9月16日、福岡ソフトバンクホークスが2年ぶりにパ・リーグ優勝を決めた。だがここで満足はしない。孫正義グループ社長は「めざせ世界一!」を掲げるからだ。今年5月、ホークスは福岡に就航するスカイマークとの共同企画「タカガールジェット」をはじめた。就航記念の公開対談で、スカイマークの佐山展生会長が「確実にできることしかしない経営者は、何もしていないのと同じ」と語れば、ソフトバンクホークスの後藤芳光社長は「“成功確率10%”なら、孫正義は成功するまで絶対にあきらめない」と応じた。経営者は勝つために、どんな考え方をするのか。トップ対談の後編をお届けする(全2回)。

※本稿は、5月29日、三井不動産リアルティ福岡支店と西日本新聞社の共催により行われた公開対談と、対談後にプレジデントオンライン編集部が独自に行った両氏へのインタビューをもとに構成した。

■2004年から言い続けている「めざせ世界一」

【後藤】 「めざせ世界一!」というホークスのスローガンの言い出しっぺは、もちろん、うちの孫正義(ソフトバンクグループ社長)です。2004年にダイエーから球団を買収した時点から、このスローガンを掲げています。最初は地元・福岡の方々も違和感があったと思います。「福岡のホークス」として応援してきたのに、それがいきなり「世界」ですから。

いまでも、「めざせ世界一!」というと笑われることがありますが、孫さんは本気の本気です。つまりわれわれはメジャーリーグとガチンコ勝負するところまでレベルを高めなければいけないんです。

【佐山】「めざせ世界一!」というのは、やっぱり孫さんらしいですね。孫さんでないと言えませんね。ふつう、世界一というスローガンはなかなか出てきませんよ。

【後藤】私は孫さんと仕事を始めて17年になりますが、まずひとつ言えることは、孫さんのやることは、外からは一見乱暴に見えるんじゃないかと思うんです。たとえばすごい金額の事業買収をパッと決めてしまう。そのお金を集めてくるのが僕の仕事なので、それがどれだけ大変なことかはよくわかっています(笑)。それでも、僕が17年間、孫さんについていけているのは、彼が本当に純粋だからです。

【佐山】それ、わかります。

■孫正義の純粋な「事業欲」の強さ

【後藤】人間には食欲とか睡眠欲とか、さまざまな欲がありますが、孫さんの場合は純粋な「事業欲」だと思います。名誉欲や金銭欲ではないのです。一見乱暴に見えると思うのですが、自分の決断が何をもたらすのかが孫さんには見えていて、それに向かって純粋に考えた結果なんです。それがわかるので、僕らもついていけるんですね。

ソフトバンクグループがこれだけ成長できているのも、こうした孫さんの意思決定が徹底しているからです。たとえば成功確率が10%の買収案件があるとします。成立確率は10%しかない。その代わり、成功すれば10倍、100倍になるビジネスです。すると、確率が10%という時点で普通の企業経営者は検討すらしません。リスクが大きすぎるからです。

しかし孫さんは、10%でも成功確率があるなら真剣にチャレンジします。それをやり続けると、10回やれば1回はあたるんです。その成功例が「ヤフー」や「アリババ」です。孫さんは絶対にあきらめないんです。

【佐山】 たとえば北里大学 特別栄誉教授の大村智博士は、ノーベル生理学・医学賞を受賞したときに「ラッキーでした」とおっしゃっています。大村博士は静岡県伊東市のゴルフ場の土から、画期的な薬につながる微生物をみつけました。微生物がみつかったことは、確かにラッキーです。しかし、大村博士はこの微生物をみつけるまで、いろいろな場所の土から何千回とサンプルを採取されていたと思うのです。

微生物のみつかる可能性が1%だったとしましょう。1%しか可能性がないことは、ほとんどの人は手を出しません。でも本当は、1%でも可能性があれば挑戦し、やり続けていると、100回やれば成功率の期待値は100%になります。1回できてもおかしくないことになります。つまり、難しいことに挑戦するか、それを何度もやり続けるかどうかが重要なんです。ましてや確率10%なら、孫さんは「できた」と思っておられますよ(笑)。

【後藤】そうかもしれません。

■「日本三大ほら吹き」の発想法

【佐山】たとえ1%の確率だとしても、孫さんはこれはと思われたらやられるでしょう。私は、経営者は従業員に夢を与えなくてはいけないと思います。孫さんはもう、とんでもない夢をぶち上げますね。びっくりすることばかり言われます。

やはり、素晴らしい経営者は目線が高い。孫さん、柳井正さん(ファーストリテイリング社長)、永守重信さん(日本電産社長)の3人は、自分たちを「日本三大大風呂敷」と呼んでいますね。みんなが驚くようなことを目標に掲げますが、数年後にはそれを実現している。私はそれが理想の経営者だと思うんです。時折「社長として大過なく務められた」と語る経営者の方がおられますが、大過なくやったということを成果だとおっしゃるのは、何もしていないことと同じだと思います。

【後藤】永守さんと柳井さんにはソフトバンクグループの社外取締役をお願いしています。孫さんと合わせて3人で「日本三大ほら吹き」とも言っています(笑)。

孫さんの有名な話で、福岡は南区の雑餉隈というところで事業を始めた時、2人の社員を採用したそうなんです。そして自分はミカン箱の上に乗って、2人に対して演説をぶったと。「自分はこの会社を豆腐屋みたいに1兆、2兆と数えられるくらいにもうかる会社にするんだ」と言ったら、2人とも1週間で辞めてしまったそうです(笑)。

しかし、当時から彼は至って真剣で、10年ほど前には売上高を1兆、2兆と数えられる会社になっています。今年、孫はこう言いました。「ついに利益が1兆円を超えた。利益で1兆、2兆と数えられるようになった」と。しかも孫さんは、「まだまだこれからだな」と言うんです。すごい経営者だなと思います。

■「時間は限られている」という事実を考える

【佐山】帝人の技術者を振り出しに、銀行、ファンドと仕事をしてきましたが、スカイマークのような事業会社の経営に関わるのは初めてです。毎日が勉強で、今が人生でいちばん充実しているという実感があります。私は63歳ですので同級生の多くがリタイアしていますが、いまや「人生100年」の時代です。退職後の 40年を余生としてすごすのはもったいない。

だから、私は実年齢に10歳足して考えることを勧めています。10年後の 73歳の自分になったつもりで今の私を見ると、めちゃめちゃ若いんです。そう考えると、今だからできることがたくさんありますし、引退している場合ではないんです。「いくつになっても10年後より10歳若い」と考えると、死ぬ直前まで若い気持ちでいられるのではないかと思います。

【後藤】ソフトバンクグループ全体の経営の考え方も同じです。孫さんは、常に結果から逆算して考えるんです。自分たちのめざす成功のイメージを考えたら、それを実現するためには何をしなくてはならないかを逆算していくと、今やるべきことがおのずと見えきます。それだけ先々のビジョンを強く意識して経営をしています。

そして孫さん自身が、時間を大切にしています。人生には限りがあるから、その中でどこまで自分がおもしろくできるかをいつも考えていて、常に「もう時間がない」と。

【佐山】孫さんはゆっくりしたいと思うことはないでしょう。

【後藤】孫さんから学んでいることは、人間が一生のうちでどれだけデカいことができるのかをどこまで追求できるのかというテーマです。このテーマに向き合う時に、人生と生業(なりわい)の問題から目をそらすわけにはいかないということだと思います。だから彼は意思決定をとにかく急ぐんです。僕らから見ても生き急いでいるように見えちゃうけれども、それくらいのペースが、彼には合っているんだと思います。

【佐山】私も、今は三段跳びで言うと「ホップ、ステップ、ジャンプ」の「ス」の段階なんだと思っています。ただ、それは人それぞれですから、のんびりした人生と、私みたいなバタバタした人生の、どちらがいいということはないと思います。個人の人生観ですね。

■ジャイアンツの9連覇は超えないといけない

【後藤】ホークスはソフトバンクグループのブランド価値を高めることが重要な役割で、その具体的な目標は「世界一」なわけです。世界中の野球チームの人気投票でホークスが1位になるのが最終的な目標です。そこまではまだまだです。現時点では、100点満点で30点でしょうね。世界一になるためには、まず日本一にならなければならない。10連覇しなければならないと考えています。

【佐山】うん。なるほど。そうですね。

【後藤】やっぱりジャイアンツは9連覇しているわけですから、すごいですよ。あれを超えない限りは何を言ったってダメでしょう。100人中100人に「それはもうホークスが日本一でしょう」と言ってもらえるようになるには10連覇するしかない。

【佐山】ホークスさんが30点なら、スカイマークはまだ5点ぐらいですよ。ぜひ教えていただきたいんですが、福岡の人の3割は、スカイマークが羽田−福岡便を就航していることをご存じありません。もっと知っていただくには、どんなことをしたらいいですか?

【後藤】コストはかかりますけど、たとえば「搭乗片道無料」というキャンペーンはどうですか。一回でも乗ってもらえれば、スカイマークへの印象も変わるはずです。

【佐山】なるほど。野球でもそうですよね。一度ヤフオクドームに行くと、チームへの親近感はグッと変わりますもんね。

■死なない程度の失敗は、したほうがいい

【後藤】ちなみに孫さんは、いつもそういう大胆なやり方をするんです。「まずタダで配る」というのは、孫さんの得意な戦略ですね。いま、大胆という言葉を使いましたが、経営では大胆にことを進める一方で、慎重さも大事です。私は両方のメリハリをつけているつもりです。組織で考える場合、チャレンジしないとチームは成長しません。原則は「やってみなはれ」です。会社が死なない程度の失敗は、したほうがいいんです。子どもが転んで血が出るくらいの経験をしたほうがいいのと同じです。

【佐山】私は、プライベートでもたとえば1%でも可能性があるなら突っ込んでいきますよ。たとえば、新幹線に乗る時、走ればギリギリ1本前の列車に乗れるかもという時は、まず間違いなく汗をかきながら階段を駆け上がって乗ります(笑)。でも、大抵はギリギリ乗れるものなんですよ。

プライベートも仕事も、ほとんどの人が「それはムリやろ」というのを私はいけるかもしれんと思ってやることにしています。ほんのちょっとの可能性があれば、やります。でもこれも、それぞれの人生観です。ゆっくり暮らしたいと思うか、がんがんがんばって生きたいと思うかですね。今日は、貴重なお話をありがとうございました。

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後藤 芳光(ごとう・よしみつ)
福岡ソフトバンクホークス社長
1963年生まれ。一橋大学卒業。87年安田信託銀行(現みずほ信託銀行)入行。2000年にソフトバンク(現ソフトバンクグループ)入社。13年10月から福岡ソフトバンクホークス社長兼オーナー代行。ソフトバンクグループ専務執行役員財務統括も務める。

佐山 展生(さやま・のぶお)
スカイマーク会長
1953年生まれ。76年京都大学工学部卒業。94年ニューヨーク大学大学院(MBA)、99年東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。帝人、三井銀行(現・三井住友銀行)勤務を経て、98年ユニゾン・キャピタルを共同設立。2008年インテグラル社長。15年より現職。

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(スカイマーク会長 佐山 展生、福岡ソフトバンクホークス社長 後藤 芳光 構成=三宅玲子 撮影=プレジデントオンライン編集部)