水尋也が提供するものであって、そこに相場 晄は関係なくて。原作っていう制約がある以上、崩せないラインがあるから、今回はあんまり入れないほうがいいタイプの作品なんだろうなって思ったので。

アクションシーンで、手が腫れてクリームパンみたいに…

映画の撮影は約1年前から季節ごとに数日ずつ、新潟や群馬で行われた。見る間に積もっていく一面の雪景色のシーンは、ほぼCGなしで極寒の時期に敢行。人の背丈近くまで降り積もった雪は、すべてリアルなものだ。そんな雪国へ行くのが初めてだったという清水は、何を準備すればいいのかわからないがゆえ、とくに対策をせず現場へ入ったという。
作中では雪のシーンが多いですが、撮影中の寒さ対策については?
あんなに雪が積もってるところに行くのが、本当に初めてだったんですよ。予備知識がないから、僕はもう、何もしない!と思って。下手なことはしない、とりあえずあったかい服装で行く、それだけ!っていう感じで。あとは現場で恵んでもらえるもの……ストーブだったりカイロだったりベンチコートだったりを頼りに(笑)。
今回は、新潟や群馬でのロケということで、撮影が終わったら宿に戻って、また翌朝から撮影という状態ですよね。
そうです。新潟のときはログハウスみたいなところに泊まったんですけど、他に男の子がいなくて、僕はひとりで3LDK生活をしてたんですよ。人がいないだけでこんなに寒いんだって。ストーブの前で体育座りしてました。寝室じゃなくリビングに寝てましたね(笑)。ストーブの前で布団を敷いて、ひとりで「おやすみ」って。あんなにさみしいことはなかったです。
撮影中に一番大変だったことは何ですか?
いろいろあるんですけど、最後のアクション。シンプルに寒かったのもあるし、そこでひざをついてずっと撮影しなきゃいけなかったし、けっこうハードでしたね。ある人を殴るシーンで、相手には当てず、でも殴った衝撃音がないといけないので、地面を殴るんですね。そしたら右手がぱんぱんに腫れて、クリームパンみたいになったんですよ。我ながら「あ、大変だな」って思いました。
冷静ですね……。現場には、原作者の押切蓮介先生もいらっしゃったとか。
はい、現場に何回か来てくださって、お話しました。みんな、台本の裏にそれぞれのキャラクターを描いてもらって、サインもいただいたんです。その日はパーティーでしたね、お祭り騒ぎ。
それはテンションが上がりますね。押切先生に、役について何か言われたことは?
「こうしてくれ」っていうのはあんまり言われなくて、僕らにゆだねてくださってるんだなと。すごく気を遣ってくださっていたのかなって思うんですけど、本当に腰が低くて。シンプルに「いい方だ!」って思いました(笑)。
ちなみに……原作はトラウマ漫画として名高い作品ですが、清水さんご自身には何かトラウマとか、苦手なものってありますか?
僕、虫が嫌いなんですよ。ほんっとに嫌いで。虫と名のつくものは全部ダメです。
チョウチョも?
もう、飛ぶものとか、とくに無理です。去年の夏、家に帰る途中に、ぽん!って肩に何かが乗ったんですよ。「わっ!」って思って見たら、セミ!! もう……夜遅かったんですけど、「イヤー!!」って叫んで、ちょっと涙が出ました。
ちっちゃい頃は、虫をつかまえたりして遊びませんでしたか?
いやいやもう、考えられない。そんな野蛮なこと、できないです。そう! さっき話した、ひとりで泊まってたログハウスに、けっこういたんですよ。もう、(宙を見つめながらびくっ、びくっとする)こんな感じ(笑)。宿に戻ってきてからのほうが、ずっと張りつめてました。
落ち着かないですね。
あと最近、『ザ・リング/リバース』っていう映画を観て。ハリウッドでリメイクした『リング』なんですけど、すごく虫が出るんですよ! それがもう、本当に……(どんどんテンションが下がっていく)。ちょっと今、こんな話しなきゃよかった……(笑)。

シリアスなシーンの撮影直前まで、共演者とおしゃべり

逃げ場のない小さな社会で起こりうる嫉妬、虐待、絶望など人間の負のエネルギーが溜め込まれた本作。さらに、残酷なこの物語が展開するのは極寒の地。雪の上に長時間横たわりながら芝居に励む役者たちにとって、どれほど追い込まれた現場だったかは想像に難くない。ところが、清水が振り返る撮影中のエピソードは、予想の斜め上だった。
撮影しながらもどんよりしてしまいそうな物語ですが、共演者の方とはどのようなお話を?
杏奈とは、ほんっとにくだらない話をしてましたね。「よーいスタート」がかかる直前も、カットかかった直後も。
それで、いきなりあのシリアスなテンションになれるんですか?
もともと、撮影が終わるとけっこうパンッて切り替えられるタイプなので。杏奈とは年が近いこともあると思うんですけど、音楽の話とか、シーンと全然関係ないことを話してましたね。
杏奈さんとは初共演ながら、呼び捨てできるくらいの関係に。
僕、相手が年下だからどうこうっていうのはあんまり好きじゃなくて。みんなで楽しくやりたいなって思っていたので、敬語とかもいらないからって。
そういえば、今回は学生キャストの中で一番年上だったんですよね。初の年上ポジションだったと伺いましたけど。引っ張っていかなきゃ、みたいな気持ちはあったんですか?
主演は杏奈ですけど、自分が年上なのもあったので、たとえば誰かが悩んでるとか、キャスト間で意見が欲しいとかがあれば、率先して何かしてあげようとは思ってました。でも、みんな自分で考えて、自分で消化してたから、とくにすることもなかったです。
完成した映像はご覧になりました?
観ました。自分が最初に台本を読んだときに、ぱっと浮かんだイメージが、そのまま投影されてスクリーンに映っていたので。すごく……よかったなって。やっぱり原作のあるものをやるってなると、原作ファンの方の意見ってすごく重要で。そこに関しては気にせざるを得ない部分なので、「これなら自信を持って、お出しできる」と思いました。本当に原作通りだって。
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