「誰も見たことがないようなものを作れたら」三浦大知の飽くなき挑戦は続く。

“無音シンクロダンス”で一躍注目を浴び、昨年デビュー20周年、ソロデビュー13年目にして大ブレイクを果たした三浦大知。緊張感あふれるパフォーマンスを行う彼だが、ステージを降りると穏やかな人。笑顔で、ユーモアを交えて質問に答えてくれる。その回答は素早く的確で、地頭の良さも感じさせる。ブレイクと言われる三浦だが、やっていること、考えていることはデビューから何ひとつ変わっていない。ようやく時代が三浦大知に追いついた――、ただそれだけのことだ。真摯な眼差しは、常に先を見据える。

撮影/祭貴義道 取材・文/坂本ゆかり 制作/iD inc.

三浦大知を年表のようにさかのぼることができる1枚

ソロキャリア13年にして、初のベスト盤『BEST』がリリースされます。もっと早くてもよかったような気もしますが…。
「ベスト盤の出し方って難しいな」とずっと思っていたんです。人それぞれ、好きな曲は違うじゃないですか。こちらから「三浦大知のベストはこれです!」って提示するのは違う気がしていて。楽しみ方は千差万別だから、僕的には自由に楽しんでもらえれば十分だし、ベスト盤を出すよりも新しいアルバムで新しい曲を聴いてもらうほうがいいという気持ちが今までは大きかったんです。
その気持ちが変わったのは、なぜですか?
2016年からより多くの方に知っていただく機会が増えて、輪が広がっていくのを感じたからですね。最近知ってくださった方に、三浦大知を年表のようにさかのぼれるものがあってもいいのかなって思ったんです。だから『BEST』という言葉を借りているけれど、シングルコレクションになっているんです。今後もベストっていう名前で、カップリング集や客演集を出していければいいかなって思っていて、その第1弾という感じです。
「年表」という言葉がありましたが、“三浦大知年表”に区切りを付けるとしたら、どこになりますか?
とりあえず、デビュー曲『Keep It Goin' On』から『Flag』までが第一期じゃないかな?まだ音源やライブの制作的なところにガッツリ入っていなかったので。
では、第二期は?
『Inside Your Head』以降ですね。制作に深く関わるようになって、それは今も継続しているので。
ほかのアーティストとのコラボレーション楽曲、『No Limit featuring宇多丸(from RHYMESTER)』、『Your Love feat.KREVA』や、DREAMS COME TRUE(以下、ドリカム)からの提供曲『普通の今夜のことを ― let tonight be forever remembered ―』なども、年表を彩る大きな要素になっていますよね?
コラボレーションは刺激をたくさんもらえるので、楽しいですよね。宇多丸さんはFolder(9歳で最初にデビューしたグループ)のときからずっと応援してくださっていたんです。めちゃくちゃコアなヒップホップ雑誌での対談企画に、当時小学生だった僕らを呼んでくださったりして(笑)。その頃から「きみたちは、もっと高いところへ行くべきだ」って言ってくださっていた方なので、「三浦大知としてコラボレーションする最初の人は、やっぱり宇多丸さん!」ってなりました。
KREVAさんとは交流が深いですよね。
もともと僕がKREVAさんのファンで、ライブを見に行ったときにKREVAさんに渡した僕のCD(『Inside Your Head』)のカップリング曲(『Magic』)をすごく気に入ってくれて。「ラップを入れたから、聴いてみて」って、いきなり音源を送ってくださったんです。そこから、「どうせならオリジナルを作りましょう」って話に。そんなふうに音楽でつながっていたんです。KREVAさんにはすごく愛を感じます。
お互いのライブに出演したりもしていました。
ようやく、僕のライブに呼べるようになりましたね(笑)。KREVAさんは、本当にいろんな景色を見せてくださいました。「大ちゃんはこれからこういう景色を見るだろうから、その前に一回経験しておいたほうがいいよ」って、5万人もの観客がいるフェスに呼んでくださったことも。普通はできることじゃないですよね。「こいつ、いいんだよ」って大声で言ってくれるのって、スゴいことです。
宇多丸さん、KREVAさんにとっては、「俺たちが推してきた大知をようやく世間がわかってくれた」という感じだと思いますよ。
そう思っていただけるように頑張っていきたいですね。
ドリカムさんの楽曲提供は、ドリカムさんが2017年に発売したトリビュートアルバム『The best covers of DREAMS COME TRUE ドリウタVol.1』に参加したことがきっかけですか?
はい、カバーさせていただいた『決戦は金曜日』のアレンジをすごく面白がっていただけて、その後に「三浦大知をイメージして曲を書き下ろしたから」って…。思ってもいなかったので、すごく感動しました。
「三浦大知をイメージした」とはいえ、ドリカム節が効いている曲ですよね。歌い手としては難しさもあったのでは?
そこは、飛び込むのが一番だと思って。ドリカムさんのカラーの中に思いっきり飛び込んで、そこで何ができるのか…。大きな挑戦だったけど、うれしさが勝って「頑張ろう!」っていう感じでした。
改めて『BEST』を聴いてみると、やっぱり、13年前の声は若いですね。
声は変わってますよね。でも、やっていることは変わってない。そのときに流行っていたり、流行りそうなダンスミュージックをキャッチして、それを僕なりに表現してきたつもり。これは今も変わらずにやり続けていることですけれど。
歌い方も、変わったのがわかりますね。
そうですね、変わったのは、『The Answer』からです。発声をもっとちゃんと勉強するためについた先生の発声方法がそれまでと全然違っていて、すごく楽に声が出せるようになったんです。声が深くなったというか、声の幅が出るようになりました。

今までとは違うものを。新曲『DIVE!』の誕生秘話

ベスト盤ながら、新曲も収録されています。新曲『DIVE!』は、ファンキーさがあって、90年代の香りがするサウンドの曲ですね。
ブルーノ・マーズとかの延長線上だけど、誰もやってない感じを狙ってみました。若い子たちに、そんな印象を持ってもらえるといいな…。
多保孝一さん(Superflyや家入レオ、chayなどのプロデュースも手掛ける)と共作されていますが、多保さんといえば、女性アーティストのプロデュースのイメージが強かったので、ちょっと意外な人選でした。
個人的に上白石萌音ちゃんの『Sunny』が大好きで、クレジットを見たら多保さんの名前があったんです。その人のいいところを発見できる方というか、誰も開けたことがない部分を開けることができる人だと思っていて、「一緒にやったら、今までと違うものが生まれそう」っていうワクワクした気持ちでお願いしました。
面識はあったんですか?
ラジオ番組をきっかけに集まるようになったメンバーの中に、多保さんもいて。ほかにはボーカリストのKさん、TRICERATOPSさん、レミオロメンの藤巻亮太さんなどもいるんですけど、彼らとは一緒に企画バンドを組んだことも。多保さんとは「いつか一緒にやりたいよね」って話をしていたし、今回のベストに新曲を入れようってなったときに、新しい方とやりたかったって気持ちも大きかったんです。
多保さんは「誰も開けたことがない部分を開けることができる人」ということですが、今回は三浦さんのどんな部分が開いたのでしょうか?
何だろう? でも最近は少し複雑なサウンドの曲が多くて、『DIVE!』みたいに突き抜けたまっすぐな感じってなかった気がするんです。このピュアな感じは、多保さんのメロディーが引き出してくれたもの。ベストアルバムの中に入る新曲としては、この方向性が間違いなくベストだと思いました。
『DIVE!』のMVも、ベスト盤ならではというか。
そうですね、全シングルの要素をどこかしらに入れ込みました(笑)。ベストでしかできないことは何かって考えた結果です。チャレンジできてよかったと思います。
どこに何の要素が入っているのか、探すのも面白いですね。
わかりやすいところもあれば、めちゃくちゃ細かいところもある。ふたつの要素が入っている部分もあるし、気付かないで見逃しちゃうところもあるかもしれないですね。でも、楽しんでもらえるといいな。
オープニングの空撮は、マイケル・ジャクソンの『Black Or White』へのオマージュだとか。
最初の「ウィーーーン」って音にどんな映像がハマるか考えたとき、三浦大知が最初に影響を受けたものへのオマージュから、今の三浦大知につながっていくみたいな感じがいいなと思って。『Black Or White』のオープニングの空からフォーカスしてくる感じが歌詞に合ってるし、それとリンクさせることにしました。
『BEST』といえば、昨年9月16日からスタートした『DAICHI MIURA BEST HIT TOUR 2017』が、2月15日の武道館の追加公演でファイナルを迎えましたが、どのような内容だったのでしょう?
このツアーは、オリジナルアルバム『HIT』とベスト盤『BEST』のリリースのあいだに挟まれたツアーなので、「BEST HIT TOUR」というタイトルなんです(笑)。最初は、ベストっていう言葉も入っているし、デビュー曲や今までのシングル曲なんかを多く盛り込もうとしたんですけど、「三浦大知にとってのベストヒットって何だろう?」って考えたときに、「常にチャレンジしてる」ってことだったので、「こんな見せ方は三浦大知クルーでしかできないよね」っていうところを突き詰めて作ったツアーになりました。
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