羽多野 渉「キャラクターから勇気をもらう」からこそ、作品に寄り添う姿勢を忘れない

7月に発売された7thシングル『ハートシグナル』のピンクと白の可愛らしい衣装から一変、11月22日に発売される8thシングル『KING & QUEEN』では、白と黒を基調とした、シックでフォーマルなタイが印象的な衣装に身を包む。羽多野が主題歌を担当するとき、とくに大事にしているのは「アニメに寄り添ってリスペクトの姿勢を忘れない」こと。今回の楽曲は、これまで彼が主題歌を務めてきたTVアニメ『Dance with Devils』の劇場版となる、『Dance with Devils-Fortuna-』のテーマソング。衣装からも羽多野の作品に寄り添う姿勢が垣間見えた。

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

“ダンデビ”史上、一番可愛い楽曲に仕上がった

『KING & QUEEN』は、11月4日から公開される劇場版『Dance with Devils-Fortuna-』の主題歌です。『Dance with Devils』(通称“ダンデビ”)は、女性向け作品ブランドのRejetと、音楽制作グループのElements Garden、エイベックス・ピクチャーズの3社による共同プロジェクトで、登場人物のアクマたちが織りなすミュージカルアニメ。2015年にはテレビアニメシリーズが放送されました。
テレビアニメの放送から2年が経って、こうして劇場版でまた“ダンデビ”の主題歌を担当させていただけることをうれしく思っています。
テレビアニメシリーズの『覚醒のAir』、2016年に発売されたゲーム版の『運命のCoda』と、これまで“ダンデビ”シリーズの主題歌を担当されてきました。今回の『KING & QUEEN』は、この2曲と比べてもまた毛色の異なる楽曲ですね。
そうなんです。これまで“ダンデビ”と言えばキャラクターソング含め、ロックなんだけどちょっとゴシック調で怪しげな雰囲気を持つ楽曲が多かったんです。でも、『KING & QUEEN』のデモを聴かせていただいたときに「あれ…!?」と思って。
これまでの楽曲とはまた違う雰囲気を感じた?
とても明るくて、元気になれるような楽曲だなと感じました。レコーディングのときに作曲の藤田(淳平)さんから、この曲は、テレビアニメシリーズをギュッと凝縮した劇場版の主題歌ということから、劇場版というひとつのミュージカル作品のカーテンコールに位置するような楽曲にしているんだ、というイメージを聞いて。すごく納得しましたね。
なるほど! 劇場版という、言うなれば集大成ですし、ミュージカルアニメである“ダンデビ”だからこそ、カーテンコールという言葉はしっくりきますね。
そうなんですよ。僕も「なるほど!」と思いました。そのお話を聞いて、どうしてこういった楽曲に仕上がったのか、というスタッフさんたちの思惑みたいなものが理解できましたね。
カーテンコールという位置づけであることのほかに、レコーディングで意識されたことはありますか?
やはり、これまでカッコよくてクールな曲が多かったので、“ダンデビ”っぽさという固定概念に引きずられないように、というのは意識しました。今回は、口角がクッと上がるような、笑顔になれる前向きさというのを表現できたらいいなと思ったので、そういう部分をレコーディングのときにプロデューサーさんとディスカッションしながら進めていきました。楽曲も変則的な構成でとても面白いんですよ。
◆MVオフショット
ぜひ、その面白さも教えてください。
1番は普通にAメロ、Bメロ、サビという流れですが、2番はBメロのあとに間奏が入っています。もちろん、盛り上がるところもあるので、フルで聴いていただいて、1曲のなかにあるさまざまな波を感じていただきたいです。
歌ってみて、いかがでしたか?
とくに印象に残っているのは、大サビに入る前の「離れても おなじ歌を、歌えばいいさ 泣かないで いつか、必ず 出会えるよ」というフレーズ。この曲のなかで一番メッセージ性が強いところだと思ったので、とても大事に歌わせていただきました。大サビに入る前の静かな部分なので、最後に盛り上げるという意味でも、丁寧に歌った部分です。
そういった歌詞について、作詞のDaisuke Iwasakiさんとは何かお話されたことはありますか?
直接お話をする機会はなかったのですが、人づてに岩崎さんがこの曲に込めたメッセージというのを聞きました。これまでの曲と比べて、曲調もですが歌詞もすごく可愛らしいんです。1番Aメロの「どんな顔で 窓を、開けたの?」とか、セリフっぽくてすごく可愛いですよね。“ダンデビ”史上、一番可愛い楽曲になったのではないかなと思います。
◆MVオフショット
岩崎さんの歌詞に多い、漢字で違う読み方をさせる“ルビ読み”もなかったですね。
そうなんですよね! おそらく、歌詞の内容に重きを置いてくださったのではないかなと思います。これまでソリッドでカッコいい曲が多かったですが、“ダンデビ”の温かさを表したような…。今回、曲のなかには聴いてくださるみなさんと一緒に楽しめるところもあるので、「一緒に楽しもうよ!」という意味も込められているのではと感じました。
みんなで楽しめる部分とは?
曲のなかでかけあいができるところがあるんです。たとえば、「そばに(いるから)」という部分。CDのなかでは、僕の声で「いるから」のところも収録しているのですが、もしライブなどで歌うときは、僕が「そばに」と歌ったら「いるから」と、みなさんに歌ってほしいなと思います。
楽しそうです!
これまでお客さんとかけあいができる楽曲がなかったので、そういう意味でまた新たな挑戦の楽曲になったんじゃないかなと思います。

リツカへの愛情があふれすぎ…!? 劇場版のアフレコ裏話

これまでのテレビシリーズでもミュージカルシーンの演出はすごく魅力的でしたが、公開されている劇場予告で、羽多野さんが演じる立華リンドが、猫たちを従えて歌っている姿がとにかく印象的です。
ははは! そうなんですよ。劇場版は、これまでのテレビアニメシリーズのストーリーを追っていくのもありますが、もちろん、新たに描かれる部分もあって。キャラクターたちの新曲もあるんですよ。リンドの新曲『全部お前の為だ!』では、猫たちがリンドの後ろで踊ってくれています。僕自身、猫が好きなのでうれしかったです(笑)。
劇場版のアフレコはいかがでしたか?
ありがたいことに、劇場版ではアニメシリーズで描かれていたシーンのセリフも、すべて再収録させていただいたんです。
すべて録り直されたんですね。
はい。なので、アフレコをしながらキャストのみんなと「このシーン懐かしいね」とか「こんなシーンもあったね!」なんて思い出話をしながら和気あいあいと進めていきました。久しぶりのキャラクターとの再会でしたが、僕自身、リンドとは全然久しぶりな気はしなかったですね。
では、リンドという役にスッと入っていけたのですね。
そうなんです。それにテレビアニメが終わって、いったんキャスト全員が “ダンデビ”から物理的に離れていましたけど、それぞれキャラクターたちはずっとそばにいて。そのあいだも、みんなキャラクターとして主人公の立華リツカ(茜屋日海夏)との愛を感覚的に育んでしまっていたので、アフレコは大変だった部分もありました(笑)。
リツカの周りには、兄であるリンドをはじめ、四皇學園(しこうがくえん)の生徒会役員で、その正体はアクマである鉤貫レム(斉藤壮馬)、楚神ウリエ(近藤 隆)、南那城メィジ(木村 昴)、棗坂シキ(平川大輔)など、魅力的な男性たちが現れます。みんなリツカに惹かれていき…テレビアニメでは、リツカと男性キャラクターたちとの胸キュンなシーンもたくさん描かれました。
みんな知らぬうちに、キャラクターとしてリツカとの愛を育んでしまっていたのですが、劇場版ではもちろん、リツカと出会う最初のシーンもあって。出会いのときの、まだリツカに心を許していない感覚に戻すのがみんな大変だったんです(笑)。第一声から優しくなっちゃったり、すでに(リツカは)“俺の女”感が出てしまったり…。
俺の女”感(笑)。みんなリツカと出会い、共に過ごすことで次第に彼女に惹かれていきますからね。
音響監督にも「今のセリフの感じ、ちょっとリツカへの愛情が深すぎます」とか、「アクマなのに優しすぎるよ!」と言われていたことも。
リンドとしてはどうでしたか?
リンドはイギリスに留学していたこともあって、あとから登場するんです。僕も自分の出番を待ちながら緊張していたのですが、収録していても何も言われなくて。ふと、「あ、お兄ちゃん(リンド)は最初からリツカへの愛は全力投球だったな」と気づいたんです(笑)。
リンドはリツカのことを「守りたい」と強く思うほど大事にしていますね。ただ、兄としては、けっこう過剰な愛情を持って接しているのが垣間見える部分も…(笑)。
そうなんです(笑)。リンドは最初からリツカのことが大好きで、彼女に対する思いは誰にも負けないんです。監督からも「お兄ちゃんは面白いね」って言われました。おかしいですよね! リツカへの真面目な愛情表現のはずが、面白さが出てしまうって。でも、リンドはそれでいいんです(笑)。
劇場版でも、リツカへの愛が全力のリンドが見られるのですね。劇場版がますます楽しみになりました。
僕らキャスト陣にとっても、音声を再度収録させてもらえるとてもいい環境でした。劇場版でしか見られない細かな表情、キャラクターたちの繊細な気持ちの変化を、心を込めて僕たちも演じましたので、テレビアニメと比較して楽しんでいただいても面白いんじゃないかなと思います。
ちなみに…劇場予告で、『KING & QUEEN』が流れる際に字幕が出ていたので、これはいわゆる“応援上映”ができるのかな…? と思ってしまいましたが…。
おっ! お気づきですか。やはり、勘の鋭い方はわかっちゃいますよね(笑)。それに「私たち“本気”出していいの?」と思っている方も多いはずです。……ぜひ、本気を出していただけたらと思います(笑)。
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