[画像] 【ライブレポート】sayuras、攻撃性と包容力、内省と応援歌、ベテランの技術と初期衝動を見せつけた 11.1 @渋谷WWW


11月1日、渋谷WWWでsayurasを観た。結成から1年ちょっと、3度目のワンマンライブだ。チケットは手売り中心、リリースやライブ情報はほぼSNS発信のみ。新人バンドのような活動スタイルだが、なんたって三上ちさこ(Vo)、根岸孝旨(B)、西川進(G)、平里修一(D)という凄いメンバーの新人バンドだ。年齢も服装も多様な、年季の入った音楽好きと思しき人々でフロアはしっかり埋まった。期待しかない。

オープニングを飾るのは「RTA」。大排気量のクルマが加速していくような豪快なスピード感。積んでいるエンジンが違う。平里の重いキックと根岸のスラップがリードする、グラマラスでグランジなヘヴィロック。西川がワウペダル踏みっぱなしでギターをかきむしる。静かな導入部とサビのエモさの対比が強烈な「揺れる」。ねばっこくファンキーな「ウェルカムトゥブレインワールド」の、うねるビートを突き抜けてシャーマニックな歌声が届く。白いワンピースにデニムのジャケット。俯いて目を閉じ、顔を上げて宙を観、祈りを捧げるように歌う三上。先日、三上と対談した手塚眞氏の言葉を借りれば、まさに地上に落ちた「天使のよう」だ。


▲三上ちさこ(Vo)


▲根岸孝旨(B)


▲西川進(G)


▲平里修一(D)

「こんなにたくさんの人に来ていただいて嬉しいです。今日は新曲をたくさん準備してきました。今日来てくださった方はラッキーです」(三上)

次の曲はもしかして聴いたことあるかも。わかった人はツワモノです。そう前置きして、ここから未発表新曲の3連発だ。「MA-1」は根岸がシンセベースを操り、清涼感あるトラックとサビで爆発する生演奏との融合がスリリング。「悪魔の実」は太いビートとダークな浮遊感、西川のディレイとディストーションが大活躍するミドルチューン。サイケデリックな音像に攻撃的な歌が良く似合う。続く「フラクタル」は景色ががらりと変わり、穏やかな音色と優しいメロディ、包み込むようなボーカルが柔らかく心に響く曲。こんな曲もあるんだと、1曲ごとに驚きと発見がある。


エフェクトをたっぷり使った西川の短いソロのあと、間髪入れずに始まった、かつて三上が組んでいたバンド・fra-foaの2曲。思い入れが強いのは当然だろう。みすみずしく、メランコリックな「プラスチックルームと雨の庭」の歌声に念がこもる。そして「青白い月」。今年の5月に亡くなった、この曲を一緒に作ってくれたスティーヴ・アルビニに、哀悼の意を込めて──。そう前置きして歌った、グランジバラードの名曲。西川が歪みギターをかきむしる。子供のように座り込んでそれを見つめる三上。手を伸ばし、言葉にならないフェイクを天に捧げる。音楽の中にスピリットが漂う。2000年録音。当時も今も凄い曲だ。


ここで先ほどの答え合わせ。「MA-1」は前回のワンマンライブ、4月の渋谷eggmanのステージ転換の合間に流した曲に詞をつけて完成させたもの。オーディエンスの中に正解者が一人いた。こういうファンがいるバンドは強い。「フラクタル」の歌詞のテーマが三上の飼い犬だという話から、MCではなごやかなペット談義に花が咲く。ラウド&ヘヴィな演奏と、大人の落ち着き漂うMCとのギャップ。これもまたsayurasの魅力。


苦しいことがあってもやっぱり楽しい。人生は豊かなもの。そんなふうに歩んでいきたいと思います──。新曲「Setbacks」は、頑張る人への応援歌。ゆったりとした三連符、哀愁をはらんだメロディとストレートなメッセージが溶け合う。次の新曲「Not for Sale」はガレージパンクなサウンドに乗せ、珍しく怒りと社会性を帯びたテーマを正面切って歌い、叫び、アジる。西川がステージの反対側にいる根岸のところまで出向いて、かっこ良い絡みを見せる。これがグラムでパンクでグランジなsayurasのロックンロール。

「ジョーカーは嫌われる存在だけど、実は最強の切り札。何もかもうまくいかないと思っていても、諦めずに続けていけば自分が最強の切り札になれると思います」(三上)


「ブラック・ジャック」のイラストに飾られた2年ぶりのソロシングル「JOKER」は、近年の三上ちさこの主要な創作テーマと言える「頑張る人へエールを」を、ゴージャスなロックチューンに仕立てた曲。広島東洋カープ・秋山翔吾選手への応援歌でもある。ライブで聴くsayurasバージョンのエナジーとパッションは格別だ。続く「TRAJECTORY-キセキ-」も、NHK BS1『ワースポ×MLB』テーマ曲として長年親しまれたヒットチューン。三上の持つ天使性のうち、母性や包容力を強く感じさせる2曲でぐいぐい盛り上げる。そして「神の樹」。ソロ初期の2005年の曲が、sayurasという新しい体を得て転生したような新鮮さ。平里の繊細なパーカッションプレイが映える。美しくたゆたうハイトーンのボーカルが素晴らしい。

「私たちが行きたい場所はまだ先ですが、大きい景色を目指して頑張っていこうという気持ちを込めて、最初に書いた曲をやりたいと思います」(三上)



何度だって這い上がれ。sayurasのスタート地点と言える「ナイン」に込めた初期衝動は今も不変だ。西川がステージ中央に飛び出して大歓声を浴びてる。曲はfra-foaの「Edge of life」に変わった。サイケデリックで重厚なグルーヴに乗せて吠えるように歌い、「まだまだ行けるよね!」と煽る。鬼気迫る西川のソロには狂気が見え隠れする。そしてラストチューンはソロ曲「Anti Star」。オーディエンスの合唱が加わって初めて曲が完成する、生粋のライブチューンだ。マイクをフロアに向ける。♪ラララのコーラスがこの日で一番の一体感を生む。

「今日は愛に溢れた空間です。感謝しかないです」(三上)

チケット手売りのスタイルを始めてから、お金を出してチケットを買う、応援してくれるありがたみが身に染みたという三上。笑いながらもしみじみと、「お金は愛です」という金言も出た。「次のライブは2025年5月11日、新宿LOFTです」という発表にあたたかい拍手と歓声が飛ぶ。ライブハウスいっぱいの愛がバンドを支えている。



アンコール1曲目は、11月1日リリースの新曲「惰性」。sayurasの個性の一つ、グランジマナーのヘヴィなスローナンバーだ。2時間歌ってもびくともしない歌声、しなやかな動き、激しいヘッドバンギング。ここを出て夜空を見上げた時に、今日もいい日だったな、明日もまた頑張ろうと思えるように、最後にこの曲を──。そう言って歌ったラストチューン「KYOKAI」の大きく包み込むようなあたたかさ。


ライブのsayurasは攻撃性と包容力、内省と応援歌、ベテランの技術と初期衝動を併せ持つ稀有なバンドだ。次の時まで頑張って生きて、さらに大きな場所で会いましょうと三上は言った。新しいEPももうすぐ出るそうだ。結成1年の新人バンド・sayurasはさらに大きなステージを目指して進む。その旅を見届けてみたいと思う。

取材・文:宮本英夫

セットリスト

2024.11.1 sayuras<do or die>
01. RTA
02. 揺れる
03. ウェルカムトゥブレインワールド
- MC -
04. MA-1
05. 悪魔の実
06. フラクタル
- Interlude -
07. プラスチックルームと雨の庭
08. 青白い月
- MC -
09. Setbacks
10. Not for Sale
- MC -
11. JOKER
12. TRAJECTORY - キセキ-
13. 神の樹
- MC -
14. ナイン
15. Edge of life
16. Anti Star
- encore -
17. 惰性
18. KYOKAI

リリース情報

「惰性」

11月1日リリース
作詞・作曲 三上ちさこ / 編曲 西川進
Produced by 保本真吾 & sayuras
配信リンク
◆https://nex-tone.link/A00165594

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