ツアープロの復活優勝や初優勝に貢献し、注目を集める柳橋章徳が中心となり“ゴルフスイングの本質に迫る”チームを結成!
体やクラブの使い方の原理原則を追求し、個人の潜在的な能力の限界を突破(ブレイクスルー)するメソッドを毎月紹介しよう。
クラブの振り子とフットワークをリンクさせる
クラブの振り子を上記のフットワークで加速させるためには、まだクラブが振り上がっている最中に左に踏み込む必要がある(写真・中)。この両者の適正なズレこそが切り返しのキモだ。
クラブの振り子の周期を 妨げずに力を出す
――切り返しのお話を聞けば聞くほど、一般的に「切り返し」と呼ばれているクラブの向きが方向転換するタイミングは、見せかけの現象でしかないという印象を受けます。
柳橋:そうですね。スイング解説などで説明される「切り返し」は、外からスイングを観察したときに見える現象であって、このタイミングでプレーヤーが切り返しの動作を行なうわけではありません。前回説明したような手のなかの動きにコツはありますが、体の動き的には、もはやダウンスイングの真っ最中といえると思います。
山縣:上半身もクラブもまだバックスイング方向に動いている段階で、次の動作であるダウンスイングの準備がはじまり、下半身は反対方向に動き出す。その動きが上半身、腕、クラブと伝わり、外から見てダウンスイングがはじまったように見えるのはずっとあと。足が地面についた状態で行なう動きは、必ずこの時間差、「ラグ」が生じるんです。このラグの存在を理解できないと、スムーズなスイングはできません。
――なるほど。では体をダウンスイング方向に動かしはじめるタイミングは、具体的にはいつなんですか?
柳橋:それを定義するのはとても難しいんです。プレーヤー個々のスイングテンポによって変わりますし、スイングスピードや筋力によっても差が出ます。「ここ」という共通のベストタイミングはないんです。
安岡:ただ確実にいえるのは、バックスイングのかなり早い段階だということ。早い人の場合、バックスイングがはじまった瞬間には、もうダウンスイングの準備をはじめる感覚があると思いますよ。
――このタイミングを体得するのは難しそうですね。
柳橋:大事なのは、クラブの振り子の周期を妨げないことなんです。ゴルフスイングはまず、基本としてクラブの振り子があり、それを加速させる動力として体を使います。体の動きを足踏みのような動きに単純化して考えたときに、クラブの振り子を妨げずに加速させるには、いつ左に踏み込めばいいか。このタイミングこそが切り返しのキモといえると思います。
投げ上げたボールを地面に叩きつけるイメージで力を出す
重力にパワーを乗せるタイミングで出力する
ダウンスイングで効率よくクラブを加速させるためには、切り返しの「間」が必要。右手で持ったボールを投げ上げるようにバックスイングし、トップで無重力になる瞬間を感じたあとで、落下していくボールに合わせて出力し、ボールを加速させる。最高点に達するまで邪魔をせず、切り返しでこの「無重力」を感じられるタイミングなら、クラブの振り子の周期を妨げずに加速させることができる。
早:ボールが上がり切る前にパワーを出す
遅:ボールが落ちるのを追いかけて出力
出力のタイミングが遅すぎて、落下が進んでから途中であわてて追いかけるように振り下ろすのも効率が悪い
トップで無重力を 感じられるタイミング
――体的な切り返しといえるダウンスイングのスタートは、早いタイミングで下半身から動くということはわかりました。では腕やクラブはそれに引っぱられるだけなのですか?
安岡:下半身に引っぱられて動きたいですが、それ「だけ」ではないですね。バックスイング方向への動きからダウンスイングに方向転換したあと、そこからクラブを加速させるために出力していきます。
柳橋:ここはもはやダウンスイングの話なんですが、実際はシームレスですし、前述のような「クラブの振り子の周期を妨げない」という点は共通なので、切り返しの一連の動作の一部としてイメージしておいてもいいかもしれません。
山縣:このタイミングは「ボールを地面に叩きつける」動作をメージするといいと思います。
――どういう意味ですか?
山縣:右手に持ったボールをダウンスイングで地面に強く叩きつけることを考えてみてください。普通に投げつけることもできるんですが、単純にトップの位置から投げつけても意外と力を出しにくいので、振り子のようにバックスイングしてそのモーメントを利用したい。一番効率がいいのは、ボールを持った右手が振り上がって最高点に達したあと、下に方向転換した直後から力を加えることです。まだ上に向かっているボールを途中で押し返したり叩き落としてしまってはダメ。ボールが最高点で方向転換する切り返しの瞬間に「無重力」のような状態を感じ、そのあとで落下をはじめたボールの位置エネルギーと重力に自分が振り下ろす力を上乗せするのが、一番効率がいいんです。
――この「無重力」が感じられるタイミングが重要ということですね。
安岡:これが切り返しの「間」の正体です。バックスイングの早い段階で下半身からダウンスイングをスタートさせること。そして上半身はこの「間」を作ること。これが切り返しのタイミングの重要なポイントです。
柳橋:いい切り返しは、正しいバックスイングと正しいダウンスイングからおのずと生まれるもの。だから切り返しの瞬間のことはあまり考えてほしくないというのが僕らの本音なんです。
Episode0をおさらい いちばん力が出せるのはクラブと体が拮抗している状態
切り返しで「間」を作り、グッドタイミングで出力できたうえで、より大きなパワーを発揮するためには何が重要なのか。もちろん筋力もひとつの重要な要素だが、クラブの重さやモーメントと自分の体を拮抗させられていることもとても大事。これは本連載の「Episode0」で取り上げた話だ。自分の筋力やクラブの重さなどを適切に感知し、うまく両者のバランスがとれていれば、自分のもっている力を効率よく発揮できる。
いかがでしたか? クラブの振り子の周期を妨げずに力を出すことを意識してみてくださいね。
安岡幸紀
●やすおか・ゆきのり/1988年生まれ、高知県出身。高知高校ゴルフ部で活躍。卒業後、指導者の道に進み、日本プロゴルフ協会のティーチングプロA級を取得。現在はCHEERS GOLFの代表を務め、柳橋らとともにゴルフの原理原則の研究を行なっている。
山縣竜治
●やまがた・りゅうじ/1982年生まれ、山口県出身。國學院大学の野球部で選手とコーチ業を兼任。運動学やチーム指導などを幅広く学び、トレーニング部門も自身の体を実験体に専門的に経験。現在はゴルフの解剖に力を入れ「太子堂やまがた整骨院」で総院長を勤める。
柳橋章徳
●やぎはし・あきのり/1985年生まれ、茨城県出身。最先端のスイングや理論を研究し、ツアープロコーチとしても活躍中。その手腕によって復調やレベルアップした選手が増えている。YouTubeチャンネル「BREAKTHROUGH GOLF」でも上達に役立つ斬新な情報を発信中。
構成=鈴木康介
写真=小林 司、田中宏幸
協力=GOLFOLIC中延店