自分の感覚を信じて。がむしゃらに将棋を。 棋士・佐々木勇気 23歳。
1年前、テレビほか多くのメディアは、佐々木勇気のことを「藤井聡太の連勝を止めた男」という形で取り上げた。彼ほどの人物をそれだけの言葉で片付けてしまうのは、実にもったいない。感情豊かで、仲間思いで、将棋にひたむきで、人間味の溢れた人となりは、棋士としての枠組みを超えてもそうはいない。
こだわりは将棋観だけではない。今回のインタビューを受けた棋士で最も「言葉の重み」というものを意識していた。誰かを傷つけていないか、読者に間違った伝わり方をしないかと、一言一言を丁寧に慎重に絞り出していた。特集のラストは、そんな「勇気流」の思考を存分に楽しんでいただければと思う。(編集部)
佐々木勇気(ささき・ゆうき) 1994年生まれ。埼玉県三郷市出身。2004年、小学4年の時に、史上最年少で小学生名人戦優勝。石田和雄九段門下。2004年、6級で奨励会入会。10年、四段。13年、加古川青流戦優勝。14年、五段。16年度、最多対局賞。17年、六段。17年度、「横歩取り勇気流」で升田幸三賞受賞。
―色紙に「日進月歩」と揮毫(きごう)されました。普段からよく書かれるのでしょうか。
そうですね。将棋の技術面が一番ですが、人間的にも日に日に成長できればと思って書いています。月や将棋の駒の歩が言葉に入っているのも好きなところですね。色紙を10枚以上揮毫する時は「一心不乱」や「挑戦」も練習しています。
―昨年度は王位リーグ進出、竜王戦で4組優勝。C級1組順位戦では9勝1敗と好成績を収めながら、昇級できませんでした。
王位リーグは表を見た時、下手したら全敗もあるなという豪華メンバーでした。モチベーションを高く持ってトップ棋士とは当たれたので、良い将棋が指せました。ただ3連勝スタートから後半2連敗してしまったところは反省です。
順位戦の途中からは千田(翔太)さん、永瀬(拓矢)さんが負けない雰囲気を感じました。9勝1敗でB2に上がれなかったのは残念でしたが、かなりの逆転勝ちもあったので。島(朗)戦に敗れてから崩れなかったところは 王位リーグの反省を生かせたかもと思えたので、あまりショックではありませんでした。永瀬さんだって9勝1敗で上がれなかった時がありましたし。
―ご自身の世代を意識することはありますか。
三段リーグの時から斎藤(慎太郎)さん、菅井(竜也)さん、永瀬さんは意識しますね。斎藤さん、菅井さんは関西ですが、クジ運に導かれて大事なところで当たることが多い気がしています。
祈りが通じているのか、永瀬さんとは対局が当たっていない状況です(笑)。ただ来年くらいにかなり当たりそうな気がしています。その時は「VS」(1対1の研究会)を中断しなくてはいけないので痛いですね。
―高見(泰地)さんは同世代について「層が厚い」とおっしゃっていました。
叡王を取りましたしね。チャンスを逃さない彼の勝負強さを見せつけました。層が厚い中で一気に抜け出しましたね。この結果を先に予想できていたら、五段予選の段階で必死に倒しにいったと思います。大事なことは過ぎてから気付くものですね。同年代は将棋のタイプがみんな違うところが面白いと思います。
―羽生(善治)世代についてはどういうイメージを持っていらっしゃいますか。
最近、若手がタイトルに挑戦することが多いですけど、それをはねのけるって言うんでしょうか?若い勢いにギリギリまで追い込まれても、最後は勝つ勝負強さのイメージがあります。
あとは盤の上でかなり研究する時間を大事にされていますよね。感想戦でも新しい発見を常に探していて。1局指すごとに「読みの筋肉」をつけていらっしゃるなと思わされますね。
―プロの世界に入って、これまでを振り返ってみていかがでしょう。
最近では、(第30期)竜王戦の久保王将、その前の(第42期)棋王戦挑決の千田(翔太)六段に負けたのは応えました。昔だと第43期の新人王戦の決勝進出をかけた対藤森(哲也)戦も痛かったですね。勝てば永瀬さんと決勝三番勝負だったので。あとは第45期の新人王戦、決勝三番勝負の阿部光瑠戦の第3局とかもですね。痛い負けを食らう度に心臓がいくつあっても足らない世界だなと感じます。その分、勝てた時は嬉しいですけどね。
―大きな勝負といえば、約1年前に藤井聡太七段と戦いました。事前に対局模様を見に行かれるなど、話題になりました。
(しばらく考え込んで………)事前の永瀬さんとの練習対局は結構大きかったかなと思いますね。不安だった気持ちを練習で補ったといった感じです。
対局室へは、羽生先生や渡辺(明)先生と対局がついた時も感想戦を見に行ってます。藤井さんの対局の時は朝から行きました。報道陣やその場の雰囲気ですね、肌で感じないと分からないことだなと。ただもう1年前に終わったことなので、次を見据えたいですね。
―藤井さんの朝日杯優勝に、谷川浩司九段が「君たち、悔しくないのか」とコメントしていました。
羽生先生との準決勝は、心の中では羽生先生に勝ってほしいと思っていました。ただ(振り駒で)藤井さんが先手番とった時は「藤井さん寄り」でした。優勝した時は悔しい気持ちもありましたが、「もどかしい気持ち」という方が合っているかもしれませんね。
―強くなるためにどういった勉強法をされていますか?コンピュータに尋ねてみたりすることは?
負けると落ち込むタイプですが、その将棋のどこが悪かったか、考えることです。あとやはり地道に詰将棋です。コンピュータには、形勢判断を尋ねます。ただコンピュータがかなり強いからといって、はまることはないですね。私の棋風的に実戦的な手が多いですから。そういう感覚を実戦で養う方に力を入れています。今の将棋は先行逃げ切りですが、やはり自分の中では終盤で逆転勝ちできる力を手に入れたい。短所は克服できるように、長所は伸ばしていけるように努力したいです。
―「この人は序盤がうまいな」と思う方はいますか?
佐藤(康光)先生ですかね。今、矢倉がキツいって言われてる中でも、堂々と▲6六歩と突いて矢倉を指されているのがかっこいいです。自分の形を持っていて流行に流されない先生の将棋は好きですね。
振り飛車党だったら菅井さんとか。研究プラス、まねできない明るい指し方をする。振り飛車であれだけ勝てるっていうのはなかなかできないです。
―戦型として「矢倉」はやっぱりキツいですか?岡崎将棋祭りで増田(康宏)さんとの対局でやられていましたが。
あれはひどかったです。矢倉と「雁木」の持久戦の構図になるかと思っていたら予想が外れました。席上対局でいい将棋が指せないとへこみますね。
今は矢倉と言っても相掛かりのような力戦が多いです。個人的に矢倉自体はキツイと思っていません。全く指さなくなるとも考えていません。おそらく高見さんも同じことを言ってませんでしたか(笑)?
―石田和雄先生に入門したきっかけを教えてください。
柏将棋センターに通い始めたのがきっかけですね。少年時代のことは結構覚えています。何局も練習将棋を指した覚えはあります。戦術に関して、師匠は何も言いませんでした。礼儀作法とか、駒が乱れていたりした時に直すようにと。
―石田先生は「小さい頃は割と慎重なタイプだったが、だんだん積極的になった」と話していました。
積極的というよりも「急所の局面ですぐパッと指してしまう悪い癖がある」と言われていました。私にはそういう実感はなかったんですが、師匠から見てそうなんだなと。子どもの時は、長考してたり、あんまり覚えてないというか。意識してやってるわけじゃないです。
現在もパッと指してるつもりはそんなにないんですけど、そう見られてるんだなと捉えています。対局をしている時はガムシャラなので、自分がどういう感じなのか、あんまり分からないので。
―奨励会に入ろうと思ったきっかけは?
小学生名人戦で優勝して一次試験が免除っていうのが、大きかったですね。同じ大会に出ていた子どもたちが奨励会に入るということでなんとなく一緒に。プロになるという意識はそこまでなかったです。大会に出ているメンバーで、一緒に奨励会を受けるというぐらいの意識でした。みんなで受けようっていう感覚で。
―小学生名人戦の優勝インタビューで「サッカー選手」になりたいと言ったとか。
そうなんですか。覚えてないです。サッカーが好きだったのでそうかもしれないです。プロ棋士というのが当時どういうものか、あんまり知らなかったんです。憧れの棋士がいたわけではなかったので。
―奨励会に入られてから、割と順調にいったという感じですか。
いやいや全然です。居飛車党ということがあって、香落ちに対応するのが時間かかりましたね。5級の時、香落ちに慣れず降級点がにつきました。
三段リーグに入ったのも、そんなに特別早いという感じはしなかったですけどね。三段になったのも、私が上がったのが13歳だったのかな。14歳も斎藤くんはじめ、15歳は永瀬さん、菅井さんいましたから、そこまで飛び抜けて若いわけじゃないですし。私は1期遅れて入っていますから。年齢はひとつ下ですが、どちらかというと彼らに追いついてきたかなという感じです。
だから三段リーグの1期目で上がれなかったのはキツかったですね。チャンスがあったところだったんですけど、昇級圏内で入ってきたところで連敗してしまって。その当時は、大阪への遠征もあまり慣れてなくて、対応できていなかったです。
確か永瀬さんが私に勝って上がったんじゃなかったんですかね。悔しいですけど、実力は認めてましたし、上がるんだろうなというのは、なんとなく思っていました。
―その永瀬七段は「佐々木さんは天才だ」と言っています。仲も良いそうですね。特別に意識していらっしゃいますか?
(周囲に天才だと)よく言っているらしいですけど、本当にそう思っているか分からないです。私に面と向かって褒めたことは一度もありませんからね(笑)。永瀬さんとの関係は、仲が良いというのは、ちょっと違うかも知れないんですけど、結構言いたいことは言える仲ですね。
言うまでもありませんが、私は努力とか練習量では、永瀬さんに全く及ばないと自覚しています。彼は休む日がないですよね。毎日将棋です。私も1カ月なら余裕ですけど、何年も何年も毎日っていうのは自分にはできないので尊敬しています。彼と将棋を指すと、将棋に対する姿勢など学ぶべきことが多いです。
―将棋ブームで最近のライフスタイルなど、何か変わったことはありますか?
私自身は今回のようなインタビューの仕事が来るようになったことです。人前で話す機会が増えて、少しずつしっかりとした受け答えができるようにしていきたいと思っています。将棋のイベントが各地で行われていて将棋ブームを感じますね。休みの日など連盟の道場が子どもたちで溢れて入場制限がかかっていたりするところを見たりする時も、活気を感じます。
―解説の仕事も増えたと思います。解説をするに当たって、何か心掛けているようなことはありますか?
解説は去年から、ぐっと増えましたね。まだ解説初心者ですが、心掛けていることは対局者を立てること。また、気持ちを込めた指し手というのが一局の中に必ずあると思うんですね。そういうところは、将棋が分からない方にも感じ取っていただきたいので頑張って表現します。
渡辺先生とか、木村(一基)先生、藤井(猛)先生の解説は、棋士も聞き入ってしまいますね。系統は違いますけど、どの先生も話が面白い。渡辺先生のズバっと解説してくださるのも見ていて気持ちがいいです。
―普段、スマホを持たれていると思いますが、将棋のアプリ以外で何か使っているものはありますか?
AbemaTVやニコニコ動画は良く見ています。最近、名刺の管理アプリを探し中です。
―佐々木さんは肉豆腐に餅を入れていたり、それからご飯を大盛りにされていたりすると思いますけど、お餅が好きなんですか?
やり過ぎですよね(笑)。餅は普通の餅でも団子でも白玉でも何でも大好物ですね。
―今後の目標をお聞かせください。
このあと対局する谷川(浩司)先生とのNHK杯は全力を出せるように努力したいです。 勝負強くなれるように鍛えたいです。
―最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。
いつも応援していただきありがとうございます。永瀬さんの話が結構、多かったような(笑)。自分らしい将棋、対局姿を見ていただけるようにこれからも頑張っていきます。また、(執筆中の)勇気流の棋書を素晴らしい本にできるように頑張ります。
インタビュー=松本博文(将棋中継記者)
写真=浦田大作
デザイン=桜庭侑紀
ディレクション=金 泳樹
企画・プロデュース=森 和文
読者プレゼント
今回インタビューをさせていただいた、佐々木勇気さんが揮毫(きごう)した色紙を1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。
- 応募方法
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\「日進月歩」/#佐々木勇気 六段のサイン入り色紙(揮毫)を1名様にプレゼント!
— ライブドアニュース (@livedoornews) 2018年5月31日
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・応募〆切は6/6(火)20:00
インタビューはこちら▼https://t.co/ufPWugG0sE pic.twitter.com/sfXQdBLjT5- 受付期間
- 2018年5月31日(木)20:00〜6月6日(水)20:00
- 当選者確定フロー
- 当選者発表日/6月7日(木)
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