楽しくなければ、エンターテインメントの仕事を続けている意味はない。自分を貫く柿原徹也の言葉
柿原徹也はブレない。ストイック。才能を上回る努力の人。彼の心身の強さはファンならよく知るところだろうが、一方で、サインポラにはよく「ありがとう」や「Thank You」のメッセージを記す。仕事への矜持を語る言葉の裏にはいつも、責任感と周りへの感謝がある。そんな彼が「戦う相手は他人じゃなくて自分自身。他人にどう言われようと、どう評価されようと気にしない」と思えるようになるまでには、どんな経験があったのだろうか。
撮影/藤田亜弓 取材・文/佐久間裕子 制作/アンファンスタイリング/青木紀一郎 ヘアメイク/大橋美沙子
ナツと出会って、他人からの評価が気にならなくなった
- TVアニメ『FAIRY TALE』は来年2019年で10周年を迎えます。10月からいよいよファイナルシリーズがスタートしましたが、柿原さんにとってはどんな10年でしたか?
- ずっとまっすぐやり続けて良かったなと思う10年ですね。ナツに出会って僕の人生が変わったし、役者としても、人間としても変わった。確実に、この作品によって構築されたものがたくさんあります。ナツに出会わなかったら、今の自分はなかったと思うし、今ほどハッキリと、間違っていると感じたことを間違っているとは言わなかったかもしれない。
- 放映開始時、柿原さんは26歳でしたが、ナツと出会ったことで自分自身のキャラクターも貫き通せたということですか?
- 周りと比較しなくなりました。たとえばオーディションで、「あの役者さんはこう演じるかもしれない」とか、どうしても他人と比べてしまうことってあるじゃないですか。でもナツを演じるようになって、「そういうの、いらないよね」って。戦う相手は他人じゃなくて、自分自身だから。他人にどう言われようと、他人からどう評価されようと気にしなくなりました。
- そもそも柿原さんと『FAIRY TAIL』の出会いは?
- たしかコミックス第1巻が出た頃に、書店で「お! これ面白そうだな」と買ったのが最初だったんですよ。当時はまだ声優として駆け出しでした。もしアニメ化されるなら合う声優は誰だろうなって想像しながら読みましたけど、ナツの声だけは、僕の中から何も出てこなかったんですよね。自分が演じるイメージも湧かなかったし、今この役を演じるなら誰なんだろうって考えても浮かばなかったんです。
それから数年経って、『FAIRY TAIL』のオーディションがあると事務所から電話がかかってきたんです。 - そのオーディションでの第一声を聞いた瞬間に、ナツが柿原さんに決まったんですよね。
- 僕はナツよりグレイをしっかり読み込んでいたんです(笑)。グレイってカッコいいキャラクターじゃないですか。絶対グレイをやりたいなって。でも現場では、「ナツ役を演じてみてください」と言われて。で、ナツが終わって「次はグレイをやらせてもらえるだろう」と思いながらうしろを振り返ったら、ガラスの向こうから「少々お待ちください…終了です」と言われて。
「ええっ!? オレ、もう可能性ないじゃん!」と思いましたね。でもその数日後に、「ナツに受かりました」と連絡があったんです。もう「ええええっ!? 」ってなりましたね。
- ナツに決まった理由を監督さんに聞いたりしましたか?
- 第1話の収録後にみんなで飲みに行ったときに教えてくださいました。スタジオのドアをガチャッと開けて「おはようございます! 柿原です。よろしくお願いしまーす!」って挨拶した瞬間に、ナツが決まった、と。
- 素の声で決まっていたと。
- 音響監督のはた(しょう二)さんとはほかの作品でもご一緒していたんですが、「柿原の顔しか出てこなかった」と言ってくださったんです。
当時僕はまだ若手で…まぁそもそも僕は声優として日本語がしっかりできないところからスタートしていますが…日本人にとっては言わなくてもいいことを言ってしまったり、喧嘩っ早かったり、もしかして嫌われていたかもしれないけど、「オレ、間違ったことは言ってないし」という姿勢でいたんですよね。はたさんはそういう姿を見ていて、「ナツ役は柿原しかいないですよ」と言ってくださったそうなんです。
このオーディションはその後の僕に大きな影響を与えていて、お芝居って、「さぁ、ナツを演じるぞ」って思ってやらなくてもいいんだなと思いました。オーディションは、声優がスタジオに向かう瞬間から始まっているのかもしれないなと。 - 普段の自分が役に生きてくるということですか。
- 考え方もそうだし、普段生きているそのままの自分が全部芝居に繋がっているのかなと。僕の役者としての生き方や性格が、ここで決定付けられたのかもしれないです。
「外国人だから」とか、「何か違うよな」、「礼儀知らずだよな」って昔はよく言われましたけど、僕は無礼をはたらこうとしているわけじゃなくて、単純にそういう性格なんですよね。そこを無理に矯正せず、みんなと同じようなことをしてこないで良かったなって思えたというか。今まで自分がやってきたことは間違ってなかったんだって。そこから僕は何も変わっていないですからね。
カッコいいキャラを演じるとき、カッコいい声を使っちゃいけない
- オーディションではナツを地声で演じられたそうですね。それはどうして?
- ナツって王道の主人公じゃないですか。戦ったらめちゃくちゃ強いし、仲間のために熱くなって本気を出すし、もちろんカッコいいセリフもあるけど、普段はギャグも多い。全部ひっくるめて生き様がカッコいい。『FAIRY TAIL』の中ですでにそう描かれているキャラクターなんですよ。
僕はそういうカッコいいキャラクターをやるときに、カッコいい声を使っちゃいけないと思うんです。ナツは、核となる部分を演じるときだけ熱くなればいい。そう思ったからオーディションでは自分の声のままでいこうと決めました。 - 現在は、オーディションの前はどんな準備をされるんですか?
- 何も準備しないです。「オーディションだ、よし頑張るぞ!」ってなっている時点で自分じゃないから。
- 前もって渡されたセリフに目を通して、現場に行ってやるだけ?
- それだけです。だから人と違うことをやっちゃうわけですよね。テープオーディションでも、気合いを入れて何度も練習して録るんじゃなくて、一番リラックスした状態で録るようにしています。
「よし、やるぞ!」と力を入れて録ったって、みんなと同じ芝居になるだけ。リラックスした体勢で録ったほうが良い声が出ると知ってるから。それが、僕がオーディションに受かる理由でもあると思うし、受からない理由でもあると思います(笑)。 - (笑)。
- 二番手、三番手の候補ってことはないんです。最初からダメと言われるか、「コイツだ!」って決まるかのどちらか。どちらかでいいんですよ。全員に好かれる必要はないから。
- なるほど。そうしてナツを演じて10年が経ちました。
- この10年、ナツがずっとブレないから、僕も心がブレないまま芝居をさせてもらって、貫くことができた。ナツという存在は僕にとってデカいです。
- 長年演じているうちに、ナツに影響を受けたり、ナツが柿原さんに影響を受けたりということも?
- 原作の真島(ヒロ)先生と仲良くさせていただいていて、一緒に飲んでるときに自分の考え方とかを話す機会もあるんですが、先生が「描いているとカッキーが話してるときの目に似てきて、どんどんキツくなっていくんだよね」って(笑)。マンガのナツが途中から目が吊り上がってきたりして。
どっちがどっちに影響されているのかはわからないです。僕が最初にナツに影響されて考え方が変化して、そのうえで先生と話して、先生がまた影響されたのかもしれないし。
原作はあえて読まない。アニメが一番面白いと思うから
- いよいよ10月からファイナルシリーズがスタートしました。柿原さんは、原作を事前に読まないとお聞きしましたが、本当ですか?
- ビックリすると思うんですけど、僕はいつも収録が終わるまでは原作を読まないんです。『FAIRY TAIL』も先のストーリーを知らないんですよ。
- 自分の中でキャラクターや芝居のイメージが固まってしまうからですか?
- それもありますが、アニメが一番面白いと思っているので。もちろん、マンガにはマンガの面白さがあります。けど、僕らが声を入れたアニメが一番面白くなるんだから…という勝手な思い込みです(笑)。そして僕は作品を作るということは、誤解を恐れずに言えば、マンガとアニメの喧嘩だと思っています。
- どういったことでしょうか…?
- たとえば「『FAIRY TAIL』を騙るのは許さねぇ」というセリフがあったとき、「許さねぇからな」という語尾に変えて演じたとして、そこで「原作と違う」と言われても、「こっちのほうがいいよね」って僕は思うんです。
- テストのときに語尾を変えて試してみたりするのでしょうか?
- というか…勝手に出ちゃうんです。
- ナツの言葉が自然と出てきてしまう?
- たとえば台本に「ニャハハハハ」と書いてあったとして、それは原作通りかもしれないけど、違和感がない芝居をしていると、自然と「ナハハハハ」になったりします。そして現場のスタッフの方たちは、僕の心から出る言葉を優先してくれます。
それが10年続いている作品の強みだし、ヘンなこだわりを削ぎ落とすのは作品にとって大切なことだと思うんです。役者が各々持ち寄った芝居をすることによって、原作を描いた先生の考えていたことがさらに膨らんで、長く愛される作品になっていく。だから僕は原作を読まないんです。
- では『FAIRY TAIL』を観ている子どもたちに、大人になっても忘れないでほしいと思うセリフやエピソードはありますか?
- …ないんです(笑)。これも良い方向に捉えてほしいんですが、僕は一度芝居したものはほとんど忘れます。
- それはどうしてですか?
- 本番ですべて出し切って、そのときに出てきた言葉が本心だからです。ナツとしてセリフを言うときに、「これが人の心に残ったらいいな」なんて思わないじゃないですか。僕はそんなに計算して生きてないですから(笑)。たとえばオーディションでも、「これをやったら受かるんじゃないかな」とか思いながら演じていないんです。だから本当に覚えていない。
もちろん、ナツの印象的なワードはありますよ? 「命だろーが!!!!」とかね。でも大事なのは、ナツがそのセリフを言うまでにどんな行動をとって、仲間やほかのキャラクターがどんな思いをしてきたかですよね。ストーリーがあって初めて、セリフは意味を持つから。
だから、「子どもたちの心に残ってくれたら」ということよりも、ナツにそういう言葉を言わせるようなステキな仲間を、(TVを観ている)みんなも作れたらいいなぁって思います。
お酒の席は、若い子にとってためになる時間にしたい
- 10年も経つと、現場の雰囲気もだいぶ変わってきますよね。
- 第1期の頃にモブやガヤで入ってた学生さんや新人さんが、今はそれぞれプロダクションに所属して、いろんな媒体で「初めての現場は『FAIRY TAIL』でした」って言ってくれたりしてるんですよね。そうやって成長したところを見られるのがうれしいです。
全然できなかったあの子たちが、役者として一人前になったんだなって。それこそ今ファイナルシリーズに関わってる新人さんたちにも、「10年経ってどうなっているかは自分次第だからね」って思ったりします。 - 若手からも刺激を受けますか?
- 受けます。若手がいないと芝居は成長しないので。
後輩のパワーを受け止めて「オレも頑張らなきゃ」って気持ちになるわけですよ。もし先輩の隣で萎縮してしまって、実力を出し切れていない芝居をしている若手ばかりだったら、現場全体が「これくらいでいいか…」ってなりかねない。
けど怖がらずに若いなりのパワーを感じる芝居を出してくれたら、「本気でやってやるぜ!」ってなるわけです。若手からの刺激がないと作品は成長しないと僕は思っています。もちろん僕自身もそういう後輩でありたいですね。 - ファイナルシリーズの現場の雰囲気はいかがですか?
- 収録後によく飲みに行ってます。『FAIRY TAIL』の現場は、当初は「プロの集まり」という雰囲気なんですけど、めちゃくちゃ仲がいいんですよね(笑)。そのとき行けるメンバーで、監督さんやディレクターさんも来てくれたりして、日によっては出番がない人たちも来て。「今週出番なかったのに来てくれたんスか?!」って(笑)。
- (笑)。
- 若手にも、「来てくれたら柿原オジさんうれしいな」って誘ってます(笑)。やっぱり10年のあいだに時代は変わるんですよ。
- 何が変わったのですか?
- 若い子たちがお酒を飲まなくなりましたね。比較的、収録が終わったらすぐ帰る子たちが多いかな。もちろんそれは自分で選べばいいと思うんですけど、10年経ってまた飲みの席に来てくれる後輩が出てきてくれると、うれしいですね。
スタッフさんも僕らも、気付いたら自分もオジちゃんになったね、っていう(笑)。いいですね。一緒に年を取ってきた感じがします。みんな、良い年の取り方してるなって。 - お酒の席で作品や芝居の話はしますか?
- しますよ。後輩に説教とかは絶対にしないけど、「あのとき、オレだったらこうするな」って話したり。せっかく来てくれたんだし、ためになる時間を残してあげたいなと思って、芝居の話は必ずします。
作品が終わっても悲しさはない。また違う作品と会えるから
- 『FAIRY TAIL』がファイナルを迎えることについては、やはり感慨深いですか?
- 感慨は全然ないです!(笑)やり残したことがないんですよね。なんて言うのかな…僕は作品が終わることに対して「悲しい」という感覚があまりないんです。だって、また違う作品と出会えるわけですから。
- 新たな役との出会いが待っていると。
- 新たにオーディションを受けて、役を勝ち取らないといけない。そっちのほうが楽しみです。始まったものは必ず終わりますからね。終わっても作品というものはずっと生き続けるし、ナツとお別れするわけではないから。視聴者のみなさんとはちょっとお別れしますけど、ナツと出会って10年過ごしたことが、また違うキャラクターを演じることに繋がっていくんですよ。
そして、もし5年後や10年後にナツを演じる機会があったらとしたら、自分が劣化していてできないなんてありえない。そのためにも、次もナツに負けないぐらいスゴい役に出会って、役者として成長しないといけないなと思います。
- 今後はこんな役をやってみたいというのはありますか?
- これがね…ないんですよ。毎回毎回、そのときの自分に見合ったチャレンジを誰かが持ってきてくれるから。もちろん日頃から励んでないと、チャンスはめぐってこないんですけどね。絶対に人は見てるから。「コイツ頑張ってるな」、「柿原だったらこれができるんじゃないか」と思うから持ってきてくれるわけですよ。人が集まってくるんです。
10月に僕の事務所に新しいメンバー(KENNさん、金田アキさん)が加入しましたけど、僕のほうから声をかけたわけではないんです。 - そうだったんですね。
- そうやって集まってきてくれたことが、また僕らの挑戦になるというか。必ず乗り越えるべきタイミングで、何かがめぐってくる。この1、2年のうちに、役者として挑戦すべきこともやってくるだろうなと思っています。
- 事務所に仲間が加わったことで、感じたことはありますか?
- 強いていえば、どうしてうちに来たいと思ってくれたか、ですよね。これまでマネージャーとふたりで発信してきた仕事への取り組み方、仕事の楽しみ方をいいと思って来てくれたなら、それをもっと拡散して、もっと伝えられたらいいなと思います。僕はいつだって、エンターテインメントの仕事なんだから、楽しくなければやめてもいいと思っているし、芝居の面白さをもっと伝えたい。
- なるほど。
- 自分が好きで入った業界だし、声優って誰でもなれるわけじゃないですよね。ちょっと名前が出てきて、「こんな感じでいいか」ってやっているのがいちばんイヤなんです。もしほかにも僕の事務所に興味を持ってくれる人がいたとしても、売れっ子が欲しいんじゃなくて心が熱い人が欲しいので、そこはちゃんと人柄や仕事への取り組み方を見て判断したいですね。
一番じゃなくていい。自分にしかできない芝居をしたい
- 柿原さんは常にあらゆる作品に呼ばれていらっしゃいます。ご自身のニーズはどんなところにあると思いますか?
- 柿原徹也を分解していったら、僕の声が欲しいと言ってくださる人もいれば、芝居や歌が欲しいと言ってくださる人もいる。トーク力が必要な現場もあれば、ビジュアルが必要な仕事もありますよね。でも一番思うのは、ほかの声優さんがやらないことをやっているからかな、と。これが大前提ですね。
仕事をするときはいつもそうですし、とくに芝居に関しては。役者って…人間はいつか必ず死にますよね…もしそうなったら自分の代役が必要になるじゃないですか。そのときに、僕の代役に誰が当てはまるか悩んでほしいんですよ。 - 代役が見つからないぞ、と。
- 少しでも悩んでほしい。「かっきー、死んじまった! どうする!?」って。「…じゃあ、まぁ似た感じの声で」っていうのは絶対にイヤです(笑)。それじゃ生きた証にならないから。
- 唯一無二の存在でいたい?
- うーん…一番じゃなくていいんです。でも、僕にしかできないものがそこにあればいいなって思います。一番カッコいい叫びができなくてもいい。だけど「柿原が叫んでいる、その悲痛な叫びが欲しい」って言われたい。それに「似た叫び」をできる人はいるかもしれないけど、似ているだけじゃダメだ、と。
出演作品
- TVアニメ『FAIRY TAIL』ファイナルシリーズ
- 10月7日(日)よりテレビ東京系6各ネットにて毎週日曜日あさ7:00〜放送中
- https://www.fairytail-tv.com/
- ©真島ヒロ・講談社/フェアリーテイル製作委員会・テレビ東京
サイン入りポラプレゼント
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- 応募方法
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— ライブドアニュース (@livedoornews) 2018年11月22日
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・応募〆切は11/28(水)18:00
インタビューはこちら▼https://t.co/gFDqlCKkpC pic.twitter.com/W4GXSYgswv- 受付期間
- 2018年11月22日(木)18:00〜11月28日(水)18:00
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