「号泣しながら録った」――声優・榎木淳弥が明かす映画『スパイダーマン』の収録秘話

「憧れの人って考えてみると難しいですね…」――声優・榎木淳弥はマジメな表情で答えた。テレビアニメ『活撃 刀剣乱舞』をはじめ、『デジモンアドベンチャー tri.』や、『アイドルマスター SideM』などの出演で注目を集めている榎木。公開中の映画『スパイダーマン:ホームカミング』でも、主演の吹き替えを務めている。今後、ますますの活躍が期待される榎木の取材で見えてきたもの、それは「誰かを目指したいわけではなく、自分ができる最大限のことをやる」という芝居への姿勢だ。

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
ヘアメイク/久保マリ子

ボロボロの状態で収録…ピーターの心情がリンクしたシーン

榎木さんは、2016年に公開された映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から引き続き、ピーター・パーカー/スパイダーマンの吹き替えを務められています。今作の映画『スパイダーマン:ホームカミング』では、メインという立場でのアフレコになりましたね。
映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のときは、映画後半からの出番だったので、セリフ量もそこまで多くありませんでした。メインである今作では終始しゃべりっぱなしでしたが、そのぶん、キャラクターに対する情報量も多かったので、役を作りやすかったです。
これまで、映画『スパイダーマン』シリーズはご覧になっていましたか?
テレビで放送されていたものは見たことがあるのですが、今回のスパイダーマンはこれまでの作品とだいぶキャラクターが違うので、自分のなかで過去のイメージに引っ張られないよう、あえて以前の映像は見ずに演じました。
過去のシリーズを参考にせず、新たなキャラクターを作り上げる意識でアフレコに臨んだ?
そうですね。僕自身もそこまで詳しいわけではないのですが、これまでの作品では、けっこうナイーブな気質があったと感じていて。でも、今作では終始明るいキャラクターなので、映像はなるべく見ないように、「スパイダーマンはこういうもの」という固定観念をなくしたいと思って、一生懸命アフレコに臨みました。
今作は、日本だけでなく、海外でも人気の『マーベル・シネマティック・ユニバース』(※MCU。マーベル・スタジオによる作品が共通して持つ世界観のこと)のひとつ。全世界で愛されている、大きな作品に参加するプレッシャーなどはありましたか?
プレッシャーはそこまで感じていませんでした。作品の世界観が吹き替えでも伝わるように、とにかく一生懸命やらないと、という責任感のほうが強かったです。
榎木さんが今作のなかで、印象に残っているシーンは?
一番記憶に残っているのは、物語終盤でピーターががれきのなかから起き上がるシーン。朝イチからアフレコをしていて、ここは、夜の収録終わりくらいで録ったシーンなんです。丸一日収録をしていたので、僕の体がボロボロになってきた状態と、ピーターのボロボロになった心情がうまく重なって。僕も号泣しながら演じていました。
号泣しながら…!? 榎木さんの状況と、ピーターの状況がうまく重なったんですね。
僕自身も、「こういうふうにお芝居をしよう」という意識を持てる余裕がないくらい、感じるままに出た芝居をピーターに乗せました。それがうまく重なって、ここは、自分でも素敵なシーンになったんじゃないかなと思います。

吹き替えの現場で、自分にとってのベストを模索中

榎木さんは、アニメがキッカケで声優を目指したとのことですが、洋画の吹き替えに興味はありましたか?
もともとは、邦画を見ることのほうが多かったのと、洋画も字幕で見ることのほうが多かったので、そこまで慣れ親しんだ感じではなかったです。
それから、お仕事としてこうして吹き替えに参加されて…。
最近は勉強のために、吹き替えで見ることが多くなりました。それでも、僕自身まだまだ吹き替えの経験は浅いので、自分のなかでしっくりくるやり方を探しています。
そうなんですね。
毎回、こういった吹き替えの収録に参加させていただくときには、何が自分のベストなのかを模索しながら、演じさせていただいています。でも、アニメや吹き替え、舞台や映像でも、芝居をするという点では大きな違いはないと思うので、根本的な部分は大事にして演じていこうと思っています。
アニメも映画も、収録に臨む意識は変わらない?
細かいテクニックで違いは出てくると思いますが、演じるという根本的な意識は変わらないです。
細かいテクニックというと、たとえばどんな部分で違いがあると感じますか?
たとえば、アドリブでの息遣いなどで、アニメでは少し誇張して表現することもあるのですが、吹き替えでは、もとの俳優さんのお芝居が根底にあるので、そこに沿うような形で表現をしたりとか、そういった部分ですね。
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