勝負は始まる前についていた!
いやー、よかったよかった。大混戦がつづく大相撲初場所。今場所も握り締めた千秋楽のチケットがプチプラチナチケットに変わりました。十三日目の結びで大関・貴景勝が2敗の阿武咲を退け、優勝争いが千秋楽までもつれることが決まったのです。よーし、よーし、よーし。ひとり大関という苦しい状況のなか、土俵を守り、大関の責任を果たした貴景勝はお見事でした。素晴らしい大関ぶり。大関の資格十分。大関の地位がよく似合う!
#大相撲初場所 13日目。大関・ #貴景勝 が平幕の #阿武咲 を押し出し、両者と平幕の #琴勝峰 が10勝3敗でトップに並びました。
- 毎日新聞写真部 (@mainichiphoto) January 20, 2023
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十三日目の結びの一番、2敗で優勝争いの先頭に立つ阿武咲を迎え撃った3敗の大関・貴景勝。すでに3敗を喫したことで今場所後の綱取りは消えた状況ではありますが、まだ優勝への可能性は十分に残す段階。「ゼロ大関」という大きな目標へ向かって負けられない一番でした。
そして、それ以上に互いに因縁を感じる一番であったことでしょう。大関・貴景勝こと佐藤貴信と、阿武咲こと打越奎也は、少年時代から同学年のライバルとして鎬を削ってきた因縁の間柄です。2011年の全国中学校選手権決勝での激突と、そのときに勝った佐藤(貴景勝)のジャンピングガッツポーズは「負けたときに見たらカチンとくるガッツポ選手権」でもかなりイイ線にいくであろう見事なものでした。敗者に向けてやっているのではないとわかっていても「土俵下に落ちた相手の真上でやるなよ」と言いたいくらいにはナイスなカチンでした。
そして、プロに入ってもつづくライバル関係…ではありますが、ライバルとは言いつつも成績面では貴景勝が大きく水をあけている状態でした。かたや優勝二度を経験した大関、かたや西の小結が最高位でここ5年はその三役にも届いていないという「上下」の関係。大相撲の対戦成績でも貴景勝が大きく勝ち越しています。いつしか少年時代からのライバルとして引き合いに出される機会も少なくなっていました。
そんななかでいよいよ巡ってきた優勝争いのなかでの直接対決は、単なる一番でなどあるはずがなく、互いの意地とプライドが激突する大勝負でした。一歩リードする阿武咲は「勝てば十四日目にも優勝が決まる」という、人生が変わる文字通りの大相撲です。仕切りの前から緊張感が国技館に満ち、久々に感じる重苦しい静けさがありました。
<大相撲一月場所 十三日目の様子>
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幕内取組#貴景勝(10勝3敗) 押し出し #阿武咲(10勝3敗)#sumo #相撲 #一月場所 #初場所 pic.twitter.com/IWsyFKvP6K
ただ、振り返ってみると、この重苦しい静けさのなかですでに勝負はついていたのかなと思います。時間いっぱいを迎えていざ立ち合いという段階になって、貴景勝は自分が大関であるというところを見せつけてきます。睨み合いのなか、行司が促しても貴景勝はピクリとも動きません。今場所の阿武咲はチョコンと手をつくギリギリの立ち合いで白星を重ねてきましたが、それを封じる狙いです。「俺は大関、お前は前頭」と言葉にこそ出しませんが、先に腰を下ろせ、先に手をつけという「地位」の圧力を貴景勝はかけていました。しぶしぶ先に腰を下ろす阿武咲の心中は穏やかではないでしょう。
そこからもつづく「俺は大関、お前は前頭」の無言の圧力。仕切りに入っても貴景勝は手をつかず、手をつきそうになってもつかず、つく感じの動きをしておいてつかず、焦らされた阿武咲はたまらず突っかけてしまいます。かつて横綱・白鵬もよくやっていた「格下が格上のタイミングに合わせるべきだろう」という地位の圧力をこれでもかとかけていきます。仕切り直しとなって、一歩下がって大きく腕をまわした阿武咲。「腕をまわしてしまう」くらいには効いているようです。
そして、再び始まる無言の圧力。今度は貴景勝が先に腰を下ろしていたもので阿武咲もスッと腰を下ろしたわけですが、まさかまさか、阿武咲が腰を下ろした途端に貴景勝が立ち上がりやがりました。これには僕もカチーンときましたよね。阿武咲も意地の張り合いか、再び立ち上がって睨みつけますが、貴景勝は「俺は大関、お前は前頭」を止める気配はありません。行司も「待ったなし」と急かしてきます。結局、先に手をついて待たされる格好となった阿武咲。貴景勝のタイミングで立ち合いをやらされるという不利と、心の底辺に「イラッ」を降り積もらせることとなりました。
そして、時間いっぱいだと言ってから2分近くジリジリした両者の立ち合いは、互いに組む気はなく押し合いの様相。最初の当たりはわずかに貴景勝が押し勝つと、押し返してくる阿武咲の気を削ぐように貴景勝はパッと横に動いてかわします。好調の阿武咲はもう一度突いていきますが、その突きを横に上に弾いて逸らしながら、貴景勝はまた横に回り込みます。阿武咲が追いかける形の相撲です。
その攻防のなか、貴景勝が放ったバチーンという右の張り手。どうやら阿武咲はこの一発でカーッとなった模様。冷静に押していけば押し勝てそうな気配もありましたが、それよりも「コノヤロー!ぶん殴ってやる!」の苛立ちが勝ったようで、今まさに押されているという最中に、押し返すのではなく顔を張りにいってしまいました。この張り手は貴景勝の腕に阻まれ顔面には届かず、貴景勝を呼び込んでしまうことに。あえなく押し出された阿武咲。大事な大事な一番は貴景勝の焦らし勝ちとなりました。
↓あれだけ日々ぶつかり合っているのに、顔を張られるとカーッとなるのは人間の不思議!
↓8日目の錦富士も一発張られてカッとなりました!
↓逆に自分が張られたときはムキになって張り返さない貴景勝!
突いて押して張って突いて押して張って!
相手がカーッとなって大振りの張り手を出してきたら、そこを冷静にさばく!
相手の右フックを見極めるボクサーのようです!
バチーンといいのが入ったのでどのみちカーッとなったかもしれませんが、その一発で確実に冷静を失わせるだけの布石があったなと思います。阿武咲はずっと自分の気持ちいい形ではない仕切りを強要されましたし、その苛立ちを土俵でぶつけようにも「当たってきそうで当たってこない」という貴景勝の取り口によって、ドーンと気持ちよく当たることもできませんでした。
そうやって、もともと降り積もる苛立ちがあったなかでキレイに決まった貴景勝の張り手には耐えられなかったのかなと思います。相撲において顔面を殴るための張り手などしても、相手をKOできるわけでもなく、上体は伸び上がり、ガラ空きの脇に差し込まれるのが関の山ですが、意味がなくても顔を張られたらムカつくのが人情です。「張り手の借りは張り手でしか返せない」なんて名言も思いつきます。自分はカーッとならない者だけができる、「突き押し張り相撲」だったなと思います。これは万雷の平手打ちで讃えるしかないでしょう。
さぁ、これで千秋楽まで優勝争いがもつれることとなり、個人的にも楽しみが増しました。再びこの両者が決定戦で張り合うのもヨシ、3敗で三者が並んでの巴戦もヨシ、あるいは4敗まで優勝ラインが下がって「トーナメント戦始まったぞ」「え!?東龍も決定戦に出るの?」「途中でどうにかしとけよ…」みたいな展開もヨシです。できるだけ珍しい感じのクライマックスを見られるよう、千秋楽の泥沼に期待しています!
↓最後まで熱く、冷静に、取り組んでください!
#貴景勝 との大一番に敗れた #阿武咲 は、こう話しました。
- 朝日新聞 大相撲担当 (@asahi_osumo) January 20, 2023
「張られたときにむきになって、右が空振りましたね。冷静に、冷静にいこうと思っていたんですけど。自分が弱かっただけです」
残り2日。「切り替えて、また一生懸命やるだけです」#相撲 #sumo pic.twitter.com/GAH5Ut1DtD
「張り手は肉体ではなく心を断つのだ」という名言も浮かんできました!