変革と激動の時代をどう生きるか? 伊勢谷友介に学ぶ、夢の追いかけ方
取材の数日前に41歳になった。“不惑の四十”を過ぎて早1年。伊勢谷友介は「この歳になると浮かれないですね。経験を重ねて、めずらしいこと、初めてのことが減ってきて、成功も失敗も想像の範疇に収まるんですよ」と淡々と語る。俳優として鬼気迫る勢いで役になりきる一方、一歩外に出れば世界を、未来を、そして自らをとことん冷静に見つめ、実業家として社会のために奔走する。そんな彼の目に、映画『忍びの国』で激動の戦国時代を生きる男たちの姿はどのように映ったのだろうか?
撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.作中の“役目”が明確だったからこそ、見えた大膳像
- 映画『忍びの国』は、天下を手中に収めようとする織田軍と伊賀の忍者たちの戦いを描く戦国エンターテインメントですね。伊勢谷さん演じる日置大膳(へき・だいぜん)は、伊勢の北畠家の家臣でありながら主君を裏切り、織田軍についた武将ですが、己の行為に葛藤し、新たな主君である信長の次男・信雄(のぶかつ/知念侑李)にも容易に屈しない誇り高き男です。
- (大膳の立場を説明するのは)すごく難しいなって思います。現代に置き換えてもいろんな見方ができますよね。上司を裏切りつつも、でもリスペクトを持っている。
- 大膳だけでなく、どの人物も単純ではないですね。主人公・無門(大野 智)らが属する伊賀の忍び軍が正義で、織田軍が悪の侵略者かというと、そういうわけでもなく…。
- そうなんですよね。お金のためなら何でもする忍びたちの生き方を、大膳は厳しい目で見つめ、それじゃダメなんじゃないかと律しようとする側にいる。じゃあ、織田軍が正義かというと、もちろん違う。信雄は、あえて大膳にかつての主君・北畠具教(とものり/國村 隼)を殺させようとしますが、そんな意地の悪い処分の仕方で平和が訪れるわけもないし。
- お金中心で生きる忍びたちと、武力で人の心さえも支配しようとする織田軍。どちらも正しいと言えないからこそ、苦悩を抱えつつ、己の生き方を貫こうとする大膳がカッコよく見えるのかもしれません。
- ひとつ言えるのは、大膳はイノベーター(変革者)ではないってことですね。つまり、過去から積み上げられてきた、古い武士の姿に重きを置いて生きる以外の道を見つけようとする人ではない。いまある政治体制をキッチリと支えようとする、いわば“与党”の幹部ですよね。そこに、忍びにはわからない美学もあるし、実直さもあるんでしょうね。
- 自身が演じられた役柄を、けっこう辛らつな目で見ていますね。そうした分析は演じるうえでも活かされているんですか?
- いや、いま僕が言った内容はどちらかというと、完成した映画を見て、ひとりの観客として想像を巡らせ、現代に置き換えて考えたことですね。実際に演じるうえでは、物語の中での大膳の役目というのを考えてやったことが大きいです。
- 具体的には?
- 映画の中で忍び軍があえて、ど真ん中の道を外してくることがすごく多かったですし、同じく大膳の同僚の長野左京亮(マキタスポーツ)も、かなりズラしてくるので(笑)、大膳は軸をぶらさずにまっすぐ、ど真ん中の道を行くしかなかったです。大膳自身、思ったらすぐ行動に移すタイプなので、そこは迷いなく演じました。
- そうやって、作品の中での自身の役の“立場”を見定めてアプローチするというやり方は、この映画に限らず普段から?
- 今回は、それがいつも以上にハッキリしていたっていうのはありますね。忍びたちが、過去の映画で描かれた“影の軍団”という感じの、ポーカーフェイスの闇を帯びた存在とは正反対だったので、僕があっち行ったり、こっち行ったり、笑ったりすべきじゃない。
年齢を重ねて感じる、俳優としての立ち位置
- 本作を含めここ数年、20代、30代の主人公がいて、その主人公をサポート、もしくは敵として対峙するという役柄を演じることが多くなってきたかと思いますが、そうした役割を求められることについてはどう考えていますか?
- そこがまさにいま一番、僕の中で感覚的にハマってきたというか、整理がついてきたと感じているところなんですよね。先の見えない、よくわからないこの世界で「とにかく上に立ちたい!」とか「結果を出したい!」とあがいていた世代とは、確実に違ってきている。
- 年齢を重ねて、求められる役割が確実に変わったのを感じている?
- それは、ある意味で残念なことかもしれないけど、とはいえ40歳を過ぎれば、どうしたって世の中のこと、映画界のことを冷静に一歩引いて見られるようになる。いまの僕の社会での立ち位置、そこで得ている信頼を踏まえて僕ができることは何か? って考えたらそうなる。そう考えるようになったのは…30代の半ば頃かな?
- 作品で言うと…?
- 映画『あしたのジョー』で力石(徹)を演じたときくらいですかね? “二番手の存在感”を意識して作品に向き合う感覚というか…。ジャニーズの方が主演の作品に参加させていただける機会が多いんですよ。エンタメ系の大作に出させていただく機会が増えているんだなっていうのは、実感してますね。もともと、芸大(東京藝術大学)出身なのでアート系、アンダーグラウンド、単館系の作品が多かったんですけどね(笑)。
- そこに苦悩や葛藤は?
- いや、それをどう受け止め、自分の実にしていくかですよね。単に「自分はもう主演できない」と悲観的にとらえてもキリがない。40代で映画の主演を張る俳優の少なさたるや、ハンパないですからね。僕はその立場を早々に受け入れました(笑)。
- 最初から“完成形”として存在しないといけないというのは、若い主人公とは別の難しさがあるかとも思いますが…。
- うーん、でも未熟さを演じるほうが難しいかな(笑)。40になってバカなフリ、理解できてないフリをするって難しいですよ。40歳を過ぎたら、いまおっしゃったような“ドンと変わらない存在感”みたいなものを追求すべき時期なのかもしれないですね。
「いまの時代をどう生きるか考える」――これから歩む道
- 伊勢谷さんを見ていると、作品ごとに魂を削るように打ち込む一方で、俳優という仕事そのものにはあまり執着がないようにも感じます。「リバースプロジェクト」という、ご自身で運営する社会活動の会社をお持ちであることが影響しているんだと思いますが…。
- 俳優の道を極めるために努力を積み重ねて、たとえば海外の作品に出ることを目標に、オーディションを受けたり、海外に住んだりということをしていたら、たぶん、何か変わっていたでしょうね。でも僕はそっちじゃなく、自分の中の哲学的な考えを整理し、行動や形に変えるということを30代でやってきたし、それが面白かった。
- 俳優の道一本にしぼるのではなく…。
- しかも僕、ドラマもほとんど出なかったから、時間があったんですよ。40代になって、こういう立場だと映画に出ても、さらに時間も余裕もある。そういう中で、いま、「リバース」の活動があるのはすごく大きいし、ありがたいですね。
- 俳優・伊勢谷友介のファンとしては少し、寂しくもありますが…(苦笑)。
- いや、もちろん俳優として、もっと突っ込んだ役をやりたいという思いもありますよ。自分を客観視してひとりの俳優として見ると、やはりチャレンジしているときのほうがいいなと思いますしね。俳優としては、さらに年齢を重ねたときに、今回、國村さんが演じた北畠具教のような役ができる存在になれたらいいなと思いますね。
- いま、俳優としてのこの先の話が少し出ましたが、今後、伊勢谷友介が進むべき道は?
- 僕は、自分も含めて人間社会を客観視したうえで「日本人の僕がどうあるべきか?」と考えるんですよね。まず僕の世代は100歳まで生きると言われていて、そうすると人生のループがもうひと回りくらい増えますよね。
- これまで80歳くらいまでのイメージで人生を考えていたのが、さらに伸びる?
- 厄年がもう1回、巡ってくるような感じ(笑)。結婚も1回や2回じゃなく、3回、4回くらいが当たり前になるかも。生き方に多様性が生まれてくる。そういう、ものすごい過渡期の中で、生き方、生活の仕方を転換している真っ只中にあるんだなというのを感じます。僕には妻も子どももいないけど、その中でいまの時代をどう生きるべきなのか…?
- 話がだいぶ大きくなってきました(笑)。
- いや、別に「生き方を探している」つもりはないんですけど…(笑)。少なくとも、生き方を「先人に学ぶ」必要がまったくなくなってきているのが“いま”なんだなと感じています。
- 先人のやり方が参考にならないほど、大きく転換する?
- 政治もお金も流通も、これまでひとつの場所に集まってくる“集権”だったけど、それが個人個人に届く“拡散”に向かう。そのぶん、自由と責任も、より個人にいくことになる。いわば、ひとりひとりが“政府”になって、社会のため、未来のためにどうすべきか? と考えるのが政治の新しい形になっていくと思います。
座右の銘「挫折禁止」を通して、多くの人に伝えたいこと
- 常々、座右の銘として「挫折禁止」を掲げられていますね。迷ったり、失敗して落ち込むことはないんですか?
- 迷うことはありますよ。ただ、「リバースプロジェクト」を会社にして約8年間、そこでやってきたひとつひとつのことが、成功なのか? それとも失敗なのか? 僕らが生きているあいだには、わかんないことも多いんです。でも、成功を願って、未来のためにそれがいいと信じてやってます。
- なるほど。
- 何をもって“成功”というのか? あるものがあって、それを買う人が増えることなのか? 流通が増えることか? 社会に行き渡ることなのか? 逆に、そういう目に見える具体的な変化がないと失敗であり、挫折なのか? いまみたいな、何が次の時代の正攻法なのかが見えない過渡期だと、いろんなものが乱打されるんです。いろんな方法論が鬼のように試されていく。
- その過程で、次の時代を担う正攻法が形成されていく。
- それがビジネスというものですよね。そこで一度、ダメだったとしても落ち込んでるヒマはねぇ! ということですよ。それは論理的に考えて、そうなんです。
- 論理的に?
- 僕も落ち込むことがないわけじゃないですよ。でもそうなったとき、なぜダメだったのかを明確にして、その失敗をカバーするために別の方法を考えて、もう1回トライする。経験上、そのサイクルがわかってるから、「挫折」なんて言葉で立ち止まるより、すぐに次の方法を考えるようになりました。
- 失敗を成功につなげるから「挫折」はしない?
- たいていのことは、一度失敗しても人生は終わんないし、死なないですよ。だったら「挫折」なんて言ってないで、これからも続くあなたの人生をどうやって有効に使うか真剣に考えませんか? って話です。できない自分に落ち込んでるなら、できる人をサポートするほうが世のためになります。
- 厳しいですが、愛のある意見です。
- そう考えられる人が増えれば、その過程は挫折じゃなく、自分のスペシャルな部分を見つけるための経験になるし、次の成功、誰かのため、未来のために身を賭すということにつながる。そういう人生の深さを知っていくと、挫折する前にやるべきことを見つけられるかもしれないですね。
- 単に「あきらめなければ夢は叶う」という意味ではない、まさに論理的な夢を追う方法論ですね。
- 歌手になるのがあなたの夢なら、何のために歌手になりたいのかを考える。とにかく歌いたいの? それなら勝手に歌えばいいし、それであなたは歌手だ! でも、そうじゃないでしょ?
- 「たくさんの人の前で歌って人々を感動させたい!」 でも、それがうまくいかないなら…。
- じゃあどうするか? そこで多くの人を感動させる方法がなくなるかというと、そうじゃない。歌がうまい人をサポートすることにも意味はあるし、歌以外の方法を模索してもいい。大事なのは、そのバリエーションを作ること。そこにすぐにたどり着けなくても、挫折しかけたときに、思い出してもらいたいですね。
- 伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ)
- 1976年5月29日生まれ。東京都出身。A型。東京藝術大学在学中にモデルとしての活動を開始。1999年に是枝裕和監督の映画『ワンダフルライフ』で俳優デビュー。映画『ブラインド』、『あしたのジョー』、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』、『ザ・テノール 真実の物語』、スペシャルドラマ『白洲次郎』、大河ドラマ『龍馬伝』、『花燃ゆ』(いずれもNHK)など話題作に多数出演。監督作に『カクト』、『セイジ -陸の魚-』がある。8月4日には、映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』の公開も控える。2008年に自ら代表を務める「リバースプロジェクト」の活動を開始し、さまざまな社会活動に取り組んでいる。
出演作品
- 映画『忍びの国』
- 2017年7月1日(土)全国ロードショー!
- http://www.shinobinokuni.jp/index.html
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- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2017年6月21日- 受付期間
- 2017年6月21日(水)12:00〜6月27日(火)12:00
- 当選者確定フロー
- 当選者発表日/6月28日(水)
- 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
- 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月28日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき7月1日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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