伊藤園の「健康ミネラルむぎ茶」の内容量が増え続けている。1996年の発売時は500ミリリットルだったが、この10年で170ミリリットルも増え、現在は670ミリリットルになっている。ネット上では「どこまで増えるのか」と心配する声もある。伊藤園に事情を聞いた――。
「健康ミネラルむぎ茶」ペットボトルラインアップ。

■発売当初より価格は安くなり、容量は大きくなっている

「伊藤園のペットボトルの麦茶の量が年々増えている気がする」「同じ価格で量が減っている商品が目立つのに、伊藤園の麦茶は量が増えていてすごい」――。SNSではこのような書き込みをよく見かける。

たしかに伊藤園の「健康ミネラルむぎ茶」シリーズは、発売から10年の間に4回の増量を行っている。

コンビニやスーパーマーケットなどの小売店・量販店で販売される500〜600ミリリットル台のペットボトルは、1996年に「お〜いお茶 むぎ茶」という商品名で発売された。そこから、2010年には「天然ミネラルむぎ茶」の名前で600ミリリットルを、12年に現在のブランド名に変更して630ミリリットル、その後15年に650ミリリットル、16年に670ミリリットルを発売している。

伊藤園「健康ミネラルむぎ茶」中容量ペットボトルの最大容量変遷。1996年の発売時は「おーいお茶 むぎ茶」、2010〜12年は「天然ミネラルむぎ茶」の名称で販売。(編集部作成)

現在は500ミリリットルと630ミリリットルのタイプは生産終了し、600ミリリットル、650ミリリットル、670ミリリットルの3種が販売されている。

ハイペースに増量を繰り返す様子について、ツイッターでは「麦茶で世界が埋め尽くされる」「2030年頃には1.5Lくらい」といった投稿すら見かける。

「健康ミネラルむぎ茶」は、中容量のいずれの製品も発売当時の希望小売価格は税抜き140円であるため、価格は実質的に下がり続けていることになる。また600ミリリットルと650ミリリットルの現在の価格は税抜き130円であり、発売時より安くなっている。さまざまな商品が価格そのままでサイズや容量を小さくする「ステルス値上げ」をする中で、価格据え置きで増量しているわけだ。

■「一口で200ml程をゴクゴクと飲む方が多くいた」

さらに興味深いことに、容量が増えているだけでなく、商品のバリエーションも増えている。

「健康ミネラルむぎ茶」のラインアップを整理すると、ペットボトルは現在10種類。中容量の3種以外に、大きいほうから2リットル、通常ボトルの1リットル、スリムボトルの1リットル、冷凍用の485ミリリットル、350ミリリットル、280ミリリットル、ホット用で季節限定の275ミリリットルがある。このほかに缶製品は480gと190g、希釈用の180gの3種類あり、紙パックは250ミリリットルと子供用の125ミリリットルの2種類がある。

これらに加えて、ティーバッグや粉末タイプの製品もある。また2019年には「健康ミネラル麦茶 5種の健康麦 すっきりブレンド」というラインを追加し、こちらは650ミリリットルと280ミリリットルのペットボトル2種類がある。

「すっきりブレンド」

容量が増え続けていることについて、伊藤園の相澤治マーケティング本部麦茶・紅茶ブランドグループブランドマネジャーは「お客様から『こういったタイプの製品が欲しい』というご要望をいただき、それにお応えするうちに量が増えてきました」と説明する。

「過去に街頭で行った調査では、一口で200ミリリットル程をゴクゴクと飲む方が多くいらっしゃったんです。水だとこんなに飲めないのですが、麦茶にはある程度の甘みと香りがあって、すっと入ります」(相澤氏、以下同)

こういった特徴が、消費者がより多くの量を求める理由になっているようだ。

■現在の市場規模は1200億円程で、10年前の約3倍に

そもそもペットボトルの麦茶の市場が大きく伸びたきっかけは2011年の東日本大震災だったという。それまではティーバッグの需要が主だったが、「震災後は飲料水に対する不安から、2リットルサイズの麦茶のペットボトルを冷蔵庫に常備する家庭が一気に増えたんです」(相澤氏)。節電意識の高まりから、暑さ対策として麦茶を飲む人が増えたことも手伝い、2リットルサイズの売り上げが爆発的に伸びた。

2018年の歴史的猛暑も、麦茶飲料市場の伸びをさらに後押しした。現在の市場規模は1200億円程で、10年前の約3倍にまで拡大している。

ペットボトルの麦茶の消費量が右肩上がりに上がり続けている中、ここ5年程でボトルの大きさに対するニーズは変化した。

「2リットルだけではなく650ミリリットルのボトルを箱でまとめ買いする方が増えてきました。家庭内でそれぞれが自分のペットボトルを決めて飲んだり、外出時に家からペットボトルを持ち出したりする需要によるものです」

■600mlは自販機向け、650mlはスーパー向けである理由

消費者の大容量ボトルに対するニーズがあること、650ミリリットルのボトルの箱買いが増えていることはわかったが、なぜ600ミリリットル台のボトルが3種類もあるのだろうか。

まず600ミリリットルについて相澤氏は、「自動販売機に入れるために必要なのです。650ミリリットルや670ミリリットルは自販機に入りません。自販機に入る大きさの範囲で一番大きいものとして、600ミリリットルを作っています」と説明する。

では650ミリリットルと670ミリリットルがある理由は何だろうか。

「670ミリリットルはコンビニ限定の商品です。コンビニで麦茶を買われる方は男性が多く、ご要望にお応えするために、値段はそのままにより多い量を、ということでこのサイズを作りました」

それならば量販店で扱うものも全て670ミリリットルに統一すれば良いのに、と思えるが、それは違うようだ。

「量販店は女性のお客様が多く、お子様から大人までご家族向けに購入する方が多いことが理由です」
「また、先ほどお話しした通り、近年は量販店でペットボトル24本入りの箱を買う方がかなり増えています。650ミリリットルと670ミリリットルを1本で比べると重さは微々たる違いですが、これが24本となると箱を持ったときに感じる重さがかなり変わってくるんです。そのため650ミリリットルは必要だと判断しています」

■できるだけ近くの工場から運ぶことでコストを抑制

しかし、製造するボトルの種類が増えれば、その分コストが上がるはずだ。

「たしかに、作り手目線だけで言えば、ボトルを集約したほうがコストは下げられます。でもさまざまなご要望をお持ちのお客様がいらっしゃる中で、それぞれのニーズに合わせたシーンで飲んでいただくことを優先したい、と考えているんです。もちろん、コスト面は非常に厳しくなってはいますが」

伊藤園は地域毎に拠点があるが、自社工場は持っておらず、製品の生産は全国にある約50社の協力会社に依頼している。

「物流網を細かく整備しており、できるだけ近くの工場から運ぶことで、物流費を抑えています」

特定の得意先への営業を重視する“ルートセールス制”を敷いていることも、いたずらに物流網を拡大することを防ぐことにつながっている。こういった体制が、値段を上げずに増量を繰り返せる要因の一つだ。

■「今後どれだけ刻んでいくかは、まだ分からない」

冒頭で紹介したように、SNS上で伊藤園の麦茶の増量をネタとしてイジりながら歓迎するユーザーは多い。

「たいへんうれしいですね。われわれは『暑さ対策、水分ミネラル補給のために麦茶を飲んでください』ということをさまざまな形で発信しているんです。そういった中で、『伊藤園の麦茶って量が多いよね、増えてるよね』と気づいていただけているのは、発信が届いているなと感じ、ありがたいと思っています」

暑さ対策を発信している立場から、相澤氏は今年の夏に特に不安を感じているという。

「例年であれば夏が近づくまでに30度の日などがあって、体が少しずつ暑さに慣れていきます。でも今年は春先から外出自粛が続いているので、急に暑くなってから外に出ることになります。そうしたときこそ、熱中症になるリスクが高いんです。また、マスクをしていると喉の渇きが感じにくく、脱水症状に陥っていても気づきにくい。今年は特に水分補給を怠らないでください」

最後に、今後も麦茶の量が増える可能性があるのか聞いたところ、「今後どれだけ刻んでいくかは、まだ分からないですね」とのこと。今後もさらなる増量が期待できるかもしれない。

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吉田 洋平(よしだ・ようへい)
大学卒業後、日経BP社に入社し「日経コンピュータ」編集部で企業のIT活用を取材。フリーランスに転じてからはビジネス誌での執筆を中心に、書籍やWebサイトでの執筆、企業のオウンドメディアやパンフレットの制作、セミナーレポート、広告制作を手がける。http://officeyoshida.net/
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(吉田 洋平)