磯村勇斗、朝ドラ『ひよっこ』を経て…恋を見守る男子を熱演!

「ヒデ、幸せになってよかったねぇ」――。朝ドラ『ひよっこ』(NHK)終了からひと月以上が経つが、つい親戚のおばちゃんのような気分でそう言いたくなる。「さすがに街でいきなり言われることはないですけど、知り合いからは祝福されました」と磯村勇斗は笑う。下積みを経て『仮面ライダーゴースト』(テレビ朝日系)で注目を浴び、今年、お茶の間に一気に顔を売った。もちろん、ここで立ち止まる気はないし、時代もそれを許さない。朝ドラを超える当たり役を求め、25歳の新鋭はすでに走り始めている。

撮影/平岩 享 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.

和歌山弁にドラム…クロを演じることで、はじめて経験

映画『覆面系ノイズ』は『ひよっこ』より前の昨年の冬に撮影され、ようやく公開を迎えます。原作は福山リョウコさんの人気漫画で、有栖川 仁乃(通称:ニノ/中条あやみ)、杠 花奏(通称:ユズ/志尊 淳)、榊 桃(通称:モモ/小関裕太)という歌で結ばれた3人を中心に物語は展開します。磯村さんが演じるのは、ユズを中心にした覆面バンドのin NO hurry to shout;(通称:イノハリ)のドラム担当、クロですね。
クロという役に注目しながら原作を読み進めていったんですが、クロは明るく、テンション高めで毒舌なところがあるキャラ。そこは大事に演じたいなって思いました。物語全体の印象は、切なさを感じさせつつも迫力があるというか、強く訴えかけるメッセージ性をすごく感じました。
クロは和歌山弁を話すという設定ですが、磯村さん自身は静岡のご出身ですよね? 役作りや準備はいかがでした?
和歌山弁は正直、いままで聞いたことがない方言で、関西弁の友達はいましたが、関西弁とは少し違うんですよね。方言指導の方からいただいた音源を聞いて、言い回しやイントネーションを頭に叩き込みましたし、和歌山のローカル番組を見て、そこで会話をされている方々がどんなふうに相手の言葉にリアクションしているかなどを勉強しました。
さらに、バンドのメンバーとして実際にドラムを演奏するシーンもあり、ゼロからドラムの叩き方を学んだそうですね。これまでドラム以外でも楽器に触った経験は…?
それがほとんどなくて、DJのスクラッチをちょっといじったことがあるくらいでした。劇中で3曲演奏するんですが、撮影開始の3ヶ月前から始めて、基礎からやっていると間に合わないので、同時並行で実際の楽曲での演奏の練習も進めるというかなりの急ピッチで…。
そんなハードスケジュールではありましたが、実際にドラムに触れてみていかがでしたか?
やはり難しかったですね。曲ごとにリズムとビートがあって、そこにしっかりと合わせて叩かないといけないし、手と足でまったく違う動きをしなくてはいけないのも大変でした。でも、やっていると楽しくてハマるんです。
撮影終了後のいまも、趣味でドラムを楽しんでいらっしゃるとか?
はい。もともと、音楽を聴くうえで、リズムを刻むベースやドラムの音が好きだったんですが、自分がそこを奏でることができるのが楽しくて(笑)、いまも続けてます!
撮影のために練習するうえで、具体的に参考にされたドラマーなどはいらっしゃったんですか?
いまの時代、プロに限らずいろんな方が動画で演奏の様子をアップしているので、そういう映像はいろいろ見ましたね。始めたばかりの頃に、X JAPANのYOSHIKIさんの演奏も見たんですけど「これは…。俺がいま参考にさせていただくようなレベルじゃない!」って(苦笑)。
少しでもかじってみると、その道の第一線の人がどれだけすさまじいレベルなのかが実感できますね。
いや、本当にそうなんです。そもそも、ドラムの数が全然違いますから!(笑) ネットを見ると、高校生のドラマーがアップした映像もあって、イノハリも高校生バンドですから、参考にさせてもらったりもしました。

年上ということは気にせず、場の盛り上げ役に徹した

ギターのユズ、ベースの悠埜 佳斗(通称:ハルヨシ/杉野遥亮)、新旧ボーカルのニノと珠久里 深桜(真野恵里菜)というメンバーの中でのクロの立ち位置に関しては、どんなふうに考えて作っていったのでしょうか?
ドラムはやはり、バンドの中でもみんなを支え、ビートを刻む心臓部分。演奏でも一番後ろからみんなを見守るポジションだし、それはこの青春物語の中で、メンバーそれぞれの片思いを見守るクロの立ち位置とも重なるんですよね。そこは芯として持ち続けようという意識で現場にいました。
なるほど。
ハルヨシが部長でバンドのまとめ役という設定で、クロはキャラクター的にムードメーカーなので、カメラが回ってないところでも、意識して現場を盛り上げていましたね。僕がふざける→ボケる→シラけた空気になって終わる…という(笑)。
俳優陣の実年齢では、真野さんと磯村さんが少し年上でしたが、みんなを引っ張ろうと意識するのではなく?
真野ちゃんは、やっぱり一番落ち着いていてしっかりしているので、その部分は真野ちゃんに任せつつ…。自分まで落ち着いちゃうと、役やバンドにも影響しちゃうので、あえて年上ということは意識せず、まとめるんじゃなくて、かき乱していこうと思ってやっていました。
仮面ライダーネクロム(『仮面ライダーゴースト』)の磯村さんから見て、トッキュウ1号(『烈車戦隊トッキュウジャー』)の志尊さんの印象は?
いや、そこは意識してないですよ(笑)。闘争心あふれる戦隊ヒーロー…とかじゃなく、僕の中で、じゅんじゅん(志尊)のことは、ユズとしてしか見てなかったです。一緒にいいものを作り上げていこうという意識を強く持って、やらせてもらいました。
クロは原作通りの猫耳のニットをかぶっていますね。衣装やビジュアルに関しても、事前に細かく監督やスタッフさんと話をされたんですか?
原作の猫耳ニットの印象がすごく強くて、実写化するとなったときどうするのかな? と気になっていたんですが、衣装合わせで小道具さんがひょいっと猫耳ニットを取り出して、かぶってみたら「原作のまんまじゃん!」って感じで(笑)。
これまで演じてきた役の中でも、ビジュアル的にカワイイ磯村さんが見られると思います。ご自身でクロとしての姿を見て、印象はいかがでした?
(照れながら)いや、まあ、なかなか似合ってるんじゃないですか…(笑)。

自分の恋愛を人に相談するのは好きじゃない…?

先ほど、クロの立ち位置として「みんなの片思いを見守る立場」とおっしゃっていましたが、本作で描かれるさまざまな恋模様を、磯村さんご自身はどう受け止めましたか?
やはり高校生らしい恋というか、恋心って何なのか? 初恋ってどんなもの? と問いかけるような初々しさがありますよね。自分はどうしても25歳として「まだまだ子どもだなぁ…」って思いつつ、見ちゃいますけど(笑)。
年を重ねてしまうと、失恋をきっかけに曲が書けなくなってしまったり、「バンドやめる」と思い悩んだりする彼らが眩しく見えますよね。
高校生らしいなぁって(笑)。高校生だからこそ、素直にバンド内で恋心をぶつけたりもできて…。甘酸っぱくていいなって思いました。本当にプロとしてやっていくなら、あんまり愛とか恋とかバンドに持ち込まないほうがいいと思いますけどね(笑)。
ちなみに磯村さんは、クロのように学生時代に友人の恋愛を見守ったり、応援したりした経験はありますか?
女の子の友達から、恋愛の相談をされることはわりとありましたね。「どうしたらいいと思う? 男の子の意見を聞きたい」と。ただ、僕はあんまり他人の恋愛に口出しするタイプじゃないので、言葉は悪いですが「勝手にしなさい」って感じでした(笑)。
そんな冷たい…(笑)。
あんまり、恋愛に関して「俺が俺が!」って前に出るのもイヤだし、逆にされるのもイヤなんですよ。だから深くは立ち入らず、そこは一線を引いていました。自分の恋に関して、他人に相談することもないです。そもそも、恋の話をするのが好きじゃないんです。恥ずかしくて…(笑)。
そこはドSな感じで冷たく突き放すというより、恥ずかしいからなんですね(笑)。ただ、周りに相談や協力を求めないということは、自分の恋に関して、ひとりでアプローチするしかないってことですよね?
逆にそうやって、自分で行くしかない環境を作ってしまったほうがいいのかなと思いますね。あいだに人が入ると、ややこしくなっちゃうし、ストレートに1対1でやりとりするほうが自分に合っていますね。
では好きになったら、ためらうことなくガツンとアプローチを?
いや、ためらいますよ(苦笑)。でも、どこかで一度スイッチが入ったら、ガーッと行っちゃいますね。スイッチが入るまでは「行こうかな? やめようかな…? でも…」って感じなんですけど(笑)。
具体的にスイッチが入るというのは?
少しずつ、相手の反応をうかがう中で、これはもう向こうも待っているなと思えたら行くし、自分自身の気持ちをこれ以上、抑えられないと思ったら、気持ちを伝えちゃいます。
そういう意味で、この映画の登場人物たちの中でいうと近いのは…。
みんな、僕の恋愛観とは少しずつ違うかもしれないけど…ハルヨシは、深桜に対してわりとストレートにアプローチしてますよね? 近い部分があるかなと思いますね。
今回の映画では残念ながらそこまで描かれませんが、原作ではクロもまた、ちょっとややこしい恋に足を突っ込んでるんですよね?
そうなんですよ! 映画ではそこは描かれないんですけど…。考えようによっては、クロの恋が一番ヤバいんじゃないかと(笑)。だってお兄さんの恋人に恋心を…。危険なところですよね。
できることなら、スピンオフで磯村さんが、クロの難しい恋愛部分を演じている姿を見たいというファンも多いかと…。
いや、僕も演じてみたいです! 複雑な恋。ドロドロした感じが絶対に楽しそうじゃないですか(笑)。普段の生活の中でありえないことだからこそ、演じてどんな気持ちになるのか…やってみたいですね。
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