高畑充希、めまぐるしく変わり続ける環境の中で見つけた“楽しさ”と“心のゆとり”

おかっぱ頭に、昭和の香り漂うレトロなセーター。映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』で見せる高畑充希の造形は、まるで小学生のよう。しかし、落ち着いた調子でひとつひとつ丁寧に質問に答えていく目の前の高畑を見ていると、スクリーンの中の姿とのギャップに、改めて彼女の演技巧者ぶりを思い知らされる。国民的ヒロインとして、広くお茶の間に認知されたのが去年。順風満帆に見えるキャリアの裏で、じつはある戸惑いを抱えていたと打ち明ける。

撮影/川野結李歌 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.

キュートなおかっぱ髪でファンタジーの世界に飛び込む

映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』は、鎌倉の町を舞台に、魔物や幽霊、妖怪や神様、仏様、死神様(?)まで登場する摩訶不思議で温かなファンタジーです。高畑さんは、ミステリー作家・一色正和(堺 雅人)に嫁ぐ年若い妻・亜紀子を演じていますが、可愛らしくてハマっていました。どんなキャラクターだと理解して演じていったのでしょうか?
女子大生という設定なので正和さんとの歳の差も感じるんですけど、幼い部分と、どんなことが起こっても意外にドンと受け入れる器の大きさみたいなものがある。まだまだ新妻だけど、どんどんいい奥さんになってゆきそうな素敵なキャラクターだなと感じました。
本作の山崎 貴監督が手がけた映画『ALWAYS 三丁目の夕日』と同じ、西岸良平さん原作のベストセラーコミック『鎌倉ものがたり』(双葉社)が原作です。亜紀子の外見も原作に近づくよう工夫したのでしょうか?
これまであまり原作モノに挑戦したことがなかったのですが、今回は原作にならって、せめてボブにはしたいなと思っていました。ホントは自分の髪を切りたかったんですけど、いろいろ事情があって切れなくて…。でも、髪をおかっぱにすると、より亜紀子の空気感や子どもっぽさに寄り添える気がしたので、メイクさんに大感謝です。
人間じゃないものがいっぱい出てくる作品ですが、こういう世界観のお話って普段から本で読まれたり、映画をご覧になったりしますか?
じつはあんまり…。普段映画を見るときも、単館で上映しているような、見終わったあとに落ち込んでしまう感じの作品が好きで(笑)。今回は、こんなに幅広い層に見ていただけるエンターテインメント性の高い楽しい作品に呼んでもらえたことが嬉しくって。とにかく飛び込んでみようと思いました。
ハッピーエンド系の作品はあまり好きではない?
どちらかと言うと、映画館が空いている感じが好きなんです。ハッピーエンドも、エンタメ作品も好きなんですけど、きっと家族みんなで見に行く作品だから、劇場内が賑やかですよね。私はワイワイした感じよりは、席が選べて、端の席にしなくてもお手洗いに行く心配がない小さな劇場が好きなんです(笑)。でも、飛行機に乗るとエンタメ作品をよく見ます。楽しい気持ちになりますから。

出会いはNHK。堺 雅人との絶妙な距離感

堺 雅人さんとのやり取りがとてもチャーミングでした。高畑さんお気に入りの夫婦のシーンはありますか?
プラモデルを買う、買わないのシーンかな。「先生、どれだけ(値段の)高いプラモデルを買ったんですか!」みたいな(笑)。正和さんのほうが年上だけど、家庭の中では亜紀子さんのほうが精神年齢が高かったりすることも。ふたりのポップな日常を描いた、温かくてコミカルなシーンは好きです。
年の差を感じさせない、堺さんとの掛け合いが可愛かったです。現場でおふたりはどういうふうに距離を縮めたのですか?
まだ役のこともあまりわからず、どうすればいいのか自分の中でもあやふやだったときに、「亜紀子さんって、とにかく最初から最後まで一色先生のことが大好きなんだな」と思って。それだけ忘れなければ亜紀子さんになれるような気がしたんです。「とにかく先生を見ていよう」と心に決めました。
なるほど。
演じる場所のバックが(CG処理を加えるため)グリーンだったり、難しいシーンもたくさんあったんですけど、堺さんはとってもフランクに距離を縮めてくださったので、緊張しすぎることなく演じられました。
べったりしすぎない夫婦のスキンシップもほっこりします。
私からはいっぱい触ろうって思って(笑)。やっぱりクランクイン当初は、役だとはわかっていても、先輩なのでなかなか触れられなかったんです。戸惑いもあったんですけど、やっていくうちに、叩いたり、さすったり、顔を寄せたりするのにあまり緊張もしなくなって。少しずつ近づけるようになっていきました。
堺さんと会うのは、今回の現場が初めてですか?
私が『とと姉ちゃん』(NHK)をやっていたとき、隣のスタジオで『真田丸』(同)を撮っていらしたので、よくNHKの廊下でお会いしていたんです。去年、NHKのトイレの前で、「今度一緒だよね」っていう話をしていて(笑)。それが出会いだったので、今回は初共演でしたが、初めてな感じがしませんでした。
NHKのトイレ前というのが何とも…(笑)。
撮っているときは、ふたりで出番を待っている時間も長かったのですが、お互いに本がすごく好きで。同じ部屋にいるのにどちらもずっと本を読んでる…みたいなこともありました(笑)。それでいて、後輩の私に気を遣わせないでいてくださる。ときどき、ふっと思い立ったみたいに、お互い突然しゃべり出したりもしました(笑)。
何の本を読んでいるのか、タイトルを教え合ったりしましたか?
堺さんが読んでる本は難しすぎて、私とは完全にジャンルが違いました(笑)。私は物語に入るのが好きなのでよく小説を読むのですが、堺さんは「何語で書いてあるの!?」みたいな、すごく専門的な本を読まれていて、「ここに足を踏み入れてもわかる気がしない!」と思って(笑)。お互いの本のことについてはそんなにしゃべっていないのですが、ご飯の話はしていましたね。
ご飯の話、たとえば…?
堺さんは撮影中に少し減量されていたので、「炭水化物をやめるために、ハンバーガーはバンズ抜きを注文する」という話をしていて。現場の近くにハンバーガー屋さんがあって、バンズ抜きのバーガーを2つ食べたとか、3つ食べたとかおっしゃっていて。「バンズを抜いても3つ食べたら一緒なんじゃないか」って話をしていました(笑)。
高畑さんは、正和さんのどういうところが素敵だと思いますか?
そうですね…。私はちょっと変な人が好きなんです。変なところで笑いのツボに入ったり、自分の好きなことを極めていたり、好奇心だけで突き進んでいたり。だから、正和さんのあんまり周りを気にしていない感じが素敵だと思います。ずいぶん年上なんですけど、大人でもあり、少年の一直線な感じも両方持っているところも好きです。
たしかに、高価なプラモデルを買ってきた正和に怒る場面も、怒りながらも愛あるやり取りでしたね。
ああいうの、何だかやりたくなることないですか? 「ダメでしょ」って言いたい。ホントは怒ってないんだけど、怒ってる奧さん感を出したい! っていう(笑)。そういう気持ちはとても共感できます。

初のCG作品は…「難しい」の連続で大苦戦!

ファンタジーの世界で繰り広げられる終盤のシーンは、ほとんどグリーンバックの前でのお芝居だったと思います。かなりイマジネーションを必要とされたと思いますが、ステージ上で背景をイメージして演じる、舞台女優として培った経験が活かされたのではないでしょうか?
もう難しすぎて…経験とか全然関係なかったです(笑)。何も活かせないというか、とにかく右も左もわからなくって。ホントに一面グリーンなんです。グリーンと岩、みたいな現場で。
岩はあるんですね(笑)。
魔物に追いかけられて飛び移る岩はあるんですけど、あとはすべて機材とグリーンみたいな感じなので、敵も何も見えないんです。
敵のいる場所はどう指示されたのですか?
「目線です」って言われて、猫バスの顔みたいなものだけをくっつけた棒をスタッフさんが掲げてくださるかたちだったので、真面目なセリフでは笑ってしまいそうに……(笑)。現場は穏やかですごくいい雰囲気だったんですけど、自分には難しすぎて、毎晩おうちで悶々としていました。ずっと手探りみたいな感じで。「役がわからなくて手探り」という経験はあるんですけど、「状況がわからない」というか…。
「状況がわからない」というのは大変ですね…。
たとえば、どういう重量の魔物が追いかけてきているとか、感じられないことがたくさんあって。そのぶんできあがりを観られる楽しみは大きいんですけど。こういうCGの多い作品に初めて出演したので、今まで山崎監督の作品を観客として楽しく拝見してたのですが、こんな状況で演じられていたのだと思うと、役者の皆さんをすごく尊敬しました。
今までやってきたお仕事とは違う、新しい扉を開けた感じでした?
そうですね。でも、日本の映画の中でも、この作品は新しい扉を開くのかなって思います。すごく貪欲だなと思うし、CGやファンタジーという分野では、今、日本で一番だと思う。山崎組のCGスタッフさんたちがいるからこそ、成立する作品なんだなって。きっと、皆さんが見たことのない世界ができあがると思うので、今回その部品になれて幸せでした。
山崎監督から言われて印象に残っていることはありますか?
現場ではあんまり話をしていなくて…。いつも撮影中になかなか監督さんと仲良くなれないんです。作品の話しかせずに終わってしまう。でも、山崎監督とは撮影が終わってから飲みに行ってすごく仲良くなりました。「あのとき、ああ思ってたんだ」とか、「そんなふうに感じてたのか」とか、あとでいろいろわかったこともありました。
現場で監督とあまり話さないというのは、役のことで頭がいっぱいだから?
単純に、人と深く仲良くなるまでちょっと時間がかかるタイプなんです。役者さん同士だと「役」があるので、仲良くなろうと自分も飛び込むし、ひとつ越えちゃえば大丈夫なんですけど、たまに人見知りを発揮するときがあって…(笑)。上手くやりたいんだけど、自分がいっぱいいっぱいだと気持ちがまわらなかったり、何をしゃべっていいのかわからなくなるんです。
終わった頃に交流を持つ余裕が生まれるんですね。
いつも「もうちょっとお話ができてたら」とは思うんですけど…。もちろん作品のことを話し合うことはありますが、プライベートまで話せるようになるには時間がかかります。

タイムスリップ気分が味わえる、大阪のお気に入りの街

今作は鎌倉が舞台ですが、行かれたことは?
あります。鎌倉はすごく好きな街です。ベタですけどあじさいが好きで、ふらっと思い立って品川から電車に乗って行ったこともあります。大学の友達と、車で鎌倉まで行って海を見て帰ったことも。今回の撮影でも何度か行ったんですけど、毎回雪が降っていて…。
高畑さんが雪女、というわけではなく?(笑)
そう信じたい(笑)。私の現場はだいたい晴れるんですけどね。誰か犯人がいるのかも!
ご出身は大阪ですが、上京してから東京で不思議だなと思った街は?
銀座です。このあいだ、久々に母と買いものに行ったんですけど、外国の方が多くて(笑)。GINZA SIXにも行ってみましたが、お客さんがすごく多国籍。ドラッグストアも外国の方がたくさんいてスゴかったです。
では、高畑さんが行ってワクワクする町はありますか?
大阪に中崎町という街があるんです。梅田駅の隣駅なんですけど、古本屋とか古着屋がマンションの1室とかに点在してる町で。本を読める古ーい喫茶店とか、商店街もあるんです。ちょっとタイムスリップしたような感覚になれるところで、大阪に帰るとよく行きます。
この映画を拝見して、もしもあの世があんな感じだったら、死ぬのも怖くないかも…と感じました。高畑さんはこれまでの人生で、この世のものではない力が働いてるなと感じた経験はありますか?
普段の生活ではあんまり思わないですけど、仕事をしてると感じますね。どのタイミングでどの役に出会うとか、けっこう“運”というか…。
“運”ですか。
私はもともとミュージカル志望で芸能界に入っているので、それがこうして映画やドラマに出られるようになるなんて、当時は正直まったく想像してなかったから。それに、去年ぐらいから主演をやらせていただくことが出てきて、そういうのも正直「なぜ?」って思っていたんです。自分の想像していた場所じゃないところにいて、怖い怖い怖い…って思っていた時期もありました。
そこには、何か不思議な力がはたらいてるかもしれない、と…。
周りの人から、「それも運だし、縁だし、導かれてるものもあるから」って慰められたりして。どうしてもやりたいのに予定が合わない作品もあるし、逆にやってみたら得るものがすごく多かった作品もある。だから、すごく落ち込むような状況になっても、「今はそういうタイミングなんだろうな」「これがダメでも、次はすごくいい出会いがあるかも」という発想になりましたね。
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