■大津の最大の魅力は、ゴールに直結するプレー

6日に行われたラトビアとの親善試合でA代表デビューを飾った大津祐樹。手堅い選手起用が多いザッケローニ監督からすれば初招集でデビューさせる起用法は珍しいものだったが、同監督は招集理由について「ロンドン五輪での素晴らしい活躍があったし、クオリティー的にも右でも、左でも、トップ下でも時にセンターFWでもプレーできるユーティリティー性がある」と説明し、大津を高く評価していた。

個人的には、単なるユーティリティー性だけで特に2列目の選手が新たに今のA代表に入り込むのは難しいと考えているが、大津のように“センターFWができる”ユーティリティー性を持つ選手であれば十分に定着が考えられる。

スピードとドリブル突破に注目が集まることの多い大津だが、最大の魅力はやはりゴールに直結したプレーと決定力にある。ロンドン五輪本大会ではチームトップの3得点、五輪予選でも大事なバーレーン、シリア戦で得点を奪うなど、大舞台で得点を奪える能力と共に、実際に予選ではセンターFWでもプレーしたユーティリティー性はW杯本大会のような「相手に合わせたサッカー」を考えざるを得ない日本にとっては貴重な戦力。その大津のユーティリティー性や決定力を語る上で欠かせないのは、成立学園高校時代の恩師である同校サッカー部の宮内聡・総監督だ。

■『点を取る』ところを伸ばした宮内監督

「(高校)3年間なので、こうしろ、ああしろといろいろ言ったとは思うのですが、基本的には彼のいいところをどんどん出そうとしていました。だから、一度センターFWにして、日本に一番足りない『点を取る』というところを、ゴール前の一番大事なところに一番上手い選手を持ってきた上で、やはりこの選手はゲームメーカーの方がいいのか、サイドアタッカーの方がいいのか、ということを判断していかないと、本当のストライカーは育たないと思います」

こうした考えを持つ宮内総監督は、成立学園時代の大津をセンターFWで起用している。鹿島アントラーズノルテジュニアユースからユースに昇格できなかった大津だが、入学前のセレクションの時点から「この選手はいい感覚を持っている」とスキルと将来性をすぐに見抜いていた宮内総監督。「大津に中盤を任せた方が試合も落ち着くし、ゲームメイクもできるし、突破の形も作れる」ということはわかっていたが、「一番上手い選手は一度センターFWに置いてみる」という哲学に基づき、センターFWで起用した上でドリブル好きだった大津に点を取ることの楽しさを体得させるよう仕向けた。

■一番上手い選手をセンターFWに置く

「単純に、大津をセンターFWに置いたらどんな選手になるんだろうという興味がありました。すると、高校生相手であれば点をとり始めるし、攻撃にこれだけ力を注いだら面白いんだなというのが3年生になって特に理解するようになりました。それまではサイドハーフをやっていて、それをそつなくこなし、時々ドリブルで仕掛けるような選手で面白さはありましたけど、怖さはなかった。それが3年生になって、お前はここ、点を取らなければいけない、ドリブルも磨かれたんだと思います」

日本では未だにチームで一番上手い選手ほど、ゲームを作るボランチや2列目のポジションに配置される傾向が残るも、「サッカーの目的はゴール」であり、「世界基準から逆算すると、上手い選手にセンターFWを置くという試し方をする必要がある」と考えてきた宮内総監督。大津のみならず成立学園の中で「上手い」と評価できる選手を一度はセンターFWで試す選手起用について、「日本サッカーが世界で戦うことを考えた時、われわれ指導者にできることは何か?を考えれば、大津のような選手に点をとるポジションやチャンスを与え、『点をとることはこれほど楽しい、大事なことなんだ』と理解させたいと考えました」と説明する。