[画像] 日産が中国の工場停止、BYDの猛攻に日系車陥落


4月の北京モーターショーで日産の内田誠社長は「中国市場向けに最適化した戦略に取り組む」と語った(写真:日産自動車)

中国市場で劣勢に立つ日本車の「合理化ドミノ」が、ついに日産自動車にも押し寄せた。

日産の現地合弁企業が6月、中国江蘇州にある常州工場の生産を停止した。同工場の年間生産能力は13万台。中国全体の生産能力160万台のうち約8%に相当する。

中国市場ではトヨタ自動車やホンダを抑えて日系ブランドのトップだったこともある日産。だが、現地での販売台数はピークだった2018年の156万台から、2023年には79万台まで大きく落としている。

中国市場での苦戦は日産だけではない。中国汽車工業協会によると、2020年に23%あった日本車のシェアは、2024年1〜5月に12%へ低下。一方、中国メーカーのシェアは38%から61%に上昇している。

政府の後押しを受ける現地資本の新エネルギー車(NEV、電気自動車〈EV〉やプラグインハイブリッド車〈PHV〉などの総称)が価格攻勢を強める中、日系を含む外資系が得意としてきたガソリン車の販売が急減している構図だ。

三菱自は撤退、トヨタやホンダは人員削減

2023年には、三菱自動車工業が中国市場の生産・販売からの撤退を表明、トヨタやホンダは合弁会社で一部社員について前倒しでの契約終了を行った。今年に入ってもホンダが、合弁会社での希望退職を実施。約1700人の応募があったことが明らかになった。日産はこれまで目立ったリストラ策を打ち出していなかったが、生産能力の削減に踏み切った。

常州工場は、日産と中国国営の東風汽車集団の合弁企業・東風日産が、2020年11月に稼働を開始。主にSUV(スポーツ用多目的車)の「逍客(キャシュカイ)」を生産する最新鋭工場として設立された。中国市場での需要拡大を取り込む狙いだった。

だが、コロナ禍や中国市場での急速なEVシフトを受けて、2023年の日産の中国での販売台数は79万台まで急落。対して中国での生産能力は160万台もあり、稼働率の低迷が深刻化していた。

常州工場は日産が中国に展開する8つの生産拠点の中で最も小さく、工場の従業員は350人程度。最新鋭工場ではあるものの小規模であることが「合理化の決め手となったのでは」とみる業界関係者もいる。

今後、キャシュカイの生産は、大規模な生産能力を持つ大連工場が受け持つとみられる。

日産は中国市場での挽回策を打ってはいる。

常州工場の生産停止が明らかになる直前、東風日産は2003年からの累計販売台数が1600万台を突破したことを発表。今後3カ年にわたる「新奮闘100」の行動計画を策定した。

今年3月からは、北米で主力のSUV「パスファインダー」を中国向けに展開。このほか2026年度までに日産ブランドでNEV5車種の新型車を投入する。こうした施策で3年後に20万台増の100万台回復を目指す。

今年1〜5月の累計販売台数は前年同期比1%減。ここ数年、年2桁減が続いてきたことを思えば、ようやく底が見えてきた。ただし、これも「値下げによる効果が大きい」(みずほ銀行上席主任研究員の湯進氏)。実態はむしろ厳しさを増している可能性がある。

BYDの攻勢で顧客を奪われる

日産の中国事業は、販売台数の約半数を小型セダン「軒逸(シルフィ)」が占める一本足打法。シルフィは長年、中国の乗用車市場でトップを守ってきたベストセラーカーでもあった。そのシルフィの市場を狙って、2023年に現地EV最大手のBYD(比亜迪)がPHVの小型セダン「秦PLUS」の価格を下げてきたのだ。

日産は多くの顧客を奪われ、シルフィは秦PLUSに販売台数で抜かれた。競合に対抗するためか、シルフィの小売価格は少し前の10万元(約220万円)から、ディーラーによって足元は7万元(約150万円)に値下げされている。

湯氏は、「日産の生産体制はまだ過剰である可能性が高い」とも指摘する。例えば、高級車ブランド「インフィニティ」は、年間販売台数が2017年の4.8万台から、2023年は6691台に激減。2024年は月に200台程度しか売れていない。


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2014年からインフィニティを生産する襄陽工場(湖北省)は、インフィニティだけで年6万台以上の生産能力を持つとみられる。

BYDの王伝福会長は、今年3月の投資家向け決算説明会で、「(日系を含む)外資系ブランドのシェアは現在の4割から、今後3〜5年で1割に低下する」という予測を語っている。

販売減少と価格競争の激化という2つの難題に直面しているのは日系ブランドに共通している。日産にとっても、日系合弁にとっても、中国での生産能力適正化は始まったばかりだ。

(秦 卓弥 : 東洋経済 記者)