「他の人が感じられないプレッシャーを経験できるのはありがたい」 CMで話題のボートレーサー永井彪也・大山千広が語る“今までとこれからのチャレンジ“

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ドラマか映画か、それともドキュメンタリーのような印象を受けるボートレースのテレビCM。ついつい、登場人物に感情移入して見入ってしまう人も多いかもしれない。2021年からはじまった新シリーズでは、神尾楓珠さんと芋生悠さんがボートレーサーを志して養成所に入所する若者役で出演。今後の展開が気になるところ……なのだが、実はこの2人にモデルがいることをご存知だろうか。

それが、若手No.1を決める大会での優勝実績を持ち、イケメンボートレーサーとしても注目度急上昇中の永井彪也選手と、母娘2代の女子ボートレーサーにして女子初のSG制覇にも期待がかかる大山千広選手だ。CMのモデルとなったふたりのスター選手は、新CMを見て何を思ったのか。ボートレーサーとして養成所時代からこれまで、そしてこれからについて話を聞いた。

「勝負をしているところが魅力的」お互い身近だったボートレース

2021年からはじまったCMの新シリーズでは、おふたりがモデルになっているそうですね。
永井彪也 はじめて聞いたときはびっくりしました。最初に聞いていた話では、自分の背景とかを活用させてもらいます、といったくらいだったんですけど、実際に出来上がったCMをみたらすごく細かいところまで描写しているなあと。

保護者がバスで帰っていくところなんて、かなりリアルですよ。養成所に行くときに乗るバスは不安とか嫌だなとかそういう感情で、休暇や卒業で出ていくときは解放される気分で。入りと出でまったくテンションが違うんです。その時の気持ちを、CMを見て思い出させてもらいました(笑)。
永井彪也選手
大山千広 そうですね、ああいう感じだったなあって(笑)。行くときと出るときの気持ちはやっぱり違いますよね。私も自分がCMのモデルになるなんて思ったこともなかったので、嬉しかったです。
大山千広選手
養成所はとても厳しいところだと聞いています。どんな思い出がありますか?
大山 入所するときに、母に「とにかく卒業しておいで」と言われたんです。どんな成績でもいいから、とにかく卒業することが大切だ、と。卒業したらあとは、そこからいろいろ変わっていくことができるから、何よりまずは卒業しないとダメなんですよね。

養成所では……私の場合は分刻みで行動するのがとにかく大変でした。たとえば、食事を7時からはじめて7時15分きっかりに席を立って、8時にはじまる課業にあわせて準備をしたり掃除をしたりしないといけない。早くても遅くてもダメなんですよ。それが365日ずっと続く……。さすがに半年くらいしたら慣れましたが、もう少しゆっくり寝られる日があったらなあとは思いました(笑)。
永井 自分の場合は最初の1ヶ月間が大変でしたね。その期間では礼節とか所作からはじまってとにかく覚えることばかりなんです。午前中にこれを教えたから午後にはもうできるよね、覚えているよね、みたいな感じで。実際にボートに乗って技術を学んでいく前の段階ですから、成長している実感を得にくくてつらいこともありました。その期間でも数人辞めていましたからね。
養成所時代の永井選手
大山 私も同期の存在は力になりましたね。私のときは同期の女の子が4人いたので、いつも一緒に競い合って意識も高めあって。今でも仲がいいですし、やはり特別です。
永井 養成所の同期って1年一緒に過ごした仲ですからね。2年ぶりにあっても久々な感じがしないというか、それだけ濃密な1年だったんでしょうね。同期の中ではぼくが男性ではいちばん年下で、最年長では20代後半。10歳も離れているから、どうやって打ち解けようかとか考えたのも思い出しました。そういう意味では、いろいろな形でメンタルが鍛えられる場所でもありましたね。
おふたりともご家族・ご親族にボートレーサーがいらっしゃるという中で、どのような経緯でボートレーサーという道に挑戦をされたのでしょうか。
永井 ぼくは中学生のときにはじめて従兄弟のボートレースを生で見てハマったんです。エンジン音とか迫力もそうなんですけど、水面にボートが6艇浮かんでいてレースをやっているという空間がとても楽しそうで。1着で走っている気分ってどうなんだろうな……なんて考えて、もうボートレーサーになると決めました。

高校は工業系に進学したんですが、それもエンジンの仕組みとかを少しでもわかっていたらボートレーサーになる上で役に立つんじゃないかと思ったから。工業系の学校だから卒業して就職することもできるんです。でも、実習とかを経験してこれは自分には無理だな、って(笑)。だから他の道をすべて断って、ボートレーサーだけを目指してきました。
大山 私は母がボートレーサーなので、いちばん身近にボートレースがあったんですよね。他の人が誰でもやっているような仕事とは違いますし、毎日レースをして勝負をしているところが魅力的に思ったんです。でも、実際にボートレーサーになってレースで走るようになると、毎日勝った負けたを繰り返すことってこんなに大変なんだなと実感しました。どうしてもメンタル的にしんどくなることもあるんです。勝負の中にいるのは楽じゃない。でも、母は家ではそんなそぶりをまったく見せなかったんです。改めて尊敬しました。
元ボートレーサーの大山博美さん(左)

緊張はしなかったデビュー戦

養成所を出て最初のデビュー戦、覚えていますか?
永井 もちろん覚えています。が、最初のレースではほとんど緊張しなかったんですよね。ぼくは同期の他の人よりちょっとデビューが遅くて、2ヶ月くらいあとだったんですよ。その間に同期はデビューして、さらに1着取った人もいる。だから置いていかれているんじゃないか…という気持ちはちょっとありました。ただ、実際にはレースそのものよりも、それ以外に覚えないといけないことがたくさんあって、そっちのほうが大変でしたね。
大山 レースに関しては勝てるわけがないと思っていましたからね。正直なところ、それまで訓練生同士でしか走っていないので、いきなり勝てるほど甘いわけがない。だからレースでは私も緊張はしませんでした。永井選手と同じで、やっぱりそれ以外の新人としての仕事のほうが大変なんですよね。事前に教えてもらっていても、やっぱり実際に体験しないとわからないことも多いですから。
永井 それまで会ったことのない、40人以上の先輩たちの中で共同生活ですもんね。その環境に慣れていくことが大変で。おかげで、レース自体は気楽に臨むことができたかなと思っています。
大山 永井選手とは記念レース(※グレードの高い「G1」以上の競走)とかで一緒になるんですけど、そのときにはたいてい私が一番下なので、いろいろな雑用をするんです。たとえば毎朝新聞を各部屋の前に置くのも私の仕事。で、それがあたりまえなので誰も特に何も言わないんですけど、永井選手だけは「ありがとう」って言ってくれるんですよね。それも毎日同じことをしても必ず。優しい方だなあと思って(笑)。
永井 大山選手のことは最初から知っていますけど、練習とかでも上手だなあと思っていたんですよ。でも、思った以上の早さで才能が開花しましたよね。陰ながらすごい努力をしているのも知っていますし、あとはメンタルがスゴイんじゃないかなと思っていて。
大山 いやいや(笑)、永井さんのほうがメンタル強いと思いますよ。割り切っている、じゃないですけど、ダメならダメなりにどうするのかをしっかりコントロールしているな…といつも思っています。

見てほしいのは、5着、6着でも最後まで諦めずに一生懸命走っているところ

やはりボートレーサーにとっては、技術もそうですがメンタルは重要な要素になるんですね。
大山 大事ですね。とくに上のレベルの大会にいけばいくほど、メンタルの占める部分は大きくなります。トップボートレーサーとは技術の差ももちろんすごくあるんですけど、だからどうしても自分が劣っていると感じてしまう。やっぱりあるんです、勝てないでしょ…と思っちゃうことが。でも、それじゃあ気持ちで負けてしまう。それを超えて勝てると自分に思い込ませたりして、超えていくしかないんです。なかなか難しいですが、そこは経験をしていかなければいけないところかな、と。
永井 ぼくの場合は、レースに対しては今もあまり緊張しないんですよ。こういう取材のほうがよっぽど緊張します(笑)。平常心という言葉が正しいのかはわかりませんが、なるべく勝ちたいという思いを全面に出さずに静かに燃えるようにしています。いちばん重きを置いているのは、怪我をせずに無事に帰ってくるということ。
ぼくが中学生のときにボートレーサーになりたいと言ったとき、母は反対もせずに「いいよ」と言ってくれたんです。いま、自分も親になってわかりますけど、それってスゴイことなんですよね。「いいよ」のひとことの裏にはどれだけ見え隠れするものがあるのか。だからこそ、絶対に家族を悲しませてはいけない。無事に帰ってくることが一番なんです。その上で、全力で勝つことを考える。こういうスタイルは選手によっても違うんじゃないですかね。
大山 私はすごく緊張するんです。ただ、緊張しすぎても体が動かなくなるので良くないんですよね。だから、レース直前まではすごく自分を追い込んでプレッシャーを掛けるんですが、乗るときにはプレッシャーを全部抜くようにして、負けても次がある、得るものもあると思うようにしています。まあ、実際にはなかなかうまくいかないことも多いんですけどね……。ただ、最近はみんな緊張しているんだなということもわかってきました。どんな実績のあるボートレーサーでも、緊張はするんだな、と。
永井 ボートの面白さでもありますよね。すごく強い人でもずっと勝ち続けるわけじゃないですし。どんな強い選手も下位の選手と競って負けることがある。あの人でも負けるときは負けるんだなあ、と思いながらやっています(笑)。
勝ち負けの世界の中にいると、それこそメンタルの保ち方が大切なんでしょうね。もちろん嬉しい、悔しいがいつもつきまといますし……。
永井 勝ったときには期待に応えられて嬉しいですし、負けたときも自分自身が悔しいというよりは自分に期待してくれた人たちの思いに応えられなかったことが悔しいですよね。だから、ファンの方々に見てほしいのは、最後まで諦めずに必死に、一生懸命走っているというところ。5着、6着でも誰も諦めていませんから。
大山 そうですよね、5着でも6着でも、私を応援してくれている人は私の走りを見てくれていると思っていますから。そこで3着以内じゃないから諦めよう、という気持ちが少しでも出てしまったらもう次は応援してもらえなくなってしまう。だからそこは必死に最後まで。ボートレースは女性も男性と同じ舞台で走ります。でも、どうしても男性にはなかなか勝てないんですよね。ただ、その中でも貪欲さ、しぶとさ、諦めの悪さは負けていないと思っています。そしてそれがあるから、男子選手にも勝つことができるんです。

他の人が感じられないプレッシャーを経験できるのはありがたいこと

最近ではおふたりのように活躍されてメディアに注目される選手も増えていまして、ボートレースの人気も高まっていますよね。その点については選手としてどのように受け止めていますか。
大山 私たちはいまのように人気のある時代しか知らないので、恵まれているなあと本当に思います。子どもの頃、母はボートレーサーであることを知られてはいけないという感じでしたから。母と出かけても、バレたらいけないからボートの話はNGだったりして。もちろん街で声をかけられることもありませんでした。

でも、いまは違いますよね。スポーツ選手として認識してもらっていて、街でも同年代の方々に声をかけてもらえる機会も増えた。そんな時代がくるなんて、と母もびっくりしています。それはモチベーションもあがるし、すごく嬉しいことだと思っています。いろいろ裏でがんばってPRしてくださっている方々のおかげですね。
永井 取り上げてもらう機会が多いのは嬉しいですよね。自分がどういう気持ちでレースに望んでいるかがわかったほうが、応援しやすくなると思いますし。ただ、ボートレーサーは全体で1600人もいるんです。全員が全員というのは無理でも、もっと取り上げてもらって知ってもらえる選手が増えたら、ますます面白くなるかなあと思っています。
ちなみに、大山選手は最近ご自身を題材にしたマンガが公開されたそうですね。
大山 はい、そうなんです。マンガ好きの私にとってはこれほど嬉しいことはないですね(笑)。もちろん注目していただくことは嬉しいですけど、私自身はまだまだ周囲の期待や注目度と比べると実力が追いついていないな…と感じていて。だから自分が早く、周囲の期待に追いつかないといけない。知らず知らずのうちに意識するようになってしまっていました。

ただ、そこは他の人が感じられないプレッシャーを経験できるのはありがたいことなんだと思うようにしています。例えばファン投票1位のプレッシャーのなかで、勝った嬉しさや負けた悔しさ。普通とは違う、先につながる経験なんだろう、と。
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今回のテレビCMも含めて、ますますボートレースの魅力を知ってもらうきっかけになりそうですね。これからもCMなどを見てはじめてボートレースに触れる人たちが増えていくと思います。そんな方たちにどんなところを見てもらいたいか、そしてどんな選手になっていきたいかを最後に教えて下さい。
永井 最初はやっぱり万舟券を取ってくれたらハマると思います(笑)。それは冗談としても、このご時世なのでなかなか大変ですが、やっぱりレース場に来てもらって、生で見てほしいですよね。ぼく自身も生でレースを見てハマってボートレーサーになりたいと思ったわけですし。映像越しではエンジン音とか水面を走る迫力はどうしても伝わりにくい。そして、5着、6着でも必死に走っている選手の思いも、やっぱり生で見ていただいて伝わるものかな、と思っています。ぼく自身としては……やはりグランプリを勝つことが目標。そこに向けて、メンタルも技術もエンジンやボートの調整も全部鍛えていく。日々の生活の中でも意識改善をしてがんばっていきたいですね。
大山 男子選手と女子選手が同じように戦っているところ、そして勝っているところを見てほしいですね。個人的には同世代の女性に「応援しています」と言われるのがいちばん嬉しい。もちろん男性ファンも嬉しいですが、同世代の女性にスポーツ選手として応援してもらえるというのは大きなモチベーションになります。

私自身はここ半年くらい調子が悪くて、苦しいなと思うこともあるんですけど、これからまた一歩・二歩とステップアップしていくために力をためている時期だと考えるようにしています。そして、ただ勝つのだけではなくて、クリーンできれいないい内容のレースをして勝つ、そんなボートレーサーになれるように挑戦していきたいです。あれこれ作戦を駆使するのもいいけれど、圧倒的な力でキレイに勝つ。そうなれば、もっとファンの方や関係者の方にも応援してもらえる。それが大きな目標です。
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プロフィール

永井彪也(ながい・ひょうや)
1992年11月15日生まれ、東京都出身。2019年は若手レーサーで争うプレミアムG1ヤングダービーで優勝し、最高ランクのSGレースにて初勝利した。


大山千広(おおやま・ちひろ)
1996年2月5日生まれ、福岡県出身。初の母娘レーサーとして注目を集め、2019年はプレミアムG1レディースチャンピオンで優勝、そして賞金女王に。同年優秀女子選手にも選ばれた。