言動でなく「空気」で役を作っていく。佐藤 健が朝ドラで挑む、今までにないハードル
佐藤 健の朝ドラがはじまった。脚本の北川悦吏子をはじめ、制作陣からは放送前の段階で「朝ドラ革命」「冒険」など勇ましい言葉が聞こえてきた。グングン上げられるハードルに、キャスト陣はさぞやプレッシャーを感じているのでは?と思いきや、佐藤も自信に満ちあふれた表情で「絶対に面白いです」とうなずいた。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』は俳優・佐藤 健にとっても特別な作品となる。「自然体」「生きたキャラクターを演じる」――彼が発する言葉のひとつひとつから、そんな確信がひしひしと伝わってくる。
撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.スタイリング/吉本知嗣 ヘアメイク/須田理恵
デザイン/前原香織
「脚本の北川悦吏子さんとはご一緒したいと思っていた」
- のっけから年齢の話で恐縮ですが、ちょうどいま放送されているタイミングで佐藤さんは、18歳のヒロイン・永野芽郁さんと同級生を演じていますね。何度か佐藤さんを撮影、取材している私の周囲のカメラマンや編集者からは「佐藤 健、むしろ若返ってない?」という声が聞かれます。
- いいですねぇ! いま、そういう声をもっとも欲しているので(笑)、うれしいです。
- 「よく聞きます」じゃなく、あくまでご自身が「欲している」?(笑)
- 欲してます(笑)。いや、実際のところ、自分ではよくわからないんですよね。周りから見ると、そうやって役や共演者に影響されている部分があるようなんですけど、無自覚です。どんなに変わっても、自分の中では自然体なんですよね。
- 今回、朝ドラ初出演となります。ご自身の中で、これまで朝ドラに対して、どんなイメージを持っていましたか?
- いまとなっては撮影に入ってしまっているので、他の作品と変わらず、役を演じるだけという気持ちですけど、お話をいただく前は、自分がやるような作品じゃないのかな?というイメージがありました。そういう意味で、声をかけていただけたのがすごくうれしかったです。
- ご自身と朝ドラのイメージが結びつかなかった? たしかに、これまでたくさんのドラマに出演されてはいますが、多くの人々にとって佐藤さんは“映画俳優”という印象が強いかもしれません。
- 意識的に映画に多く出ようと思ってないんですが、結果的にドラマよりも映画が多くて、何となく自分にはそっちが性に合っているのかな?とぼんやりと思うことはありました。朝ドラは、他の連ドラ以上にテレビというメディアを代表する存在であり、自分には接点はないんじゃないか?と。
- それが、こうしてご自身にとっても意外とも言えるオファーが届いて…。
- 自分の中でもドラマをやりたいって気持ちはずっとあって、でも、それがなかなかできず、ファンのみなさんに対しても申し訳ないと思っていました。そういう意味でいい機会をいただけたなと思うし、何よりも(脚本の)北川悦吏子さんといつかご一緒したかったので。
- 北川さんの存在の大きさについて、これまでの会見などでも語られていますね?
- 純粋に北川さんのドラマがすごく好きでした。『ロングバケーション』(フジテレビ系)も見ていましたし。朝ドラに出るってすごく光栄なことですが、その中で北川さんに声をかけていただいたことは、「やってみよう!」と思える大きな要素のひとつでした。
律は自分っぽい「力を抜いて、自然体で演じればいいのかな」
- 1971年(昭和46年)に岐阜県で生まれたヒロイン・楡野鈴愛(にれの・すずめ/永野芽郁)が高度成長期の終わりから現代までを駆け抜け、やがて一大発明をなすまでを描く本作ですが、脚本を読んで、どんなところに北川さんらしさを感じましたか?
- たくさんありますが、まず脚本を読んで思ったことは、画がものすごく見えてくるということ。その画を伝えるための脚本なんだなと。テレビドラマを作るための設計図のような感じで、ただセリフが書いてあるだけでなく、意思がそこにありました。
- 意思?
- ドラマ作りの本質を見た気がしましたね。あぁ、こういうことなんだよなぁって。セリフがすごく面白くて、キャラクターの魅力が、作品そのものの魅力につながっているなと思いました。
- 佐藤さんが演じる萩尾 律(はぎお・りつ)は、鈴愛と同じ日に同じ病院で生まれた幼なじみですね。最初に脚本を読んだとき、律に対してどんな印象を持ちましたか?
- 最初に読んだ当時、どう思ったのか鮮明に覚えてないので、いまの気持ちとどう変わったのかわかんないですけど、どこか自分っぽいなと感じています。力を抜いて、自然体で演じればいいのかなと。
- 普段の佐藤さんと近い?
- そうですね。ある意味、自分の素が出てもいいのかなという思いもあり、自分の要素と律が重なっているんだなと感じます。
- 具体的にはどういった部分で?
- 律は理系の設定なんですけど、自分もそうでしたし。(劇中で)ロボットを作ろうとするところなど、興味のあることも自分と重なりますね。
- 感情のおもむくままに行動する鈴愛と対照的に、律はクールな理論派ですね。
- みんなと同じテンションでいられないところがあって、周りの友達と一緒にいても、どこか冷静でいてしまうところがあったり。そういう部分は僕自身もありますね。
- 北川さんが、佐藤さんにあて書きする形で律を作っていった部分もあったのでしょうか?
- あると思いますね。北川さんが「全キャラクターはあて書き」、「演じる役者の実体がつかめないと(キャラクターが)書けない」くらいのことをおっしゃってましたので。
- いわば、北川さんから見た“佐藤 健”が、律というキャラクターに凝縮されている?
- とはいえ、僕が北川さんにお会いする前から、何となくキャラクターはあったはずだし、そういう要素が重なったのはすごく不思議だなと感じてます。
- 「自分の素が出ても大丈夫」と思えるキャラクターというのはやはり、演じやすいものですか?
- 演じやすいかどうかでいうと、演じやすいです。でも、簡単か難しいかというと、話はまた別なんですけど…。
- ご自身と全然違うと思うところはありましたか?
- 性格的な部分は、本当に共感できないと思ったら無理に演じません。自分ができる範囲でしかやってないし、実際ここまでの撮影で、演じていて「できないな」と思うことはなかったです。
周囲が抱く“魅力的な律”を表現することへのプレッシャー
- 律に関しては、これまでの会見などでも、「周りの人間が律について語ったり、彼らがどんなふうに律を見ているか」で作られていく部分が多いとおっしゃっていましたね?
- それも北川さんっぽいところですよね。律の人生を、律がどう動くかで描いてるんじゃなくて、周りにいる家族や友達、鈴愛が「律ってこういう人間だよね」と会話するんです。それでキャラが描かれていくところが多いんです。
- なるほど。
- やっぱり、勝手な意見かもしれないけど……この作品で描きたいのは鈴愛の人生。律は鈴愛にとってどういう存在なのか? 鈴愛にどう見えてるか?というのが一番大事なのかなと思いますし、それでいい。そういう役ってあまりやったことがなくて、言ってしまえば鈴愛にとって魅力的な人物でいられるように頑張らないといけない。
- 自分のイメージだけでなく、周囲のイメージをくみつつ、役を作らないといけない。すごく難しいことのように思えます。
- 僕が律を難しい役だと思った最大の理由がそこなんです。子どもの頃のエピソードでも素敵なものがたくさんあるんですけど、律に対する周りの期待、周囲が見ている律というのが、そういうエピソードを上回っている気がして…。
- 周りが律に対して「素晴らしい子だ」というイメージを持ちすぎている?
- 何で律ってこんなふうに思われてるんだ? 何かしたっけ?って(笑)。そこは自分の力で(イメージと現実のギャップを)埋めなくちゃいけないなと思った部分ですね。
- 魅力的な律を佐藤さんが体現しないといけない?
- もちろん、優しいし頭もよくて、魅力的な人物であることは間違いないんですけど、僕が思っている以上の魅力を周りは感じていて、それを表現しなくてはいけない。これは脚本を読んで、いままで感じたことのないハードル、プレッシャーだなと思っています。そういう“存在”でいるしかないのかなと。
- 言葉や行動ではなく、醸し出す空気で?
- 具体的に何かをするってことじゃないんですよね。