平凡で、お隣にいそうな親子にしたい。沢城みゆき×野沢雅子が作る新たな『鬼太郎』

水木しげるが生み出した国民的作品、『ゲゲゲの鬼太郎』がこの春によみがえる。鬼太郎を演じるのは、幼い少年から妖艶な女性まで、多彩な役柄を鮮やかに演じ分ける沢城みゆき。そして目玉おやじを演じるのは、第1〜2作で鬼太郎の声を担当したレジェンド・野沢雅子だ。撮影では顔を寄せあい、仲睦まじい雰囲気を見せるふたり。インタビューからは『鬼太郎』という物語への愛情だけでなく、お互いを尊重しあいながら良い作品を届けようとする、純粋でひたむきな思いが感じられた。

撮影/アライテツヤ 取材・文/青山香織
ヘアメイク/MAYUMI【沢城】
▲左から、野沢雅子、沢城みゆき

「鬼太郎が父親になって帰ってきたという気持ち」

4月1日より、アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の放送がスタートします。じつに6回目のテレビアニメ化で、さらに今年でアニメ化50周年でもありますね。まずは、出演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
沢城 プレッシャーというよりも、「この魅力的な男の子を演じたい」という気持ちでした。鬼太郎は妖怪と人間のあいだという、すごく絶妙な立ち位置にいるキャラクターで、演じさせてもらえるのがとっても楽しみです。
野沢 私はもう、目玉おやじを演じられるっていうのが最高に嬉しいんですよね。鬼太郎も年月が経てば大人になりますから。大人になってお父さんになって、息子に自分と同じ名前をつけてこれから育てていこう、という気持ちです。
第1話のアフレコが今週だったんですよね(※取材が行われたのは2月上旬)。いかがでしたか?
沢城 全国の人が、マコさんの目玉おやじってどんなだろう?って気になっていると思うんですけど、驚くほど何の違和感もなくて。ずっと前から“父さん”だったような、そんな感覚です。「楽しみにしていてください」と大きな声で言えますね。ただ、マコさんは女性なのにおじさんの声に聞こえるんですよね(笑)。演者として冷静に考えてみると、それってやっぱりスゴいことだと思います。
それはとっても楽しみです! どのような役作りをされたのでしょうか?
沢城 あるものを読む、あるものを見る、ということに時間を費やしたつもりです。自分の中の鬼太郎のエナジーがいっぱいになるまで準備すれば、自分がどこにいればいいのかは、きっとアフレコの当日にわかるはずだと思って。
野沢 気張りもなく、自然体でスッと入っていきました。自分が父親になった気持ちだから、鬼太郎という息子がいるのも当然のことで、違和感も何もなかったです。
野沢さんから沢城さんへ、鬼太郎を演じるためのアドバイスはありましたか?
野沢 何にもありません、大丈夫です。もう素晴らしい鬼太郎になりますから!
沢城さんから野沢さんに質問することは?
沢城 そういえば何も聞きませんでしたね。マコさんって言葉で何かを教えてもらうというより、そのお背中を見て「こういうところが素敵だなあ」と見習いたくなる先輩なんです。“父さん”として温かく見守ってくださるだけで、それが十分エールになります。
ではアフレコ前に、ふたりで役作りについてお話されたりは…。
沢城 なーんにもなかったです(笑)。
野沢 なーんにもなかったですよ。逆にないほうが良いんじゃないかしら、本当の親子みたいで。あんまり親子でそんな話しないでしょ。そういう話をすると構えちゃうじゃないですか。普通の家族っていう感じでしたね。
沢城 たしかにガッチガチの緊張感の中で、ものすごい数のオーダーが飛んできて、演者どうしもいっぱい相談する作品もあるんですが、なぜか『ゲゲゲの鬼太郎』という大作は自然にはじまって…。何もなかったんですよね。
野沢 私はそれが良いと思うの!

妖怪と会話しながら生活。水木しげるの自由な生き方

第1話ですが、渋谷のスクランブル交差点から物語がはじまりますね。
野沢 すごく庶民的な場所でしょ。誰もが知っていて、たくさんの人間と会う場所。そこからはじまるのが、とっても良いと思うんですよ。鬼太郎も目玉おやじも「選ばれた人」ではないですからね。ふたりのことを「お隣に住んでいる普通の家族」というふうに思ってほしいんです。
沢城 あの場所はものすごく現代ですよね。第1話は今までよりも少しだけダークに見えるかもしれませんが、それってもしかしたら、現代の明かりがとっても明るくなっちゃったから、より影が暗く見えるだけなのかも…。まずはヒロイン(犬山まな/声:藤井ゆきよ)と同じ目線で、「鬼太郎ってどんな人なのかな? 優しい人なのかな?」と思いながら見てください。
今年でアニメ化50周年ですが、時間が経っても変わらない『鬼太郎』の魅力は何だと思いますか?
野沢 鬼太郎が人のために、どんな危険なものにも絶対立ち向かっていくところですね。私はそういう正義感が大好きで、今の大人にも本当に見習ってほしいなって思うくらい。子どもなのに、自分の生き方をしっかりと持っているという部分は、時が流れても変わらない魅力だと思うんです。
沢城 誰しもが子どものときに、「怖いけれど見ちゃう」という気持ちがあったと思います。原作に寄せられている他の先生方からのコメントも、「貸本時代の情報の少ない絵柄にかえって怖さを感じて、そこに夢中になった」というものが多くて。アニメになってもカラーになっても、その感情を揺さぶるところは変わらないから人気があるのかなと思いました。
水木しげる先生の成せるわざですね。野沢さんは、水木先生と過去にどんなことをお話されましたか?
野沢 一度しかお会いしたことはありませんが、いつでもご自分の書斎にいらっしゃって、そこでぼけーっとするのが好きなんだそうです。「ここにはいっぱい妖怪がいるんですよ、もちろん鬼太郎も。僕は仲良しですから、毎日お話しながら生活しています」っておっしゃっていました。
やっぱり、水木先生ってとてもユニークな方なんですね。
野沢 私もそうなりたいんです! 本当に水木先生は自由ですからね。お客様がいらしていても、ご自分だけおまんじゅうをパクパク食べちゃう(笑)。『鬼太郎』の世界にもそういう部分があると思うんですよ。間違ったことをしなければいい。人様に迷惑をかけず、まっすぐ生きていければいいっていう。全員がそうなったら、とっても良い世の中になると思うんですよね。

大塚周夫からの一言が、野沢雅子の“宝物”になった

目玉おやじは第1作からずっと、田の中 勇さんが演じられていましたね。野沢さんはどんなところを受け継ぎたいと考えていますか?
野沢 田の中さんは一貫して、息子である鬼太郎を愛していたんですよね。私も「息子だからこう」と当てはめず、曲がった道に行かないよう育てるのが親の責任だと思っているんです。たぶん水木先生もそう考えているんじゃないかな。
当時、田の中さんとはどんな話をしていたのでしょうか?
野沢 ごく普通の会話です。タノは芝居についてどうのなんて、一度も言わない人なんですよ。
沢城 (大塚)周夫さん(※第1・2作でねずみ男の声を担当)はどうでしたか?
野沢 チカさんは言いますね。注意はされたことないですけど。アニメ『仮面の忍者 赤影』で共演したとき、私の青影のセリフを聞いたチカさんに「マコ、芝居が上手くなったなあ」って言われたの。誰に褒められるよりも最高に嬉しかったです! 私の中に宝物として残っている言葉です。
とっても勇気づけられる言葉ですね。
野沢 原作者とか演出家に褒められるよりも嬉しいものなんですよ、先輩に褒められるっていうのは。年中、常に一緒にいる人ですもんね。
たくさんの方々が演じてこられた役柄ですが、おふたりはどんな鬼太郎、どんな目玉おやじにしていきたいですか?
野沢 ごく平凡な父親でありたいんです。ダメなことはダメと言って、良いことは褒める。そういう普通のお父さんを演じて、明るい家庭を作っていきたいなと思っています。
沢城 監督の描きたい鬼太郎を、きちんと体現したいです。というのも、「もしかしたら歴代シリーズの中で、いちばん表情の幅が広い鬼太郎になるかもしれません」と伺っていて。家で「父さん、湯加減はどうですか」って聞くときは普通の男の子でも、いざ悪と対峙したときには少し冷酷に見えるかもしれない。その幅を楽しんでもらえるよう、1話1話の表情を残していけたら良いのかなと思っています。
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