すべてのプロゴルファーが目指す最高の栄誉「海外4大メジャー」を制した3 選手のスイングをピックアップ。オーソドックスな動きのなかにある飛ばしの工夫や、変則的なスイングに隠された安定性のコツなど、強さの秘密を解説していく。
強度+柔軟性 体のしなりを生かした高弾性スイング
アドレス~バックスイング
肩や両足のラインが地面と平行になっている教科書的なアドレス。ヒザが若干深く曲がっているのは、ダウンスイングで地面を強く蹴る準備です。ハーフウェイバック(シャフトが地面と平行)のポジションで、手元よりもヘッドが背中側へ移動していることから、腕のローテーションが入っているのがわかります。最近の若手パワーヒッターは、クラブヘッドをクロスポジションからループさせてオンプレーンに戻す選手が多いですが、彼は早い段階でオンプレーンに乗せるタイプです。
トップ
シャフトが腕に隠れていて、レイドオフでもなければクロスでもない、極めてニュートラルなポジションのトップ。ここでのポイントは、背中が少し弓なりに反っていること。ダウンスイングではそこから背中を丸める、背中をしならせるように使って振り下ろすことでクラブを加速させます。筋肉の柔軟性と強さを併せもった、弾性力の高いスイングです。
ダウンスイング~インパクト
トップの直前から切り返しにかけ、頭が沈み込んでいます。この予備動作から地面を強く蹴ることで、クラブを一気にリリースできるのです。左腕が地面と平行になるタイミングで手首は90度近く曲がっていて、ここからリリースへ向かうとヘッドは最大加速を得られます。インパクトでは右ヒジが体の前から外れておらず、この写真のアングルで左腕に重なって見えるということは、インパクトの形はかなりハンドファースト。そこからインサイドに振り抜いていきます。
フォロースルー
フォロースルーではフェースが左斜め下を指し、これも腕のローテーションがあることを示しています。フェースを閉じるだけでなく、インパクト前からフォロースルーにかけてクラブはつねにオンプレーン。ダウンスイングとフォロースルーのプレーンに差が無いほどインパクトでボールに加わる圧力は強まり、ここも彼の飛ばしのポイントです。フィニッシュではシャフトを担ぎきらないで止まっており、ボールつかまりすぎを防いでいます。
Wyndham Clark ウィンダム・クラーク
●1993年生まれ、アメリカ出身。183cm、78kg。世界ランク6位。18年にPGAツアーデビュー。優勝にはしばらく縁がなかったが、23年シーズンにウェルズファーゴチャンピオンシップで初優勝。その勢いのまま翌月の全米オープン王者に輝いた。今シーズンの平均ドライビングディスタンスは314.5ヤード。
回転の「差」と時間の「差」で加速するムチのようなスイング
アドレス~バックスイング
左足のツマ先がわずかに開いた構えは、ダウンスイング時に体を開きやすいようにするための工夫。始動では手を使わず、体の回転のみでクラブを上げています。バックスイングでは下半身よりも胸がやや深く回っていて、この段階から捻転が生まれていることを意味します。フェースはややシャット。このままインパクトへ戻ったら引っかけてしまうので、これを中和するような動きが切り返し以降で入ってきます。
トップ
上半身と下半身のねじれがさらに大きくなっています。ヘッドは手元にほぼ重なっており、とてもニュートラルなポジション。左手は掌屈方向へ曲がっていて、ここでもフェースはややシャットに。ドローボールを打つ準備に見えます。アマチュアがマネしたいポイントは、右前腕が背中と平行であるところ。右腕が体の正面から外れていない証拠です。
ダウンスイング
胸板がボールを向いているとき、すでに下半身はターゲット方向へ開いています。右カカトが浮きはじめ、左への体重移動もスタート。骨盤がスライドするとそれを補うように肩はタテ回転気味になる。これでクラブパスが右を向くので、あとはフェースが開かないようにすれば「高弾道ドローボール」の条件が整います。
インパクト~フォロースルー
インパクト時に右ヒジが大きく曲がったままなので、叩けることに加えてフェースの動きが安定します。シャフトの傾きに対して肩はよりタテに、逆に腰はよりフラットに回転。体のそれぞれのパーツが異なる傾きで回転することによって、理想的なライ角でインパクトを迎えることが可能になります。
Xander Schauffele ザンダー・シャウフェレ
●1993年生まれ、アメリカ出身。178cm、75kg。世界ランク2位。今年は全米プロゴルフ選手権で初のメジャー制覇を果たしたのち、全英オープンでも優勝。大柄ではないものの、スイングはムチのようにしなやかな動きが特徴。今シーズンの平均ドライビングディスタンスは308.6ヤード。
手元の「変化量」を抑えて安定性アップ
シンプルでもフルパワーなスイング
アドレス~テークバック
特徴的な点はふたつ。ひとつ目は腕がやや突っ張っていること。ヒジを曲げすぎないで大きなアークを描いてスイングしたい意図が感じられます。ふたつ目は体重がやや左足にかかっていること。これはバックスイングでしっかり右足へ体重移動するための準備でしょう。腕や手首を曲げずに始動し、足の体重配分はこのタイミングでは5:5に見えます。アドレスで左に体重をかけた状態からスタートしていることを考慮すると、本人の感覚的には左4:右6くらいに感じているかもしれません。
バックスイング
トップポジションに入る直前のコマを見ると、すでに右足はターゲット方向へ出力しています。これによって上半身と下半身に捻転が発生、パワーを生み出す源泉になっている。トップでは手首のコック(タテ方向の角度)が浅いですが、ヒジが曲がることで運動量を補完。コックが少ないと、インパクトゾーンでのロフトの変化量を抑えられる効果があります。
ダウンスイング
クラブが振り下ろされると同時に、左肩は回転しながら上昇。この反作用でクラブはさらに加速されていきます。左腕とシャフトが作る角度は比較的「鈍角」でいわゆる“タメ”は大きくありません。タメが強いとリリース時の加速は期待できる一方で、ヘッドの入射角がバラつくリスクが出てしまう。タメが少ないと入射角が一定になりミート率が安定するので、飛距離と正確性を両立させることができます。
インパクト~フォロースルー
インパクト直後の形を見るとまるでパターでも打ったかのよう。腕のローテーションや手首の動きがとても少ないです。このとき、体重はほぼ完全に左足に移っていて体の回転はクラブの遠心力に任せきっています。そのため体の右サイドが進行方向へスライドしてきますが、あくまでこの動きは受動的であり、本人が意図して行なっているものではありません。
Scottie Scheffler スコッティ・シェフラー
●1996年生まれ、アメリカ出身。190cm、90kg。米ツアーでメジャー2勝を含む通算13勝を上げており、パリ五輪では金メダルを獲得。世界ランクは堂々の1位に君臨する。インパクト以降、大きくスライドするフットワークが特徴で、今シーズンの平均ドライビングディスタンスは303.8ヤード。
解説=アッキー永井
●ながい・あきふみ(永井研史)/1987年生まれ、神奈川県出身。“アッキー”の愛称で親しまれている人気コーチ。人体解剖学や物理学の視点を取り入れたわかりやすいレッスンや解説に定評がある。
写真=田辺JJ安啓
※選手の成績やデータは9月14日現在