役に寄り添い、ともに成長していく──『僕のヒーローアカデミア』山下大輝インタビュー

インタビュー中、不思議な感覚に陥った。声優・山下大輝と話をしているはずなのに、まるで、山下が演じる緑谷出久(デク)が座っているかのような……。それほどまでに彼は、キャラクターに寄り添っている印象だった。芝居についての問いにも、まずは出久の状況や心情を分析してから答える。その姿からは、原作や台本をしっかりと読み込んで準備していることが容易に想像できる。そこにもまた黙々と地道な努力を積んで成長していく出久の姿と重なるものがあった。

撮影/三浦一喜 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
企画/ライブドアニュース編集部

僕も熱い気持ちで雄英体育祭に挑んでいます!

特殊能力“個性”で人々を守るプロの「ヒーロー」を目指す少年の物語が展開するTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』。敵(ヴィラン)連合と戦って終了した一期に続いて、4月から始まった新シリーズの二期では、山下さん演じる主人公・緑谷出久(デク)が通う、多くのヒーローを輩出してきた名門・雄英高校の生徒同士が対決する体育祭の様子が描かれています。命がかかった緊迫の一期から、クラスメイトと競う白熱の二期がスタートということで、どんな気持ちでアフレコに臨まれたのでしょうか?
一期からの続きなので、気持ちは保ったまま臨みました。一期は1-A(雄英高校ヒーロー科1年A組)の生徒たちが、敵(ヴィラン)と戦う先生たちの背中を見て、「プロの世界はこんなにシビアで大変なんだ。でも、やっぱりプロヒーローって、すごくカッコいい」って、間近で体験したと思うんですよね。
そういった体験をした生徒たちが、今回は体育祭でしのぎを削ります。
生徒たちは、体育祭の戦いを見ているプロヒーローたちに向けて、「自分はここにいる」ってアピールする気持ちが強くあります。それはたぶん一期での体験があったからこそ、熱い気持ちで挑んでいるんじゃないかなあと思ったので、僕もそんな熱い気持ちのまま、雄英体育祭の収録に挑んでいます。
その雰囲気はアフレコ現場全体にありましたか?
そうですね。キャスト陣も熱い気持ちを保ったまま……やっぱり、オールマイト(平和の象徴ともされるNo.1ヒーロー:声/三宅健太)や相澤先生(相澤消太:声/諏訪部順一)の背中を見た1-Aの生徒たちは、他の生徒たちよりも一段上の気持ちといいますか、敵(ヴィラン)との戦いで実感した思いを背負って挑むので、アフレコも気合いを入れて始まりましたね。
今回は、出久の存在がクラスメイトの感情を引き出していくというか、出久を見て燃え上がる人が多いような気がします。
一期でも、1、2話のオールマイトのように、出久の行動によって周りの人が動かされることがけっこうありましたが……今回はとくに、周りの生徒たちが動かされていくんですよね。1-Aの子たちだけじゃなく、これから戦うであろうキャラクターたちも含めて、という意味で。
出久は意識して周りを動かしているわけではないのだけれど…。
そうなんですよね。出久は意識的にみんなを引っ張ろうと思っているわけじゃないので(笑)、僕も意識的に演じるようなことはしません。出久のなかでは、「どうしたら勝てるだろう」、「どうしたらプロヒーローに一歩でも近づけるだろう」、「どうしたらワン・フォー・オール(※オールマイトから受け継いだ“継承されてきたパワーを蓄積し発揮する”個性)をコントロールできるようになるだろう」っていうところが重要で、それを課題としているんですよね。
なるほど。
その課題に向かっていくなかで、他のキャラクターたちとコミュニケーションをとっていって、「そういう考えなんだ。僕も頑張らなきゃ」って、お互いに切磋琢磨し合えるのが雄英体育祭だと思います。とくに、クラスメイトの麗日さん(麗日お茶子:声/佐倉綾音)や飯田くん(飯田天哉:声/石川界人)も、知らず知らずのうちに動かされていたっていうことは……体育祭のなかで、選択しなきゃいけない、覚悟しなきゃいけない、決断しなきゃいけないところがけっこうあるんですよね。
そういう意味でも、一期とは違った彼らの関係性が見られるシーズンになっています。
そうですね。彼らも一歩前に踏み出しているんだなって感じるシーンは、これからもたくさん出てきます。体育祭ではそれぞれのキャラクターに焦点が当たるので、彼らが一期でつちかってきたもの、見てきたものをベースに、さらに次へと動き始めてるんだなって、観ているみなさんにも、わかっていただけるんじゃないかなと思いますね。

出久にとっての二期のキーワードは「証明」

出久について、一期とは少し違うと感じる部分はありますか?
出久って、基本は変わらないんですよね。とにかく一生懸命で、全力で、目の前にあること、自分がしなくちゃいけないこと、夢などに向かって「オールマイトみたいになるために、僕はいま、どうすればいいんだろう?」って考える子なので。それは一期のときから変わらず、彼の原動力でもあるんです。ただ、そのラインがちょっと高くなったのかな? って感じることはありますね。
というと?
雄英体育祭が始まる前に、オールマイトにも、「自分がいることを証明しろ」って言われて。周りの友人たちが全員ライバルになるときに、「自分はどうすればいいんだろう?」って……やることは全力で変わらないけれど、周りをもっとよく見るようになったといいますか、考えることが多くなったんだと思いますね。
視野が広くなった?
そういう部分はあると思います。ヒーローになるという憧れに向かって単純に突き進んできたけれど、そこに向かうには、いろんな障害物が、そしてライバルたちがたくさんいるっていうことを知るのが、雄英体育祭になると思うんですが…。それらをいかに乗り越えるかを分析したり、覚悟しなくてはいけなかったり、心の持ちようが複雑になってきているのかな? と思いました。
先日の「AnimeJapan 2017」(日本最大級のアニメイベント)のステージでも、山下さんは二期のキーワードに「証明」を挙げていらっしゃいましたね。
そうですね。雄英体育祭において「証明」という言葉は、出久にとって、たぶん一番大事なワードだと思います。
いままでの出久は、自分よりも人のことが優先だったので、今回はちょっと違う意識を持たないといけないのかなあと思いました。
雄英体育祭って、ヒーローを目指す生徒たちがお互いに競い合うのはもちろんなのですが、プロのヒーローも見に来てスカウトしたりする。いわば野球の甲子園みたいなものだと思うんですよ。『僕のヒーローアカデミア』の世界では、ヒーローってあくまで職業なので、いままでのようにはいかないっていうのはありますよね。
なるほど。
「僕って使いやすいでしょ?」とか、「自分はここが“個性”です、こういうふうに使えますよ」ってアピールする場でもあるので、一心不乱に戦うのとはまた違いますよね。ビジネス的な部分も見えてくるので。
たしかに、今回はビジネスとしてのアピールも見どころのひとつになっていると思いました。
騎馬戦でも、ビジネス的に付き合わなくちゃいけない(笑)、即席のコンビで戦わなきゃいけないっていうシーンも出てきますし。
発明少女である、発目さん(発目 明:声/桜 あず)とのコンビですね(笑)。
ちょっとこの…頼っていいのかわからないけど、組まなくちゃいけないっていう複雑な感じもあったりして(笑)。そういうのって、たぶんプロヒーローを想定してるのかなって思うんです。
というのは?
その場にいる“個性”だけで乗り切らなきゃいけない、勝たなきゃいけないっていうことを想定した戦いだったり……プロになったときを想定した戦いが多いなって思っていて。そこってたぶん、一期にはなかったところなんですよね。そういう意味では、自己アピールする人もいたり、ひたすら自分を貫く人もいるんだなあって思いました。
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