[画像] 日本の29歳以下の3人に2人が親と実家暮らし…わが子をすねかじりやニートにせず自立させる5つの方法

■学ぶべきなのは子どもだけではない

私も2人の息子を育てて実感しましたが、子育ては悩みや心配事が尽きないものです。親の目から見ると、いつまでも頼りない存在だと思うのも無理はありません。ただ、心配するあまり、自分やパートナーの価値観や知識レベルだけで子育てを行おうとすることは、視野が狭いかもしれない、という考え方を持ってください。

狭い考えの一例として、「母性神話」という言葉があります。これは、「女性には母性が備わっているから、母親が子育てをするのが当たり前。それこそが子どものためになる」という考え方です。おそらくほとんどの女性が結婚後に専業主婦になって生活していた時代の話だとは思いますが、両親が協力して子どもの面倒を見るのが当たり前になった現代では通用しない言葉になっています。それに近いもので、3歳までは母親が世話をしないと、人格形成に悪影響が出るという話もありますが、これも特に根拠はありません。

前時代的だったり、偏った価値観で育てられた子どもが時代にそぐわない人間になるのは当然のことです。必ずしも両親だけが世話をする必要はなく、時にはベビーシッターや保育園をスポットで利用することも検討していくべきです。

子どもが自宅以外の世界に触れ、親以外の人と接する経験を積むことは、子どもの視野を広げることに繋がります。視野が広いほうが夢や理想の生き方を自分で見つけやすくなるため、早い段階から自宅以外の世界に触れてもらうことは有効な手段です。そして、親はベビーシッターや保育園で子どもを見てもらっている時間で自分のために勉強をしたり、子育てについて考える機会が生まれるため、双方にメリットがあります。

小さいころからさまざまな社会と関わり合うことは、子ども自身の自立に繋がります。子育てにも多様性が求められる時代になっているのです。

当たり前かもしれませんが、親にとっては「子育て学校」のような、子育てについて誰かが教えてくれる場所があるわけではありません。ですので、基本的には自分が受けた家庭教育を模倣することがほとんどだと思います。このときに気を付けていただきたいのが、自分がしてもらってよかったことは真似をして、嫌だったことはやらないことです。簡単ですがこれを意識するだけで、ある程度間違いは減るでしょう。

■「お子持ち様」というネットスラングの背景

家庭だけが子育てをするのではなく、社会全体が子育てをする社会・時代になることが理想です。

そのためにはどうすればいいか。できるだけ子育てをしているほかの人たちと交流することが重要でしょう。

ただし、現代は親同士のネットワークを構築することがなかなか難しくなっています。全国的にPTAの活動が縮小傾向にありますから、いわゆるママ友、パパ友はつくりにくくなってきています。ですので、子どもには自宅に友達を呼んでもらうようにすると、親同士のネットワークができてきますので、子どもに「友達はどんどん連れてきて大丈夫だからね」と伝えるのは有効です。

ほかの場所で交流を持つ場合、例えばお稽古ごとは価値観が近い親御さんが集まるのでネットワークはつくりやすいです。あとはSNS。インターネット上には子育てネットワークがたくさんあるので、周りに仲間がいなくて孤立しているなら、自分の価値観が合いそうなネットワークに入っていくのも一つだと思います。

現在の日本が子育てをしやすい社会なのかというと、あまり適していない状況だと思います。制度は少しずつ拡充してきたとはいえ、現場レベルで見ると育休や産休は取りにくく、産休を取る人が後ろめたく感じたり、理解の得られない同僚からは悪者扱いされる風潮があることもしばしばです。制度で優遇される子育て社員を揶揄するネットスラングで「お子持ち様」という言葉をSNS上で見て「ひどい言葉だな」と感じるのですが、そうしたスラングが生まれること自体が、日本社会は子育てに寛容ではなくなっている証拠なのかもしれません。子どもはこれからの時代を支える存在です。日本を支えていくという使命を個人が持つことが求められますが、社会全体がもっと変わっていくことも望まれます。

子どもが生きていく社会において、さまざまな人たちが存在していることも大きな学びになります。そう考えると、一番近くにいる両親が価値観や情報を常にアップデートすることも社会性の教育に効果的です。自分の興味・関心や価値観だけで情報やニュースを選ぶのではなく、自分には関係なさそうでも、社会や今後にとって重要なキーワードにも積極的に触れていくといいでしょう。親自身が社会や世界に興味関心を広げていくことが重要です。

自分の学歴がよくなかったせいで苦労したから、子どもはいい大学に行けるように厳しく教育しているという親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、これも古い価値観だといえます。そもそも、いい大学を出ても大企業に就職できるとは限りません。もちろん、学歴がよければ職業選択などの幅は広がりますが、現在は以前ほど偏差値至上主義ではなくなっているので、子どもが窮屈に感じるほどプレッシャーをかけ続けるのはいかがなものかと思います。

学歴以外にも、人はさまざまなコンプレックスと一生戦い続けることを考えると、他人との競争で優劣がつくことだけに価値を見出すよりも、本人が好きなことや興味・関心を貫く人生を送るために導いてあげるほうが、将来的に子ども自身の金銭面だけではない豊かさや、生きがいを自分自身で見つけることに繋がるのではないでしょうか。

大人になったのに実家暮らしの子どもが多いことも、子育てが続いて悩みが増える理由かもしれません。WorldValues Survey (世界価値観調査)の調査では日本の29歳以下の親子同居率は約66%。29歳にもなると、すでに手はかからなくなってはいますが、同居していれば何かしらの関わりは発生するでしょうし、子育てとまではいかないものの、子どもの世話が継続しているのと同じような状態です。いつまでも面倒を見るのではなく、意識的に子育てを終わらせること、またそうすることを伝えて本人に自立を意識させることも親の務めではないでしょうか。同居している子どもがすでに成人している場合も、なるべく早く別居をするほうが本人のためになると思います。

本来、子どもの自立を促すためには18歳で別居すべきですし、自立して家を出ていくということを伝えて考えさせるべきでしょう。実際に我が家の2人の息子たちは中学生になる際に、18歳になったら大学に行くか、就職するかを本人たちに決めさせましたが、「どちらにしても高校を卒業したら家を出て一人暮らしをしなさい」と伝えました。一人暮らしをしても困らないように、洗濯や掃除などの家事を本格的にやらせました。大学の学費や生活費などは必要ですが、一人で暮らす力を養うことも必要だと感じています。

仮に30代から子育てを初めても、子どもが成人する18年後、本人はまだ50代。人生100年時代ですからまだ折り返し地点です。しっかりと子離れ・親離れができればその後の自分の時間には余裕があるはずです。

親が自分自身の人生を生きるためにも、早い段階から子ども自身に社会性を持ってもらうことが重要です。社会的な活動ができることで、夢や理想の生き方を自分で見つけられるようになり、自主的に動けるようになります。冒頭でお伝えしたように、親からだけではなく、いろいろな人の愛情や豊かさを享受し、多くの価値観に触れることが社会性の構築には大切です。社会性があれば仮に18歳でスパッと家を出なくとも、子育ての不安は多少なりとも軽減できるはずです。時代や社会に合わせて、子育てもアップデートが必要なのは言うまでもありません。

■親が自立していなければ子の独立はありえない

私がいつも親御さんに伝えるのは、「学び続けてください」ということ。子どもに勉強しろと言うのと同時に自分も学ぶ必要があります。親が学び続ける姿を見ることで、子どもは「学ぶ」ということを生活環境で習得しますし、リスペクトの精神も育めます。現在の仕事のことはもちろん、目指すキャリアやセカンドライフに向けて学ぶことは、子どもの何よりの勉強する動機になるはずですし、もちろん親御さん本人の糧にもなります。

20年ほど前に「リビングに子どもの勉強部屋をつくるのがおすすめ」とハウジングメーカーの間で流行したことをご存じでしょうか。お母さんが台所に立って、子どもはリビングで勉強している。本人は勉強に集中できないと思いきや、意外にも精神的には安定した状態で勉強できるそうです。このとき、親もリビングで本を読むなどして学ぶ姿を見せるといいでしょう。

つまり、家族同士で学ぶ姿を見せ合うことで、自然と学ぶ親の背中を見せられるんです。疲れたら「ちょっとおやつ食べようか」と自然に会話も生まれますからね。親子の会話も子どもが成長するうえで不可欠なものなので、そうした意味でも顔を合わせて会話する機会をつくることは大切です。

子どもとのコミュニケーションにおいて試してほしいのは、聞き出すのではなく、本人主導で話させること。私の息子が小学生のころ、学校生活や友達関係が気になるあまり、私は質問ばかりを投げかけていました。すると子どもから「母さんと話してると、尋問されてるみたいだよ」と言われてしまいました。たしかに、質問ばかりされると大人でも自発的に話す気にはなれません。それからは「ちょっと聞いてくれる?

今日こんなことがあってね……」と、子どもに向けて自分の話をすることを心がけると、「そういえば僕も……」と子どもが自ら話してくれるようになっていったので、親御さんが子どもに話を聞いてもらうことが親子間のコミュニケーションをスムーズにするコツのひとつだと思います。

同様に、「早くしなさい」と子どもを急かしたり、行動を強要する行為も避けたほうがいいでしょう。子どもにとっては嫌な感情だけが残り、メリットは大きくありません。

親も価値観をアップデートし続けること、対話の機会を設けること、自立について子どもと一緒に考えること。これらを意識すると、子育てに関する不安は軽減されると思います。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年8月16日号)の一部を再編集したものです。

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小島 貴子(こじま・たかこ)
かえつ有明中・高等学校校長、キャリアカウンセラー
企業へ人材育成コンサルタントを行うほか、就業困難者やひきこもり支援も行っている。『子育てが終わらない「30歳成人」時代の家族論』のほか、著書多数。
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(かえつ有明中・高等学校校長、キャリアカウンセラー 小島 貴子 構成=松嶋三郎)