生まれ育った故郷、大阪人の血が騒ぐ……植田圭輔、舞台『火花』にぶつける関西人の性

大阪出身だが普段は標準語で話すことが多い植田圭輔が、今回の取材では関西弁を前面に出し、素の表情が見られるインタビューとなった。きっと、舞台『火花』がそうさせたに違いない。今作は、あのピース又吉直樹の小説『火花』の舞台版。植田は、NON STYLE石田 明が扮する先輩芸人・神谷に惹かれ、弟子になることを志願する芸人・徳永を演じる。舞台『火花』との運命的な出会いと、植田の大阪愛、そしてお笑いへの熱い思いを聞いた。


撮影/後藤倫人 取材・文/花村扶美
スタイリング/宇都宮春男 ヘアメイク/古橋香奈子

自分にとっての「神谷」は、石田さんしかいない!と思った

3月30日から舞台『火花』が上演されます。最初に出演が決まったとき、「嘘でしょ!と思いました」とコメントされていましたね。
いや、ほんまに運命的やなと思ったので、つい「嘘でしょ!」と言ってしまいました。
運命的というのは?
これがまた不思議な縁で、昨年11月に板尾創路さんと舞台『THE BAMBI SHOW』でご一緒させていただいて、その千秋楽の日がちょうど、板尾さんが監督された映画『火花』の公開日だったんです。で、後日映画を見に行って、そのとき初めて『火花』の世界に触れて。
小説は読んでいなかったのですか?
はい、映画を最初に見させていただいて、その世界観に一気に引き込まれて。それで板尾さんにLINEで感想を送って、すぐ本を買って読み始めました。そうしたら、マネージャーさんから舞台『火花』の出演が決まったという知らせが来て、マジか!ってびっくりしました(笑)。
それはタイムリーでしたね!
そりゃ「嘘でしょ!」ってなりますよね(笑)。なんで俺やねんやろという気持ちが最初はありましたけど、ストーリーの主軸になる徳永という男を演じさせていただくのと、観月ありささんやピース又吉さん、NON STYLE石田さんなど、名だたる方々とご一緒させていただくと聞いて身が引き締まりました。
今回の舞台では原作者の又吉さんが、本人役で出演されます。又吉さんにお会いした印象はいかがでしたか?
まだ稽古に入っていないので(※取材が行われたのは2月中旬)、ちゃんとお話はできてないんですけど、又吉さんの姿はテレビでいつも拝見していたので、大好きな芸人さんのひとりでした。でも今回の舞台に関しては、この物語の原作者であり、出演者でもあるので不思議な感覚でしたね。最初、なんてあいさつしたらええんかわからなかったんですけど、すごく気さくな方でした。
植田さんから又吉さんに声をかけたのですか?
はい。「徳永を演じさせていただく植田圭輔です」とあいさつしたら、「よろしくお願いしますね」ってニコッと笑ってくださって。よろしくされた!と思って、めちゃうれしかった(笑)。
NON STYLE石田さんの印象は?
ついさっき、石田さんとの対談取材やったんですけど、イメージしていたままの方でした。
どういうイメージだったんですか?
絶対、気さくでいい人(笑)。もし僕が緊張してうまくしゃべれなくても、笑かしてくれそうな方やなと思っていたら、案の定、さっきの取材でもリードして、たくさん和ませてくれました!
石田さん自身も最近、役者として活躍されてますよね。
はい、役者としての感覚も持ってらっしゃるので、僕が言うことに共感してくれたり、石田さんの言葉に自分が納得したりできることがたくさんあって、とてもうれしかったです。
石田さん演じる神谷は、植田さん演じる徳永が憧れる先輩漫才師でもあるわけですが、石田さん自身にも神谷像を重ね合わせられそうですか?
神谷は孤立していくタイプですけど、石田さんは神谷と違って年下後輩から好かれる方なので、タイプは違うと思うんですけどね。でも、カリスマ性を感じますね。石田さんに初めてお会いしたときに言われたひとことが「俺に憧れてや」だったんです。
カッコいいですね!
はい。なので僕からしたら、自分にとっての神谷はこの人しかいない!って思いました。

芸人さんを演じるのは、そう簡単なことじゃない

この世界に入って11年、意外にも漫才師の役って初めてなんですね。
そうなんですよ。いろいろな役をやらせていただいてるんですけど。ここまで関西弁丸出しの役も初めてかもしれません(笑)。
植田さんは大阪出身だから、小さい頃から日常にお笑いがあったと思います。そういう人がお笑い芸人の役をやるというのは、どんな気持ちですか?
漫才師という職業に、とくにプロの厳しさを感じるというか、話しているときの空気感やリズム、独特のかけ合いはほんまに職人技やと思うんです。だから芸人さんを演じるのは、そう簡単なことじゃないなという思いはありますね。
なるほど。
小さい頃に自分が引き込まれたように、今度は僕がお客さんを引き込んでいかなあかん立場になると思うと、すごく難しいことやけど、楽しみでもありドキドキもしています。でも、本当の漫才をやるのではなく、スパークスの徳永として漫才をするので、そこはちゃんと役として演じ切りたいですね。
漫才の勉強はしていますか?
先日、「ルミネtheよしもと」へ行って、舞台の袖からみなさんの漫才を見させていただきました。『火花』は映画もドラマも両方見たんですけど、どちらにも徳永が神谷のことを袖から見て楽しそうに笑ってるシーンがあったので、自分が見なきゃいけない場所はやっぱりここやなと思いました。
袖から見ることなんて、芸人さんやスタッフさん以外なかなかないですもんね。
そうですよね。スタッフさんの邪魔にはならないように気にしながら見させていただきましたけど、客席側じゃない空気を感じることができたし、袖ではあったけどお客さんのパワーみたいなものも伝わってきたし、すごくいい勉強になりました。

林 遣都さんや菅田将暉さんに「僕も負けません!」

ドラマの徳永役は林 遣都さん、映画では菅田将暉さんが演じていますが、ご覧になった感想はいかがでしたか?
どちらの作品も、静か動かといったら静の印象を受けました。原作自体がそうなんですけど、物事が激しく動いていくというよりも、心のほうがゆっくりと動いていく物語だなと。
それを舞台で表現するのは難しい?
でも逆に、舞台だからこそ表現できることもあると思うので、映画やドラマとは全然違う『火花』になるだろうなと思っています。
石田さんは公式ページのコメント映像で「打倒、桐谷健太!」とおっしゃってましたが(笑)、植田さんは林さんや菅田さんのことを意識していますか?
やっぱり僕も同じ役者なので意識はしますよ(笑)。ふたりともお会いしたことはないですけど、同じ20代の役者として自分は自分の世界で頑張ってきたつもりだし、自分の表現の仕方で演じたいですね。菅田さんも林さんも、それぞれの徳永を生き生きと演じられていてとても素敵でした。でも、僕も負けないですけどね!(笑)
植田さんは徳永をどのように演じていきたいですか?
徳永の言葉が心に突き刺さってくるので、セリフひとつひとつを大切にしていきたいし、それがうまくできへんかったら、逆に俺は今まで何をやってきてん!と頭をかきむしりたくなると思います(笑)。それくらい素敵な役を演じられて、素敵なセリフを言えることがうれしい。役者冥利につきますよね。
舞台のほうは、又吉さんも観月さんも本人役で出演されるということで、どういうストーリーになっていくのかが楽しみですね。
そうですよね! だから『火花』を読んだ人、映画やドラマを見た人はもちろん、初めて『火花』に触れるという人も楽しめる作品やと思います。これも『火花』が芥川賞を受賞して、多くの人に愛されてるからこそできることですよね。舞台では、ト書きの部分を観月さんが読まれるので、ある種、副音声ガイド付きで本編が進んでいく感じだから、すごくわかりやすいとは思います。
芸人さんたちと舞台に立つのも、またいつもと違う感覚ではないですか?
僕、たぶん今回の舞台で最年少なんですよ。それも最近では久しぶりなことやし、芸人さんが身近にいるので、みなさんの胸を借りるつもりで盗めるところはどんどん盗んでいこうと思ってます! でも勢い込みすぎるのも何か違うなと思うので、そこは冷静に役と向き合っていきたいですね。
観月さんと又吉さんはもともと飲み友達という話を聞いたので、植田さんも舞台が始まったら誘われるかもしれないですね。植田さんもお酒は飲むんですよね?
1年前くらいまでは、家に帰ってビールを飲むというのが癒やしの時間だったんですけど、最近まったく飲まなくなってしまって。でも、もし誘っていただけたらものすごくうれしいです!(笑)
飲みの席で生まれる一体感とかもあるって聞きますしね。
ほんまにそう思います。とくに芸人さんたちはそうやと思うし、飲み会で生まれた空気感が舞台に反映されると思いますし。みなさんも楽しみにしていてください(笑)。
次のページ