理知的な聡美(29)
聡美が説明を続ける。
「去年までの出版業界は、ブログやSNS、ケータイ小説発の書籍化といったステップアップも伸びていたけど、出版社側の一本釣りというか、選ばれたコンテンツだけスカウトされる、みたいな高嶺の花というか、シンデレラストーリーのような感じを私は受けたわ。
もちろん、いつか白馬に乗った編集者が私のコンテンツを見出してくれる…っていう、そういった甘美な夢も悪くないけど…。でも、これだけブログが普及していて、発信欲の塊の国で、言論や表現の自由が保障されていて、出版物の量も多いのに、なんでそんなに出版って敷居が高いんだろう、って疑問を感じたのね」
「聡美さんは、昔からチャレンジ精神、旺盛でしたからね! 誰も拾ってくれないなら、ポケットマネーで本を作っちゃえーって…?」
連載2回分の疑問が一気に解けたように、まとめようとするタケシ。
「うーん、そんな単純でもないわよー」
タケシのデリカシーの無さに聡美が制する。
「聡美先輩、昔から演劇の勉強にと、ハイレベルな劇に何度も足を運んだり、世界中の舞踏をみてまわったり、自分にお金を遣うことをいとわなかったですからねぇ、そういうのと関係あるんでしょうか?」
あおいは、憧れの聡美の潔さを思い出しながら丁寧に言葉を選ぶ。
「正解! 自費出版はその延長線上ね。
要するに、自己投資ね。
投資って、本来の財テクとしてももちろん流行っているけど、将来の自分にお金や時間を注ぐ自己投資も注目を浴びているじゃない? 外国語会話や料理教室などのスクールや趣味・社交を広げること、つまり自分自身のためにお金を遣う。
ただ、ヘンな話…、英会話を習っても英会話しか身に付かない、と思った」
いつもボケ役のタケシ(28)
タケシの笑えない冗談には、聡美もあおいもいつものようにノータッチだ。
「実は私、仕事や人間関係に行き詰まった時があってね。それで、自分とは何だろう、って考えたの。ちょっと青臭いけどね(苦笑)。
それで、自分のこれまでをまとめて考えようとした時、ちょうど自分には書きためた文章や撮りためた写真があることに気付いた。そういった過去をまとめて、自分の現在地を知れるかもしれないって思った。
もちろん最初から出版のことなんて頭になかったんだけど、ただ誰か、できるだけプロの読者に見て欲しくて駆け込んだ。そこが私が自費出版することになった出版社だったってわけ」
一気に話して、聡美は清々しい顔をした。
「結局、自己投資って、人それぞれだけど、私にとっては本を作ることこそ、自己投資の最上級だと思った」
「聡美先輩らしいですね。
…あっ、でも、自費出版って言っても聡美さんの本、さっきの本屋に並んでいたじゃないですか?
聡美さんの自費出版本、どうやって作っていったんですか?」
明らかに興味を持ち始めたあおいに、聡美はさらにニンマリする。
(第4話につづく)
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