音をあげない。でも力を入れすぎない。常に自然体。 棋士・豊島将之  28歳。

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3月に行われた伝説の順位戦6者プレーオフ。最終的に羽生竜王が挑戦権を得たものの、間違いなく主役はこの男だった。自らの敗戦から生み出してしまった地獄のトーナメント。久保利明王将、佐藤康光九段、広瀬章人八段と並み居るA級棋士たちを短期間で次々と下し、あわやという所まで迫った。

そんなハードスケジュールにも決して疲れ色を見せない。その様子はインタビュー時も変わらない。とにかく自然体だ。淡々と質問に答えていくさまは、普段の豊島将棋そのものだ。第四回は、「逆襲」というテーマから、ほど遠い内容かもしれない。ただそれこそが「彼らしさ」を、最も体現しているのではなかろうか。(編集部)

豊島将之(とよしま・まさゆき) 1990年生まれ。愛知県一宮市出身。桐山清澄九段門下。99年、6級で奨励会入会。2007年、四段。10年、王将戦史上最年少の20歳で七番勝負登場。以後、タイトル戦登場5回。14年、電王戦に登場し、YSSに勝利。16年、JT杯優勝。17年、順位戦でA級に昇級し、八段昇段。
―棋聖戦のタイトル挑戦おめでとうございます。率直に言って忙しいですか?
割と忙しいんですけど、(王将戦七番勝負やA級順位戦の6者プレーオフがあった)3月がすごく忙しかったので。普通、順位戦は月に1回指すものなんですけどね…。その時を思えばって感じです(笑)。昨年度を振り返ると、デビューしてから毎年タイトル獲得を目標にやっているので、それが達成できなかったのが残念でした。でも勝ち負けといった成績、指す将棋の内容は良かったと思っています。
―王将戦七番勝負は豊島さんが第1局をものにして、ファンは「ついに初タイトルがくるか」といった感じでした。
これまでのタイトル戦は、初戦で負けてダメっていうパターンだったので、王将戦は初戦が大事だと思って勝てたので、これまでとは違う感じにはなったと思ったんですけど…。
―タイトルに初めて挑戦されたのが20歳でした。随分と成長した部分もあると思うんですけど、比べてみていかがですか。
全然違いますね。(あの時は)実力不足も実感しましたし、タイトル戦が初めてだったので、たくさんの方に対局の準備をしてもらって指せるのが幸せだなと感じました。
タイトル獲得は、棋士になった時からずっと目標でやっていて。上手くいかないことが多いんですけど、諦めずにやっていくしかないという感じで。今回の棋聖戦も大きなチャンスなので頑張りたいという気持ちもあります。一方で、タイトルというのをあまり意識せず自然体で指していくのも重要だと思っています。
―豊島さんの前に常に立ちはだかってきたのが羽生竜王です。どの辺りが強いと感じますか。
昔からですが、経験とか大局観のところで経験の厚みがすごいので、そこが一番強いと感じますね。やっぱり他の同世代の棋士よりも明らかに特別な雰囲気があります。
―羽生さんが今47歳でこれだけ活躍されてて、ご自身がもし40代後半になったらあれだけ活躍できると思いますか。
いや思わないですね。なってみないと分からないですけど。
―棋聖戦だけではなく、王位戦では、澤田六段との挑戦者決定プレーオフとなりました。リーグを振り返っていかがでしょうか。
王位リーグは、1局目から3局目までがかなり厳しい将棋になって、どの将棋も悪い局面があったけど、3連勝できたのが大きかったと思います。4局目の将棋(澤田真吾六段戦)は準備不足というか、予定した局面で常に不利だったので、そのまま相手に上手く指されてチャンスらしいチャンスもなくって感じでした。5局目(佐々木大地四段戦)は割と上手く指せて快勝って感じ。全体を通して苦しい将棋が多かったっていう印象です。
―昨年度の叡王戦本戦トーナメントはいかがでしたか?叡王戦を3期連続で予選突破しているのは豊島さんだけです。優勝候補と言われていましたが。
あの将棋(1回戦の高見泰地[当時五段]戦)はやっぱり良くなかったですね。そんなに苦労せずに優勢になったんですけど、勝ち切れなかったので。12月はちょうど成績を落としていて、(12月トータルで)2勝4敗だったと思うんですけど。高見さん以外の3局は全員タイトルホルダーで、「自分も割とベストを尽くしたけど負けた」みたいな感じだったと思うんです。一方で、高見さんとの将棋は力を出しきれず「残念だったな」って感じでしたね。
―叡王戦決勝七番勝負第1局の前夜祭で「(高見さんと金井さん)どっちも応援しません!」という発言がありました。
率直な感想でもあります。何となくその場の雰囲気というか、「どちらを応援しますか?」というアンケートをもとに進行していたので、「敢えて」。普通だったらそんなこと言いませんよね(笑)。プレイヤーとして誰を応援するってことはないですし。
―自分の世代が頑張らなくてはいけないと思ったりすることはありますか。
そういうのはないですね。将棋は「自分対他の棋士」って感じなので。でも年齢が近いと将棋観みたいなのが似ているので、お互い参考にし合ったりだとかはあると思います。
―ご自身の近い世代ですとどういう人を意識するとかありますか。
やはり稲葉(陽)さん、糸谷(哲郎)さんは当然ですね。あとは佐藤天彦さん。東西で離れてますけど対局する機会が多かったので。
―ここまでのプロ棋士人生、わりと順調に来られたという感じはしますか。
奨励会の時は、もうちょっと頑張る余地はたくさんあったと思います。三段リーグの最後の1年ぐらいまで、ずっと序盤が雑なまま来ていたので「もっと早く気付いていれば」とは思います。序盤を早めに直せば、プロ棋士になるのがもっと早かったはずです。
―豊島さんは2014年の電王戦で、対戦したYSSを集中的に研究していましたが、その後コンピュータとはどういう付き合い方をされているのでしょうか?
試行錯誤があって、色んなやり方を試しました。自分の指した将棋をソフトにかけるという使い方はずっとしていますね。それ以外でいうと、人と研究会をやって、ソフトは補助的にしか使ってない時期もありました。今はもうガッツリ研究に取り入れてますね。ソフトはフリーでダウンロードできるものがたくさんあるので、それを使っています。
―ソフトの進化で新しい世代から強い子供が生まれる可能性はあるのしょうか?
それは可能性として高いと思います。藤井(聡太)さんもソフトを使い始めたのは、ここ数年で結構強くなった後だと思うので。完全に一からソフトで育った人が出てきたときに、どうなるのかなっていうのは興味があります。大量に強い棋士が現れるという時代になるかもしれません。そうなったら恐ろしいですけど。
―いつも目標にされてるのがタイトル獲得ということですよね。何か普段から心がけていることはありますか。
将棋をやっていると勝ち負けにこだわりすぎるほうに意識がいってしまうことが多いので、あまり意識しすぎないようにという所ですかね。
結果が一番大事なんですけど、結果を意識し過ぎると、逆に勝てなくなってしまう。あとは日頃から一人で研究しているので、気分が乗らない日でも、最低限のことはやっておくということですかね。勉強時間はそこまで意識していないです。一日中、将棋をやっていることもあります。さすがに毎日じゃないですけど。
―自分の年齢を意識することはありますか?年齢から逆算して、もう少しこれをやらなくちゃいけないとか。
タイトル獲得は、もちろん早ければ早いほどいいですね。「この先いつまで活躍できるか」っていう問題があるので年齢は意識します。でも、30歳になっても、大概の人は、そんなにガクッと成績が落ちるってことはあんまりなさそうで。35歳ぐらいから落ちる可能性が結構あるのかなというイメージはあります。
個人差があると思うんですけど、棋士のピークはやっぱり25歳から35歳ぐらいかなと。自分も20歳でタイトルに挑戦していますし、35歳を過ぎたからといって、全くチャンスが無くなるわけではないとは思います。
―オフの日は何を?趣味とかありますか。以前、東野圭吾さんの本を読んでいると伺いました。
趣味はあんまりないです。最近は読書もそんなにしていません。10代後半から20代前半ぐらいの方が読書をしていましたが、今は減りました。(東野圭吾作品は)最近も1冊読みましたが、全体的にそんなに読んでいないです。
―空前の将棋ブームですね。イベントなど仕事量に変化はありますか。
自分はそんなに変わっていないです…。トーナメントプロに集中していて、将棋ブームになる前も割と仕事を頼まれて断ることが多かったので。出身である愛知の仕事などは受けることもあるんですけど、仕事量はそんなに変わっていないですね。自分のできる範囲で、トーナメントプロとしてやっていくのに支障が出ない範囲でやっています。ただ、イベントに来る方の数は圧倒的に増えているという実感があります。
―同じ愛知県出身ということで、早い段階で藤井さんのことを知っていたと思うんですけど。
自分が初めて意識して、「ああ彼が藤井君なんだ」とわかったのは、彼が奨励会入る直前(入会は2012年9月)くらいで角落ちで指していたときなんです。藤井君に完璧に指されていて、手も足も出ないくらい。角落ちだったら、結構きつかったと思うんですけどね(笑)
―四段になって現在までの藤井さんはいかがでしょう。
確かに棋譜を見ると「強いな」っていうのは、以前から分かっていたんですけど、デビューから10連勝ぐらいした時点で、これは相当強いぞと思いました。そのぐらいの時に、岡崎将棋まつりで1回指したんですけど、その時は彼の良さが出ずに終わった将棋だったんですよね。
でもさすがに29連勝するとは思ってなくて。その後、棋王戦のトーナメントで当たった時に、いろいろ藤井対策を考えて。棋譜だけを追うと、自分の快勝みたいな将棋に見えるんですけど、形勢がハッキリするまで至るところで「嫌だな」と思う手を何手も指されていた。普通にトップ棋士と指してる手ごたえでしたね。
棋王戦挑戦者決定トーナメント2回戦 豊島将之八段と藤井聡太七段(写真:日刊スポーツ/アフロ)
―朝日杯で優勝した際、谷川浩司九段が「君たち、悔しくないのか」とコメントしていました。
悔しいという気持ちがあったっけかな…?うーん。でも朝日杯での自分は、二次予選であっという間に終わったのと、王将戦と順位戦が終盤差し掛かり一杯一杯だったのでほとんど意識していなくて。朝日杯ベスト4に、王将戦と順位戦で対戦する久保先生と広瀬さんが出ていて。「その2人がどういう将棋を指すのかな?」っていう感じで見ている部分が大きかったですね。
―豊島さんからみて、藤井さんの強さはズバリどの辺りでしょうか。
やはり終盤ですかね。終盤の強さはやっぱり本人の才能というか。もちろん努力もあるんでしょうけど。そういう天性のものだと思いますね。あと序中盤の感覚がソフトを吸収してやっている部分が多いと思うので、時代に恵まれているなという感じです。
―豊島さんもそうですし、関西の若手棋士は、皆さんとてもサービス精神が旺盛というか。
自分はそんなことないと思いますけども(笑)。糸谷さんは本当に「素晴らしいな」と思いますね。マルチというか。詰め将棋カラオケとかすごいです。何かをしながら将棋を指したりするとなると、圧倒的に差があると思いますね。自分はまったくそういうのはできないので。
―詰め将棋カラオケをオファーされたら?
出ないです(笑)
―スマホには将棋のアプリは当然入ってると思うんですけど、他にはどういう使い道をされますか?
他に?携帯中継を見ていることがやっぱり圧倒的に多いですね。あとは仕事でメールを使ってます。
―研究会の連絡などはメールとかです?
もう研究会自体をほとんどやっていません。何かあればメールですね。棋士でLINEをやられている方は多いと思います。やっていないのは自分ぐらいだと思います。将棋に関係するもの以外だと、相当アナログだと思いますね。
―普段ニュースとか見られたりしますか?
野球は結構好きなので、よく見ていますね。阪神ファンです。今年の阪神は・・・なんか全然打てないですね。去年は1回だけ甲子園に行きました。そんな程度のファンなので、ほとんど見にいかずに家で見てるぐらいです。
それとアルファ碁には注目していました。将棋と違って囲碁は、強いソフトが公開されてなくて、誰でも自由に使えるってわけではないので。環境の違いなど気にしていました。
自分の経験からいって、ソフトに勝つとしたら本当に細かいところというか。将棋だと「すぐ詰まない」が絡んだら結構勝てたので。囲碁でも石が死ぬか死なないかという展開になれば「人間は意外と勝てるんじゃないかな?」と思ったんですよね。アルファ碁はシステム的にも、大局観的な部分が強いソフトなんだろうな思ったので。合っているかわかりませんが(苦笑)。
イ・セドルさんがアルファ碁に、大きな石をつかまえて勝ってたんで、「やっぱりそういう感じだったんだな」と思いました。将棋でも白黒はっきりつくような展開だと、意外と人間の方が勝てたりするので。ソフトと指した時に、自分もすごい不思議だったんですよね。「詰む詰まない」で自分の方が勝つと思わないじゃないですか? だから、囲碁の先生も多分そう思ってるだろうから、教えてあげたいなと思ったんです。
自分はそこに気付くまでに相当かかったし、船江(恒平)さんに言われて、「なるほど、試してみよう」と思って、激しい戦いをしたら勝てたというのがあったので。それを全5局内で試して、イ・セドルさんがアルファ碁に勝ったっていうのはすごいなと思いましたね。
―ご自身、これからお弟子さんを取ろうとか、頼まれたことはありますか?
今の時期は対局に専念したいと思っています。あとそこまで人生経験みたいなのがあるわけではないので。もっといろいろ経験されている方のほうがいいのではと思います。自分の対局を最優先というのもありますけど。
―「この先生は後輩を育てるのがすごいな。この師匠はいいな」と思うことはありますか?
将棋界に理想的な師弟関係の方は多いと思います。杉本先生と藤井さんだったり。
―改めてこれからの決意をお聞かせください。
やっぱりタイトル獲得を目指しますね。あと、将棋の内容はダメなところがたくさんあるんですけど、成績、勝率とかは割と満足しているので、今の感じで一つずつさらに良くしていければと思っています。

インタビュー=松本博文(将棋中継記者)
写真=浦田大作
デザイン=桜庭侑紀
ディレクション=金 泳樹
企画・プロデュース=森 和文

読者プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、豊島将之さんが揮毫(きごう)した色紙を1名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2018年5月30日(水)19:00〜6月5日(火)19:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/6月6日(水)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから6月6日(水)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき6月9日(土)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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