今では“自分の作品”という感覚も。the pillowsと『フリクリ』に通じるスピリット

2000年から2001年にかけてOVAとして発売された『フリクリ』の名場面と、the pillowsのオルタナティブロックサウンドは切っても切れない関係だ。豪快なストーリーと、the pillowsの音楽の融合は、世界中のファンを虜にしている。そんな『フリクリ』が17年ぶりに完全新作アニメーションで帰ってきた。長い時を経てもまた、作品を音楽で彩ったのはthe pillowsだった。今年30周年イヤーを迎えるベテランロックバンドthe pillowsと『フリクリ』の関係を、作詞・作曲を手がけるフロントマン、山中さわおに聞いた。

撮影/祭貴義道 取材・文/坂本ゆかり 制作/iD inc.

続編の主題歌は「若手バンドに鞍替えか?」と思ってた

9月7日から劇場版『フリクリ オルタナ』、9月28日から劇場版『フリクリ プログレ』が公開されます。音楽が大きな役割を果たすこの作品の続投オファーが来たのは、いつごろだったのですか?
正確な時期は覚えてないんだけど、とてつもなくギリギリでしたね。「1週間後に発表します」くらいのタイミングで。もう、受ける前提ですよね(笑)。でも、嬉しかったですね。『フリクリ』の続編をやるらしいって話は聞いてたんだけど、いっこうに話が来ないから、「これは今をときめく若手(バンド)に鞍替えしたな」って思って泣いてたから(笑)。
じゃあ、「やったー!」という感じで(笑)。
うん、「やっぱりそう(the pillows)でしょう!」って感じはありました。
劇場版の2作それぞれに、新曲を書きおろしていますよね。
続編を2本やるから、その主題歌を書いてほしいという話だったんですけれど、ストーリーは事前に教えてくれなくて(笑)。聞いていたのはただ、「ハル子(ハルハラ・ハル子/声:新谷真弓)は出てくる」ってことと、「OVAからちょっと時代が流れているらしい」ってことだけ。
だから歌詞は「主人公のナオ太(ナンダバ・ナオ太/声:水樹 洵)が大人になって、またハル子と出会うのかな?」って勝手に想像して、成長したナオ太が、少年時代を懐かしんでいるものにしようと思ったんです。それで先に、劇場版『フリクリ オルタナ』の主題歌『Star overhead』を書きました。
まさしく回想している歌詞ですね。
そうですね。 日常的にはありえない青春を送った少年が大人になって、“唯一無二のクレイジー”といえるハル子との出来事を回想しているという内容です。
僕は歌詞を後から書くタイプだから、その時点で一番気に入っていた曲に歌詞を乗せて、最後にタイトルを付けました。オリジナルの『フリクリ』の主題歌が『Ride on shooting star』、つまり“流れ星に飛び乗れ”という少年らしいタイトルだったので、大人になり、地に足をつけた生活を送っているであろうナオ太が懐かしむときに見ることを想像して、“頭上の星”というタイトルにしたんです。
今回新曲を作るにあたって、過去の作品を見直しましたか?
見直しました。やっぱり秀逸な作品だったなって思いましたね。でも、これまでも4、5年に1回くらい、酔っ払った勢いで夜中に見てたんです。続編の有無に関係なく(笑)。やっぱり、ちょっと“自分の作品”っていう感覚があるんだよね。だから自分の手柄を見ているような感じで、辛いことがあると夜中に見たくなるというか。……大丈夫かな、俺(笑)。
それ以外にも、Blu-ray化されたときなど「音をリマスタリングしました」ってときには、また見てみたり。

“センチュリープラント”に、ハル子の姿を重ねて

劇場版『フリクリ プログレ』の主題歌『Spiky Seeds』はどんな思いで作られたのですか?
『Star overhead』を作ってから、日本の劇場公開よりも先に、アメリカでテレビ放送されるって聞いたんです。それだとどこを切り取ってもクレイジーな世界を描いた『Ride on shooting star』に続く、ひさびさの『フリクリ』の新曲としては“弱い”と思った。パッと聴いて、日本語の歌詞が入ってこないほうがいいと思ったんです。
たとえば、冒頭の歌詞にある「生誕 成長 優雅な低空飛行」の“優雅な”って、英語の“You Gotta”みたいだし、「生誕」の“誕”は、“Turn”みたいだし。そこに英語の単語を挟んでいけば、英語圏の人も聞きやすくなると思って。でもデタラメではダメで、キーワードを考えたらスジが通るものにしなきゃと考えました。
すごくthe pillowsらしい、オルタナティブサウンドの曲ですよね。
そうですね。オルタナティブバンドでヒットしたのって、レディオヘッドとニルヴァーナくらいじゃないですか。オルタナティブの中でも、プログレッシブとハードという両極。僕が好きなピクシーズやブリーダーズといったオルタナティブバンドは、世界的な大ヒットはしていないけれど、マニアにはウケている。
そういうタイプのオルタナティブサウンドをやるのが、新しくも古くもなくていいと思ったんです。オリジナルの主題歌『Ride on shooting star』も、そういう曲を目指して書いていたし。
『Star overhead』はナオ太の回想ということでしたが、『Spiky Seeds』のテーマは何でしょう。
この曲では、ハル子のことを書こうと思ったんです。ハル子は歳もとらないし、バックボーンもよくわからない。2番の歌詞に“センチュリープラント”っていう単語が出てくるんだけど、これは、100年に一度だけ花を咲かせる植物なんです。世紀に一度だけ花が咲いて、咲かせきったら枯れる。そういうドラマチックなものがハル子には合うのかなと思って。進化していくのか、進化に逆らうのか……そういうストーリーも何となくハル子や『フリクリ』を感じさせるのかなと。
でも、まずはアメリカのファンに「ひさびさのthe pillowsの新曲、やっぱいいね!」って言われたかった。だから、意味はわからなくていいんです。
「劇場版の前情報がなかった」ということですが、アニメの制作サイドからは楽曲に対するリクエストはあったのですか?
ないですね。でも僕は、何か言われてもその通りにはできないタイプだから(笑)。ストーリーを知ったところで、説明的な歌詞になるのも歌謡曲みたいでイヤだったし、結果的には知らなくてよかったのかな。
劇場版の主題歌2曲と、『フリクリ』を彩っていたこれまでの楽曲を収めたソングコレクションアルバム『FooL on CooL generation』を9月5日にリリース。こちらでは、過去の楽曲をセルフカバーしていますけど、わざわざ録り直したのは、なぜですか?
制作サイドからのリクエストです。僕自身、10年以上も前の曲は、全曲録り直したいと思っているから、願ったり叶ったりで。チャンスをもらえてよかったです。
『FooL on CooL generation』というタイトルは、『フリクリ』からとられていると思うのですが。
もちろんそうですね。the pillowsのアルバムタイトルと同じに考えてはダメ、『フリクリ』のサウンドトラックであることを明確に伝えたいというのはありました。『FooL on CooL generation』って、日本人的には“フリクリ世代”って意味だし、英語的には“クールな世代のバカ野郎たち”って感じだから、合ってるかなと思って。
本当はもうひとつ、ハル子にフォーカスした『Desperado Forever』(無法者よ永遠に) っていうタイトルも考えていたんですよ。でも周りと相談して、『FooL on CooL generation』に決めました。
ここからは、『フリクリ』とthe pillowsの歩みを振り返りたいと思います。そもそも、18年前に「the pillowsで!」と、主題歌のオファーが来たときはどう思ったのでしょう?
ものすごくはっきり覚えているんですけれど、気乗りしてなかった(笑)。それは、『フリクリ』とは無関係な理由なんだけど。当時って、タイアップ至上主義で、レコード会社が何でもいいからタイアップを付けようとしていたんです。ニーズの合わないタイアップでは、そこで出会えた人に僕らの音楽やキャラクターを好きになってもらえる自信がなかったし、やり方が間違っているって思っていて。
そうだったんですね。
ある日スタジオに行ったら、『フリクリ』の絵コンテみたいなものがあって。また政治力でもぎ取ってきた、誰にも望まれてないタイアップだと思ったんです。若いころは、それでイヤな思いをしたことが何度もあるんですよ。でも『フリクリ』のころには、レコード会社の言うことなんてきかない歳になってたから「絶対にイヤだ!」って(笑)。
そうしたら、「鶴巻和哉監督が、the pillowsのことが好きで出したオファーだ」と言うじゃないですか。それだと話はぜんぜん違うじゃない。「好き」って言われたら受けますよ(笑)
アニメーションは、普段からご覧になるんですか?
僕は音楽以外の趣味がないので、アニメーションは全然わからない人間で。オリジナルの『フリクリ』を見たときも、本当に意味がわからなかったんですよ(笑)。自分の知らない世界、一度も見たことがないものを見たっていう感じでした。
ご覧になってみていかがでしたか?
1回目は曲の使われ方ばかりを気にして見ていたけれど、2回、3回と見るうちに、「この作品に意味を求めちゃいけない」って思うようになりました。的確なたとえじゃないかもしれないけど、『フリクリ』は一発ギャグみたいな感じというか、不条理なものを面白いと思えるか、みたいなところがあるじゃないですか。僕はそういうところが好きですね。
そういう意味でも、オリジナルの『フリクリ』と、『Ride on shooting star』の世界観はピッタリだったというか……。
うん、マッチしてましたね。『Ride on shooting star』の歌詞も一発ギャグみたいなもので、「面白くない」って言われたらおしまい(笑)。当時、『フリクリ』のおかげでthe pillowsが認知されてアメリカツアーにも行ったんだけど、アメリカのマスコミや現地のファンに「the pillowsの音楽も『フリクリ』も、何がなんだかわからないけど、とにかくカッコいい」って何度も言われました。それってロックンロールの基本なので、最高の褒め言葉ですよね。
僕は音楽ファンだった青春時代も、「何だかわからないけどカッコいい」と思ってロックを聴いてきた。だから、自分にふさわしい評価をもらったなと思いました。
『フリクリ』と『Ride on shooting star』は、“共鳴”していたということですね。山中さんが『フリクリ』に共感するのは、どんな点ですか?
けっこうひどい悪ふざけをぶっ込むなっていうところは、好きだね(笑)。ロックバンドがトランプ政権のことを何か言ってもおとがめはないけど、先輩のバンドのことを言ったらマズいことになるじゃない。『フリクリ』はアニメなのに、ほかのメジャーアニメや、大御所マンガ家をイジっちゃう。なかなか悪いヤツだよね(笑)。そういう悪い冗談みたいなところがいいよね。

“音楽が好き”という気持ちが折れたことは一度もない

『フリクリ』との出会いは、the pillowsにとっても、大きなものでしたよね。
多くの出会いにつながりましたね。海外はもちろん、日本でも『フリクリ』でthe pillowsというバンドを知ってもらえた。僕らの世界ってライブハウスだけだったから、フランシスコ・ザビエルみたいに、『フリクリ』がめちゃくちゃ広めてくれた(笑)。
今回も新作『フリクリ』がアメリカで放送されるタイミングで、北米ツアー『ADULT SWIM PRESENTS "MONO ME YOU SUN TOUR"』が行われました。
7年ぶりのアメリカツアーでした。『フリクリ』の続編のおかげで、過去の3倍くらい大きい規模でやることができました。英語のMCはプレッシャーだけど、音楽はいつも通り、全力で。
山中さんはよく、「今が一番楽しい」という発言をされていますよね。『Star overhead』の歌詞の中にも“今を生きる”というフレーズがありましたし、人生訓とされているのかなと思ったのですが。
まぁ、人間が生きて幸せになるには、楽しむ方法を探さないとダメなので、そういう心のギアチェンジというかモードチェンジみたいなものは大事に。
人間にはいろいろな時期があると思うんです。僕らはロックバンドとしては歳をとったけど、死ぬにはまだ早い。来年も再来年も、音楽をやっているでしょう。体力的には衰えてるけど、今のほうが上手くできることも少しだけあるし。それを“幸せ”と感じなきゃなとは思っています。
30年バンドが続いて、今もアメリカツアーをやったり新曲が出たり、ワクワクすることがたくさんあるって、すごく素敵なことだと思います。
そうですね、ありがたいですね。ただ、状況より(自分たちの)状態が重要なので、いくら世の中に評価されても、心が弱っていればダメだと思うし、逆に状況がよくなくても、本当に納得できる新曲が書けたら、僕はかなり嬉しいんですよ。だから今回は状態と状況が一致しててよかったってことかな。
状況と状態をよくするためには、どうすればいいんでしょうね。
難しいんだよね、バンドだから。僕の調子がよくてもメンバーがダメだったり、その逆もある。3人とも調子いいって、50代になるとなかなか難しい(笑)。
ただ僕は、“音楽が好き”という気持ちが折れたことがないんだよね。これって、ミュージシャンには珍しいんですよ。音楽に飽きてしまったけどお金のためにやってるヤツって、じつは多い。僕はそうじゃないけど、うちのメンバーが怪しいときが何度かあって。「絶対に許さない。そうなったら解散だ」って脅してるんだけどね(笑)。
山中さんにとって、音楽は絶対的なものなんですね。
そうだね。僕は厳しい鬼軍曹という立場でバンドにいるので、メンバーを常に見張っているんです。家にカメラを仕掛けて、ちゃんと練習してるか監視するのを趣味にしたいくらい。これが、状況と状態をよくする方法かも(笑)。
the pillows(ザ・ピロウズ)
1989年に結成された、山中さわお(ギター&ボーカル)、真鍋吉明(ギター)、佐藤シンイチロウ(ドラム)から成るオルタナティヴ・ロックバンド。2000年から2001年にかけて全6巻のOVAとしてリリースされた『フリクリ』には、主題歌『Ride on shooting star』のほか、the pillowsの楽曲が20曲以上も使用されている。『フリクリ』人気に伴い、2005年を皮切りに、今年を含め7度のアメリカツアーを行っている。2018年9月より30周年イヤーに突入する。

映画情報

劇場版『フリクリ オルタナ』
2018年9月7日(金)ロードショー
劇場版『フリクリ オルタナ』
2018年9月28日(金)ロードショー
http://flcl-anime.com/

配給:東宝映像事業部
© 2018 Production I.G / 東宝

CD情報

劇場版「フリクリ オルタナ」&「フリクリ プログレ」Song Collection
「FooL on CooL generation」
2018年9月5日(水)発売
価格:4,200円+税

サイン入りポスタープレゼント

今回インタビューをさせていただいた、the pillowsさんのサイン入りポスターを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年9月3日(月)18:00〜9月9日(日)18:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/9月10日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから9月10日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき9月13日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
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