縁を切ろうと思い、分籍しました
「今回このような問題になりましたが、誹謗中傷は部屋を立ち上げたときからゼロではなかった。それはどこの部屋も一緒だと思います。ただ、親からの誹謗中傷というのは、もちろん初めてです」
台東区浅草の雷門からも近い好立地にある真新しい5階建てのビル。10月26日昼過ぎ、西岩部屋の前で直撃すると、西岩親方(元関脇・若の里、48)は一瞬戸惑いながらも、言葉を選びながら思いを打ち明けた。
SNS上での「悪質な誹謗中傷」が社会問題として関心を集める中、相撲界で前代未聞のトラブルが起きていたことがわかった。
西岩部屋の幹希の里(19)が10月23日、部屋の公式HPで「SNSで部屋への誹謗中傷を繰り返していたのは自分の母親と祖母だった」と明らかにした問題だ。
「幹希の里です。皆様へ自分からお伝えしたい事があり、親方の許可を得て書き込ませて頂きます」
こう切り出した幹希の里の告白によれば、「今日も晴れ」と「メロンパン」という2つのXアカウントが、5月から3ヵ月に渡って西岩部屋に対する誹謗中傷を行っていたが、8月末に弁護士と調査したところ、「今日も晴れ」が母方の祖母、「メロンパン」が母親だとわかったという。
幹希の里はもとより母親の関与を疑っており、7月に電話で確認したが、何度確認しても否定され、嘘をつく母親を見て絶望。その後も母親と祖母による誹謗中傷が止まることはなかったため、「親の醜態を3ヵ月間も目の当たりにし、家族と2度と会いたくない、縁を切ろう」と決断。家族と「分籍」という重い決断を下した。
元力士の父親もSNSで虚偽投稿
幹希の里が公式HPで「この問題は解決していて、言うつもりはなかった」と綴っているように、分籍という形で区切りがついたはずだった。
だがその後、父親がSNSで勝手な憶測と嘘の投稿をしていることが判明。親方とおかみさんの指導に対し、作り話で不満をぶつけ、「家族を崩壊させた者は一生許さない」「我が子の状態に戻って帰ってくるのを待つ」などと投稿していた。父親の投稿に同調した人からの誹謗中傷も続いたため、公表を決断したという。
幹希の里は兵庫県出身の19歳。15歳で角界入りし、2020年3月場所で初土俵を踏んだ。現在は西序二段十八枚目。
2歳下の弟も里田中という四股名で西岩部屋に所属していたが、5月場所を最後に休業を続け、9月場所後に引退が正式に発表された。
驚くのは、SNSで西岩親方やおかみさんに対する虚偽の投稿をしていた兄弟の父親が、最高位三段目の元力士という経歴を持つことだ。兄弟は元力士である父親の指導で相撲を始め、ともに中学卒業後に西岩部屋入りしていた。西岩親方は言う。
「(父親の関与について)そこは私としても驚きました。ただ、相撲の世界を知っているからどうこうではなく、どんな立場であっても、ネットを使って誹謗中傷をすることはよくないことだと思います」
部屋はSNSを閉鎖
幹希の里は「後援会の方々や力士の皆から温かい言葉をかけていただきとても励みになっています。そのお陰で自分は今も頑張れています。(中略)ここからは九州場所に向けて集中します。これからも一生懸命西岩部屋で頑張ります」と気丈に綴っているが、10代の力士が受けたショックは計り知れない。
一方、所属力士の親から誹謗中傷された西岩親方からも心労が伝わってきた。取材時、親方の隣にはおかみさんもいたが、やはり憔悴した様子だった。
西岩親方は日本相撲協会で広報を務めている。西岩部屋も創設当初からSNSを利用した情報発信に積極的で、公式Xのほか、親方もおかみさんもブログで部屋の日常などを綴っていた。
これには広報に加え、親元を離れて稽古に励む弟子の姿を家族に報告するという意味合いもあったという。騒動を受け、西岩部屋の公式Xは閉鎖されたが、最後の投稿にはこう綴られていた。
〈SNSは良い事もあれば良くない事もあり、現在も良い事の方が圧倒的に多いのですが、一方で誹謗中傷も目立つようになりました〉
角界関係者も「SNSの運用は難しい」と話す。
「各部屋はSNSやYouTubeで情報発信をしていますが、悪質な誹謗中傷が相次ぐことからコメント欄を閉鎖している部屋もあります。
一方、力士個人でのSNS投稿については、力士がインスタグラムに投稿した動画が不適切とみなされて炎上したことがきっかけになり、原則的に禁止となっています。この是非が議論になっていましたが、今回の事態を受け、『誹謗中傷のリスクを考えると、やはり解禁は難しい』という声が出ています」
後編記事『実弟が西岩部屋から逃亡、そして「家族ぐるみの誹謗中傷」がはじまった…19歳力士が家族との「絶縁」を決意するまで』では引き続き、前代未聞の騒動が起きた経緯、騒動に対する西岩親方の思いや考えを紹介しています。