[画像] 進次郎は「中身がないイケメン」高市早苗は「関西なまりで庶民的」…テレビ局ADたちが見た「総裁選」舞台裏

 自民党総裁選挙がスタートした。候補者9人は揃って記者会見、討論会、街頭演説と様々な場所に出向いている。自民党は中でもテレビ出演に力を入れており、候補者を生放送に連日出演させている。この「総裁選テレビ祭り」を陰で支えているのはテレビ局の中で最もキツイと言われる仕事、アシスタント・ディレクター、いわゆる「AD」たちだ。生放送の舞台裏で走り回り編集のサポートをしたり、オンエアではカンペを出したりする。放送の前後ではゲストの車の手配からお茶出しまであらゆる裏方の業務を担う。放送前日には準備のため徹夜となることも珍しくはない。ごく一部の局員ADを除いて、ADの大半は制作会社に所属している。今回の総裁選に関し候補者の局入りから送りまで間近な距離で見てきた番組ADたちに、この狂乱の舞台裏を聞いてみた。

ADの評価は好対照

 ***

【写真】ひとめぼれした夫人、超高級すし店での会合…総裁選有力候補たちの秘蔵写真

「進次郎は立っても、座ってもイケメン!」だが…

 今回の「テレビジャック」で一転、窮地に追い込まれたのは小泉進次郎元環境相に違いない。テレビでの露出はもちろんナンバーワンだが、支持は高まっているどころか下がるケースも。日本テレビのニュース番組に生出演した際に公表された「自民党員・党友を対象にした調査」では石破茂元幹事長のみならず、高市早苗経済安保相に続く想定外の3位の支持率になっていた。なぜなのか、その理由はADたちの言葉に表れていた。

 あるテレビ局の女性ADは小泉元環境相を見た瞬間ときめいたと話す。

「40代なので実物はおじさんだろうなと思っていたら、画面で見るよりもはるかにかっこよくて爽やかでびっくり。もう立っていても、座っていても、歩いていてもイケメン過ぎて」

 しかし放送が始まると、

「スタジオの隅で聞こえてくる言葉は、なんかポイントがずれているし、中身が無いのが私にもわかってしまって。スタジオを出るときにはすっかり冷めていた」

 様々な文化人や政治家の言葉に日常的に触れているADに、発言の軽さをすぐに見抜かれてしまったのだ。画面越しの自民党員や国民にも同様な印象を与えてきたのだろう。他の候補者たちは何を聞かれても自分の実績や強みにつなげてアピールしている中で、小泉元環境相の言葉は、まるで受けを狙っているタレントのように上滑りして聞こえる。貪欲に国民の信を得ようとする姿勢が伝わってこないのだ。

ギラギラしたナルシスト軍団

 候補者たちの車列が局に横付けされるとADが予め用意した入館カードを手に持ち、スタジオまで先導し、お茶を手際よく出していく。ある新人ADが「常に精力的な視線で、権力欲の強さを感じた」と話すのは茂木敏充幹事長のこと。別のADは「みんな元気だけれど、やはり近くでみたときは“高齢者感”をぬぐえない人が大半だった」という。石破茂元幹事長に関しては「あの独特な目つきでスローな話し方に“自己愛”を感じた」。スタジオにいたというADは小林鷹之前経済安保相に関して「コバホークと名乗っている人は背が想像よりもずっと高くて驚いたけど、頭が良くてイケてるだろうと自分で思っていることがひしひしと伝わってきた」、さらに総裁選候補者たちを「ギラギラしたナルシスト軍団だったな」と総括する。

 政治家が普段話をしているのは後援会の高齢な支援者たちが多い。政治活動を支える人々は年々高齢化しており、後援会の中では政治家はイケてるアイドル的な存在でもある。だが、ADのような政治に関心が無い、20代の普通の若者の心に刺さる立ち居振る舞いをどうすれば会得できるのか、こうした言葉から再考頂きたい。

「守ってくれそうなオバサンだと感じた」

 得てしてADには近寄りがたいと感じる候補者たちばかりのようだが、好印象を与えた数少ない候補者だったとの声が多く出たのは、高市早苗経済安保相。あるADは「なかなか迫力があって存在感が強い。それなのに明るい関西なまりで挨拶を返してくれるのでびっくりした。様子を見ていてもなんか守ってくれそうなオバサンだなぁと感じた」という。別の男性ADは「お茶目な笑顔で、庶民的で偉ぶらないのが好印象。一方で話し始めると熱い言葉も出てくる」と舞台裏のADたちを魅了したようだ。事実、一連の論戦を通じてぶれない保守姿勢で高市経済安保相の支持率は上昇しているという調査も多い。

 よくも悪くも取材で名前が挙がった人はこれだけだった。あとの候補者は名前もあがらず、つまり若いADにはそもそも印象にのこらなかったということのようだ。これはあくまでも一部のADの主観であり印象でしかない。ただ、ADはスタジオで芸能人もスポーツ選手も成功してきたヒーローを数多く間近で見てきたことは間違いなく、その経験に基づく印象でもあるのだ。

「一番引いたのは番記者のはしゃぎ具合」

 どこの局でも候補者たちが局入りをすると、控室に報道担当の役員はもちろんのこと、会社のトップも待ち構えて挨拶をするケースが多い。ご存じの通り、放送局は免許事業でもあり、NHKの予算は国会の承認が必要であり、政治家の顔色は気になるだろう。“ご挨拶”の際には玄関からADが露払いをしながら進み、そして候補者とその局の担当記者、いわゆる番記者が並び入ってくる。秘書官やSPなども鈴なりになるので、まるで大名行列のような光景だ。

 あるADは「一番引いたのはうちの局員の番記者たち。なんか担当の政治家を連れて社長の前に行けるのがよほどうれしいのか、無茶苦茶張り切っていて。偉そうに私に指示して、もう大はしゃぎ」。別のADは「局の幹部がそろって頭を下げて送り迎えをして、にこやかに談笑しているのを見ると、総裁選そのものが茶番に見えてくる。調子よくどの候補にもヨイショしている姿は、ADに対する普段の姿とは別人のようだった」という。

ADたちの視線から見るお祭り騒ぎの空虚さ

 ADたちの言葉からわかるのは、彼ら、彼女らがこのお祭り騒ぎを冷静に見ていることだ。ADは政治の専門家ではなく、日々芸能ニュースから国際ニュースまで幅広く仕事を振られる。だからこそ、国民目線でこの騒ぎを冷静に見られるのだ。

 それに対して、テレビ各局の今総裁選の報道の仕方はいかがだろうか。9人が連なって各局を渡り歩く。同じような質問がどこの番組でも繰り返されていくだけ。時間が無くなり、「おひとり30秒でお願いします」とワンフレーズで説明をさせる始末。これで何が国民に伝わるのだろうか。一方的な主張の垂れ流しでしかない。

 つまりテレビ番組こそが、自民党の「総裁選電波ジャック」に乗せられているのではないだろうか? 思い出すのは、2005年、小泉元環境相の父、純一郎氏が首相の時代に「郵政解散」と銘打ち、郵政民営化に反対する自民党議員を公認せず、「刺客」として対立候補を次々と立てたことだ。これが話題をさらい、テレビ各局はその構図に則った報道を繰り返した。結果、刺客は次々と当選し、自民党も圧勝した。小泉元首相にテレビ局がまんまと利用されたこの現象の危うさは、後に多くの識者が厳しく指摘している。しかし、この約20年前の過ちを、今の若い政治記者たちは知らないのだろう。

 自民党の総裁選はAKBの総選挙と同じであってはならないのだ。もちろん党員以外に投票権はない選挙であるが、この状態が続けば、今秋にも行われることが予想される衆院選において、自民党は国民から手痛いしっぺ返しを食うだろう。そしてその批判の矛先は、当然、空虚な報道を垂れ流したテレビ各局にも向かうはずだ。

多角一丸(たかく・いちまる)
元テレビ局プロデューサー、ジャーナリスト

デイリー新潮編集部