開発が始まると報道された日本の純国産ステルス戦闘機。しかし本当に実現できるのか、疑問の声も上がっています。防衛省も「開発する方針を固めた事実はありません」とコメント。ただ「心神」など、日本が戦闘機関係の技術開発を行っているのは事実。いったいどういうことなのでしょうか。そこには日本の「ある目的」が見えてきます。

日本の技術力がいくら高くても避けられぬ問題

 2015年3月、防衛省が2028年以降の配備を目指し純国産ステルス戦闘機の開発をスタートさせる、という報道がありました。

 この件について防衛省航空幕僚監部広報部に問い合わせたところ「開発する方針を固めた事実はありません。開発する方針を決めてはいないので、現時点では『F-3』という名称も決まっておりません」という返答がありました。

 ただ、そうした事実の有無はひとまずさておくとして、そもそも日本は純国産のステルス戦闘機を誕生させることができるのでしょうか。

 これはよほど状況が変わらないかぎり、日本で純国産の戦闘機を開発することは難しいと思われます。それは日本が戦闘機を開発する技術を持っていないからではありません。「適切な予算」があれば別ですが、その「適切な予算」があまりにも巨額だからです。

 いまから5年前の2010年、防衛省は「i3ファイター」という将来型戦闘機のコンセプトを公表。その開発費は5000〜8000億円が想定されていました。しかし、なかなかその通りにいかないのが戦闘機開発の世界です。戦闘機において開発費の高騰はほぼ恒例行事になっており、例えば航空自衛隊で現役の「F-2」は当初見積もりの1650億円から3270億円へと約2倍になりました。将来型戦闘機の場合も、同様に2倍の1兆6000億円程度を要する可能性があります。

 しかし「F-2」と比べかなり高額になっている将来型戦闘機の開発費ですが、それでもまだ難しいかもしれません。

 2016年より航空自衛隊へ導入が予定されている米国製「F-35」は、未だ開発中ですが例に漏れず費用が高騰し、最終的に4兆〜6兆円を要するであろうと見積もられています。「F-35」は通常型、垂直離着陸型、艦上機型と3タイプが開発されているため多少割り引かれるにしても、その半額以下の1兆6000億円で日本の将来型戦闘機が「F-35」以上の性能を目指すということ自体、可能なのでしょうか。十分な能力を求めた場合、開発費は2兆、3兆と膨れ上がることも考えられます。

 それに対し日本の2015年度防衛予算は4兆9800億円ですから、とてもまかないきれる額ではありません。もちろん、こうした事情は他国でも同じです。アメリカでさえ苦しんでおり、「F-35」はイギリスやイタリアなど10か国が資金を拠出する国際共同開発プログラムになっています。

日本がステルス研究機「心神」を開発する本当の意味

 今年、2015年夏頃にはかつて「心神」と通称されていた防衛省技術研究本部、三菱重工業による「先進技術実証機」が初飛行を予定しています。この「心神」はステルスやエンジン、高度な飛行制御、また機上電子機器を統合するソフトウェアなど、将来の戦闘機に必要とされる技術を開発するための試験機です。メディアなどで誤解されることが多いようですが、「心神」は戦闘機ではなく試験用の機体です。またこの「心神」を原型とした戦闘機が造られる予定も、いまのところはありません。

 ではなぜ、先述のように戦闘機の単独開発が金銭面で難しいなか、将来的にそこへつながる「心神」の研究開発がいま、行われるのでしょうか。

 2014年、政府は武器の輸出を事実上禁じていた「武器輸出三原則」を見直し、あらたな「防衛装備移転三原則」を方針として定めました。この防衛装備移転三原則は、日本が将来あり得る戦闘機国際共同開発への参画を可能とすることを、目的のひとつとしています。2030〜40年頃には「F-2」やその同世代機「F/A-18E/F」、「ユーロファイター」、「ラファール」といった各国の戦闘機が一斉に退役する予定です。このとき「F-35」の発展型で済ましてしまうという可能性もありますが、新型戦闘機を国際共同開発することになれば、そこに参加できるのは、日本にとってチャンスになります。

 「心神」の実質的な役割は、「戦闘機国際共同開発において日本が中心的な役割を担えるよう技術を確立する」ということにあります。それそのものを実用化することではないのです。戦闘機の開発は、1国では困難な時代になっています。国民に税金の使い道を説明しなくても良い国でなければ。

 ちなみに、日本が参加しての国際共同開発で生まれた戦闘機について、仮にアメリカが「F-40」と名づけたとします。しかし名前は国内問題であるため、日本も同じ名前にする必要はありません。「F-3」や「ゼロ戦」と呼ぶことも自由です。