天月-あまつき-を紐解くキーワード――逃れられない“過去”の存在

辛い過去には目を背けていたい。できることならば思い出したくもないし、語りたくもない――当然と言える人間の心理だろう。しかし、天月-あまつき-は、「僕には学生時代、友達がいなかった」と、自身の苦い過去を隠すことはしない。なぜならば、その辛い過去、そのときの“ダメ人間”だった自身の姿を糧に、今、前を向いて歩んでいるからだ。さまざまな経験を積み重ねた天月-あまつき-が、『トモダチゲーム』から感じ取るものとは?

撮影/祭貴義道 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.
企画/ライブドアニュース編集部

「はじめまして」のタイミングで演じたマナブくん

4月からテレビドラマが放送されていた『トモダチゲーム』の劇場版が、6月3日から公開となります。天月-あまつき-さんは作中で、「トモダチゲーム」の案内人を務める謎の人形・マナブくんの声を担当しています。声優としてオファーを受けたときはどんなお気持ちでしたか?
声のお仕事はこれまで何度かやらせていただいたことがあるんですけど、どちらかというと自分に近い感じのキャラクターが多かったんです。でも、マナブくんは、吉沢 亮さんが演じる主人公の片切友一たちとは、対立する側…「トモダチゲーム」運営側で、面白おかしく場をかき乱すキャラクター。僕が演じたことがないキャラクターを任せてもらえるという意味で、すごく光栄に思いました。
原作のマンガも、もともとお好きだったとか。
はい! 連載1話目から読んでいた作品だったので、自分の好きな作品に出られることも、とてもうれしかったです。
マナブくんをどう演じようと考えていましたか?
じつは、まだ僕が声を担当すると決まる前に、永江二朗監督が僕の声を聞きたいとご挨拶に来てくださったんです。そんな、はじめましてのタイミングで監督から突然、「今、台本があるんですけど、(マナブくんの声で)読んでみていただけませんか?」って言われて(笑)。
えぇっ! 突然ですね。
(笑)。僕もびっくりしたんですけど、とりあえず、その場で僕のイメージのままに演じてみたら、監督から「マナブくんのイメージにピッタリです!」と言っていただけて。
そこで、監督も天月-あまつき-さんにマナブくんの声をお願いしようと決めたんでしょうね。
だから声の感じとしては、そのときに出した声のまま変わっていないんです。そのなかで意識したのは、言葉は鋭いながらも、しゃべり方は可愛らしくて、子どもっぽいという部分。マナブくんは、元・深夜番組のマスコットキャラクターで、あまりにも口が悪いっていう設定があったので、友一たちを常にバカにしているような、嫌な部分を立てて演じてみました。
実際に、自分の声が乗った映像を見ていかがでしたか?
自分でやっといてなんですけど、「誰だろう、コイツ」みたいな(笑)。
聞き慣れない、みたいな…?
いや、思ったより声はハマっていてよかったなと思いました。なんというか、僕っぽくないなという意味で「誰、コイツ」って客観的に見て感じて(笑)。
収録はどうでしたか?
ありがたいことに、あまりリテイクをもらうことなく順調に進みました。個室で、ひたすらみなさんの映像と向き合ってアフレコしていましたね。
5月18日に行われた劇場版の完成披露イベントの挨拶で、吉沢さんをはじめ、山田裕貴さん(美笠天智 役)や、内田理央さん(沢良宜 志法 役)ら、キャストのみなさんとちゃんとお会いになるのは、そのときがはじめてとおっしゃっていましたね。
はい。撮影現場にも行けたらなと思っていたんですけど、気づいたら撮影が終わっていて…。残念でした。完成披露イベントのときも、緊張してキャストのみなさんとなかなかお話ができなくて…(苦笑)。
そうだったんですね。
でも、みなさんホントに仲がいいんだろうなというのがすごく伝わってきましたね。

主題歌『Mr.Fake』の歌詞に込めたメッセージ

天月-あまつき-さんは、『トモダチゲーム』の主題歌も担当されています。7月19日に発売される『Mr.Fake』は、どういう楽曲ですか?
ドラマ版でもオープニングとして使っていただいたのと、人間の心理戦を描く作品だったので、とにかくインパクトを与えないと、というのがありました。イントロからガッと掴んで、サビでぶん殴るような、インパクトがある楽曲になったなと思います。
歌詞はいかがですか? ご自身の過去と重ねて書かれたとのことですが…。
そうですね…。僕は学生時代、友達がいなかったんです。だからこそ、今、音楽をやっているなかでの友達にすごく救われている感覚があって…。苦い過去があって今があるんですけど、そういう過去って、もう変えられないんですよね。過去から逃げたくて、どうあがいても、これまで得た経験でこのあとを変えていくしかない。そういう意味で、主人公の友一たちの、暗い過去を持っている部分と重ねて歌詞を作っていきました。
そうなんですね。
友一たちも、たとえ全幅の信頼を置いている友達だとしても、言えないことってあると思うんです。「言ったら迷惑かな」とか「傷つけてしまうかな」とか、思ってしまう。そういった、心の奥にある暗い部分は、作品ともリンクをさせています。
歌詞のなかで、一番メッセージ性を込めた部分は?
フルVerを聴いていただくとわかるんですけど、歌詞の最後の「リセットでニューゲーム」というフレーズですね。僕は、この「リセット」をどう捉えるかで、人生ってすごく変わってくるんじゃないかなと思っているんです。
というと…?
僕は、音楽活動をはじめるまで…それこそ、中高生の頃は、やりたいことも趣味も何もなくて、このままのたれ死ぬだけだって思っていたんです。そんななかで、“天月-あまつき-”という名前でネットでの動画投稿をはじめて…ネットの世界に飛び込んだ先で、自分のしたかったこと、思っていたことを解放できたなっていう感覚になったんです。
匿名で顔を出さなくてもいいネットだからこそ、自分のホントの思いを解放できた、と。
そうなんです。僕はある意味、“天月-あまつき-”という名前で、人生を「リセットしてニューゲームした」みたいな感覚なんです。だからこそ、今、新しい人生を頑張れている気がしています。過去は変えられないけれど、自分の頑張り次第で、“ニューゲーム”することが可能だよってことを、自分の経験をもって伝えたいです。
というと、そういう歌詞を読み解いて楽曲を楽しんでほしい?
んー。楽曲自体、疾走感があるので、歌詞より先に、サウンドでスカッとしてもらえたらなとは思っています。そのあと、歌詞も見ていただいて、「こういう歌詞なのか」って、それぞれで感じていただけたら。僕としては、曲は自由に楽しんでいただきたいと思っていますね。皮肉っている曲として捉えていただいてもいいですし、昔から僕のことを知っている方だったら、「こういう音楽で自分の思いを昇華させているのか」と感じていただいてもいいですし。

「一度しかない人生、隙あらば何でも挑戦したい!」

MVはどんな感じでしょうか? 楽しみにしている方も多いと思うので、チラッとおうかがいしたいのですが…。
大きなコンセプトとしては、僕が学生時代に描いていた学校のイメージに近いです。学校生活って、マンガなどで楽しく描かれることも多いけれど、同時に、暗く描かれることも多いと思っていて。学校生活に苦しんでいる方もいらっしゃると思うんです。…人によっては、牢獄みたいなところというか。
なるほど。
いい巡り合わせがあって、大好きな友達と学校生活を楽しんでいる人もいれば、すごく嫌に思っている人もいると思うんですよね。どれだけ嫌でも、クラスが決められていて、ずっと嫌なヤツ、嫌な先生と一緒に過ごさないといけない…。僕も、親に「学校に行きたくない」って言っていた時期もあったので、そういった部分をイメージして、壊れた教室…みたいな感じになっています。
天月-あまつき-さんのこだわりが反映されているんですね。
はい。『トモダチゲーム』に合わせて、僕も学生服を着ています。あとは、楽曲が派手なので、それに合わせてダンサーを入れて一緒に踊ってもらったり…。
めろちんさんと、ATYの明香里さんですね。天月-あまつき-さんからのオファーだったのですか?
はい! めろちんさんは僕から声をかけさせていただきました。男女がよかったので、ATYの明香里さんにもお声をかけて…という感じですね。
そういったMVなど、今回に限らず、天月-あまつき-さんからイメージを伝えることが多いんですか?
MVに関しては、極力イメージを伝えるようにしています。それからは、監督とディスカッションして詰めていく場合もありますし、そのままお任せすることもあります。
楽曲に関してはどう作っていくんでしょうか?
それも、時と場合によります。こちらからそんなにお伝えしてなかったのに、見事に汲んでくださるときもありますし、僕から「こうしたらどうですか?」と、いろいろと提案させていただくこともありますね。
今回の『Mr.Fake』に関しては?
ちょこちょこ、お話をさせていただきました。でも、作詞・作曲の渡辺 翔さんにあげていただいたのが、まさに「コレだ!」って感じで。翔さんと編曲の中山真斗さんには、メジャーファーストシングルからお世話になっているんですけど、ホント、しょっぱなから世界観がバキバキにカッコいいものをあげてくださるんです。
音楽活動や今回のような声優活動にとどまらず、舞台などにも出演されている天月-あまつき-さんですが、今後の展望としては?
そもそも、何もしたいことや好きなことがなかった僕が、“天月-あまつき-”という名前で「リセットでニューゲーム」して、こうして活動していることが、想像していなかった未来。なので、今は、天月-あまつき-として何かをやることで、ファンのみなさんに喜んでいただけるのがすごくうれしいんです。一度しかない人生のなかで、いろんなことに挑戦させていただいているので、僕としては隙あらば! って感じです。
隙あらば、いろんなことに挑戦してやるぞ! って?
はい。舞台も声優もやらせていただけるなら、いっぱいやりたいです! その経験全部がいろんなものに影響して、よりよくなっていくと思うから。経験は歌にも返ってくると思うし、歌で得たものが、舞台や声優という場所で活かせるかもと考えています。
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