佐藤 健×土屋太鳳が、先輩後輩の強い信頼関係で見せる無償の愛
映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』で佐藤 健が演じるのは、病に倒れた婚約者を8年間にわたって見守り、待ち続けた男。信じがたいほど強固な男の意思が、「ウソのない芝居」を心がけたという佐藤の真摯な眼差しを通して伝わってくる。彼の目線の先にあるのは、土屋太鳳が演じる彼女の弾けるような笑顔の残像。強い絆で結ばれた夫婦の奇跡を体現して見せたふたり。彼らにも信頼と尊敬で結ばれた関係性があったからこそ、生まれたリアリティがそこにはあった。
撮影/祭貴義道 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.実在する人物を演じる責任感に立ち向かって臨んだ
- 映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』は、岡山在住の中原尚志(ひさし)さん・麻衣さん夫婦に起きた奇跡の実話を映画化した作品です。結婚を間近に控え、幸せな時間を過ごす麻衣さんが、ある日突然病に倒れ、意識不明の状態に陥ります。佐藤さんは、麻衣さんが目覚めると信じて待ち続けた尚志さんを演じたわけですが、今回出演を決めた理由は?
- 佐藤 プロデューサーさんに見せていただいた、おふたりのドキュメンタリー映像にすごく感動したんです。映画化するなら、ぜひ自分が演じたいと思いました。映像を見ていて、涙がこぼれていたんですよね。すごく優しい気持ちになりました。
- 土屋さんは、病気と闘った実在の女性を演じるということで、相当なプレッシャーを感じたのではないでしょうか?
- 土屋 実話で、しかも同じ時代を一緒に歩んでいる方のお話ですし、闘病されていたあいだの様子もしっかり描くということだったので、とても責任を感じました。中途半端な気持ちではできないと思って撮影に臨みました。
- どんな準備をされたのですか?
- 土屋 「役作り」なんて言うのはおこがましい気がして、取材でこれを聞かれたら何て答えようかなって、ずっと考えていたんですけど…。撮影前に麻衣さんたちとお会いする機会があったのですが、そのとき、息子さんも一緒だったんですよね。その息子さんがすごく可愛くて、ご家族も本当に息子さんを大事にされていて。だから、「(映画で描く)奇跡の向こうにあるのがこの時間なんだ」って考えると、「このご家族のために、尊敬の気持ちを持ってこの物語を全国に広げたい」と思って、撮影に臨んだことを覚えています。
- 佐藤さんというと、ヒーロー的な役柄を演じた経験も豊富です。今回の尚志さんはごくごく普通の男性でしたが、演じる難しさに違いはあるのでしょうか?
- 佐藤 もちろん、それぞれ違った難しさがあると思います。というか、もはや、やっていることが全然違います。「芝居をする」と言ってしまうと同じ言葉を使うことになるんだけど、俳優側からすると、別の言葉で表現してもいいと思うぐらい、まったく違う感覚ですね。
待ち続けた8年。彼はただ、彼女のそばにいたかった
- リハビリ中の麻衣さんの様子は、お芝居をやりすぎてもいけないし、かといってリアリティがなくてもいけない。相当難しかったのではないでしょうか?
- 土屋 闘病中の麻衣さんの映像をいただいて、何回も見て身体の動きを練習しました。どこの神経を使ったら身体のこの部分が曲がるのかな…など、頭で考えて。普段なかなか使わない神経を意識した部分もあるのですが、気持ちの部分ではとても苦しいお芝居でした。
- 尚志さんはずっと麻衣さんの回復を信じて見守り続けるわけですが、8年間の変化は何か意識しましたか?
- 佐藤 時間の経過はあまり意識しなかったです。尚志さんに対しては、ドキュメンタリー映像で見たときも、実際にお会いしたときも、ブレない人だなという印象がありましたし、変わらぬ思いで8年間ずっとそばにいたんだなっていう想像をしていました。
- 演じてみて、尚志さんが待ち続けられた理由について、何か感じたことはありますか?
- 佐藤 そのときに何をしたいか、何を求めているのかということだったと思うんです。尚志さんは、ただ麻衣さんのそばにいたかったんですよ。その積み重ねが8年という時間になっただけで。
- なるほど。
- 佐藤 その瞬間にも尚志さんは、麻衣さんが目を覚ますということを信じたかったし、麻衣さんのそばにいたかった。もし目を覚ますなら、その瞬間は絶対一緒にいたかっただろうし、リハビリを頑張っている麻衣さんがいるなら、そばで支えてあげたかったんですよね、きっと。
最強の先輩後輩コンビで追求した、ウソのない芝居
- 麻衣さんが病気になる前の前半部分のお芝居には、「尚志さんにとって、生涯の伴侶は麻衣さんじゃなければダメだったのだ」と信じさせてくれる説得力がありました。それは劇中の佐藤さんの表情や土屋さんの明るさによる部分が大きいと思います。
- 土屋 ああ、よかったぁ…。
- 前半部分のふたりのお芝居は、どう構築していったのでしょうか?
- 佐藤 実際、魅力のあるふたりなんです。尚志さんも、麻衣さんも。だから、台本を読んだ段階から「魅力的に映らなければいけない」ということは意識していました。土屋さんには土屋さんの「麻衣さんならどうするか」という考えがあるだろうし、僕の中にもあるので、合わせてみて、芝居にウソがないか、その空間にウソがないかということを意識してやっていきました。
- ウソがないか、というのは?
- 佐藤 芝居してるなーって思われたらダメなんですよね。やっぱり、その瞬間を生きていないといけないと思う。「何か、今のウソだったな」っていうのは、自分で演じていてもわかる。瀬々(敬久)監督からも、客観的に見てそう思うところがあればやり直しの指示があったし、僕たちもウソがないようにとディスカッションしてやっていました。
- おふたりは過去に共演しています。ウソがないお芝居をするうえでは、お互いにやりやすかったのでは?
- 土屋 健先輩は私が考えを溜めこまないように引き出してくださって、どのシーンでも、本当にコミュニケーションを大事にしてくださいました。監督と健先輩の中で、ドキュメンタリーを撮っているような気持ちでしたね。
- 「健先輩」って呼んでいらっしゃるんですか?
- 土屋 共演したとき、ずっと「佐藤さん、佐藤さん」って呼んでいたんですけど、「“佐藤さん”は何かイヤだな」って言われて(笑)。「健さん」だと普通だし、「健先輩にしましょう!」ってなったんですよね。
- 佐藤 そんな感じでしたね。「健先輩って呼びたい」って、彼女発信でしたね。
- さすが、体育会系っぽいですね(笑)。
- 土屋 こんなにも台本のことを考えて、作品のことを考えて、人のことを考えている方がいらっしゃるんだなって思いました。クランクアップのあとにポスター撮影があったんですけど、撮り終わったときの健先輩のホッとしたような顔がすごく人間らしくて…。
- 人間らしい(笑)。
- 土屋 …あ! 人間なんですよ! 人間なんですけど(笑)。ご一緒させていただいて幸せだったなと、より一層思いましたね。
- 後輩からの素敵な言葉を聞かれて、佐藤さんはいかがですか?
- 佐藤 いやー、ありがたいですね。彼女は物事を受け取めて、それに感動する感受性がすごく豊か。「1」受け取って、普通の人は「1」だと思うところを、彼女は「50」ぐらい感じて演じているところがある。
- 土屋 いえいえ…。でも、ありがとうございます! それは、私が「50」にしたわけではないですよ。健先輩が「50」やってくださったから、「50」受け取ることができたというだけで…。
- 佐藤 いや、僕が「50」投げたら「2500」になりますね(笑)。
- 先ほどからお話に出ている「ウソがないお芝居」も、球を投げたら膨らんで返ってくるような相性のよさがなせる技だったとも言えるのでは?
- 佐藤 もちろんそれもそうだし、やっぱり相手を信頼していないと、なかなか「出演したい!」とは思えないので。土屋さんのことは信頼できていましたね。
佐藤 健&土屋太鳳が、“無償の愛”を捧げるモノとは?
- この映画を見ると、尚志さんと麻衣さんは、本当に運命に導かれて出会ったご夫婦だと感じます。演じてみて、それぞれご自身の中で、理想のパートナー像が生まれたり、今まで抱いていた理想像が変わったりはしませんでしたか?
- 佐藤 とくに理想というのは持ってないです。でも、尚志さんと麻衣さんを間近で見ていて、ひとつの理想の形であることは間違いないとは思いました。まったく同じにできるわけではないけど、理想の形というものが存在することがわかったので、自分もいつか、そういう人と出会いたいなという気持ちはあります。
- 土屋さんはいかがですか?
- 土屋 (世界に男性が)35億人いるんだったら、私もそんな人にお会いしたいなと思いますね。でも、相手のことを尊敬できて、その人のことがとても好きで、相手の方も私のことを好きだったら、それが一番。まずは、出会う方ひとりひとりとのご縁を大事にしていけたらなと思います。
- 最後に、おふたりが無償の愛を注げるモノをそれぞれ教えてください。
- 佐藤 実家にいるネコですね。「無償」っていう言葉がしっくりきます。
- 土屋 いっぱいあるんですけど、今は出演した作品ですかね。やっぱり出演したらずっと守りたいと思いますし、出演できたご縁自体もありがたいので。
- 佐藤 健(さとう・たける)
- 1989年3月21日生まれ。埼玉県出身。A型。ドラマ『ROOKIES』(TBS系)やNHK大河ドラマ『龍馬伝』など、次々と話題作に出演して人気を博す。その他のドラマ出演作は『Q10』(日本テレビ系)、『とんび』、『天皇の料理番』(ともにTBS系)など。映画出演作は『カノジョは嘘を愛しすぎてる』、『バクマン。』、『世界から猫が消えたなら』、『何者』、『亜人』など。2018年には『いぬやしき』、『ハード・コア』が公開予定。2018年4月より、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』に出演する。
- 土屋太鳳(つちや・たお)
- 1995年2月3日生まれ。東京都出身。O型。2015年、NHK連続テレビ小説『まれ』のヒロインに抜擢される。2016年には第39回日本アカデミー賞新人俳優賞、エランドール賞新人賞を受賞。主なドラマ出演作は『鈴木先生』(テレビ東京系)、『下町ロケット』(TBS系)など。映画出演作は『鈴木先生』、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』、『orange−オレンジ−』、『青空エール』、『PとJK』、『兄に愛されすぎて困ってます』、『トリガール!』など。2018年には、4月27日公開の映画『となりの怪物くん』、『累‐かさね‐』が公開予定。1月6日から上演される舞台『プルートゥ PLUTO』への出演も決まっている。
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