■本質を理解した上での選手起用やチーム強化から学ぶべき

実際、センターFWに置いた当初の大津は、簡単にシュートをふかしてしまったり、本来は頭で突っ込むべきシュートシーンに軽く足先で行ってしまうようなシーンも多かったのだという。ただ、そこを我慢して使い続けることで、大学との練習試合では全日本大学選抜に入るようなセンターバック相手に競り負けないFWに進化していったのだという。

もちろん、それは単純に「センターFWとして使ったから」大津がセンターFWとしての能力を開花させたという話ではなく、宮内総監督が彼の現在地と将来性を正確に見極めながら、所々で「クロスボールに対してヘディングで飛び込めないセンターFWなんて聞いたことがない」といった負けず嫌いな大津の闘争心をくすぐるようなコーチングで選手の自主的な努力を引き出した結果であり、長いプロセスである。

一方で、8人制になったジュニア年代では宮内総監督のような育成哲学を勝利至上主義の中に取り込んでしまい、上手い選手を前線に置いた上で、その選手に頼りきったサッカーで選手の成長や将来性を潰してしまうような指導を行なう指導者、チームがあることも承知している。成立学園の大津祐樹を宮内総監督がセンターFWで起用したというのは、ある意味で「後出しジャンケン」的な美談かもしれないが、「サッカーの目的はゴール」という本質をリスペクトした上での選手起用やチーム強化から学ぶべきことは多いはずだ。

■著者プロフィール
小澤 一郎
1977年、京都市生まれ。サッカージャーナリスト。スペイン在住歴5年を経て、2010年3月に帰国。スポナビ、footballista、サッカークリニック、サッカー批評、サッカー小僧、ジュニアサッカーを応援しよう!などで執筆中。
著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)がある。また、「まぐまぐ」より、メルマガ『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』を配信中。