今年のゴールデンウィーク(GW)は最長で10連休となったこともあって、海外へ出かける旅行者数もコロナ禍前の9割程度にまで回復。空港などでは団体客に交じってキャリーケースを引く若い単身女性の姿も散見されるが、彼女たちのなかには“特殊なミッション”を負っているケースも少なくないという。【鈴木ユーリ/ライター】

 ***

【写真】「海外案件」募集のオドロキの誘い文句と歌舞伎町にたたずむ「出稼ぎ女子」の“リアル生態”撮! 

「3月までオーストラリアに2週間行ってました。5月にはカナダに行く予定です。でもシンガポールの案件も来てるから、どっちに行こうか迷ってる最中」

 こう話すのは、都内・港区でラウンジ嬢として働く詩音さん(仮名・26歳)だ。昨年からたびたび休暇をもらっては、海外に行っているという彼女のパスポートは、入国審査のスタンプで埋めつくされている。どれも観光ビザで滞在期間は2〜3週間程度。だが現地で彼女を待っているのは、インスタ映えする景勝地でもグルメでもなく、ホテルの一室で行われる“プロスティチューション”だという。

続々旅立つ「出稼ぎ女子」(写真はイメージ)

「現地のアジア系の売春クラブに登録して、お客さんのお相手をしてます。1プレイ1〜2時間程度でギャラは500ドル(約8万円)くらい。日本でちまちま“パパ活”やってるよりよっぽど稼げるから、港区女子でやってる子は多いですよ」

 にわかには信じがたい話だが、実際に詩音さんのSNSのタイムラインを見せてもらうと、“女性募集”を謳う投稿で溢れていた。

「1回で300万円以上」

〈出稼ぎ案件inマカオ 報酬10万5000円/日(別途チップあり) 参加条件:20代の女性&10日以上渡航できる方(エアチケ・宿泊費の負担なし)〉

〈海外リゾートバイト募集:海外VIPとのデートや会食のセッティング 高級ラウンジ等にて10日間で300万円以上稼げる大人案件をご紹介します〉

 詩音さんは「エージェント」と呼ばれる、こうした斡旋業者を通じて渡航することもあれば、港区仲間がLINEグループ上に流す〈海外案件募集〉に応じることもあるという。

「日本の風俗と違ってお茶を引くこともなくって、お客さんはちゃんと1日平均4〜5人はつく。もしお客さんが取れなくても“最低保証”はあるし、チップも高額を引けると1プレイでギャラ10万円を超えることもあります。コスパ良く稼げるから、帰国したらすぐ韓国行って美容と整形に使います」

 1回の渡航につき300〜500万円は稼ぐという詩音さんだが、さらに高額の報酬を手にして帰国する出稼ぎ女子もいる。

「相手は王族」

 大学生のかたわら、広告モデルのバイトをしている美織さん(仮名・22歳)は昨年、2度にわたって中東へ渡航した。

「春休みと夏休みを使って、行き先はどっちもドバイでした。中東の案件って『億を持って帰ってきた』って話題になった同い年くらいの子がいたりして、1本(1000万円)を超えることも珍しくないんです。ただしルックス審査がエグくて、ミスユニバース系のコンテスト出場者レベルが求められたりして。お相手は王族とか大富豪。私が去年行った時は皇太子主催のパーティーに参加して、見初められた子は必ず“マクラ(行為)”しなきゃなんないルール。でも愛人になったら年間契約で数千万円は保証されるんです」

 残念ながら「愛人」には選ばれなかったという美織さんだが、3週間の滞在で最低保証の約400万円を手にしたという。報酬は浪費せずに貯金し、大学卒業後に美容関係での起業を考えているそうだ。

 円安を背景にこうした景気のイイ話がある一方、出稼ぎ先で「地獄を見た」と語る女子もいる。今年2月にマレーシアで客を取っていたという美桜さん(仮名・20歳)だ。

「私は2週間ずっと病んでました。〈1日最高8人〉って契約だったのに、10人以上の客を取らされることもザラすぎて。部屋に閉じこめられて外に出たくても出れないんです。ホント、ただの奴隷でしかなかった」(美桜さん)

「1日10人」

 埼玉県出身の美桜さんが「海外出稼ぎ」を始めたのは昨年秋のことだ。

「国内の出稼ぎよりワリがいいよ」と新宿でスカウトマンに声をかけられ、高額報酬に釣られ台湾へ渡航。現地の空港に着くと中国人エージェントが待っており、繁華街の隅にある雑居ビルへ案内された。別階にマッサージやKTV(中国式カラオケボックス)などのテナントが入るビルの一室で男性客を待つ「インコール式」と呼ばれるシステムだった。

「来る日も来る日も客を取りました。基本60分コースなんですけど、中国人ってメッチャ淡白で、ヌいちゃえばすぐに帰ってくれる。でも1日10人とか約束が違うし、体力的にもメッチャきつい。睡眠時間も少ないし、食事もウーバーとかでほぼほぼ軟禁状態。何度も逃げ出そうと思ったけど、パスポートは中国人エージェントに取られてるから、心を殺してひたすら仕事してました」(美桜さん)

 帰国後もトラブルが待ち受けていた。1プレイ最低5万円の契約で、2週間で取った客の数を計算すれば350万円近くになるはずだった。しかし日本人エージェントから渡された報酬は300万円に満たなかったという。クレームをつけようと思ったが、現金を前にすると逆らえずに受け取った。翌々月にはエージェントを代えてまた台湾へ、今年に入ってからはタイとマレーシアに渡ったという。

「元凶はホスト」

 過酷な環境下で搾取されるにもかかわらず、彼女のように何度も渡航する売春女子は後を絶たない。その理由として「大抵、ホストが原因」と指摘するのは、歌舞伎町のスカウトグループに所属した経験を持つ男性だ。

「歌舞伎町はスカウトが海外案件の窓口になってるんですけど、やっぱ引っかかるような子はいわゆる“トー横系”です。もともと風俗経験があったり、ホストクラブに数百万円の売掛があるから、目先の金がどうしても必要ってタイプが多い。ホストから売掛の溜まってる女の子を紹介されることもあるし、女の子から『良い案件ない?』って相談されるケースも多い。まあ、いくら稼いでも結局またホストに貢いじゃうんですけど」

 そのホストについては、昨年に社会問題化。歌舞伎町を抱える新宿区長がホスト業界に売掛システム禁止の自主ルール設定を要請し、話題を集めた。さらに岸田首相も国会で「政府として対策強化に取り組む」と、昨年12月には“令和の売春メッカ”と呼ばれる大久保公園で一斉摘発を行った。だが一連の対策について、元スカウト男性は否定的な見方を示す。

「無駄だと思いますよ。これまでは国内で稼げるから旨味がなかったけど、いまは円安でみんな海外で売春してる時代ですから。でも出稼ぎ女子が増えすぎたために、今年に入ってからアメリカなどでは観光目的であっても1人で入国しようとする日本人女性へのチェックを強化。入管の別室へ連れて行かれ、滞在期間に比した下着の数までチェックされたり、売春目的を疑われて入国を拒否される子も出てきています」

 日本の「貧困化」か、性ビジネスの「グローバル化」か。

鈴木ユーリ(すずき・ゆーり)
ライター

デイリー新潮編集部