「失敗したときこそ本質が問われる」――青柳 翔が考える、本当に強い人間とは?

映画『たたら侍』は、戦国時代を舞台に、古代の製鉄技術「たたら吹き」の技を受け継ぐ運命を背負った青年が、技術を狙い襲ってくる者から村を守ろうと奔走する本格時代劇だ。主演は劇団EXILEの一員として活躍する青柳 翔。その骨っぽい魅力が、硬派な作品のテイストにかっちりはまり、実直な主人公・伍介に命を吹き込んでいる。本当の強さとは何か? 時代とスクリーンを超えて、青柳の眼差しが問いかける。

撮影/平岩 享 取材・文/新田理恵 制作/iD inc.
スタイリング/松川 総(TRON) ヘアメイク/鵜飼雄輔(TRON)
企画/ライブドアニュース編集部

「憎しみの連鎖を断つ」現在につながるメッセージ

『たたら侍』は、ベテラン揃いの豪華な共演者とスタッフ陣、出雲の山に作られた広大なオープンセット、今や少なくなったフィルムでの撮影など、とても贅沢に作られた映画です。そんな作品の主演を務められたお気持ちは?
ロケ地の島根県の方々や、HIROさん、AKIRAさん、(小林)直己さん、石井杏奈ちゃん、そして大先輩方、こんなにたくさんの人にご協力いただきながら、時間をたっぷり使って作る作品に出演できる機会はなかなかないことだと思います。もちろん、公開に向けてプロモーションしていく責任みたいなものや、プレッシャーを感じることもありました。
日本の伝統を重視した時代劇ですが、一方で「心の弱い者が力を持てばやがて暴力になる」など、現在を生きる私たちも考えさせられる作品ですね。
まず完成した作品を観て、景色なども1シーン1シーン、こだわって撮っている映画なので、そこは改めていいなと思いました。「憎しみの連鎖を断ち切る」という言葉が出てくるのですが、憎しみを断つというのは簡単なことではありません。でも、それをメッセージとして伝えるのがこの映画なのかなと思います。
伍介は、「強くなって村を守りたい」という一心から、運命に抵抗して侍になろうと村を出て行き、思いとは裏腹に、村に災いを引き込んでしまう。悩み、もがいている姿がとても人間臭い役でしたね。
相当難しい役どころでしたし、その反面、やりがいがあるなとも思いました。伍介にはもちろん「村を守りたい」っていう強い思いがあるのですが、スーパーヒーローではありません。村を出て、挫折して、「行くところがない」と村に帰ってきて。それでも村を守りたいから奔走するんだけど、まわりの人を傷つけてしまう。一番最後のシーンで伍介がとる行動に向けて、監督やスタッフのみなさんに相談しながら、そんな気持ちの流れみたいなものを作っていくようにしていました。
伍介に共感する部分はありましたか?
撮影中は演じることに必死で、「この作品を良くしよう」ということしか考えてなかったのですが、できあがった作品を観て、プロモーションしていくうちに、「自分は良かれと思ったのに、人を傷つけてしまうことって実際いっぱいあるな」って振り返ることがありました。その部分は共感できますね。あと、作品の中の時代では、死の重みや近さが今と違いすぎて…。そこはすごく考えました。
この作品に出演されて、世の中の悲惨な出来事に対する見方に変化はありましたか?
そうですね。改めて現在にもメッセージが向けられてる作品だなと感じました。村を守るためには何が必要なのか? 村では(日本刀の材料となる)鋼を作っていますが、「もう刀じゃなくて銃の時代だ」というやり取りが出てきます。でも、そこで銃を持つことの意味を考える、道徳的なメッセージみたいなものも詰まっている。そんな映画だと思います。

大女優からのアドバイス「ありのままでいなさい」

津川雅彦さん、キャリア70年の大女優・奈良岡朋子さんなど、助演陣の豪華さや、熟練スタッフの布陣にも驚きました。主演としてお芝居されるプレッシャーは相当大きかったのでは?
もちろんプレッシャーはありました。でも、父親役の甲本雅裕さんには「好きなようにやっていいよ」と言ってもらったり、みなさんが広い心で迎えてくださったと感じます。錦織(良成)監督の人柄もあって、スタッフさんも明るい空気を作ってくれたり、ピリッと締めるところは締めてくださったり、ホントにチーム一丸となって作った映画になったなと思います。
共演者の方々からアドバイスをもらったり、心に残ったやり取りはありますか?
奈良岡さんとは、撮影中も食事をご一緒させてもらったんですけど、「奈良岡さんでもやっぱり緊張するんですか?」って聞いたときに、「緊張するのがおこがましいのよ」って言われたんです。「自分を良く見せようとしたり、自分ができる以上のことをやろうとするから緊張するのよ」ということがすごく印象的で、ありのままでいなさいと言われているような気がしました。
なるほど、目からウロコのアドバイスですね。
ずっと芸に生きてきた方なので、やっぱり言葉にすごく重みがあるというか、勉強になりました。それからは、緊張してるなって思ったときに、奈良岡さんの言葉が頭をよぎったりします。それでも緊張は解けないですけど(笑)。やっぱり頑張ろうとしちゃうんですよね。
津川さんとはいかがでしたか?
津川さんとは、現場であまり作品の話はしていないですね。津川さんが愛犬家で、飼ってらっしゃる犬の画像や動画を見せてもらったりしていました。待ち時間も長かったし、日差しも強く、着物で体力的にも疲れる現場だったので、犬の話をするときだけはすごく和やかでしたね(笑)。
出雲の山奥でロケをされたということですが、息抜きでしていたことは?
監督やスタッフさんと、撮影が終わったあとにお酒やお食事をご一緒させてもらったり。あと、奈良岡さんがカラオケに行きたいっておっしゃったので、一緒に行って息抜きをしていました。撮影現場はものすごい山の中でしたけど、泊まっていたホテルの近くにカラオケがあったんです。
どんな曲を歌われたんですか?
何を歌ったかなぁ…。正確には思い出せないですけど、直己さんもいて、奈良岡さんが知らない曲はどうなんだろう? っていう、意思の疎通みたいなところがあって。ふたりで「奈良岡さんが知ってそうな曲を入れる合戦」みたいになっていました(笑)。
大先輩と密に交流ができるというのは、素敵な機会ですね。
そうですね。奈良岡さんは撮影後も「またお食事行きましょうね」って言ってくださったり、クリスマスプレゼントをいただいたりと、お母さんみたいに接してくださいました。

失敗を素直に認め、次に進もうと努力するのが強い人間

今回の現場を通して、俳優としての成長を自覚する部分はありますか?
ありますね。こんなに時間をかけて、ひとつひとつ丁寧に撮っていく現場はなかなか経験できることではないので、まわりの人たちに感謝していますし、次の作品にも活かしていけたらいいなと思います。
この映画のテーマのひとつは、伍介の成長物語だと思います。“本当に強い人”は、どういう人だと思いますか?
失敗しても、それを認めて次に進もうと努力するのが伍介なのかなと思うんです。伍介は弱くて、刀を目の前に尻込みして失敗することもあるんですけど、失敗したときこそ人の本質が問われるのではないかと思っていて。失敗を素直に認めて、そこからどうすればいいかを考え、行動する人は素敵だなって思います。
本作は、第40回モントリオール世界映画祭で最優秀芸術賞を受賞。青柳さんは映画『Mr Long/ミスター・ロン』(今年公開予定)でもベルリン国際映画祭に参加されました。国際映画祭に参加して、「もっと海外に目を向けたい」という思いは?
まずは『たたら侍』をたくさんの方に観ていただくこと、僕は日本でまだ何も成せていないので、まず日本でたくさん活躍できるようになることが目標かなとは思っています。
でも、すごくいいご経験をされてらっしゃいますね。
立ちたくてもなかなか立てる舞台じゃないので、日々、感謝ですね。
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