「子供の不登校や問題行動の背景に、親の浮気があるケースが多いです。浮気は家庭の不協和音を生む。そのはけ口が、力が弱い子供になることもあります」と言うのは、キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんだ。彼女は浮気調査に定評がある「リッツ横浜探偵社」の代表だ。
今回山村さんのところに相談に来たのは、50歳の専業主婦・結美さん。同じ年で結婚10年になる夫のことで相談に来た。二人のあいだには3年生の息子がいる。
前編「小3の息子が…派遣だった妻が「エリート夫」からモラハラを受け続けて起きたこと」で詳細を伝えたように、文武両道な夫は結婚前からモラハラの気質があった。しかも息子が小学校に入ってからは、勉強やスポーツに秀でていないことを理由に息子に冷たく当たるように。3年生になってなかなか学校に行けない息子に怒鳴るなどするようにもなった。不登校の原因は様々で、ストレスもその大きな要因だ。しかも生活費を渡さなくなったうえ、離婚を切り出してきたため、浮気の可能性が高いと調査を依頼したのだ。
高橋メアリージュンさん主演の現在放送中の連続ドラマ『離婚弁護士 スナイパー 〜慰謝料争奪戦〜』は毎回、本連載に出てくるようなリアルな夫婦の問題が題材となっている。その第1回は息子を監視し、「遊ぶ暇があったら勉強する。それがパーフェクトな人生を歩む基本」と語るエリート社員だった。成績が悪いと子供を責め立て、呼吸困難に陥るシーンもあり、子供に優秀さを強要し、自分の想い通りにしようとする結美さんの夫と重なってしまう。では調査結果で明らかになったことは。そして結美さんの結論は……。
派遣社員とエリート正社員としての出会い
結美さんと夫との夫婦関係を再度振り返りましょう。10年前に、夫が勤務する財閥系のメーカーに、結美さんが派遣社員として入ったことで二人は出会います。ある大きなプロジェクトがあり、それが大詰めになったとき、派遣社員の結美さんも遅くまで仕事をするようになりました。
あるとき、終電を逃してしまい、夫とタクシーに同乗して帰ることに。ともに40歳であり、住んでいるところが近いことから意気投合。過労によるハイテンションもあったのか、その日のうちにホテルに行きます。結美さんは恋愛経験がなく、夫は驚きますが、その後も時々関係を持つように。夫は避妊をせず、結美さんは妊娠します。それを告げると夫は「40歳は妊娠しないんじゃないの!?」と驚きながらも結婚することに。結美さんは専業主婦になります。
モラハラの夫とは、息子が生まれてから関係は冷めていきましたが、かわいい息子の存在もあり、家族の体裁を保っていました。しかし、学校に行くようになって、文武両道で神童と呼ばれた夫とは異なり、マイペースの息子に対し、夫の態度は悪くなっていきます。息子を無視するようになり、息子はその混乱とストレスから、学校に行けなくなってしまいます。そして、文部科学省が「不登校の現状に関する認識」にて「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義する不登校の状態になってしまったのです。
それと同時に生活費も渡さなくなり、夫から正式に離婚したいと告げられます。結美さんは両親に相談すると「浮気をしているのではないか。今後のこともあり証拠を押さえた方がいい」と、山村さんに調査を依頼しました。モラハラに苦しんでいる結美さんを救うべく、調査に進みます。
即座に調査を開始
結美さんから「今後の教育費のこともあるので、お金をかけずに調査したい」と依頼されています。夫のように、エリートで大企業に勤務し、それなりに出世をしている人の中には、「世の中はだいたい、私の思う通りになる」と楽観的な考えを持っている人も多いです。仕事は綿密に行いますが、それ以外は深く考えない人も多いのです。
夫はは結美さんが離婚に応じると思い込み、油断している。調査するなら今だと思い、カウンセリングから間をおかずに調査計画を立てました。
夫は木・金曜日に外泊することが多いそうで、木曜日の朝から自宅の張り込みをスタート。結美さん夫婦の都内にある自宅は、分譲マンションのように見える社宅です。
朝、7時に出てきた夫はポロシャツにチノパンスタイル。手にジャケットを持っていました。ストイックに自分を追い込むことが好きな性格もあるのか、筋トレをしており胸板が厚く、お腹も出ていません。実年齢は50歳ですが、40歳くらいに見えます。髪も真っ黒に染めていますが、近くで見ると生え際と髭が白く、年齢を物語っていました。
駅まで10分ほど歩き、都心のビルに出勤。ここは、巨大なオフィスビルですが、セキュリティが比較的ゆるい。別の探偵と入れ替わりながら、張り込みを続け20時に出てきた夫を追いました。
若いロングヘアの女性と待ち合わせ…
早足で出てきた夫は、タクシーを捕まえて渋谷方面へ。恵比寿駅近くで下車し、あるカフェに入っていきます。すると、いかにもパパ活女子といった20代と思しきロングヘアの女性と待ち合わせ。白いニットのワンピースを着て、ボディラインを強調しています。女性は待っていたらしく「もう、遅い〜」などと言っていました。
パパ活女子とは、フリーランスのキャバクラ嬢のような存在を言います。男性に擬似的恋愛を持ちかけ、食事やデートなどを行い、その対価として金銭を得ることを目的としている女性が多いとされています。性交渉を含む場合も少なくありません。もちろん夫がパパ活とこの時点で決まったわけではありませんが、かなりその可能性が高いとふみました。
19時30分に住宅街の中にある会員制の寿司店に入店。ここは、私たちも何度か張り込みしたお寿司屋さんで客単価2万円。入ると3時間は出てこないので、ひたすら待機します。22時30分に出てきた二人を追うと、当然のようにラブホテルに入っていきました。夫は後ろに私たちがいるのにも気づかず、女性の尻を撫で回していました。
女性も鼻にかかった甘い声を出しており、「もう」などと言いながら、夫の局部に手を伸ばしたりと、お互いにボディタッチをしまくっていました。
夫のお相手は大学生で、しかも…
夫と女性がラブホテルで1泊した証拠を押さえましたが、どうも弱い。結美さんに女性がいたことを報告すると「その人のことも調べてください」と依頼いただきました。
そこでこの女性を丸2日尾行することに。夫と駅で別れた後、都内の工場エリアがある駅のコインロッカーから荷物を取り出して、トイレで着替えて都内の名門私立大学に入っていきました。その姿は、ジャージにヨレヨレのTシャツ、メガネ姿で引っ詰め髪。さっきまでとは別人のようです。
16時30分に授業が終わると真っ直ぐ自宅アパートに帰宅。このアパートは昭和レトロといえば聞こえはいいですが、かなり荒れた古い物件です。治安が良いエリアにあるとはいえません。物件サイトを見ると家賃は月5万円。お風呂はなくシャワーのみです。
女性は20時に出てきて、再び駅のトイレで着替えをして、荷物をコインロッカーに預け、都心のホテルのラウンジへ向かいます。ここで50代と思しき、お腹も出ていて頭も薄い男性と待ち合わせ。夫とは明らかに違うテンションで、控えめに手を握り、男性の手に自分の手を重ねていました。
20代の女性と、50代の男性……明らかに親子ではなく、恋人としては不自然なカップルで、かなり目立ちます。周囲の人から嘲笑の視線を向けられていました。この男性とは、1泊8万円以上するこのホテルの宿泊棟に入っていきました。
翌日、再び女性は朝同じルートで大学へ。途中、ATMに寄ったので手元を見ると、50万円ほどの現金を口座に入れていました。パパ活は現金で報酬を支払われることが多いと聞いたことがあります。税金逃れなのか、堂々と使えないお金なのかはわかりませんが、ここにも社会の病巣があることを感じてしまいました。
この女性は頭もよく計画的であり、何より容姿に優れている。戦略的なプロのパパ活女子として、中高年の男性から仕事として金銭を得ていることが見て取れます。授業も最前列で真面目に受けていました。女性は大学3年生で、この日は22時まで大学の研究室にこもりチームでの研究を行っていたのです。
「お前のようなバカにびた一文払いたくない」
以上を報告すると結美さんは全くショックを受けておらず、「夫はこの人と結婚したいんでしょうね。バカみたい」と語っています。離婚においての意思は固まったようにも感じました。
その後、離婚に際して、弁護士を交えて夫と話し合いをしたそうです。夫はパパ活マッチングアプリサイトで、彼女と出会い本気の恋に発展したことを熱弁したとか。
「主人にホテルの証拠を見せると、“彼女は苦学生で、お前のような世間知らずとは違う。将来があり、受験を制覇した優秀な彼女に援助をすることは、日本の国力を上げる行為だ”と言ったのです。そして、私のようなバカと、不登校になった弱い息子には、ビタ一文払いたくないと宣言。息子にも今後会わないと明言し、弁護士の先生も呆れていました」
女性が別の「パパ」と会っていることが夫にわかると、結美さんにも女性にもキレる可能性があると感じ、それは見せなかったそうです。
高給とはいえ会社員の夫に、パパ活女子に支払う費用があるとも思えず、弁護士が財産について追及すると、結婚後に投資で儲けたまとまった資産があることもわかりました。結美さんはかなりまとまった額の財産分与分と、慰謝料、養育費を得て離婚が成立。息子も転校してからは、元気に学校に通い、結美さんとその両親に囲まれて幸せに生活しているとのことです。
モラハラ夫からのまさかの「懇願」
それから半年後、結美さんから「夫から復縁したいと連絡が来たんです。無理!」と電話がありました。聞けば夫は、パパ活女性と結婚して、頭脳明晰な子供を育てようと思っていたそうですが、女性はピルを飲んでおり、コンドームを必ず装着させるので、妊娠しない。結婚を迫ると音信不通になったそう。
「教えられていた住所は、実際の自宅とは別の場所。大学に行っても広くて彼女が見つからないと。夫は“ひとりがこんなに寂しいとは思わなかった”と猫撫で声を出している。キモいと思って断固拒否です」
結美さんは離婚後、介護関連の仕事に就き、多くのお年寄りに感謝され、自信を取り戻したそうです。そして、正規職員になり、いきいきと働いているとのこと。友達も増えて、今の平穏な生活を手放したくない。警察にも相談し、夫が来たら通報してもらうようにしたそうです。
夫は今後、どうなるのかわかりませんが、「自分が一番優秀だ」という考えでは、誰とも良い人間関係は築けないでしょう。今後、夫が老いたとき、息子を頼るかもしれませんが、「お前は人間のクズ」と言われた息子は、どう思うでしょうか。今、「孤独」は社会問題だと言われていますが、その原因の一部は、本人の行動にあるのではないかと思ってしまいました。
調査料金は45万円(経費別)です。